2022.06.28
企業活動において「サステナビリティ」という言葉が注目されるようになっています。いっぽうで、SDGsやCSRとの違いがわからないという方も少なくありません。サステナビリティは事業の片手間で行うような活動などではなく、企業活動を根本から変革する概念です。本記事ではサステナビリティの意味や背景などの概要をわかりやすく解説します。
サステナビリティとは英語で“Sustainability”と書きます。日本語に訳すと「持続可能性」という意味です。企業活動においてサステナビリティというときは、目先の利益を追うのではなく、社会・環境・経済を持続可能な形で発展させるように事業を行うことを言います。それがひいては企業の持続可能性につながるのです。
近年、注目を浴びるサステナビリティですが、誕生したのは20世紀のことです。環境負荷や資源の枯渇などの問題で、1970年ごろから経済成長の持続可能性が疑問視され始めました。はっきりと「サステナビリティ」という概念が誕生したのは、1987年に開催された「環境と開発に関する世界委員会」における報告書が最初です。
それ以降、1992年の「地球サミット」や「国連環境開発特別総会」においてもサステナビリティについて世界的な議論が行われ、2002年にはサステナビリティについて議論するための「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が開催されました。
歴史的にさまざまな国際的議論がなされ、2015年に国連で持続可能な開発目標(SDGs)が制定されることになります。サステナビリティの概念が一般消費者の間でも急速に普及したのはここ数年の話ですが、国際機関や有識者の間では数十年に渡って議論されてきたトピックなのです。
このような国際的な議論を踏まえ、サステナビリティは今後の人類社会を維持発展させていく上で必要不可欠という結論がほぼ固まっています。サステナビリティに配慮するのは社会から企業に課せられた義務であり、企業にとってサステナビリティへの配慮は必須と言えます。
サステナビリティと混同されがちな言葉にCSRがあります。しかし、この2つはまったく異なる概念です。CSRはCorporate Social Responsibilityの略称で「企業の社会的責任」と訳されます。企業活動による利益を社会に還元する取り組みを意味します。
一方で、サステナビリティは経済、社会、環境が持続可能になるように企業活動そのものを変えていこうという考え方です。CSRは社会に利益を還元できていれば企業の事業内容そのものは問われませんが、サステナビリティは企業の事業内容、そして会社としての活動前提を変革する点において異なります。
SDGsはサステナビリティを実現するために、国連が定めた「持続可能な開発目標」です。サステナビリティを実現するために具体的な目標に落とし込んだものと言えます。
SDGsは2015年の国連サミットで制定されました。169のターゲットに対して17の目標が設定され、2030年までの実現を目指しています。
サステナビリティとSDGsはどちらも「持続可能」という言葉が含まれるため、区別が難しいかもしれません。その大きな違いは期限の有無です。サステナビリティは普遍的な概念で、人類が永続的に配慮していかなければいけない概念です。
一方、SDGsは2030年という目標の期限が設定されており、サステナビリティの概念を実現するために短期的な時間軸に落とし込まれたものと考えればよいでしょう。
冒頭で述べたとおり、サステナビリティは社会から企業への要請であり、企業がやらなくてはいけないことです。今後、サステナビリティに配慮せず、取り組まない企業は社会から取り残されていくでしょう。その理由は主に4つあります。
サステナブルな社会、つまり持続可能な社会とは地球環境と共存しながら、格差のない世界を指します。人間が活動をしながら地球環境を維持するにはCO2排出量をゼロにするカーボンニュートラルへの取り組みが欠かせません。社会全体がそのように動き始めている現在、サステナビリティに取り組まない企業は市場から取り残されていくリスクが極めて高くなるのです。
上述のような背景から、ESG投資への関心が高まっている点も重要です。2006年、国連において責任投資原則(PRI)が採択されました。責任投資原則とは投資に対する原則を意味します。投資家に対して、企業に投資する際に長期的な視点を持ち、ESG情報を踏まえた投資判断を求めるというものです。
ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を合わせた言葉です。これらは企業がサステナビリティに配慮しているかの基準とも言えます。ESGが投資家の投資判断に含まれることによって、投資家から資金調達をする企業もサステナビリティに配慮せざるを得なくなります。
2015年にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したことが話題に上りました。サステナビリティに関する社会から企業への要請の度合いは年々高まっています。
関連リンク:今さら聞けないESG投資とは。企業が取り組むメリットを事例とともに解説
ESGの取り組みは欧米の大手企業でとくに活発です。たとえばAppleはサプライヤーも巻き込んで脱炭素を推進すると発表しています。この傾向は全世界に波及しつつあり、日本の大手企業も脱炭素に舵を切っています。
