2021.04.27

サステナビリティは企業活動の根幹にある。
長期にわたってHPが実現する「持続可能な地球、人々、地域社会」への事業活動(後編)

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前回と今回の2回にわたり、HPが掲げる「サステナブルインパクト戦略」について紹介している。

近年、人類の最大のテーマとなっている「サステナビリティ」。HPでは創業当初からサステナビリティに対する取り組みを企業活動の根幹に据えてきた。前編ではHPの「グローバルシチズンシップ」という企業理念のもと、およそ60年以上にわたるサステナビリティに関する取り組みにおける全体像を紹介した。

また、HPはこういった取り組みにより国際環境団体からは世界有数のサステナブルな企業として選定されている。さらに、2019年にはサステナビリティへの取り組みによる新規収益は16億ドル、前年比69%の増加となり、この取り組みは既にCSRという枠を大きく超え、事業活動すなわちHPのビジネスにおいて不可欠のものとなっていることにも言及した。

今回は、HPが推進する「サステナブルインパクト」戦略の3大方針「PLANET」「PEOPLE」「COMMUNITY」におけるそれぞれの具体的な取り組みについて、株式会社日本HP 法務・コンプライアンス本部 環境推進室の原田朋実氏へのインタビューから書き起こして詳細をお伝えする。

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株式会社日本HP 法務・コンプライアンス本部 環境推進室 原田朋実氏

製品設計の土台となっている「地球環境への配慮」

はじめに「PLANET」に関する取り組みについてご紹介いたします。

「PLANET」は持続的な地球環境の保護と循環型経済の促進を意味しています。その取り組みとして、HPでは研究開発から製品デザイン、製品が使用される際の環境性能、製品利用後のリサイクルなど、製品ライフサイクル全体を通じてサステナビリティに配慮しています。さらに、高耐久性・修理の容易な製品づくりにより、買い替え頻度を減少させ廃棄物を最小化できるよう取り組んでいます。

また、HP DaaSやMPSなどの新しいサービス提供型モデルでは、ハードウェアをご購入いただく従来型の方法に比べて製品の廃棄を大幅に削減し、エネルギー効率がより高い製品への移行を容易に促すことにより、電力消費量抑制や電力コストの節約を継続的に推進することが可能になります。

このようにサステナブルインパクト戦略の1つの柱である「Planet」について、HPがどのように環境および循環型経済に取り組んでいるのかをご説明しましたが、ここからは具体的な2つの取り組み、再生プラスチックの利用拡大と製品梱包材に関する取り組みについてご紹介いたします。

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再生プラスチックの利用拡大により実現する循環型製品開発

近年「プラスチックごみ問題」がニュースでも頻繁に取り上げられます。世界では現在、年間3億トンのプラスチックが生産される一方で、生産されたプラスチックのうち約91パーセントは、適切にリサイクルがされていないという調査結果もあります。

一方で、製品を製造する際にプラスチックはどうしても必要な素材です。そこで、HPではサステナビリティに配慮をした上で、プラスチックを利用しています。

その一つが再生プラスチックの利用拡大です。2019年、HPは25,000トン以上の再生プラスチックをPC及びプリンター製品に使用しました。これはHPがPC及びプリンター製品の原材料として使用したプラスチック全体の約9パーセントに相当します。この割合を2025年までに30パーセントまで引き上げることを宣言して、取り組みを進めています。

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さらにHPは使用済みペットボトルの活用に取り組んでいます。世界では毎秒2万本のペットボトルが生産されていますが、そのうち毎年陸地から800万トンのプラスチックが海に流れ、海洋プラスチックとして問題になっています。2050年までに海に住んでいる魚よりもプラスチックのほうが多くなるという予測もあるほどです。

このような海洋プラスチックの要因の一つとして挙げられるのが、「オーシャンバウンド・プラスチック」です。これはプラスチックごみの中でも、水路や海岸から50キロ圏内で廃棄物管理システムが整っていない場所にあり、かつ海に流れ出る可能性が高いプラスチックごみを指します。

このような問題に対処するため、HPでは2016年からハイチで収集された使用済みペットボトルを再利用して、新しいHPインクカートリッジの製造に活用し始めました。

ハイチは、西半球で最も貧しい国のひとつで、綺麗な水道水を飲むためのインフラが整っていません。ハイチの人々はペットボトルの水に頼って生活していますが、飲み終わったあとのペットボトルは、街中に捨てられ、放置するとそのまま川や水路から流れ、カリブ海を汚染する可能性が高いのです。

そこでHPは、ハイチの人々に回収してもらった使用済みのペットボトルを購入、製品の原材料への活用を進めているのです。これまでに、ハイチのオーシャンバウンド・プラスチックを170万ポンド調達しており、これはペットボトルに換算すると6,000万本以上のペットボトルに相当します。2019年には、世界初のオーシャンバウンド・プラスチックを使用した法人向けモニタやノートPC、モバイルワークステーションやクロームブックを発表しました。2020年に入ってからは、コンシューマ向けのPC製品にもこの取り組みを拡大しています。

