2019.12.13
「学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)」は、学生が企画開発したインタラクティブ作品の新規性や技術的チャレンジ、体験のインパクトを競うコンテスト。バーチャルリアリティ学会の主催によって1993年から行われており、今年の「IVRC 2019」は第27回を迎えています。
編集部では、IVRCのユース部門(大学2年生以下が対象)にて4度も受賞している立教池袋中学校・高等学校の数理研究部を取材し、前回の記事では、見事ユース部門の金賞を受賞、全体3位で予選通過した様子をお伝えしました。そしていよいよ2019年11月16日と17日、総勢10チームが参加する決勝大会が開催されました。
「IVRC 2019」の決勝大会は、テレコムセンタービルの1階ホールにて、来場者が各作品を体験できるように展示されました。立教池袋中学校・高等学校の数理研究部の作品は「渡し舟教習所始めました」というもので、2名のプレイヤーが舟の舵取りと漕ぎ手となり、同じ空間の中でそれぞれ別の動きをして体験するマルチプレイ型のVRコンテンツです。
決勝大会での展示の様子。予選時と同様に木材による造作で、2名のプレイヤーはヘッドマウントディスプレイを付け、同じVR空間ながら舵取り担当は竿、漕ぎ手は櫓とそれぞれ別の操作を行います。
作品のシステム構成図。プレイヤーが装着するヘッドマウントディスプレイと、コントローラー部分はそれぞれ別のPCに接続。PC間の通信によりUnreal Engineによって構築されたVR空間に展開されます。そしてMRヘッドマウントディスプレイを通じて、舟を操縦する二人にそれぞれの周辺状況が伝わるという仕組みとなっています。
サーバ側は「HP Z4 G4 Workstation」を使用。CGの画質向上のため、グラフィックスカードの「NVIDIA Quadro RTX4000」も搭載しています。
クライアント側のPCは、ウエアラブル対応の「HP VR Backpack」。
舵取り、漕ぎ手ともにヘッドマウントディスプレイ「HP Reverb Virtual Reality Headset」を装着して操作します。
プロジェクトの中心人物である林さん、向殿さん、システム面をサポートしてきた吉田さんと山崎さんに、予選大会から決勝大会までの動きについて聞きました。
(左から)林幸希(はやし こうき)さん 高校1年生/向殿天晴(むかいどの てんせい)さん 高校1年生/吉田翼(よしだつばさ)さん 高校3年生/山崎友也(やまざきゆうや)さん 高校2年生
予選大会では審査員から指摘を受けた課題は、よりリアリティのあるCGの質や船の操作感の向上といったもの。決勝大会に向けた改善点について林さんは「マルチプレイなので、同じ空間にいるほかのプレイヤーの姿が見えたほうがいいという指摘がありましたので、船頭のアバターを用意しました。グラフィックボード『NVIDIA RTX4000』を採用し,高解像度HMDであるHP Reverbとのセットで制作しましたので、水の動きも圧倒的に滑らかになりました。また、竿の操作の際、川床を突くだけでなく、岩や土手などの障害物を押すという、より細かな舵取りの再現も実現しました」と説明します。
林さんは川底と、周囲の障害物を押した時に感知する部分の造作部分の改善を担当。竿の傾きや押す力を測って再現できるようになりました。
個人的な課題はシステム面の学習です。このプロジェクトが終わったら、Unreal Engineの学習をしていきたいです。
予選大会から改善を重ねた、決勝大会を前にした、11月2日、3日に開催された学校の文化祭でも本作品は体験展示されました。そこでも舟を操作する部分の不安定さが解消されなかったため、その後竿と櫓ともにセンサー部分の仕様変更が施されたといいます。
二人が同時に操作をするという特徴を持つ本作品は、そのユニークさから体験者への操作説明も課題と一つとなっていました。しかし、これは文化祭で経験を重ねることで大きく改善していきました。「予選大会のときに比べて接客になれてきましたので、よりスムーズに説明できるようになり、また体験への案内も慣れてきて、お客さんの回転率がアップしました。これがいちばんの進歩だと思います」と林さんは振り返りました。
林さんとともに造作をしたり、ポスターなどの広報物を作ったりしたという向殿さんは、予選大会で櫓の部分の強度に問題があると感じていたといいます。「櫓の持ち手部分はしなるので危険だと思い、しっかりと固定されるよう補強しました。その反面、『ぎいぎい』と舟を漕ぐ音が鳴らなくなってしまいました。なかなか難しいです」と向殿さん。
櫓の動きを再現し、舟の推進力を伝える部分。大きな力が加わるため、強度を保てるよう補強が施されました。
皆で集まる必要がある日は決めていて、そこでミーティングを重ねながら進めていきました。
IVRCは、チームとしてプロジェクトを進めていく経験を積める場でもあるといいます。今回の作品での役割分担について向殿さんに聞くと「それぞれが得意なことを担当して補い合いました。自分はポスターやチラシを作って、林くんが造作物を担当、山崎さんと高3の吉田さんがシステム開発を担当しました。ほかにCG制作を担当する人もいます。ミーティングでやるべきことを挙げて、担当を振り分け、それぞれできあがったらまた次のタスクを挙げてまた進めていきました」とプロセスについて説明しました。
向殿さんはゲーム制作に興味があり、その延長でVRにも興味を持ったそうです。「これまでは一人で作っていましたが、IVRCに参加することで世界が広がりました。チームで進めるプロジェクトは難しいことも多いのですが、協力して作り上げることの良さを知ることができました」と語りました。
今回のマルチプレイVRシステムの基礎を提供したのが高校3年生の吉田さん。昨年の「IVRC2018」にてユース部門金賞および協賛企業賞を受賞した火災現場からの脱出シミュレータ「ARCO-Avoid the Risks of CO-」のシステムも担当しました。