たとえば、花王株式会社はサプライチェーン全体のトレーサビリティの確保や、資源保護・環境保存や安全・人権などの解決に貢献するためのガイドラインをウェブサイトで公開しました。その中で、取引先に対する第三者監査の実施や、ハイリスクのサプライチェーンを特定する取り組みを明らかにしています。
このように、社会からのサステナビリティに関する要請の度合いが高まる現在、ESGに取り組まない企業はサプライチェーンから排除されるリスクを抱えることになります。
国内企業の生産性の低さやイノベーション創出の低迷はこれまでたびたび問題視されてきました。サステナビリティへの取り組みは、企業にとってイノベーション創出のチャンスでもあるのです。
先述したように、サステナビリティに関する取り組みは、CSRなどの従来の企業活動の延長では無く、持続可能な新しい体質に変革することです。その過程で必然的に新たな価値を創出し、イノベーションを起こす機会が得られます。
サステナビリティへの配慮と取り組みは社会からの要請であることは上で述べたとおりです。今後、義務を果たさない企業は社会から置いていかれ、先細っていくでしょう。一方で、サステナビリティにはいち早く積極的に取り組むに値するメリットは多く存在します。
国内の金融機関も投融資の判断基準として、サステナビリティへの配慮や取り組みを重視する動きを見せています。帝国データバンクの2021年の調査によると「SDGsへ積極的な企業」の金融機関からの積極的な融資姿勢が29.9%だったのに対し、「SDGsへ取り組んでいない企業」は24.7%という結果になりました。この差は益々広がっていくものと予想されます。
サステナビリティへの配慮や取り組みは、新規事業や事業改変に向けた、資金調達の面で優位性をもたらすのです。
昨今ではサステナビリティへの一般消費者の注目は非常に高まっています。朝日新聞社が2021年12月に実施したSDGs認知度調査では「SDGsという言葉を聞いたことがある」と答えた人が76.3%に達しました。また「SDGsにどの程度関心があるか」との問いに「非常に関心がある」「少しは関心がある」と答えた人は60.2%に達しています。
サステナビリティについての具体的な意味や内容についてはまだ浸透の途上ではありますが、サステナビリティに前向きに取り組む企業に対する一般消費者のエンゲージメントは、今後もどんどん高くなると考えられます。
参考・出典;【SDGs認知度調査 第8回報告】SDGs「聞いたことがある」8割に急伸│朝日新聞社
サステナビリティへ貢献している企業は社会的評価が高まります。結果として従業員の自社に対するエンゲージメントも高まり、離職率の低下、従業員の家族からの仕事に対する理解の促進などのメリットもあるでしょう。
また、サステナビリティへ取り組むために会社の体制を変化させるに伴って、多様性を確保することがより重要になります。その結果、従業員の労働環境が柔軟になったり、多様な働き方ができるように変わっていきます。雇用の持続可能性や採用にも良い影響が期待できます。
サステナビリティに取り組むことは採用面でもメリットがあります。とくに昨今の若い人材はサステナビリティへの関心が高いことで知られています。株式会社IDEATECHの調査によると、2023年卒業の就職活動生のうち「企業のSDGsへの取り組みが企業選びに影響した」と答えた就職活動性は約9割にも上っています。
とくにZ世代と呼ばれる若年層は就職先を選ぶ際にサステナビリティへの取り組みを重視するのです。この傾向は今後も高まっていくと考えられます。
サステナビリティへの配慮と取り組みに積極的な体制に、組織改革することで、将来の人材獲得において優位に立てるでしょう。
企業のサステナビリティの取り組み事例をいくつかご紹介します。サステナビリティに積極的な企業の取り組みは参考になるでしょう。
日産自動車は二酸化炭素削減のため電気自動車の開発を進めています。2018年には「2022年度までに新車の二酸化炭素排出量を40%削減する」という目標を設定しました。
サステナビリティに関する社内の活動を部門横断的に管理するため、CSO(チーフサステナビリティオフィサー)を置き、年に2回、グローバル・サステナビリティ・ステアリング・コミッティという会議を開催しています。これはESG活動を担う部門の責任者が参加し、進捗報告などを行うものです。
さらに、日産自動車は、2050年までに車のライフサイクル全体をカーボンニュートラルにする目標を掲げ、サステナビリティに対する取り組みを進めています。
ユニクロを展開するファーストリテイリングは2001年から社会貢献室を発足させ、社会のさまざまな課題を解決すべく活動してきました。環境や社会に配慮した製品を販売することにより、持続可能な社会の実現を目指しています。たとえば児童強制労働が疑われる国からはコットンを仕入れないなどサプライチェーン全体を監査し、労働環境や人権を守った生産体制を構築しています。
日本HPはサステナビリティを事業戦略の中核に据え、2030年までに以下の3つの目標を掲げています。
上記の目標を踏まえ、オーシャンバウンドプラスティックの回収や森林保護、使用済み製品や材料の回収・修理・再利用の徹底、製品が使用される際の温室効果ガスの削減、工場労働者のスキル育成などに取り組み、成果を上げています。
