2021.07.05
こだわりの“作品”の再現性を向上
株式会社栄光 代表取締役社長 岡田 一 氏
株式会社栄光(広島県福山市)は2021年5月20日、HPの『HP Indigo 7K デジタル印刷機』による同人誌印刷の表紙6色印刷サービスを開始した。彩度の高い、鮮やかな色調を求める同人誌作家に向けて、広色域による原画の再現性向上を勧めている。
1975年に創業した同社は1987年に同人誌の領域に踏み出し、コミックマーケットなどの同人誌即売会の発展に伴って事業規模を拡大してきた。1996年には現在の本社工場を竣工。2017年は本社工場近くに第二工場を設けて稼動を始めた。
印刷通販サイトを開設したのは2000年で、業界に先駆けて新しいビジネスモデルを取り込んだ。同人誌印刷の受注は基本的に全てWeb経由。2011年から発注・データアップロード・支払決済・履歴管理の実装を完了し、全国からの受注に応じている。
2012年には、印刷会社やデザイナー、企画会社向けの印刷ネット通販サイト「印刷通販の栄光」を開設。チラシや冊子などのカラー印刷を中心に、多品種・小ロットの印刷サービスを提供してきた。中でも生産体制を確立していた圧着ハガキの需要が多く、商品メニューを拡大してきた。生産設備もB2判6色コーター付のオフセット印刷機を導入し、印刷とニス加工をワンパス化するとともに、折り機やニス圧着機を増設して生産力を強化。現在は圧着ハガキに特化した『圧着DMの栄光』として、印刷、圧着加工、宛名印字、発送までのサービスを提供している。
同人誌印刷の発注者である同人誌作家は印刷品質に厳しい目を向ける。丹精を込めた唯一無二の“作品”であり、展示即売会で販売する“商品”だからである。同社もそうした中で鍛えられてきた。また、企業の発注担当者と異なり、消費者に近い視点で、印刷物と印刷会社を評価する。少しのわがままを利いてくれた感動や感謝は口コミやSNSで広がり、発注者と受注者以上の関係が培われる。
かつてプロの漫画家でもあった同社の岡田一社長は、「同人誌印刷は商業印刷と違う価値観で見られます。作家さんたちは自分で稼いだお金から印刷の費用を出してくれています。だから作品には強いこだわりが生まれるのです」と、作家に寄り添ったスタンスを続ける。
現在、同人誌作家の多くが描画にタブレットPCを利用している。4K相当のディスプレイの品質に目が慣れている一方、CMYK4色の印刷では原画の色が再現できないことも理解している。そこには「高い解像度で作品を描いて、お金をかけて印刷したら品質が下がってしまうわけです。もやもやとした不満を持たれているのは分かります。今までは仕方がないで済まされましたが、そこにビジネスチャンスがあるのではと考えました」という潜在的なニーズが横たわっている。
タブレットで描くケースが増えている同人誌。フレームは栄光オリジナルのタブレットテーブル
販売:https://moku-moku.shop/
6色表紙印刷サービスを支えるHP Indigo 7K デジタル印刷機
HP Indigo デジタル印刷機は多色印刷が可能で、コーポレートカラーやスポットカラーの再現力が高い。HP Indigo 7Kデジタル印刷機は最大7色のインキを装着でき、CMYKに加えて、オレンジ、バイオレット、グリーンの7色を使うことで、PANTONE®色域における最大97%の再現が可能。同社の6色印刷サービスではCMYKにビビットグリーン、ビビットピンクの2色がプラスされている。パープル系やグリーン系の表現力が高まり、淡いグラデーション部が原画の色に極めて近づき、とくにCMYKで表現しにくい人物の肌の再現性に優れる。
同人誌印刷は多品種・小ロットで、即売会などのイベント開催のギリギリまで作品に手をかけるので納期も短い。同社では早くからオフセット印刷による小ロット・短納期に対応する生産体制を確立しているが、さらなるサービス性の向上のため、デジタル印刷の生産ラインを組んでいる。もちろん、同人誌印刷の品質要求に耐えうる機種を選定し、設備導入に至るまで多角的な検討を重ねる。
岡田社長はオフセット印刷に近く、ガモットが広いHP Indigo デジタル印刷機にかねて着目してきた。今回、HP Indigo デジタル印刷機の導入を決断したのは、同人誌の描画ツールであるタブレットPCの性能がかなり進み、広色域印刷の必要が生じてきたことと、フル稼働しているユーザーの情報が寄せられたためだった。
「同人誌は1,000部以下がほとんどで、そのうち500部以下が大きなボリュームゾーンです。種類も多く、表紙でクオリティを上げることができるので、同人誌と相性が良いと判断しました。本文までオールカラーの印刷物であれば、デジタル印刷機で対応するのが難しいでしょうが、幸い、コミックの本文はほぼモノクロです。デジタル印刷機は表紙という小ロット印刷に適しています」
導入後に開始した6色印刷のテスト刷りには5月17日の締切までに500名以上が応募。作家に原画データを送付してもらい、アイボリー紙、パールコートとエンボス紙にそれぞれHP Indigo 7K デジタル印刷機の4色、6色で印刷したサンプルを送付したところ、届いた作家からツイッターへの投稿が相次いだ。
最も反応が良かったのが中級者クラスのシルバー会員。同社にとってのボリュームゾーンの顧客で、絵の再現へのこだわりが強い。仕事を持ちながら同人誌に費用をかけている作家が多く、印刷品質に対してもシビアな目を持っている。
「シルバー会員の作家さんたちは6色印刷に適した絵を描かれる方が多いと感じます。デバイスの進化があって非常に鮮やかな絵なのですが、今までCMYKの印刷では再現ができないと諦めていたと思います。同人誌の作家さんは自分の作品に思い入れがあります。今回、そうした想いに応えられると思います」
ツイッターには“4色刷りと比較してピンクが鮮やかに発色している”、“よりディスプレイに近い色味で感動した”、“あまりの発色の良さにびっくりした…理想すぎる”などの感想が投稿されている。そこからリツイートで『♯栄光6色印刷』が拡散されており、栄光の会員以外からも関心が寄せられている。表紙の6色印刷は1冊20円だが、2021年8月までは1冊10円のキャンペーン価格で提供する。
HP Indigoデジタル印刷機の印刷サンプル
現在、6色印刷の色変換はHPのDFEにバンドルされているプロファイルを利用しているが、今後は顧客の要望を聞きながら栄光オリジナルのプロファイルを作っていく。岡田社長は「コロナ禍だからできるチャレンジがあります。デジタル印刷による6色印刷の表紙についても、プラスアルファの仕事につながっていけばと考えています」と、これまで培ってきた技術とノウハウをもとに、HP Indigo 7K デジタル印刷機で事業領域の拡大を見据えている。
株式会社栄光
広島県福山市箕島町南丘6455-3
【本記事は ニュープリンティング が作成しました】