また、このハイチでの取り組みは、サステナブルインパクト戦略の一つ「Community」への取り組みでもあります。ハイチでは、小さな子どもを含む貧しい人々が、生きるためにごみ埋め立て場から有害な金属ごみを漁り売却するような、不衛生で危険な仕事に従事しているという現状もあります。HPのこの取り組みにより、それまで生活のためにやむを得ず危険な仕事を行っていた貧困層の方々に、環境の保護につながり、かつやりがいのある安全な仕事の機会を提供しているのです。

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梱包材の使い方を抜本的に見直し、使い捨てプラスチックを75%削減

HPではサプライチェーンからできる限り不要なプラスチックを排除するため、プラスチック梱包材の削減や製品の小型化、軽量化によってプラスチックの使用量そのものを削減する取り組みを進めています。

その一環として、環境への負荷が大きいとされているプラスチック梱包材から環境に優しいパルプモールド梱包材への移行を、お客様企業においても後押しすべく、3Dプリンティングの技術を駆使したソリューションを昨年10月に発表しました。このソリューションの日本への展開は検討中ですが、グローバルの最新事例としてお伝えします。

このパルプモールドは、ダンボールや新聞の古紙など、植物繊維を原料とする梱包材で、プラスチック梱包材と比較して環境負荷が低いものです。ですが、このパルプモールドの製造に必要な金型の作成には、時間と労力がかかります。従来、このパルプモールドの金型作成には4週間から6週間必要といわれてきていました。しかし、HPの最新の3Dプリンティング技術を駆使することで、このパルプモールドの型を2週間で完成させることができ、懸念であった金型作成にかかる時間と労力を大幅に軽減できるようになったのです。

また、このHPの3Dプリンティングで作成をする型は、実際に使用するパルプモールドを製造するのに適した強度と品質を持っており、さらに100パーセント再生可能な原材料である植物性の油脂(ひまし油)を原材料としています。こういった取り組みもまた循環型経済を促進するものなのです。

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このようにプラスチックの削減や資源の循環にあたっては、製品本体だけではなく、その製品を梱包するパッケージや梱包材、さらに梱包材製造における取り組みも重要であるとHPは考えています。そこでHPでは昨年、2025年までに使い捨てのプラスチック梱包材を2018年と比較して75パーセント削減するという目標を設定しました。

例えば、製品の本体を小型化することで、必要な梱包材を削減。2019年には、レーザージェットプリンターの4機種から計100トンのプラスチック梱包材の削減に成功しました。また、HPで初めてのプラスチック梱包材を一切使用しないプリンター「Tango Terra」も発表。これは、旧モデルで利用していたプラスチック梱包材を、後継モデルでは、全てリサイクル可能な紙素材に切り替えることにより実現しています。

さらにHPでは、バリューチェーン全体でサステナビリティの取り組みに注力しており、製品を輸送する際の環境負荷にも配慮をしています。次はこのことに関連する取り組みの一つである藁製パレットについてご紹介しましょう。

中国は世界でも有数の農業国であり、毎年、中国の農家の方がトウモロコシや小麦など穀物を収穫する際には、6億トン以上の藁が出ています。しかし、これまではこの藁の経済的な利用価値がほとんどありませんでした。次の収穫時期に向けて、この藁の大半は野焼きされるという現状があるのです。

そこでHPではサプライヤーの一社と協力をして、このアジア地域全体におけるHPのプリンター製品の出荷に使用される木製のパレットを、藁でできたパレットに変更。これにより大気汚染のリスクを軽減し、中国の農家の方々の生活改善にも取り組んでいます。

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サステナブルなバリューチェーンのために人への貢献をどのように実現させるのか

ここからは「PEOPLE」に関する取り組みについて紹介しましょう。PEOPLEは、HPで働く社員だけではなく、バリューチェーン全体を支えるすべての人々の人権保護や福祉の向上、ダイバーシティ&インクルージョンに関する取り組みです。

HPではダイバーシティ&インクルージョンを最も大切とする価値観の一つとして推進してきました。会社のトップレベルから、組織全体を通じてダイバーシティとインクルージョンを推進しているのです。実際、HPの米国の取締役会は、米国のテクノロジー企業で最も多様性があるといわれていますが、さらに2020年の6月には、2025年までに社内の黒人及びアフリカ系アメリカ人幹部の数を2倍にするという新たな目標も掲げました。

このような取り組みからも分かる通り、ダイバーシティはHPの価値観の中核にあり、多様な人材の確保は「世界中のあらゆる人々の暮らしをより良くするテクノロジーを創出する」というHPのビジョンの実現にも、必要不可欠な要素なのです。

