2024.11.12

進化する商業印刷・フォト印刷市場:
最新トレンドと成功事例

リンクをクリップボードにコピーしました

株式会社日本HP デジタルプレス事業統括本部 インダストリアルセールス本部 コマーシャル営業部 
部長 千葉 純

Web to PrintやAIの急速な発展は、印刷業界にあらゆる変化を巻き起こしている。業界で生き残るためには、縮小する分野と成長する分野をしっかりと見極め、需要の変化を的確に捉えることが不可欠だ。こうした市場のニーズに対応するため、HPは商業印刷およびフォト印刷向けのデジタル印刷機において最先端の技術を追求し、圧倒的な高品質と高生産性、多様なメディアへの対応力を兼ね備えたソリューションを提供している。本記事では、前半で商業印刷・フォト分野の市場動向やトレンドについて考察し、後半では、日本HPの千葉氏への
取材を通じてHPのデジタル印刷機がどのように進化を遂げ、最新技術を展開しているのかを
紹介する。

商業印刷の世界市場の動向

世界の印刷物の約4割を占める商業印刷 には、出版物や、ポスター・チラシ・カタログなどの宣伝用印刷物、名簿・マニュアルなど企業が業務上必要とする印刷物が含まれる。コロナ禍の2020年から2023年にかけて、商業印刷の市場全体は -2.36%と縮小したが、その一方でデジタル印刷市場は完全に回復、中でもHP Indigoデジタル印刷機ユーザーは4.3%の成長を遂げている。

※Source: Smithers-Pira, Future of Print to 2030, Dec 2020/Smithers-Pira, Future of Package
Printing to 2027, Oct 2022

分野ごとに傾向を見ると、新聞、雑誌、カタログ、マニュアル、帳票類など発行部数の多い印刷物は、特にデジタル化のあおりを受けて縮小の傾向にあり、印刷需要が大幅に減少。
分厚い商品カタログは廃止され、また、請求書や明細書などもオンライン化が進み、郵送の
印刷物は減少の一途を辿る。この傾向は、今後も継続すると予想されている。

マーケティングの販促物として印刷されるパンフレットやニュースレターも同様にデジタル化が進み、小ロット化が促進。最近では、バリアブル印刷を活用し、One to Oneマーケティングで個人の特性に合わせたパーソナライズドカタログを制作するなど、多品種・小ロットの需要が増加している。商業印刷全体における小ロット需要は、2024年~2028年にかけて
12.5%増加すると予測されている。

※Source: Smithers-Pira, Future of Print to 2030, June 2020, Keypoint Intelligence, Survey of 165 PSPs in US, WE, and APJ commissioned research, June 2021

次にダイレクトメール(DM)だが、平均的な印刷量は減少しているものの、電子メールで
送るeDMと比較して紙のDMは開封数やレスポンス率が高く、その効果が改めて見直されて
いる。今やDMは、絞り込んだターゲット、小部数、パーソナライズ、そしてデジタルとの併用がキーワードだ。相手に合わせたコンテンツやQRコードでデジタルコンテンツと組み合わせたDMがマーケティング施策として成果を上げている。

こうしたトレンドから、世界各地の印刷会社では、オフセット印刷機やグラビア印刷機など従来の印刷機を保有しながら、デジタル印刷機への投資を進め、ハイブリッド運用を開始するケースが増加。アナログとデジタル技術を最適に共存させることで、印刷会社はそれぞれのジョブに最も適した技術を選択できるようになり、生産性の高い印刷エコシステムが実現するのだ 。

変化をチャンスに!市場トレンドを牽引する5つの要素

  1. オンラインでの印刷発注(Web to Print)
    商業印刷市場は継続的に変化しているが、急激に成長しているのがオンラインで印刷発注ができるWeb to Printだ。2023年~2030年のWeb to Print世界の市場規模は年平均成長率6.6%、2023 年のオンデマンドプリンティングのソフトウェアおよびサービスによる収益の年間成長率は26.3%と算出されている。特に、大きな予算を割けない中小企業は、コスト効率の高い印刷ソリューションを求める傾向が高い。Web to Printは、ブラウザ上で手軽かつ迅速にデータ入稿や印刷指示ができ、使い勝手も年々向上している。写真のアップロードや編集が簡単に行えるほか、豊富なデザインテンプレートやカスタマイズ機能、QRコードの貼り付けなど、随所に進化が見られる。2023年から2030年にかけて市場価値は5倍に増加するとも予想される期待の分野だ。

