2021.04.09
滋賀大学
近年、活用する機会が増え続けている空間データは、あらゆる分野に応用できるだけでなく、有益な情報が得られることで注目されている。今後ますます活用されていくであろう空間データを学術的に研究しているのが滋賀大学だ。そんな同学ではHPワークステーションが使われているという。話を伺ってきたので紹介しよう。
滋賀大学
彦根城を望む城壁の一角にたたずむ国立大学法人 滋賀大学は、明治8年に設置された小学校教員伝習所を前身とし、大正11年には彦根高等商業学校、昭和21年には彦根経済専門学校と変遷を続け、昭和24年5月に設置、平成16年に法人化された歴史を持つ大学だ。
現在、同学には経済学部と国内初となるデータサイエンス学部、そして別キャンパスで学んでいる教育学部がある。「私は経済学部とデータサイエンス学部の両方で講義とゼミを受け持っています。テーマとしているのが環境問題の空間分析です」と語るのは滋賀大学 経済学部・環境総合研究センター教授の田中勝也氏(以降、田中氏)だ。
滋賀大学 経済学部・環境総合研究センター教授 田中勝也氏
同氏はここで、環境を守りながら地域経済を活性化させ、災害にも強い街づくりを実現するための研究を続けている。その中心となるのがGIS(地理情報システム)を用いた空間データの分析・研究だ。「何かを空間的に分析するときに、対象の位置と近隣との相互関係を考慮して処理していくというのは、コンピューターで計算させる上で負荷が高いのです。空間をどのレベルで区切っていくかはメッシュという単位を使いますが、例えば500mのメッシュから250mのメッシュに変えただけで演算処理は指数関数的に増加します」と空間データを扱った分析の難しさを語る田中氏。
「以前からHPの旧モデルのワークステーションを使っていましたが、ひとつの計算に数日かけたのに途中でフリーズしていたというケースもありましたし、そもそも物理メモリの枯渇によって計算に入ることさえできないといったこともあったほどです」と振り返る田中氏。そこで同氏はHPに相談してみることにしたのだという。
空間データを使った分析にはスペックは非常に重要となる。また、そもそものデータ読み込みのためにメモリ空間も膨大な量が必要だ。「そこでHPと相談した結果、研究室で導入したのがHP Workstation Z8 G4(以降Z8 G4)だったのです」と田中氏。
Z8 G4はHPワークステーションの最高峰モデルで、インテル® Xeon® プロセッサーのデュアル構成はもちろん、最大1.5TBのメモリ搭載量、NVIDIA Quadro クラスのグラフィックスカードを2枚使ったNVLink、最大5台のストレージを使ったRAID管理など、コンピューターテクノロジーの最先端を搭載可能とするプラットフォームだ。
滋賀大学に導入されたHP Workstation Z8 G4
「以前使っていたモバイルワークステーションはそもそもメモリを大量に積むことができませんでした。今回は384GB積むことができたので、それだけでも分析能力はけた違いに向上しましたね」と田中氏。空間データ活用は比較的新しく研究が始まった分野だけに、いまのところGPUコンピューティングは一般的ではなく、チューニング方法はプロセッサーパワーによるスレッド処理を効率化していく方向へ進化している。
「ひとつの街をメッシュにして計算するケースと、県全体あるいは地方全体と広げていくとメモリも処理時間も膨らんでいきます。同じ処理をした場合、以前のモバイルワークステーションとZ8 G4では、それまで十数日かかっていた処理が1日で終わるような感覚です」と田中氏は語る。
ただし、メモリ量が増えればそれでよいかというと単純にそうとは言い切れないと田中氏はいう。「例えば、日本全体を網羅するような大量のデータが読み込めたとしても、演算処理にはその分時間が掛かります。結果が出るまで数週間かかってしまうようでは、角度を変えてのリトライなど試行錯誤がもはやできなくなってしまうのです」とその理由を語る田中氏。実際に2週間かけて計算させたが思ったような結果が出ず、分析自体を断念したこともあったのだという。「HPの旧モデルのワークステーションからZ8 G4に変わっただけで、計算時間が大幅に短縮できました。その結果、試行錯誤をする回数は劇的に増えています。どの分野でもデータ分析は試行錯誤のプロセスです。処理ができる適正値を見極めながら繰り返し計算するほうが良い結果に繋がります」と田中氏は語る。
