2024.03.01

新しい学校のカタチを目指して
~Next GIGAに向けて取り組むべきこと

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一般社団法人教育ICT政策支援機構 代表理事
谷 正友(たに まさとも)

2024年1月27日、第28回目となる沖縄県マルチメディア教育実践研究大会が今年も開催された。ICT教育の最先端をいく沖縄県において、最新のデジタル教育を中心とした情報が手に入るとあって、当日は教育者を中心にたくさん来場者が訪れた。長年このイベントを支えてきたHPは今年ももちろん参加。ブースの出展をはじめ講演者のバックアップなどをおこなった。今回はその中から谷 正友氏による講演の模様をお届けしたいと思う。

取材:中山一弘

当日のHPブース

Next GIGAは国策として必ず実行される

現在、一般社団法人教育ICT政策支援機構 代表理事を務める谷 正友氏(以降、谷氏)による講演のテーマは「新しい学校の形を目指して~Next GIGAに向けて取り組むべきこと~」となっている。同氏は以前、Sierやシステム開発に従事していたほか、奈良市において市役所と教育委員会に所属していた経歴があり、その際の経験が現在のバックボーンとなっている。かつて、教育の最前線で得た体験があるからこそ、現場目線での的確なアドバイスができるというわけだ。「現在は、文科省の教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインの改訂に係る検討会の委員や、自治体の教育DXコーディネータとしてお手伝いなどをしています」と谷氏。自治体に関してもすでに100か所以上に及ぶ経験があり、こちらの知見も豊富だ。

「Next GIGA スクールの話ですが、1台あたり55,000円分の端末更新予算が補正予算を通っているので、すでに実施することが決定事項であることはほぼ周知されたかなと思います」と谷氏。文科省はすでに各都道府県に5年間の基金を造成し、令和7年度までの更新分に必要な経費として予算額2643億円を計上している。未だにGIGAスクールに否定的な意見も少数ある中、ここまでのおぜん立てがある以上、この決定事項が覆ることはなく、国策として進められるものだと谷氏は強調する。

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「ファーストGIGAと違うところはもう明確になっていて、Next GIGAでは広域で調達してくださいと文科省は言っています。つまり原則として都道府県で端末を調達してくださいということです」と谷氏。都道府県レベルならいざしらず、市区町村では子どもの数も、対応できる職員の数もかなりの開きがある。より、効率的に端末を調達するなら広域の自治体のほうがふさわしいという判断だ。

「また、デジタル庁が主導して教育DXサービスマップというものを用意しています。これは校務支援システムやEdtechサービスなどをまとめたもので、ここを見れば教育委員会のICT担当になった職員が一覧として情報を得やすいようにしています。入口としてはまだまだこれからですが、こうした変化が起こり始めているのはとても面白いことだと思います」と谷氏は期待を覗かせる。

奈良県がファーストGIGAで調達に成功した理由

「Next GIGAを目前にしてよく聞かれるのは、なぜ奈良県はファーストGIGAの際に端末調達に成功したのかということです。奈良県は39市町村1組合の合計40の組織がある中で、最終的に38自治体による共同調達を実現しました。台数ベースで言うと、97%の端末を共同調達で購入していますから、共同調達を推奨するという趣旨で言うと、かなり成功した例ですね」と、当時自ら取り組んでいた奈良県の例について語る谷氏。

端末の内訳は、ChromeOS が96%でiPadが4%、Windows 端末については0となっている。この0という数字に関しては実際に誰も選ばなかったということではなく、共同調達に参加しなかった2つの自治体が Windows 端末をすでに採用していたということになる。

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「共同調達のメリットは、どうすればよいのかわからないという自治体を救うことができる点にあります。実際奈良では一昨年の12月までにすべての端末が導入されていて、コロナ禍で大変だった時期も端末を使った授業が普通におこなわれていました」と谷氏は当時を振り返る。

では、いったいどのような方法で端末の選定から導入を実現したのか。「県が決めたから従ってくださいなどという進め方は一切していません。また、端末の議論ありきで決めたわけでもありません。1人1台の端末になったら、どんな授業ができるようになるのか、本来はどのような形にするのが理想なのか、といった観点ですべての県内自治体みんなで議論しました」と谷氏。

すべての自治体の担当者が集まる形で会合を重ね、その議論が煮詰まった段階ではじめて、その理想を叶えるのに一番向いている端末選びに入ったのだという。その際大きな指針となったのは、議論の末に固まったGIGAスクール構想を実現するための5つのコンセプトであり、必要な端末はそれらの要件を満たすものを選ぶという方法だ。

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奈良県の各自治体が共通認識として採択した5つのコンセプト

「その結果、選ばれたのが ChromeOS 端末だったのです」と谷氏。実際にはこうした議論のほかにも3OSの特徴を分析し、綿密な比較検討を行うなどの工夫もあり、レビューを重ねたうえで、最終的に一覧表にして各自治体の担当者が持ち帰りって議論し決定するという明確なプロセスを踏んだうえでの結論だったのだという。