    Global Strategic Business Report, 2023

  2. クリエイターエコノミー
    Web to Printに大きな影響を与えているのが、クリエイターエコノミーである。クリエイターエコノミーは、消費者である個人がクリエイターとして自らの制作物やコンテンツを提供し、収益を上げる経済モデル。世界には2億人以上のクリエイターがいるとされ、彼らは自身のスキルや才能を活かして、イラスト、小説、アート作品などあらゆるコンテンツを制作し、ファンやフォロワーとつながりながら収益化している。
    Web to Printは、個人のクリエイターが、自身のブランドを直接消費者に届ける機会であると同時に、印刷会社にとっても新たな収益成長の機会となろう。

  3. AI
    AIの普及も印刷ビジネスの発展を後押ししている。

    デザインにおける活用

    現在AIによって日々生み出される画像は3400万枚ともいわれ、これは人間のカメラマンが過去150年間で撮影した枚数に匹敵する。AIの導入により、従来デザインにかけていた膨大な時間と労力が大幅に削減され、圧倒的なスピードで制作が可能になった。AI生成の画像を手軽に印刷できるサービスや、オリジナルグッズを作成できるプラットフォームも増えている。加えて、AIはWeb to Print分野でもユーザーのデザイン作成や最適化をサポートすることで、利便性やユーザーエクスペリエンスの向上にも貢献している。

    生産における活用

    生産の自動化にもAIの採用が進んでいる。自動化や効率化による生産現場の全体最適化は収益性を左右する重要な要素だ。印刷ジョブの自動管理を通じてヒューマンエラーを減らし、工程の無駄を最小限に減らすことで、運用コストを削減できれば、価格競争力を維持できるだろう。さらに、AIを駆使してリアルタイムにデータ収集・解析すれば、異常を即座に検知・修正することで品質の一貫性が保たれ、ダウンタイムも最小限に抑えられるだろう。
    自動化を成功させるために抑えるべきポイントは、『印刷工場はこう変わる!インテリジェントオートメーションが切り拓く未来』を参照。

  4. パーソナライゼーション

    顧客の心をつかむパーソナライゼーション

    消費者は、より独自性のある製品やパーソナイズされた商品を求めるように
    なっている。米国の調査では、75%の消費者は、パーソナライズのためにより高い金額を払うと表明。2023年、北米の66%の印刷事業者は何らかのパーソナライズ印刷を実施している

    https://www.prnewswire.com/news-releases/75-of-shoppers-would-pay-more-for-beautyproducts-to-get-personalized-online-shopping-experiences-says-new-survey-301837863.html
    ※※Source: NAPCO Research Annual Commercial Print Industry Trends and Strategies Service, 2023

    DMは、無差別に配布されたものより、自分宛のDMの方が圧倒的に開封率は高い。
    例えば、購入履歴に基づく挨拶文や、顧客の嗜好に合わせた商品、接客担当者の写真を入れれば、一律にばら撒くDMより確実に高い効果が期待できる。また、ギフト分野では、オンラインで簡単にアバターを作成し、子どもに似せたアバターと名前を絵本の主人公にするパーソナライズ絵本も人気だ。ある自動車メーカーでは、従来の定期刊行誌を廃止し、顧客ごとにフルカスタマイズされた冊子を発行した結果、顧客維持率の向上とロイヤリティ強化に大きく貢献したという。

  5. サステナビリティ
    昨今、印刷を語る上で外せない要素がサステナビリティだ。多くの企業が持続可能な
    材料を使用し、カーボンニュートラルを目指している。世界では70%~90%の消費者(地域により異なる)が、環境に配慮した製品にプラスの料金を払うと回答。HP Indigoデジタル印刷機は、アナログ印刷機と比較して、印刷ジョブごとに最大20%のCO2排出量を削減し、損紙が少なく済む為、メディア廃棄物も80%~90%削減できる持続可能なソリューションだ。Source: Bain and Co.,

