2022.07.04
カーボンニュートラル実現に向けて、各国や企業においては2030年の中間目標と、2050年の最終目標実現を見通した計画が立てられています。
2050年に向けて、カーボンニュートラル実現のために具体的にどのような努力が求められるのでしょうか? また企業はどのように社会的責任を果たさなければならないのでしょうか? 詳しく解説していきます。
カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにすることです。地球規模の気候変動問題に対応するために、カーボンニュートラルが注目されています。
各国の政策レベルのみではなく、企業も持続的成長を遂げていくためにカーボンニュートラルに取り組まなければなりません。そのため企業は持続可能なビジネスモデルを探求し、経営そのものを変革する必要性に迫られています。
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なぜ2050年までにカーボンニュートラル実現が必要なのでしょうか? 将来の地球温暖化による環境、生態系、社会への大きな影響は科学的にも証明されています。
2015年に開催されたCOP21では、気候変動に取り組むための国際的な枠組みであるパリ協定が採択されました。パリ協定では、地球の平均気温上昇を2度以下に抑えるという内容が盛り込まれましたが、現在では多くの国が1.5度以下の抑制を目指しています。
加えてIPCCの「IPCC1.5度特別報告書」ではパリ協定の目標を達成するには、2050年近辺までのカーボンニュートラルが必要という報告がされました。そのため、世界が一丸となって2050年までにカーボンニュートラルを達成する必要があると認識されたのです。
菅首相は2020年10月の国会において、2050年までに脱炭素社会とカーボンニュートラルを実現するとしました。脱炭素の目標を従来の80%削減からゼロにするとしたことで、国内外の注目を集めました。
これによって国内企業の取り組みも一気に加速したといえます。カーボンニュートラルは日本企業にとってももう無視できない、喫緊のテーマなのです。
世界におけるカーボンニュートラルの取り組みや動きを見ていきましょう。
COPは英語のConference of the Partiesの略称です。気候変動枠組条約を採択した国が気候変動問題を議論するための国際会議で、正式名称は国連気候変動枠組条約締約国会議です。1995年より毎年開催され、各国の環境大臣が集います。
COPにおける主な採択は下記の通りです。
(1)1992年国連気候変動枠組条約
国連気候変動枠組条約は197カ国が参加し、温室効果ガスの濃度安定を目的に据えて採択された条約。「共通だが差異のある責任及び各国の能力」という原則を持ち、先進国と途上国の取扱をそれぞれ定めています。
(2)1997年京都議定書
京都議定書は、京都で開催されたCOP3において採択された国際条約です。この決定により、日本政府は1990年比で2012年までに6%の温室効果ガス削減を義務付けられ、達成しました。
(3)2015年パリ協定
パリ協定は2015年にCOP21にて採択されました。京都議定書に代わる、2020年以降の温室効果ガス排出削減に関する国際的な枠組みです。世界共通の目標として2度の削減について決定されましたが、その後実質的に1.5度の削減がコンセンサスとなっています。
ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を表す言葉です。企業活動でも持続可能性が大きく問われるようになっており、投資家や金融機関などもESG経営に取り組む企業かどうかを注視するようになっています。
各国における取り組みはどのようなものなのでしょうか?
(1)アメリカ
アメリカでは、トランプ政権下であった2017年にパリ協定から離脱し、世界各国から気候変動問題への取り組みを疑問視される結果となっていました。就任直後にパリ協定復帰を表明したバイデン大統領は道徳的、経済的に気候変動に取り組む必要があると声明を出し、再度取り組みの再開を決めています。
2030年までに2005年比で50%以上の温室効果ガス削減を行うという目標を掲げ、2050年までにはカーボンニュートラルを達成するとしています。
(2)EU
欧州委員会およびイギリスは、2050年にカーボンニュートラルを目指すという共通の目的を持っています。グリーンニューディールというロードマップを設定しており、そのなかでタクソノミーという規制を採択しました。
これは、持続可能な経済活動を定義し推進するためのもので、投資家の参考指標でもあります。タクソノミーはセクターと活動に分けられており、例えば農林セクターにおける持続可能な活動は植林・農地再生・森林再生・森林管理などとされています。タクソノミーは世界初の持続可能な活動を定義する取り組みとして注目を集めています。
(3)中国
インドや中国など排出量の多い国も注目されており、中国の習近平国家主席は、2060年にカーボンニュートラルを実現するとしています。中国の温室効果ガスの排出量は世界の約30%を占めており、インドなどと並んで大幅な削減が求められています。
他国の目標である2050年より10年遅いものの、2060年を目指し中国がカーボンニュートラル宣言をしたことで、国際的な取り組みが前進したといえるでしょう。
