2019.10.18

「AIを使っている」と意識しないレベルに。日本HPが語るエッジAIの必要性

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クラウドを介さず、データの生成地点(エッジ)側に置いた端末で解析・推論処理を完結させる「エッジAI」技術。

AI業界ではもっともホットなトピックのひとつですが、「実際にどんなシーンで活用できるのか」「どんな形で導入できるのか」という具体論が見えづらいのも現実です。

そんな状況を一気に打破するべく画期的なソリューションをパートナー企業と打ち出しているのが、企業向けワークステーションで圧倒的なシェアを誇る日本HP。

同社とパートナー企業の展開するエッジAIソリューションとはどのような仕組みなのか、導入によって業務面でどんなメリットを得られるのか──。日本HP クライアントソリューション本部 ソリューションビジネス部 ビジネスディベロップメントマネージャーの新井信勝氏に聞きました。

エッジAI、何がメリット?

エッジという言葉はどこか耳慣れませんが、言い換えるならば「(ネットワークを介さず)ローカル環境で処理を行う」ということ。

これまで高度なAI処理はネットワーク上のサーバー環境で行われることがほとんどでしたが、これをエッジに移行することで具体的にどんなメリットがあるのでしょうか?

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――新井
「これまで映像や画像などの大容量データをネットワーク上で処理していたことで発生していた負荷やレイテンシーの問題を、エッジAIで解決できます。また、止まってはいけないリアルタイム処理などもネットワークの問題によって中断したりせずに処理することができます。

負荷の高いデータ処理はエッジで完結させ、ネットワークへは解析済みのデータのみを上げる仕組みにすることで、負荷を大幅に軽減できるのです」

通信データ量に応じて課金されるクラウド環境において、ネットワークのトラフィック軽減は大きなメリットです。

その一方で、トラフィックをあまり気にしなくてよいオンプレミス環境や、比較的軽量なデータを分析するケースもあるでしょう。

エッジAIに、トラフィック削減以外のメリットはあるのでしょうか?

――新井
「個人情報や機密情報など『ネットワークへ上げたくない』データをローカルで処理しリスクを減らせるというメリットがあります」

たしかに個人情報などのセンシティブなデータは、対策を講じていたとしても「ネットワーク上を流れる」というだけでリスクがあるとも言えます。

エッジで処理を完結させることによって「不必要な機密データをネットワークに流さない」構成を実現し、一種のリスクヘッジを図れる、と新井氏は語ります。

エッジAI、どんな現場で役に立つ?

前章ではエッジAIの具体的なメリットが明らかとなりましたが、次に気になるのが「エッジAIが具体的にどんな現場で力を発揮するのか?」という疑問。

技術的に優れた面が多いことは理解しつつも、AI導入を検討する側としては端的に「エッジAIが日々の業務をどう改善するのか?」を知りたいところです。

エッジAI、どんな現場で役に立つのでしょうか?

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――新井
「エッジAIが力を発揮するのは、高精細な映像や画像などのリアルタイム解析が求められる場面です。

具体的には、工場での不良品検出や交通情報の解析といった『コンピュータービジョン』と呼ばれる分野や、流通・小売業界における店舗内のセキュリティ監視、マーケティング解析、医療画像解析による診断支援などの分野での活用が見込まれています」

処理をローカル環境で完結させるというエッジAIの特長を考えると、医療現場でリアルタイム処理を行い、「センシティブな患者データをネットワークリスクから守れる」という点でも大きなメリットがありそうです。

エッジAIの具体的な特長や活用法がわかったところで、やはり気になるのはコスト。新たにエッジAIの仕組みを導入することで負担が増える可能性はないのでしょうか?

――新井
「エッジAIならばローカルなハードのなかで処理を完結できるので、何時間稼働させても導入費以外のコストがかかりません。導入時にコストがわかりやすくプロジェクトをスタートしやすいということもあります。

クラウドでは、データ量や時間によって課金が増えていき、トータルコストがいくらかかるのかかわかりにくく、実際には、エッジAIで処理を行ったほうがトータルで割安になるケースもあります」

「クラウドで大規模な処理を行っており、スペック・時間課金に悩まされていた」という環境においては、エッジAIが大きなコストパフォーマンスを発揮すると言えそうです。

エッジAI、セキュリティは大丈夫?

ネットワークを介さず処理が完結できるメリットがある、というエッジAIですが、セキュリティリスクはネットワークにのみ存在するとは限りません。

エッジ=ローカル環境で処理を行うということは、同時に物理的・人的なセキュリティ問題も気にする必要があります。

クラウド環境ではマネージメントされるセキュリティパッチの導入も、ローカル稼働を前提とするエッジAIでは遅れやすいのではないか?という疑問も浮かびますが、このあたりを担保する手立てはあるのでしょうか。

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――新井
「HPのPCは、ワークステーションを含めてサイバー攻撃に備えた数多くの仕組みを搭載しています。

たとえば、HP Endpoint Securiy Controllerという専用プロセッサーと暗号化ソフトウェアが搭載されています。BIOSが改ざんされていないかなどをチェックし、もし攻撃され破壊されていた場合はHP Sure Startという機能で自動修復を行います。

そのほか、ディープラーニングAIで未知のマルウェアを検出しブロックするHP Sure Senseなどの機能を搭載し、万が一攻撃されても、素早い復旧を可能にする『サイバーレジリエンス』を重視したハードウェアを提供しています」

産業におけるサイバー攻撃リスクは、データの流失や“踏み台”化に限った話ではありません。既存データを消去・破壊することで産業活動を停止させるタイプの攻撃も顕在化しています。

これに対して新井氏が示したのは「ハードウェアレベルでセキュリティ対策を行う」というスタンス。防御だけでなく、最悪の事態を想定して「すばやい業務の復旧」という点にも重きをおくことで、全体的なリスクヘッジになるという考えであることがわかります。

「AIは日用品になる」

新井氏が所属する日本HPでは、AIビジネスを行うビジネスパ―トナーとの協調を積極的に進めているそうです。AI開発を行う開発会社やビジネスパートナーの紹介や、検証機の貸し出しなどの検証のサポート、協調ビジネスや協調マーケティングを行い、AIの開発や導入の敷居を下げるための活動を行っているとのこと。

日常生活のあらゆる場面にAIが活用され、それを”ウリ”とするサービスも多く見かけます。しかし、いざ現場にAIを導入しようとなると「何から始めればよいのか?」と立ち止まってしまうケースがまだまだ多いようにも思います。

新井氏は、多くのAIプロジェクトが「PoC(概念実証)」、すなわち見積もり段階で止まっている現状を歯がゆく感じているといいます。

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――新井
「幅広くAIが復旧していくには、『AIを使っている』と意識しなくてもよいレベルまでのコモディティ(日用品)化されたソリューションが不可欠だと思います。

HPのパートナー企業は、HPのハードウエアを活用し、コストパフォーマンスに優れ導入しやすいAIやデータサイエンスソリューションを開発、発表しています。今後、エッジAIを活用したソリューションによって、難しいAIを使っていることを意識せずにAIの恩恵をうけられるようになります」

いまやライフラインとして定着したインターネットもかつては敷居の高い存在だったように、AIもまた日々の生活へ本格的に溶け込んでいく過渡期にあるのかもしれません。

日々の業務とAIのリアルな接点のひとつとして、エッジAIはこれからさらに注目を集めていきそうです。

(制作:Ledge.ai 執筆:天谷窓大)