HPデジタル印刷機技術と事例の紹介

HPは、同社のソリューションを通じて印刷会社に利益性を伴った成長を実現してもらうことを目標としている。そのための最新のデジタル印刷機とユーザー事例について、日本HPの
千葉氏に話を聞いた。

高生産性ソリューション!並行作業が可能なHP Indigo 120Kデジタル印刷機

HP Indigoデジタル印刷機は、湿式電子写真方式(LEP)というテクノロジーで印刷をする。これは、感光体にレーザーで描画し、液体のトナーを使用してブランケットを介して転写を行う方式だ。ノズルからのインキの吹き付けはせずにローラーでの転写を行うのが大きな特徴で、インクの分布が均一にできるため、ページ全体で色の一貫性が保たれる。
日本HPの千葉氏は、「特に商業印刷で重要となるブランドカラーの再現において、異なる印刷ロットや印刷機間でも同じ色調を維持できるのが大きな利点となっています。また、非常に微細なドットを再現できるため、オフセット印刷に匹敵する高画質を実現し、広色域の表現が可能です」と解説する。

HP Indigo 120Kデジタル印刷機は、中でも特に生産性を重視した印刷機だという。印刷ジョブを実行しながら並行して別の作業をできるのが特徴。「例えば、ジョブの印刷中に、別の用紙に次のジョブのプルーフを出したり、印刷を実施しながら同時にカラーキャリブレーションを実施したり、印刷しながら別の作業を並行処理することで、高生産性を実現している」と千葉氏はいう。

HP Indigo 120Kデジタル印刷機にはいくつかの特徴的な機構がある。まず、HP Indigo 120K
デジタル印刷機では「グリッパー機構」が刷新されており、用紙が搬送ベルトからエンジンに入った際、圧胴のグリッパーに渡す前にプレグリッパーで用紙をつかむという。このプレグリッパーで用紙の位置を微調整することで、正確な位置で圧胴のグリッパーに渡すことができる。

また、HP Indigo 120Kデジタル印刷機には、測色計が搭載されている。ジョブの印刷をしながら自動でチャートを印刷し、測色計で測色するのだ。千葉氏は「もし色変動があれば自動的に色補正をかけるのですが、特筆すべきは、この一連の作業を生産しながら同時にこなすということ。さらに、印刷物でいっぱいになったスタッカーパレットを自動的に排出することが可能で、新しい空のパレットを補充する自動パレット交換機能を搭載しています」と話す。あらゆる面で自動化が進み、印刷機の稼働効率を押し上げるソリューションなのだ。

米国シカゴで商業印刷を手掛けるBlooming Color社は、HP Indigo 100Kデジタル印刷機を始め、合計5台ものHP Indigoデジタル印刷機群を保有する。
同社は、Canva、Minted、Planet Artなどのオンライングラフィックデザインツールや、
Mixamなどのeコマースネットワークが牽引する小口注文の勢いを活用することで、過去3年間で40%の収益成長を達成。
「HP Indigo 100Kデジタル印刷機は、大量の小ロットの注文をこなすために作られたと言っても過言ではありません。ワークフローを自動化しているので、朝出社すれば、必要な印刷ファイルは印刷機に送られ、既に準備が整っています」と同社の社長であるBrian Scottは話した。同社は1日に何千もの小ロット注文を印刷し、出荷しているという。

また、ドイツのElanders社は、eコマースのデジタル印刷需要を捉えるため、2013年にオフセットからデジタル印刷機への投資に切り替えた。同社はHP Indigo 100Kデジタル印刷機を2台導入し、時間当たりの効率を40%向上。「HP Indigo 100Kデジタル印刷機は、すぐに印刷を開始できるので、稼働時間が向上し、売上高が30%増加した」とPrint & Package部門の最高執行責任者であるSchätzl Ulrich氏は語る。小ロットジョブを効率的に処理するために
HP Site Flowを使用し、ピーク時には2000万インプレッション(週に500万以上)を生産。
Schätzl Ulrich氏は、「これまでオフセット印刷機で大量生産してきたパッケージ、書籍、DMなどあらゆる印刷物のデジタルへの移行が始まりました。これからはデジタルの時代だ」と力強く語った。

