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2024.03.25

「2025年までにAI PCを1億台出荷」というIntelの意欲的なAI PC戦略

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フリーランスライター:笠原 一輝

筆者撮影:Intelが昨年12月に発表したCore Ultra

Intelは2023年9月に開催した同社の年次イベント「Innovation 2023」において、同社のNPU(Neural Processing Unit)を搭載したAI PC向けのSoCによるAI PCが、2025年末までに1億台に達する見通しであることを明らかにした。

Intelは2023年12月14日に新しいSoC「インテルCore Ultra(コア・ウルトラ)プロセッサー」(以下Core Ultra)を発表したばかりだ。同製品ではNPUを搭載してAI処理をローカルで行なう時の性能を引き上げている。こうしたIntelのAI PCの普及戦略について、同社の発表などから探っていきたい。

世代名はつかないCore UltraとCoreという2段階のブランドスキームに変更

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筆者作成:従来のIntelブランドのスキームと新しいスキーム

IntelのAI PCを実現する上で、戦略商品となっているのが、2023年の12月に発表したCore Ultraだ。発表前まではMeteor Lake(メテオレイク)の開発コードネームで開発されてきたCore Ultraは、Intelにとって大きく二つの意味がある。

一つ目は新しいブランド戦略の中で今回のCore Ultraは「初代」という扱いの完全に新しいブランドであること、そして二つ目は同社が「40年に1度」と表現するような大きな技術的な進化を遂げていることだ。

従来のクライアントPC向けのIntel SoCは、「第13世代インテルCoreプロセッサー」(以下第13世代Core)のようなブランド名で、最初に世代を冠した「第**世代」という文字が入り、それと製品ブランドであるCoreを組み合わせるというブランドスキームになっていた。

さらに、それぞれのSKUには、i9、i7、i5、i3のような番号により大まかなグレードを表示し、さらにその後ろに続く数字とアルファベットの組み合わせでグレード(SKU)を示すという「プロセッサーナンバー」という表記がPCユーザーにとってはおなじみの仕組みだった。

しかし、今回のCore Ultraから「第**世代」という世代表記はなくなり、必要に応じて(シリーズ1)のように後ろに(シリーズ*)という体裁で世代を表記する形になる。プロセッサーナンバーからも「i」がなくなり「9、7、5、3」で大きなグレードを表記するように変更され、それに続く「155H」のように数字3桁とアルファベットで細かなグレードを表記する。このプロセッサーナンバーの、3桁の数字のうち「1」は第1世代であることを示している。今後次の世代では「255H」のような形になると想定されており、製品名に「第**世代」という表記がなくても世代がわかるように変更されている。

なお、IntelはUltraがつかないCoreブランドも継続するが、今後Coreブランドは、n-1世代(先代)製品のブランドとして使われていく。既にIntelは2024年初のCESで、従来の第13世代Coreで採用されていたRaptor Lakeを採用したCore製品を発表している。今後は最新製品で上位向けのCore Ultra、より普及価格帯向けのCoreという2段階のブランド戦略を展開していくことになる。

40年に1度の大変革を迎えたIntelのSoC、3Dチップレット技術を採用

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筆者作成:一つのパッケージの上に複数のチップ(タイル)が3D方向に積層されているCore Ultra

Core Ultraのもう一つの大きな意味は、技術的に大きく進化していることだ。Intel自身が「40年に1度の大変革」と説明するような大きな変更が加えられている。

その最大の変革は、Intelが「Foveros」(フォベロス)と呼んでいる3Dのチップレット技術が採用され、複数のチップが一つのパッケージに統合されていることだ。

Intelなどが提供するPC向けのSoC(System on-a-Chip、一つでコンピューターを構成できる半導体製品のこと)は、パッケージと呼ばれる基板の上にチップが実装されてPCメーカーに提供され、PCメーカーがそれをノートPCのメインボードに実装することでノートPCの中に組み込まれている。

Intelが提供してきた第13世代CoreまでのSoCは二つのチップを2D方向に一つの基板上に実装するチップレットの技術を採用してきた。それに対して、IntelがCore Ultraで今回導入したFoverosでは、3D方向にチップを積載して、より集積度を上げることを可能にしている。

また、より多くのチップを搭載することが可能になっており、コンピュートタイル、グラフィックスタイル、SOCタイル、I/Oタイルといった四つのチップ(Intelはチップのことをタイルと呼んでいる)をベースタイルと呼ばれる基板チップの上に実装する仕組みになっている。

半導体チップは、大きなチップを一つ製造するよりも、小さなチップを四つ製造する方が経済的(より低コストで製造できる)であるため、Foverosを採用して製造されるCore Ultraでは適正な価格でより高性能な製品を提供できるのだ。

Core Ultraは、Foverosを利用することで内部を四つのチップに分割して実装されているため、それを生かす設計がされている。具体的には、コンピュートタイルとは別に、SOCタイルの中にも、CPUコア(2コア)を内蔵し、そのCPUコアはより低消費電力で動作する設計にされている(このため、低電力Eコアと呼ばれる)。