日本政府が進めるカーボンニュートラル政策には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。そのうちのいくつかを以下に紹介します。
政府は、2030年までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を設ける計画です。2030年を見据えて、2020年から2025年の間を集中期間としています。さらに、100か所の脱炭素先行地域をモデルとして他の地域にも波及させることで、2050年を待たずに脱炭素達成することを脱炭素ドミノと表現しています。
地域における循環型経済の推進や温室効果ガス排出の見える化も必須となるでしょう。
カーボンプライシングは、炭素に価格を付けることで、企業や消費者の脱炭素への意識を高め、行動を促す手法の一つです。代表的なものとしては、炭素税や排出量取引が挙げられます。今後企業に対する炭素税などの導入も考えられるでしょう。
グリーン成長戦略では、産業・エネルギー政策を通して変革と成長が期待される14分野の計画を定めて見通しをまとめています。期待される14分野は、大まかにエネルギー関連産業/輸送・製造関連産業/家庭・オフィス関連産業で構成されています。
ですが、これらの14分野の産業はすべての産業と関連しており、業種の垣根を越えてカーボンニュートラルに取り組むことが重要です。
カーボンリサイクルとはCO2などの温室効果ガスを炭素資源としたうえで、これらを回収して再利用することを指します。エネルギー効率や経済成長を維持するための有効な手段の一つとされており、資源エネルギー庁にはカーボンリサイクル室が設けられています。
金融業界、金融機関における取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。
金融機関は、企業に対し融資を行うだけでなく、顧客企業が永続的に繁栄するよう支援する役割も担っています。そのためには、企業のカーボンニュートラル実現に向けた支援強化も重要な課題の一つだといえるでしょう。
金融機関がどのように気候変動に対応していくべきかといった議論も国際的に行われています。気候関連財務情報開示タスクフォースTCFD(Task Forceon Climate-related Financial Disclosures)はG20の要請に基づいて設立されました。
日本ではTCFD コンソーシアムが設立されており、金融庁・経済産業省・環境省が参加しています。
金融業界における具体的な事例を紹介します。なかでも保険業界はカーボンニュートラルに向けた投資拡大の動きが活発になっています。
(1)損保ジャパン
損害保険ジャパンは、コンサルティング企業である「はじまりビジネスパートナーズ」と共に2022年3月よりカーボンニュートラル支援サービスを展開しています。主に中小企業向けサービスで、政府が定める事業再構築補助金「グリーン成長枠」の申請と、採択後の事業コンサルティングを実施。
これは、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中で重点14分野における事業再構築を想定しています。例えば水素を製造する企業の場合、コロナ禍前の航空機部品製造から、コロナ後には水素ステーション向け部品の製造に切り替えることなどが想定されています。
(2)東京海上日動火災保険
東京海上日動火災保険では、「洋上風力発電向けパッケージ保険」の開発を行いました。これは、国内における成長期待分野である洋上風力発電事業者向けであり、発電設備工事から操業までを包括的に補償するというもの。経済産業省の「第5次エネルギー基本計画」では、風力発電の割合が引き上げられていました。これは、国内でも洋上風力発電の開発増加が背景にあります。
補償の対象は事業者のみでなく、洋上風力発電事業に携わる取引先にも及ぶことが特徴で、自然災害にも対応しています。
両社とも、カーボンニュートラルというパラダイムシフトに対し、投資対象をカーボンニュートラルに取り組む企業へと大きく変更させていると言えます。
企業におけるカーボンニュートラルの取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。メリットや推進方法を見ていきましょう。
(1)投融資が呼び込みやすくなる
企業におけるカーボンニュートラルの取り組みには、金融機関や投資家も注目しています。
そのことから、カーボンニュートラルを考慮した、持続可能性の高いビジネスにおいては、これまでよりも投融資を呼び込みやすくなる傾向にあります。
環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の要素を考慮したESG投資の重要性も見逃せません。財務状況だけでなく、これらの要素も加味して事業を構築していく必要がある時代になったといえるでしょう。
(2)お客様やビジネスパートナーからの評価
投資家だけでなく、取引先や消費者などの意識も大きく変化しています。消費者は、社会的責任を果たす企業をさらに好むようになっており、また企業間取引においても、カーボンニュートラルに取り組まない企業はサプライチェーン全体から取り残されることになっていくでしょう。
(3)補助金の利用も可能
政府は、カーボンニュートラルには企業の脱炭素化が必須であるとし、カーボンニュートラルについて支援する投資促進税制を設けました。その他、企業所在地のある各地方自治体なども個別に助成金なども持っている場合は、それらも利用できます。
