2024.05.21
ハイブリッドワークの浸透に伴い、Web会議を実施する機会が増えた。自宅から会議に参加できるのはいいが、会議中に必要な資料を探そうとするとPCの動作が重くなって音声が途切れる、画像が止まる、ファイルも開けない──そういった声はないだろうか。
Web会議で背景ぼかしやバーチャル背景などを利用するとPCのCPUに多大な負荷がかかる。人物と背景を区別するには顔認識技術などのAIが関係しており、顔の認識と背景の加工といった画像処理が必要だからだ。
これでは非力なPCが悲鳴を上げるのも無理はない。かといって高性能なCPUを搭載したビジネスPCを導入する余裕はないと考えている企業も多いだろう。
この課題を打破するのが、「インテル® Core™ Ultra プロセッサー」を搭載した「AI PC」と呼ばれる製品だ。国内の法人向けPC市場で高いシェアを誇る日本HPは、2024年3月27日にAI PC4機種を発売した。インテル® Core™ Ultra プロセッサーの搭載で何が変わったのか。AI PCの導入でどのようなメリットが得られるのだろうか。
※本記事はITmedia NEWSにて掲載されたものです。
始めにAI PCが何を指すのか解説したい。IntelとMicrosoftによる定義では、以下の3つの条件を満たすものをAI PCと呼んでいる。
インテル® Core™ Ultra プロセッサーの全モデルはNPUを内蔵しており、同プロセッサーを搭載しているPCはその他2つの条件を満たしていればAI PCと呼べる。Intelは「AIアクセラレーターを搭載するプロセッサーは、2025年までに一億台を超えるだろう」と語っており、今後は標準PCがAI非搭載のPCからAI PCへと遷移していくはずだ。
では、AI PCのカギを握っているNPUはどのような役割を果たすのだろうか。
ビジネスシーンでよく利用するノイズキャンセリングや顔を認識して背景を加工したり追尾したりする機能は、AIによって処理されている。それを担っているのがCPUやGPUだ。そのため、Web会議に参加しながら別の作業をしようとするとCPUやGPUに負荷がかかり、「PCが重くてできない」という状態になってしまうのだ。
そういったAIのローカル処理に特化したプロセッサーがNPUだ。CPUやGPUに負荷がかかるAI処理を肩代わりし、それらの負荷を軽減する。
NPUを搭載したAI PCは、背景加工を伴うWeb会議や常時稼働する必要があるセキュリティソフトウェア利用時でもCPUの使用率がほとんど上がらない。AI PCならばWeb会議に参加していても他の作業を普段通りにこなせるというメリットがある。
省電力効果もAI PCのメリットとして挙げられる。処理能力が高いものの電力消費が激しいCPUではなく、少ない消費電力で動作するNPUがAIを使った高速な処理を担うからだ。また、インテル® Core™ Ultra プロセッサーは、従来のEコアに加え低消費電力コア(LP Eコア)を追加している。負荷の強度によってそれぞれを使い分けることで、低消費電力を実現している。
Microsoftは、コラボレーション機能を最大化するものとしてNPUを利用する「Windows Studio Effects」をWindowsに標準搭載すると発表した。Web会議の背景ぼかしやバーチャル背景の他、ホワイトバランスや明るさの調整、常に話者を捉える自動フレーミング、環境ノイズを抑えて話者の声だけを届ける音声フォーカス、画面を見ていてもカメラを見ているかのように補正するアイコンタクト機能などを使えるようにするものだ。
こうした機能には高い処理能力が必要だが、NPUを搭載したAI PCであればCPUをほとんど使わずに済み、消費電力を最大で38%削減する。外出先で電源がなくても安心してWeb会議に参加できる。
コンテンツ制作に携わる人もAI PCのメリットを享受できる。「Adobe Premiere Pro Beta」を使用したAIビデオ編集は、最大で132%も高速化する。AI PCは、ビジネスPCに求められる「生産性向上」を実現するのだ。
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NPUの恩恵を受けるには対応アプリが必要だ。現在、100社以上の独立系ソフトウェアベンダーが300以上のAI機能を開発中だ。AI PCの標準化は着実に進んでいる。