Z8 G4のパフォーマンスが研究活動の効率化を実現
Z8 G4は空間データ解析に欠かせない存在として日夜研究でフル活用しているという田中氏。同氏はもう一つのHPテクノロジーも使いこなしているという。「空間データの計算処理には数時間かかることは珍しくありません。例えば、夕方に処理を開始すると終わるのは日付を越えた辺りということも少なくないのです」と田中氏。そんなときに活用するのが、「HP ZCentral Remote Boost」だ。
「自宅からの結果確認のために使い始めたHP ZCentral Remote Boostですが、最初の頃は、遅延がまったく感じられず、画質がとてもよいので自分のパソコンかリモートなのか分からなくなることがあったぐらいです」と語る田中氏。オペレーションする際に、キーに割り振った機能が違うことでようやく研究室とリモートで繋いでいるということを感じるほどの使い勝手の良さがあるという。
「コロナ禍の影響もあって、2020年から2021年は大学へ行く回数がめっきり減りました。Z8 G4を自宅に持って帰ることもできませんから、ワークステーションをリモート環境から自在に扱えるHP ZCentral Remote Boostの存在は大きかったです」と田中氏は振り返る。
Z8 G4とHP ZCentral Remote Boostでコンピューター運用の幅が大きく広がったと田中氏
田中ゼミの学生も、これから社会へ羽ばたこうとしている。取材時に卒業を控えた4名に話を伺ったので卒論の内容と進路をご紹介しよう。
耕作放棄地と里山の関連性から、日本固有種の生物保全とつなげていく研究をすすめた松本光生さんは、耕作放棄地だけを見るのではなく、なぜそれが生まれたかという理由を地域にまで広げて見ることが必要だと気づきを得たという。「ここで学んだことで空間データ活用が生物多様性にも応用できることが分かりました。来年からは海外の大学院で引き続き研究を進めたいです」。
東京都江戸川区における台風時の避難行動をメッシュ解析し、空間データを使った定量的な結果を得ることができたという松永和音さんは、防災分野のソフトウェア開発企業への就職が決まっている。「ゼミに入ったときから防災の研究をしていたのでそれが活かせる職場を希望していました。ここで学んだ経験を活かして将来は公共系の仕事にも携わっていきたいです」。
いわゆる「シャッター街」と呼ばれる閉店が進む商店街について研究を続け、サポートするNPOとの関係性や周辺地域の人口事情などを考慮することで、活性化へのヒントを得たという二村真衣さん。「ゼミでは街づくりを研究していたので、それが活かせる職場としてディベロッパーを選びました。そこでもGISを使ってよりよい街づくりに貢献できたらよいなと思っています」。
農業環境政策を研究し、環境保全に成功した場合にのみ報酬を支払う成果連動支払(PFS)について、経済実験で収集したデータを分析した山本和未さん。「PFSによって、既存の政策よりも効率的に環境保全できることが分かりました。ビッグデータを扱うコンサルティング企業への就職が決まったので、ゼミで学んだことを活かして、たくさんの企業をサポートしていきたいです」。
様々な学びを得た学生がそれぞれの分野で活躍する日はもうすぐだ。「空間データ活用では、より対象地域や範囲を広げた分析を続けます。また、データサイエンス学部の教員と共同で、計算負荷を軽くする分析手法を研究中で、これが完成すればさらに効率よく結果が得られるようになるはずです。GPUコンピューティングによる処理の効率化にも取り組んでいます。」と今後について語る田中氏。同氏はビッグデータであるPOSデータについても地元大手のスーパーと共同で解析を進めているとのことなので、こちらの結果も非常に楽しみだ。
空間データ活用はこれからますます需要が高まる分野だ。最先端で研究を続けている滋賀大学と田中氏を支えるべく、HPは今後もサポートを続けていく。
田中氏と卒業を控えた教え子たち。(右から、松本光生さん、松永和音さん、二村真衣さん、山本和未さん)