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急速に変化する顧客ニーズに対応するため、HPのビジネスは業界内でも非常にダイナミックで、かつ広範なサプライチェーンを有しています。そのため、HPはグローバル企業として、ビジネスを通じて世界中の人々の人権を保護する責任があると認識し、様々な取り組みを行っています。

例えば、2014年には、外国人の移民労働者の人権保護の取り組みとして、外国人移民労働者に対する労働基準を公開しました。これによりIT業界の取り組みを前進させ、HPはサプライヤーに対して外国人の移民労働者との直接雇用を義務づけた最初のIT企業になりました。

また、2015年初めから2025年までに、50万人の工場労働者のスキルを育成、福祉を改善するより具体的な目標と試みも進めています。結果、2025年までに、サステナビリティプログラムに参加する工場を2015年比の2倍にすることを目標に掲げ、発展途上国の雇用とスキル向上を図っています。

テクノロジーを活用した地域社会への貢献の重要性

最後に「COMMUNITY」についてご紹介します。COMMUNITYは、HPがビジネスを展開する170カ国において、テクノロジーを通じて教育支援や災害支援といった社会貢献を行うことを意味します。HPはグローバル企業として、私たちが暮らし、働き、ビジネスを行う地域社会により良いインパクトを与える責任があると考えています。

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HPでは2016年から2025年の間に、社員ボランティアの合計時間が計150万時間に達することを目標に設定しました。2019年までの実績では、社員のボランティア時間は計42万時間に到達しています。またHPは、HP財団とHP従業員からの寄付で、2025年までに1億ドルを寄付するという目標も設定し、2019年時点ですでに3,500万ドル以上を寄付しています。

さらに、HPでは学生や教育者をサポートし、経済的機会の創出を支援するべく、テクノロジーをベースとした質の高い学習機会を提供する取り組みも推進しています。2025年までに世界で1億人の人々により良い学習成果を生み出すという目標を掲げ、実際に2015年以降、HPは教育プログラムやソリューションを通じて、2,800万人以上の学生や成人学習者の学習の向上をサポートしてきました。

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その取り組みの一つに「HP LIFE」があります。このHP LIFEは、ビジネスやITスキルのオンライントレーニングを世界中の人々に無料で提供する、HP財団の世界的なeラーニングプログラムです。2016年から2025年までの間に、起業家の方々をメインに、100万人の方々に登録いただくことを目標としています。

HPでは全ての人々が平等に成功への機会を与えられるべきと考えています。しかし、現状は自分のアイデアを現実に変えるようなチャンスに恵まれていない人々が大勢います。HPでは、こういった人々のために学習の機会を創出することに注力し、HP LIFEにより情報格差を埋め、人々が必要としている将来に向けたスキルの構築を支援し続けます。

以上、今回はHPサステナブルインパクト戦略の3つの柱である「PLANET」「PEOPLE」「COMMUNITY」における取り組みをご紹介しました。最後に、創業者の一人、デイブ・パッカードのこの言葉を皆さまへお伝えします。

この言葉は、今でもHPのDNAとして受け継がれています。

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ここまで前後編の2回にわたり、グローバル企業としてのHPのサステナビリティへの取り組みを紹介してきた。紹介したHPの取り組みは変化の激しいIT業界において80年以上にわたり世の中へと貢献したいという想いが形になっていることをご理解いただけたのではないだろうか。昨今のサステナビリティやESGブームに乗じて施策を展開しているわけではなく、企業の存在そのものが創業間もない頃から変わらず持続可能性の高い世界と社会を目指してきた結果、今があるのだ。

HPはサプライチェーンの行動規範と、サプライヤー及びリサイクル業者のリストを公開した世界初のIT企業だ。またバリューチェーン全体で温室効果ガスの排出量目標を設定した最初のIT企業であり、森林破壊ゼロの目標を設定した世界初のIT企業でもある。

これらのことからわかるように、HPがこれまで取り組んできたこと、そしてHPの目指す未来に向けた活動は常に業界をリードし続けている。企業理念そのものとして、世界中のHPのビジネスと、それを実行する社員に浸透し、それが業界のリーダーシップをもたらしている。

また、HPが提供する製品やサービスの多くがこのサステナブルインパクト戦略に基づいて設計されており、ご採用いただくお客様自身のサステナビリティへの取り組みに対しても、より良い影響をもたらすことができるのである。

地球、人々、地域社会に永続的でポジティブな変化をもたらすためのHPサステナブルインパクト戦略。地球環境問題への対処はもちろん、そこで暮らし働く人々、そこにある社会のすべてが持続可能な世界への構成要素である。そして、それを維持してより良い社会へと発展させるのが、HPが創業以来取り組んできた、そしてこれからも続いていく取り組みである。