吉田さんに今回のシステム構成について聞くと「Unreal Engineによるサーバ側・クライアント側のマルチプレイシステムとコンテンツ、それから竿と櫓のセンサーに関するシステムを担当しました。センサー部分は、当初はWindowsMRのコントローラーを使っていましたが、うまくいかないことがあり、『Aruduino』を採用することにしました。WindowsMRのヘッドマウントディスプレイは、前面にセンサーがあってそこにコントローラーがないといけません。今回は櫓の持ち手部分にMRコントローラーをつけたのですが、これが舟の後方にあります。操作する人が進行方向を向くと、持ち手につけたMRコントローラーの動きをトラッキングできなくなってしまうのです」と説明。
ヘッドマウントディスプレイのセンサーは前面についており、ここからMRコントローラーの動きを読み取る仕組みです。通常であればMRコントローラーは手に持つので問題なくトラッキングできます。
櫓の持ち手部分にMRコントローラーをつけていますので、漕ぎ手が前方を向いてしまうとコントローラーの動きを捉えられなくなります。
この課題を解消するため、吉田さんはセンサー部分をジャイロセンサーと、デジタル制御のためのマイコン「Aruduino」の組み合わせに変更しました。「櫓の部分は回転の動きが捕らえられれば再現できると着目し、ジャイロセンサーをつけて『Aruduino』で回転だけをトラッキングするようにしました」と吉田さん。卒論は、加速度センサーやジャイロセンサー、磁力を使う「IMU(慣性計測装置)」がテーマだといいます。
一昨年に「Aruduino」を触ったときは難しいと感じました。また昨年はジャイロセンサーの使い方に苦労しました。そして今回ようやく使いこなすことができました。
山崎さんは、2019年7月の合宿以降、吉田さんが作ったサーバ側・クライアント側のマルチプレイシステムを引き継ぎ、MRコントローラーを使った竿や櫓のセンシング部分の開発を担当してきました。
「竿を動かして、舟の向きや障害物を避ける操作する部分も改良を加えていました。竿を操作するボックスの座標をとって、各面に触れたら舟の向きが変えられるようにしたかったのですが、あたり判定の調整が難しくてうまくいきませんでした。そこで感圧センサーを採用することで正確性が高まりました。センサー部分のプログラムだけでなく、フィールド部分の調整もあわせて行っていました」と山崎さんは語ります。
センサー部分の仕様がMRコントローラーから変更になったのは決勝大会の約1週間前だといいます。「直前に仕組みが変わったので、調整する時間があまりありませんでした。しかし、以前よりもよくなったと思います。楽しんでいただけると嬉しいです」と山崎さん。
マルチプレイのシステム開発は難しく、連携部分についてもう少し質を高めたいという思いがありました。でも今回感圧スイッチなどいろいろなセンサーを触って経験を積むことができました。
2019年11月16日と17日に展示された「IVRC2019」の決勝大会ですが、審査結果の発表は1日目の16日に行われました。総合優勝 は、筑波大学 システム情報工学研究科のチームCyberSpaceLabによる、「VR消防体験 -炎舞-」が受賞。合計10の賞が発表されましたが、立教池袋高等学校 数理研究部の「渡し舟教習所始めました」はこの日、惜しくも受賞を逃しました。
総合優勝や日本VR学会賞、協賛企業賞など、10の賞が発表されました。
審査結果発表の直後、今回の取組に対する感想と、今後やってみたいテーマについてお聞きしました。
展示は明日(11月17日)もあります。審査委員の心をつかむことはできませんでしたが、来場者の皆さんの心をつかむことに力を注ぎたいと思います。今後は3Dゲームを作りたいので、Unreal Engineを学習していきたいです。VRは、ヘッドマウントディスプレイを使うものばかりでなく、部屋にプロジェクションマッピングする形式のものにも挑戦していきたいです。
全体的に詰めが甘かったと反省しています。例年の傾向から、上位はセンサー系が強いです。そこに時間をかけられなかったのが大きいと思います。来年もIVRCに挑戦すると思いますので、そのときには自分がシステムを作る立場になっていたいです。
「Aruduino」を使うのも最近決まったので、時間に余裕がありませんでした。自分は以前から体を動かして遊ぶゲームを作りたいと思っていますので、今回さまざまなセンサーに触れることで、今後に活かせる経験ができたと思います。
例年受賞する作品は、ハプティクス(皮膚感覚)を提示するものが多いのですが、今回の私たちの作品はそこが薄かったです。大学に進学後は、物体を認識して何か情報を出すようなAR関連のプロジェクトを開発してみたいと思っています。
マルチプレイVRのチャレンジは、今後のそのような体験が世の中に浸透するはずなので、高校生としてはよくがんばったと思います。それ以上に大学院生たちが頑張ったということですね。技術的なチャレンジよりも、映像コンテンツ、世界観をどう作っていくのかという部分に差が出ました。いま中学生の部員たちは、来年は自分たちの番だという気になっていますので、またチャレンジしていきます。
2日間の展示が終わったあと、体験者の投票による「観客大賞」の発表があり、2位のチームに3倍近い投票差をつけて「渡し舟教習所始めました」は見事これを受賞しました。向殿さんのいうように「観客の心をつかむ」ことができましたようで、夏合宿から彼らを追いかけてきた編集部一同感慨深いものになりました。来年もIVRCに参加するという立教池袋高等学校数理研究部の次なるチャレンジに目が離せません。
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