アトリエ事務所に溶け込む大判プリンター
T520の画質を早草睦惠氏が徹底検証
- 株式会社 セルスペース
「私的には決定的な大判プリンターです」―――東京・大田区の閑静な住宅地にある建 築設計事務所、セルスペースの代表、早草睦惠氏は日本ヒューレット・パッカード(以下、日本HP)のA1プラス対応のインクジェットプリンター「HP Designjet T520 24inch ePrinter」(以下、T520)の検証を終えてこう語った。小型、低価格であるにも関わらず、CGの画質や図面のシャープさ、印刷スピードなどの性 能に優れ、オルガンを思わせるコンパクトなブラックボディーは、事務所に溶け込み、雰囲気を壊さない。早草氏の検証過程を追った。
※この記事は入家龍太公式サイト 『建設IT World』 に掲載されたものです。
3機種の大判プリンターで印刷結果を徹底比較
「同じデータで印刷しても、プリンターの機種によって色味は大きく違いますね。日本HPのT520はモニター画面に近い色で印刷されます」と、セルスペース代表の早草睦惠氏は開口一番に語った。
同事務所ではT520を含めて3台の大判プリンターを使い、同じポスターのデータをプリントアウトし、色味や画質を徹底比較した。その結果、カタログ上のデータだけでは分からない各プリンターの印刷クオリティーが明らかになったのだ。
「他社のプリンターでは色味が濃くなり、コントラストが強くなっているのに対し、T520で印刷したものは淡い緑の微妙な風合いがそのまま表現されてい ます。デジタルカメラでも、ぱっと見がきれいに撮れるように色味を“ビビッド”に自動的に演出する機種と、実物に近い色で撮れる機種がありますが、 T520は後者のようにもとデータの色を忠実に印刷してくれることが分かりました」(早草氏)。
「設計のプレゼンテーションでは、締め切りのギリギリまで色の調整を行います。せっかくパソコンの画面上で納得いく色が出ても、 プリンターでイメージと 違ったものが出力されてしまうと大あわてになります。その点、T520は設計者の意図に忠実なので安心できますね」(早草氏)。
「A1用紙に写真2枚を並べたものを印刷するのに、わずか30秒くらいしかかかりませんでした」と言うのはセルスペースの廣瀬貴之氏だ。
締め切りの直前は、プリンターの出力が遅いことが致命的になるが、これだけの印刷スピードがあれば安心だ。
日本HPのA1プラス対応インクジェットプリンター
「HP Designjet T520 24inch ePrinter」で出力した写真や
CGパースの画質について語るセルスペース代表の早草睦惠氏
緑あふれるセルスペースの事務所に届いた
「HP Designjet T520 24inch ePrinter」
T520で印刷したポスターは淡い色味が忠実に再現された(左側)のに対し、
他社の大判プリンターで印刷した方はコントラストが強くなり、
色味も黒っぽくなった(右側)
“自然と調和する建築”に欠かせない忠実な色調
大判プリンターの色味にこだわる理由は、セルスペースが自然と建築の調和に特に力を入れているからだ。東京大学の建築学科出身の早草氏は、卒業設計で超 高層ビルの高層階に緑化を取り入れた作品を制作した。当時は夢物語だと思われていたが、今ではこのようなビルが世界各国で実現するようになった。
卒業後、早草氏は大手建築設計事務所を経て、栃木県大田原市にある「那須野が原ハーモニーホール」の設計コンペに大学時代の同級生とともに応募し、1等 を獲得したのを機に独立した。その後、都心の高層ビルに事務所を構えていたが、現場に出掛けて地面と接している時にふと安らぎを感じることがあった。その 体験をきっかけに緑が多い現在の場所に事務所を移転。道路に面したコンクリートの駐車場は壊して庭園に造り替えた。独立後は自然との調和を意識した住宅や クリニック、オフィスビル、別荘などの設計を主に手がけている。
建築と自然について語る早草氏
こうした早草氏の作風を感じてか、仕事を依頼してくる施主は自然を重視する人が多い。「カメラマンに竣工写真の撮影を依頼する時には、必ず自然に囲 まれたアングルで撮ってもらうようにお願いしています。私自身も建物自体ではなく、建物から周囲の自然がどのように見えるのかの方に関心があります」と早 草氏は言う。
樹木や空などの色は万国共通なので、忠実に再現されないと違和感が出てしまう。早草氏が大判プリンターに忠実な色の再現を求めるのは、自然と調和した建築を追求する設計思想の表れかもしれない。
建物の竣工写真は必ず自然に囲まれた建物の姿を撮るようにしている。
T520で出力した写真はプリンターによる“演出”もなく、樹木や空の色が