Intelは第12世代Coreから、「パフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼ばれる二種類のCPUコア(高性能コア=Pコアと高効率コア=Eコア)を採用し、それをアプリケーションに応じて処理を配分することで性能を高めてきた。

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筆者撮影:Core Ultraは3Dパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャを採用(Intel Innovation 2023でのスライド)

この低電力Eコアは、そこにもう一種類を足す形になり、この構成をIntelは「3Dパフォーマンス・ハイブリッド・アーキテクチャ」と呼んでいる。CPUの負荷が低いときには、この低電力Eコアだけを動かす形になり、CPUタイルの電源を切って消費電力を削減する。これにより、Core Ultraを搭載したノートPCでは、アイドル時の消費電力を抑えるという効果をもたらす。

AI処理をローカルで行なうCore UltraのNPU、高性能かつ電力効率に優れている

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筆者撮影:Intel SoCとして初めてNPUを統合(Intel Innovation 2023でのスライド)

Core UltraのSOCタイルには、NPU(Neural Processing Unit)と呼ばれる新プロセッサーが内蔵されている。NPUは、AIの処理をローカルで行なうことに特化したプロセッサーだ。従来のPCではCPUとGPUという汎用のプロセッサーを活用してAIのローカル処理が行なわれていたが、NPUはその処理に特化した構造になっているため、AI処理を高性能かつ低消費電力で処理することが可能になっている。

IntelのNPUは、2016年にIntelが買収したMovidius社の技術を発展させて作られている。もともとMovidiusは低消費電力でAI処理を可能にするNPUとして設計された背景があり、Core Ultraに内蔵されているNPUもその発展形として、低消費電力で動作するのが大きな特徴になる。

このように、IntelのSoCでは、AI処理をCPU、GPU、そしてこの世代から搭載されたNPUが協調して処理をすることで、高性能ないしは低消費電力でのAI処理を可能にしている。

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筆者撮影:AI処理はNPUだけでなく、CPU/GPUという既存のプロセッサーも活用する(Intel Innovation 2023でのスライド)

Intelはこうしたローカルでの処理を行なうAIアプリケーション開発の開発キットとしてOpenVINO ツールキット(以下OpenVINO)を2018年からISV(独立系ソフトウエアベンダー)などに提供している。既に、MicrosoftやAdobeといった代表的なISVもこのOpenVINOを活用して、Intel CPU/GPUを利用してAIを高性能で処理するアプリケーションを提供している。このOpenVINOを使ってAIアプリケーションを開発しているISVにとって、今回導入されたNPUに対応するのは非常に容易で、今後多くのISVがNPUにも対応したAIアプリケーションを投入することになると考えられている。

例えば、Adobeは動画編集ソフト「Premiere Pro」のAI処理を、Intel NPUを利用して行なうデモを既に昨年の5月に行なっている。今後そうしたアプリケーションが多くのISVから登場する見通しだ。

24年後半にはCore Ultraの後継となるArrow Lake、そしてNPUが3倍以上となるLunar Lakeを投入

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筆者撮影:2025年までにAI PCは1億台出荷される見通しとIntel(Intel Innovation 2023でのスライド)

Intelは「2025年までに1億台を超えるAIアクセラレータ(NPU)を内蔵したインテルベースPCが出荷される」という見通しを明らかにしており、今後登場させるCore Ultraの後継製品などにいずれもNPUを内蔵させ、かつ性能を向上させていく計画だ。

既にIntelは、2024年、2025年に登場させるCore Ultraの後継製品を三つ明らかにしている。2024年後半に投入されるのがArrow Lake(アローレイク、開発コードネーム)とLunar Lake(ルナーレイク、開発コードネーム)で、2025年に投入されるのがPanther Lake(パンサーレイク、開発コードネーム)だ。

現時点ではPanther Lakeについてはその開発コードネームと25年という投入時期が明らかにされているだけで、具体的なことは明らかにされていない。しかし、24年後半に投入されるArrow LakeとLunar Lakeは、具体的な強化点などが明らかにされている。

筆者撮影:IntelのArrow LakeとLunar Lake(CES 2024 Intel記者会見でのスライド)

Arrow LakeはCPUの製造技術が1世代進化し、CPUの性能などが向上する。また、現状のCore Ultraでは対応していないデスクトップPCやゲーミングPCに対応することが特徴となる。

筆者撮影:IntelがCES 2024で公開したLunar Lake(CES 2024 Intel記者会見)

Lunar Lakeは、Core Ultraで改善された消費電力をさらに改良し、電力効率を大幅に改善する。つまり、バッテリー駆動時間が延びることになり、スマートフォンとおなじような使い勝手をノートPCで実現する。また、NPUの性能が、現行のCore Ultraに比較して3倍になり、AIの性能がもう1段階引き上げられる。

Intelはこうした製品を続々と投入していくことで、AI PCの性能を引き上げ、2025年には累計で1億台のIntelベースのAI PCがユーザーの手元にあるという状況を作り出す。そして、ISVがAI PCに対応したアプリケーションを続々と投入する…そうしたシナリオを描いており、そうなっていく可能性が高いと言えるだろう。

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※2024年3月26日時点の情報です。内容は変更となる場合があります。

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