関連リンク:サステナビリティは企業活動の根幹にある。
長期にわたってHPが実現する「持続可能な地球、人々、地域社会」への事業活動
サステナビリティに関する配慮と取り組みが社会からの要請であることはここまで述べてきた通りです。そしてそれらに取り組み企業を紹介してきました。企業がこのようにサステナビリティに企業活動の中核で取り組んでいくのがESG経営です。またこのESG経営を企業が実践していく上で、どの企業がどのような取り組みをしているかは公正な基準で情報開示され、顧客、株主、パートナー、社員、そして社会から評価されなければなりません。そのため、この分野における情報開示のガイドラインが国際的に複数公表されています。本セクションではそのような情報開示のガイドラインについて概要を紹介します。
(1)統合報告書
統合報告書とは財務データと非財務データの双方を、企業価値を構成する要素としてまとめ報告する文書です。財務データとは企業の事業活動の成果をまとめたデータで、投資家は本来これを投資基準とします。
ESG投資の拡大によってサステナビリティに対する取り組みの成果も重要な投資基準となってきました。したがって、ESGなどの非財務データも財務データと合わせて報告するために統合報告書が開示されるようになりました。
(2)CGコード
CGコード(コーポレートガバナンスコード)は、持続的な成長と中長期的な企業価値向上
を目的として企業が活動する上での原則であり、投資家にも開示されるものです。この中において、サステナビリティについての方針と取り組みについて規定されています。
(3)TCFD
TCFDとは「気候関連財務情報開示タスクフォース」と呼ばれる国際機関でG20の要請に基づいて設立されたものです。TCFDは2017年6月に最終報告書を公開し、気候変動に関する企業のリスクについて開示するように提言しました。TCFDは「気候関連財務情報開示に関するガイダンス2.0」という情報開示のためのフレームワークも提供しています。
(4)有価証券報告書
2021年7月、「企業の気候変動リスクの開示を義務付けることを金融庁が検討」と一部報道機関が報じました。これは有価証券報告書にサステナビリティへの取り組みについて書く欄を設けるものです。2022年5月現在ではまだ制度化されていませんが、近いうちにされるものと思われます。
(1)SDGs勧告
SDGs勧告はIIRC・ACCA(公認会計士協会)・ICAS(公認会計士による専門機関)などが、2020年1月に公表した勧告です。これはSDGsの達成のためには会計や財務の担当者の関与が必要なことから公表されました。TCFDと同様に「ガバナンス」「戦略」「マネジメント」「パフォーマンス」の4点について企業へ情報開示を求めています。
(2)GRIスタンダード
オランダのGRI(グローバルレポーティングイニシアチブ)という団体が制定した基準です。その企業の事業がサステナビリティにどのようなインパクトを与えるかを、報告書にして開示するというものです。この開示対象は、投資家だけでなく従業員やサプライヤー、地域社会など社会のさまざまな層を含みます。
(3)DJSI
DJSIは1999年にアメリカのS&P Dow Jones Indices社とスイスのRobecoSAM社が共同で開発した株式指標です。ESG投資の側面からサステナビリティを評価し、時価総額を加味して優れた企業を選定するのが特徴です。
(4)SASB
SASB(Sustainability Accounting Standards Board)はサステナビリティに関する会計基準を開発するために、2011年に設立されたアメリカの非営利組織です。SASBスタンダードという指標を公表しており、企業がサステナビリティについて重要な情報を投資家に開示するように求めています。
(5)EU非財務情報開示規制
欧州委員会は2021年4月、企業のサステナビリティ報告指令案(CSRD)を公表しました。この指令案はEU内のすべての上場企業にサステナビリティ情報の開示を義務づけるものです。EUはサステナビリティの分野では進んでおり、気候変動の危機を食い止めつつ、資源効率が良く競争力のある経済へとEUの経済を変革しようとしています。
サステナビリティは経済・社会・環境が持続可能になるように、企業の活動や体制を変革していこうという考え方です。それはただの社会貢献活動ではなく、社会から企業への要請であり、中長期に渡って存在しようとする企業に課せられた義務でもあります。
一方で、サステナビリティへの配慮のため企業活動や体制の変革を行う過程において、新しい価値を生み出すチャンスでもあるのです。
すでに企業のサステナビリティへの配慮や取り組みを投資家の判断基準に含む試みも世界中で実施されており、今後、サステナビリティに配慮しない企業は時代の流れから取り残されていくでしょう。それに乗り遅れないためにも今からサステナビリティに対する具体的な取り組みを始めましょう。
サステナビリティへの対応が今後の企業の明暗をどう分けるのか、どのように事業戦略を変えていけばよいのか、以下の資料にも書かれてありますので、ぜひ参考にしてください。
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