企業がカーボンニュートラルを推進するには、どのような取り組みが有効なのでしょうか?具体的な施策を見ていきましょう。
(1)GHGプロトコルにおけるScope1-3とは
GHGプロトコルは温室効果ガス排出量算出のために設けられた国際基準です。GHGプロトコルには1から3まで分類されたScopeという枠組みが設けられており、それぞれ以下のようになっています。
(2)サプライチェーン排出量について算定し目標を定め削減の取り組みを開示する
排出量を削減するには、上記Scope1~3のうち、事業活動にまつわるサプライチェーンの総合的な排出であるScope3を削減しなければなりません。そのためにはまず、取引先の協力をもとに、総合的なサプライチェーン排出量を算定したうえで、削減目標を決める必要があります。
また、削減目標値などの決定事項については数値を開示することによりステークホルダーからより信頼を得られるといえるでしょう。同時に、削減分野とその方法を開示することで更に信用が増していくことになります。
(3)どのようにCO2排出量を抑えるか、事業機会をどう捉えるかという戦略が重要
企業の取り組み視点として重要なのは、どのようにCO2排出量を抑えるかということと同時に、排出量抑制の取り組みやビジネスモデルの見直しを事業機会として捉えることです。持続可能かつ、責任のあるサプライチェーンの構築を目指し、積極的にビジネスを変革していくというスタンスが欠かせません。
具体的な企業におけるカーボンニュートラルの取り組み事例をご紹介します。
(1)東芝
東芝では、カーボンニュートラルの対応をグローバルかつ長期的な視野で行っていくことを決め、「環境未来ビジョン2050」を策定しました。環境未来ビジョン2050では、気候変動への対応・循環経済への対応・生態系への配慮という軸を設けました。
気候変動への対応では、2030年度までに温室効果ガスを70%削減することや、温室効果ガス削減に貢献するような製品開発を目指す見込みです。循環経済への対応では、廃棄物の抑制やリサイクルへの取り組みを主とし、ステークホルダーと連携し、循環型のビジネスモデルへ転換を目指すとしています。
(2)パタゴニア
パタゴニアでは、気候変動は重要なビジネス課題であると明確に位置付けています。
自社店舗や配送拠点のみでなく、温室効果ガスの95%はサプライチェーンまたは素材の段階での製造に原因があり、そのすべての範囲に責任を負うというメッセージを発信しています。
具体的な目標としては、2025年までにサプライチェーンを含む排出量について、カーボンニュートラルを達成するとしています。
パタゴニアのアメリカ国内の拠点では、すでにクリーンエネルギー利用率を100%としており、日本ではよりクリーンエネルギー比率の高い小規模電力事業者を選択。新たな店舗や事業拠点を設ける場合には、新しい建物を建設せずに、既存の建物を選んでいます。
同社は、気候変動に対する自社の責任を明確にし、詳細な目標を立て実践している好例といえます。
HPにおけるカーボンニュートラルの取り組みをご紹介します。
HPは、2013年にカーボンフットプリントを完全に公開した最初のグローバルIT企業です。また、バリューチェーン全体における温室効果ガス削減に取り組み、透明性のある情報公開を行い、ESGにおける国際評価機関であるCDPランキングにおいてトリプルAを獲得し続けています。
このような取り組みが実を結び、2010年以降サプライチェーン全体で回避したCO2排出量は138万トンにのぼります。
HPは完全な循環型企業になることを目指しており、製品の寿命を伸ばすことに注力しながら、2030年までに製品および梱包の循環利用率を75%にすることを目標としています。また、純正カートリッジのすべてにおいて、リサイクル原料を使用した循環利用へ取り組んでいます。
HPでは、廃棄物について以下の4つの体系的な取り組みを行っています。
2050年までのカーボンニュートラル達成は、2015年に開催された気候変動に取り組むための国際的な枠組みであるパリ協定での決定から世界中に本格的に広がりました。
パリ協定で定められ、その後国際的なコンセンサスとなった1.5度以下に気候変動を抑えるためには、2050年におけるカーボンニュートラルを目指す必要があるためです。
企業にとっては、カーボンニュートラルに取り組むことは継続的成長を遂げていくための必須命題となり、言い換えれば社会からの要請となりました。一方で、いち早く取り組みことで、投資家からの評価や顧客からの信頼を得られるなどといったビジネスチャンスもあり、また従業員エンゲージメントが高まることにつながり、今後の採用活動にも好影響があるといえるでしょう。既にカーボンニュートラルへのシフトは始まっています。できるところから、取り組んでいきましょう。
【関連リンク】
・カーボンフットプリントが重要な理由とは? 事例も交えてわかりやすく紹介
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_14/
・企業が取り組むべき脱炭素社会実現のための取り組みとは? 国内外の取り組みを中心に事例も交え解説
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_15/
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