忠実に再現されている
HPならではのシャープな図面の仕上がり
CGや写真のようなグラフィカルな印刷物も大事だが、建築設計事務所で最も重要な成果品というと、やはり図面だろう。
日本HPの大判プリンターは、シャープペンシルやペンを使って作図する「プロッター」の時代からの歴史を引き継いでいる。世界標準となった大判プリン ター用の制御言語「HP-GL」や「HP-GL/2」もヒューレット・パッカードが開発したものだ。それだけに今も図面の出力品質には、特にこだわりを もって製品開発を行っている。
「図面のクオリティーも3つの大判プリンターで比較してみました。すると他社の大判プリンターは細かい線やハッチングがぼやけたり、太い線がにじんだり するように印刷されることがあったのに対し、T520は細い線や太い線、文字までがシャープに印刷されました」(早草氏)。
T520で印刷した図面の例。
ハッチングや破線、文字まで鮮明でにじみやカスレがない
アトリエ系事務所のインテリアに溶け込むT520
アトリエ系設計事務所であるセルスペースのオフィスは、床や柱のほか、書棚などの家具類に木を多用した落ち着いた雰囲気が漂う。A1プラス対応の大判プリンターとして世界最小・最軽量のT520は、オフィスのどこに置いても違和感がない。
「これまでの大判プリンターはサイズが大きく、色も白いものが多かったので、この事務所に置くと目立ってしまいがちでした。その点、T520はブラック を基調としたデザインで小さいので、まるでオルガンのようにインテリアの一部となって溶け込んでしまいます」と早草氏は言う。
また、これまでの大判プリンターはA1サイズでも幅が1mを超え、小さなエレベーターや階段で事務所に搬入する際に手間 取ったり、スタンドと本体を分解したりすることもあった。その点、T520は幅が987mmと1mを切り、質量はスタンドを含めて34kgしかない。小型 軽量なので狭い通路を押して移動させたり、階段から搬入したりすることも簡単だ。
パソコンとの接続も有線LANのほかWi-Fi機能も標準搭載なので無線LANも手軽に使える。さらにクラウドサービスの「HP ePrint & Share」にもフル対応しているので、ネットワークは世界中に広がる。
印刷品質を確かめる廣瀬貴之氏。ブラックを基調としたデザインのT520は
周囲に溶け込み、アトリエ系事務所の落ち着いた雰囲気を壊さない
T520はA1プラス対応にもかかわらず、小型軽量なので、
狭い通路での移動(左)や階段からの搬入(右)も楽にできる
BIMや国際コンペにも挑戦
セルスペースはこれまでコンペから遠ざかっていたが、昨年、台湾で行われた国際コンペでは久々の参加にもかかわらず、佳作に入選した。
「敷地周辺が とても美しかったので、丘の風景に溶け込む2つの建物を提案しました。海外のコンペは開放感や活気があって面白い」と早草氏は今後、コンペにも積極的に参 加していきたいという。
また、セルスペースではこれまで建築デザインの検討を行うため模型は必ず作ってきた。しかし、大きな模型は限られた事務所のスペースを占有するため、使用後はやむなく廃棄することも多かったという。
コンペや模型とともに今後、力を入れていきたいと思っているのがCGやBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、アルゴリズミックデザ インといった3次元設計の活用だ。「3Dデータとしておくと、すべての作品を残しておけるし、大判プリンターからいつでも紙に印刷できる」と早草氏は言う。
「HPはプリンター用紙の品質もいいですね。一番安いインクジェット用の紙も真っ白なので、色味が正確に出ますので特に気に入っています」(早草氏)
3台の大判プリンターで写真や図面の印刷画質、印刷スピード、そしてマシン自体のサイズやデザインを徹底比較した結果、早草氏はどう思ったのだろうか。
「大判プリンターの印刷画質や図面の仕上がり、そして印刷スピードは、実際に試してみないと分からないことを実感しました。そして、スタンド付きで17万円台という低価格。T520は私的には決定的な大判プリンターです」と早草氏は締めくくった。
建築模型に囲まれたセルスペースのオフィス。今後はCGやBIM、
アルゴリズミックデザインに力を入れていきたいと語る早草氏
対象プリンター
HP Designjet T520 24inch ePrinter
A1対応で世界最小・最軽量!
低価格を実現した大判インクジェットプリンター
- 高精度な線画再生でA1サイズのカラー印刷が約35秒
- カット紙にも柔軟に対応する専用トレイ搭載
- 低ランニングコスト
- スタンド標準装備