2024.01.31
対談者
株式会社日本HP
エンタープライズ営業統括 ソリューション営業本部 本部長 大橋 秀樹 氏
インテル株式会社
クライアントコンピューティング営業本部 営業戦略スペシャリスト 呉 孝展 氏
ビジネスのあらゆる領域でAI活用が推進されるようになった現在、AI市場はこれまでにない盛り上がりをみせている。さまざまなAIツールやフレームワークがリリースされ、開発ノウハウも蓄積されるなど、AI活用の裾野は広がっており、分野を問わずAI導入の検討が進められている状況だ。
そのなかで重要度を増しているのがAI開発環境の選択である。膨大なコンピューティングリソースが必要なAI開発においては、自社が“やりたいこと”を明確化し、最適なシステム構成を見出すことが求められる。ここで選択を誤るとリソース不足で成果が出せなかったり、成果に見合わないコストがかかったりといった事態を招くことになりかねない。
本稿では、「AI Everywhere」のコンセプトを掲げ、データセンター、クラウド、エッジでAIワークロードを強化するためのプロセッサーを展開するインテルの呉 孝展 氏と、先進のAI機能を特徴とするインテル® Core™ Ultraプロセッサーを搭載したAI PCを発表し、AI開発向けのワークステーションの販売も行っている日本HPの大橋 秀樹 氏がAIをテーマに対談を実施。そのなかで明かされたAI開発の現在地や開発環境構築のポイントを紹介したい。
※本記事はTECH+にて掲載されたものです。
呉氏:AI開発環境はサーバー、クラウド、ローカル環境(ワークステーション)と、さまざまな選択肢が存在します。グローバルでは、サーバー市場の約2割がAI用途で導入されているという調査結果が出ており、同じくワークステーション市場も、約2割がAI開発用途で活用されていると考えられています。IDCの調査では、AI×ワークステーションのマーケットは、2024年までに年間25億ドル規模にまで拡大すると予測されており、注目度が高まっている現状が伺えます。
大橋氏:インテルでは、サーバー向け、ワークステーション向けにXeonプロセッサーのラインナップを拡充されていますが、AIワークステーションが注目されている理由についてどのように考えていらっしゃいますか。
呉氏:AI開発などにおいて、GPUをコンピューティングリソースとして利用するというアプローチが一般化してきたなかで、AI=GPUというイメージを持つ方も多いと思います。ですが、AI開発と一口に言っても、データの整理・分析からモデル構築、トレーニング、推論処理とその内訳はさまざまで、そのすべてにGPUが必要というわけではありません。
たとえばモデルトレーニングに関してはGPUに強みがありますが、データの準備や分析においてはCPUのほうが使いやすい面もあります。そのため、CPU性能を重視してワークステーションの導入を検討する企業も増えてきました。
インテル株式会社
クライアントコンピューティング営業本部
営業戦略スペシャリスト 呉孝展氏
大橋氏:確かにAI開発において、プロセッサー(CPU)の重要性は認識されていないと感じています。学習でも推論でも、高性能なGPUさえあれば良いという考えを聞くこともめずらしくありません。極端な話、インテル® Core™ プロセッサーシリーズを搭載するPCでも、グラフィックボードのハイエンドモデルが載っているPCならばAI開発には十分と思っている方も多いのではないでしょうか。
呉氏:データサイエンティストの各作業の割合を調査したところ、「データローディング」(19%)、「データ整理・フィルタリング」(26%)、「データ分析・可視化」(21%)、「モデル選択」(11%)といった作業は、実はGPUではなくCPUで行うほうが効率的と考えられています。
つまり、データサイエンティストが行う作業のうち、77%の作業がCPUに向いているというわけです。また、CPUでこれらの作業を実行する際には、CPUの性能はもちろん、大容量のシステムメモリ(DRAM)も必要となります。膨大な量のデータをメモリ上にロードして処理を行うことで、高いパフォーマンスを得られるからです。このため、高性能CPUと大容量のメモリを搭載できるワークステーションは、AI開発環境の構築において非常に有力な選択肢となります。
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大橋氏:これまでのAI開発では、GPUのVRAM上にロードするデータが溢れたときに使うのがシステムメモリという認識で、システムメモリの容量や速度はそれほど重要視されていませんでした。ですが、CPUで行う計算領域を明確化すれば、必要なメモリ容量も見えてきますし、作業によってDRAMとVRAMを使い分けることができる。その意味では、GPUはもちろん、大容量のシステムメモリも搭載できるワークステーションへの注目が髙まっていることが理解できます。
呉氏:また、サーバーやクラウドでAI開発を行う際の懸念を払拭できるのも、ワークステーションのメリットといえます。たとえば多くの社員が共同で利用しているサーバー上にAI開発環境を構築した場合、ネットワーク帯域を占有してしまい、他の業務に影響を及ぼしてしまう可能性が否めません。サーバーリソースを数時間占有したものの、報告できるような結果が出なかった、となってしまうと、その後の開発に積極的に取り組みづらくなることもあり得ます。
高性能なクラウドサーバー上のVMでAI開発を行うケースでも同様で、長い時間をかけて分析を行った場合、結果の有無にかかわらず従量課金でコストはかかり、ストレージ利用料も含めると年間コストは膨大になってしまいます。また、コストがかかれば、当然結果も求められるため、データサイエンティストにかかるストレスも相当のものとなるでしょう。一方、ワークステーションならば、ローカル環境に設置された自分だけのマシンで作業できるため、リソースやコストを気にすることなく開発に専念することが可能になります。
大橋氏:とはいえデータサイエンティストが、こうしたボトルネックを考えたうえで、開発環境を構築できるかというと、そこまでの余裕がないケースがほとんどではないでしょうか。結果を出すことに注力したいと考える方も多いと思います。そのため、今後はベンダー側が、ユーザー企業のニーズを汲み取り、最適なシステム構成を提案していく流れが主流になってくると考えています。
株式会社日本HP
エンタープライズ営業統括
ソリューション営業本部 本部長
大橋秀樹氏