制度を使って運用負担を減らす工夫も

「GIGAスクール運営支援センター整備事業という制度が令和3年度に始まり、現在も続いています。このような制度も都道府県単位で進めたほうが恩恵は受けやすくなります」と語る谷氏。例えば、端末や校内システムの保守運用、クラウドサービスや Google Workspace の使い方等、スペシャリストに頼りたくなるケースは必ず出てくる。「その際に、小さな自治体ではスペシャリストをキープし続けることは難しいでしょう。しかし、奈良県でいえば40自治体でお金を出し合えば、それは実現できますし、スペシャリストも全員をカバーできます」と谷氏は解説する。

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「現在の奈良市のICT基盤ですが、認証基盤を中央に置いて、ゼロトラスト型の Google Workspace for Education Plus、それに加えBeyondCorp Enterpriseといわれる Google Cloud のオプションを組み合わせることでゼロトラストの基盤を作り、その上で校務と学習を1人1台で利用可能な環境を作りました。そのうえで、運営支援センターに支援される形で下支えされながら、先生方が授業にICTを使っていますし、子どもたちも自由に使っています」と自らこのシステム作りに貢献してきた谷氏は語る。同時に同氏は「この仕組みを実現できたのは、先ほどの5つあるべき形というものにすべての自治体が合意しているということが大きいと考えます。コンセプトに全自治体が納得の上でシステムを構築していることがとても重要だと思います」と谷氏は強調する。これらの方法論は、ファーストGIGAで端末の調達がうまくいかなかった自治体にとって大いに参考になるはずだ。

校務DXを阻む壁を取り除く

ファーストGIGAスクールをうまく進めている自治体がある一方で、壁にぶつかっている自治体も存在している。例えば問題のひとつに現在の学校の問題として担任教師への負担が大きすぎて、ICT活用のためのチャレンジがやりにくいという実情や、学校教育に対する施策の中にセキュリティが追い付いていない現状があるのだという。それに対し「教育委員会が先生任せにするのではなく、きちんと課題に向き合うことが大切」と谷氏はいう。さらに、そうした現状がある限り、文部科学省が発表した「校務DXロードマップ」も予想通りには進まないだろうと谷氏は分析する。

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「もちろん、『校務DXロードマップ』や『教育DXに係るKPIの方向性』といった指針は、文部科学省としてはここから始めましょうということで打ち出した指標ですが、現在の内容だと子どもたちが主体的にICTを使う姿というよりも、アナログがデジタルに変わった程度の世界観に留まります。その先のICT教育の在り方や、子どもたちの学びの形がどうなっていくのか、そこが具現化できて初めて教育DXなのです」と谷氏は語る。

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「ICTがあるせいで大変だ、みたいな文脈を使われる方もいらっしゃいますが、そうではなくて使い方ひとつなのです。例えば先生が仕事しやすい環境をICTなしに実現するには、相当な努力が必要でしょうし、完全には解決しないでしょう。それにはICTによる利便性とセキュリティを両立させることも大切ですし、そのための環境構築も必要です。ですから、教育委員会のみなさまには、誰のための取り組みなのかぜひ理解していただきたいし、企業のみなさまもそういったことを念頭に提案してほしいと思います」と谷氏は語る。

また、谷氏は文部科学省が発表した「デジタルの力を活用した教育の方向性」を示しながら、そこに書かれている文章を大切にしたいと語る。「使ったふり、さわればいいではないのです。今までやりたかったのに届かなかったことに近づけるのがICTなのです。それを実現することが理想の世界観を実現する一歩だと思います」(谷氏)。

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同時に子どもたちの不登校が全体の2割を超えている現状を指し、ICTならその問題にも届く可能性があると谷氏は示唆する。「ICTを使えば遠隔授業でロケーションフリーに、時間や場所に囚われないで学習に取り組める環境が届けることができます。ICTだけが全てを解決するものではないですが、上手に使いながら、「できない」を「できる」に変えるというのがICTの強みだと考えています」と語る谷氏。

その後、GIGAスクール端末に加え、Web会議システムなどの外部デバイスや、クラウドサービスを使ったテクノロジーの紹介や、その効果などを解説。実際のシステム構築例やクラウド活用の有効性についても触れた谷氏。「 ChromeOS の評価は非常に高いです。セキュリティアップデート、運用コスト、データ漏洩のリスク対策、端末の初期化などにおいて管理しやすく、特にセキュリティ対策を強化するには最も近道だといえます。データ活用や、ダッシュボードなどがカジュアルに実現でき、先生方が難しいことを考えることなくいろいろなことにチャレンジできるような環境を作ることで、子どもたちはより幸せに学ぶことができるのだと思います」と最後に谷氏は語ってくれた。

紙面の都合で、講演内容のすべては紹介できなかったが、Next GIGAへの備えはもちろん、ICTに対して課題感を覚えている参加者には素晴らしいアドバイスがいくつも得られた内容だった。谷氏の次の講演にはぜひみなさまも足を運んでいただきたいと思う。

講演資料ダウンロード(PDF)

ChromeOS 、 Google Workspace 、 Google Workspace for Education Plus は Google LLC の商標です。

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