事例のように、オフセットとの併用やデジタルへ移行する印刷会社は年々増えている。さらに、アナログとデジタルを併用していた印刷会社の31%以上が、すでに完全デジタルに切り替えたというデータもある。

※ Source: Keypoint Intelligence B2 B3 Inkjet Study 2023

Tシャツや厚紙両面印刷にも対応、HP Indigo 18Kデジタル印刷機

HP Indigo 18Kデジタル印刷機は、HPの第4世代のポートフォリオをリードするB2デジタル印刷機で、商業印刷アプリケーションやハイエンドの写真印刷から、紙器、セキュリティ印刷、熱転写、トレーディングカードまであらゆる印刷に対応し、優れた汎用性を提供。2,000種以上の認証済み用紙をサポートし、薄紙から厚紙まで幅広い素材や特殊素材に印刷が可能だ。Tシャツへの熱転写や、厚紙への両面印刷もできるようになり、千葉氏は「600ミクロンまでの紙に両面印刷できる世界で唯一の印刷機です。高解像度プリントヘッドにより、さらに印刷品質を向上しました」と話す。

生産性の観点では、自動復旧やプロアクティブアラートなどの高度なAIを活用することで、オペレーターが他の仕事をしながら運用できるため生産性が向上する。「高い汎用性を持ち、どんなお客様にもフィットするソリューションです。ユニフォームの印刷、高品質フォトアルバム、厚紙のグリーティングカード、特殊素材など多様な印刷に対応でき広く活躍するでしょう」と自信をもって勧める。

セキュリティ印刷に特化した高付加価値デジタル印刷機にも期待

HP Indigo 7K Secureデジタル印刷機は、運転免許証やパスポート、ビザなどの公的証書や、金券の運用に限定したセキュリティ印刷専用のA3モデルで、信頼性が高く政府機関などでも採用されている。セキュリティを重視した印刷ジョブをワンパスで実行し、高度なセキュリティ印刷を提供。具体的には、ブラックライトで発光する特殊なインキや、無数の線で複雑に絡み合う偽造防止のパターンを作るギロシェパターン、プレス固有のスクリーンを生み出す機能など、特殊な技術を詰め込んだ印刷機だ。Jura JSPとの共同開発により、生産ラインのセキュリティを確保するためにワークフローをカスタマイズできる。セキュリティ印刷は、偽造品の撲滅やブランド保護といった観点においても、今後ますますの需要拡大が期待される。

累計印刷数1兆ページを突破!高速・大量印刷のHPインクジェットデジタル輪転印刷機

HP PageWide Advantage 2200は、出版、ダイレクトメール、商業印刷向けに開発された
HP PageWide Web Pressの最新プラットフォーム。ワールドワイドでは2024年6月に
HP PageWide Web Pressシリーズによる累計印刷枚数が1兆ページに達した。千葉氏は、「HP が 10 年にわたり積み重ねてきた技術を結集し、高い効率性、汎用性、拡張性を実現しました。最高244メートル/分の高速印刷を実現し、高速、大量印刷に力を発揮します」と語る。シングルアーチ方式のプリントエンジンを採用し、1つのエンジンで両面の印刷を行う機構が特徴。また、ドライヤーユニットは、用途に応じて購入前にユニット数を選択する。例えば、一般的な文字印刷は1ユニット、コート紙を使用する場合は2ユニット、厚紙を含む場合は3ユニットのドライヤーというように、最適な構成を選ぶことで工場内のスペースを削減できる。

「水性のHP Brilliant インクを搭載していますが、サーマルインクジェット方式を用いることにより、プリントヘッドをコンパクトに設計でき、交換がとても簡単になりました。また、用紙搬送部へのアクセスがしやすいなど、メンテナンスのしやすい様々な工夫が施されています」と千葉氏は説明する。オペレーターにとって操作のしやすいデジタル印刷機だと
いえる。

HPのデジタル印刷機は、その先進的なテクノロジーにより、商業印刷・フォト市場の新たな需要を汲み上げ、可能性を広げている。品質、生産性、柔軟性を兼ね備えたこれらのソリューションは、縮小傾向にある印刷業界において、印刷会社に新たなビジネス機会をもたらし、市場での競争力を高め、利益を伴った成長を実現するための強力なパートナーと
なるはずだ。

リンクをクリップボードにコピーしました