尾崎スクリーン 熱転写の新たな領域へ
~RGB表現で差別化戦略を展開~

HP Indigo 7K導入事例★★★

2025-08-04

衣類などへの転写プリントに使用する熱転写シートの製造・販売を手掛ける(株)尾崎スクリーン(本社/香川県坂出市、瀧本悠子社長)は、「HP Indigo 7K デジタル印刷機」を活用した国内初のフルカラーデジタル転写「DIGITAL OFFSET TRANSFERS(デジタル オフセット トランスファー、以下、D・O・T)」を確立し、市場提供を開始している。今回、同社・常務取締役の大須賀卓也氏、営業本部長の野口建太郎氏、技術マネージャーの柴田靖也氏にD・O・T開発の経緯や今後の取り組みなどについて聞いた。

集合写真
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1976年5月にシルク製版業として個人創業した同社は、1982年5月、(有)尾崎スクリーンとして設立。創業当時は、シルクスクリーン製版業を主軸に業務を展開していた。その同社に転機が訪れたのは1994年7月の「デジタル転写シート」(特許出願)の開発だ。

この「デジタル転写シート」は、従来の1色1版で転写マークを作成する手法をデジタルプリンターで1枚のデジタル転写マークの版として制作するもの。この技術の確立こそが現在の「D・O・T」の礎となっている。

以来、同社はシルクスクリーン製版業からデジタル転写シートの製造・販売へと業態を変革。このデジタル転写シートは、同社の主力商品として市場から高く評価され、生産拠点の拡充や東京への進出などにつながっていった。

2012年4月には、従来のカットシートではなく、ロール給紙による業界初のロール転写マーク「スターロール」の製造を開始し、大量生産体制を構築している。

D・O・Tへの取り組みは2017年、Indigoを活用したデジタル転写を模索したことがきっかけだと大須賀氏は説明する。「Indigoによる高品質画質の転写シートの製造はできないか」と、以前からIndigoの品質や生産性に関心を寄せていた大須賀氏は、知人を介して日本HP社とコンタクトし、Indigoを生産機としたデジタル転写について検討を開始。実際に同社が使用する基材を持ち込み、テスト印刷なども行ったが、結果として導入に至る成果を出すことができなかった。

柴田氏は「当社が使用しているフィルムで印刷を行ったが定着が悪く、すぐにトナーが剥がれてしまった」と、また野口氏は「印刷ができても絵柄を転写できなければ商品にはならない。この印刷と転写のバランスがうまくいかなかった」と、その当時を振り返る。

具体的には、印刷の定着については、事前にプライマー処理を施したフィルムを使用することで問題をクリア。その転写フィルムで生地に絵柄を転写することにも成功した。しかし、転写先となるTシャツなどの衣類は、着替えたら必ず洗濯される。そこで転写した生地を実際に洗濯してみると絵柄は、綺麗に洗い流されてしまった。

この問題が解消されないまま2020年、世界を震撼させたコロナパンデミックにより、この新たな取り組みは頓挫していく。

Indigoを活用したデジタル転写への取り組みが再開したのは2021年のこと。当時の日本HPの担当が新たな提案を携えてきたことから始まる。その新たな提案とは、Indigoで転写マークを制作した海外の事例だ。海外で可能であれば自社でもできるはず。そう考えた大須賀氏は、改めてIndigoの活用を目指して活動を再開。これまでのテストで印刷と転写の確認はできている。残るは、洗濯による転写剥がれという課題の解消だ。そこで大須賀氏は、海外事例でデジタル転写に使用されている資材の提供先と直接取引ができるルートを確立。Indigoと海外で実績のある資材を活用することで、これまでの課題を克服できると確信した。そして、その生産機として同社は、HP Indigo 7K デジタル印刷機の導入を決断した。

同社が導入したHP Indigo 7K デジタル印刷機は、CMYK4色に加え、特色を3色搭載でき、最大で7色印刷が可能。黒い紙や色紙、蒸着紙、合成紙など幅広いメディアに対応する。最大用紙サイズは、330×482mmで、用紙対応厚は、最大550ミクロン。同社では、プレミアムホワイト、ビビッドピンク、ビビットグリーンの特色3色を搭載した7色モデルを採用した。そして2023年10月、D・O・Tをスタートさせる。

同社の新たなデジタル転写技術であるD・O・Tは、ビビッドピンク、ビビットグリーンの2色のビビッドカラーを使用することで、RGB色域を豊かに表現することができる。これにより従来のCMYK印刷では、再現できない広色域な転写マークの生産を可能とする。

Indigo 7Kを導入した理由として大須賀氏は「RGB色域の印刷ができることが最大の魅力」と語る。

また、野口氏は「当社は、アニメやキャラクターなどの絵柄を扱うことが多い。現在、RGB色域の印刷に対応している競合他社は存在しない。そのため、そういったキャラクターなどの画像をRGB色域で印刷することを待ち望んでいたクライアントにマッチした商品提供ができる」とD・O・Tの高付加価値化を武器とした新規顧客獲得に期待を込めている。

また、Indigo 7K導入以前の同社では、POD機でデジタル転写シートを印刷していた。そのためインクジェット印刷機との品質の違いを指摘されることも多かったという。

「インクジェットと比較されるとPOD機は、どうしても色が沈んで見える。それが当社の弱みでもあった、しかしIndigo 7Kの導入により、より色鮮やかで繊細な印刷ができるようになった」(柴田氏)

この新たな印刷表現は、既存顧客とそのビジネスのほか、これまで同社と取引がなかった新たな顧客とのビジネスを創出していくこととなる。

「従来は1000枚から3000枚のロットを上限としていた。Indigo 7K導入後は効率的な生産ができるようになり、さらにロット数の多い何万着といった仕事を受注できるようになった。それぐらい当社のビジネスを劇的に変化させた」(野口氏)

Indigo 7K
Indigo 7K

その劇的な変化を実現することができたのは、Indigo 7K導入と並行して取り組んだ後工程の自動化だ。デジタル転写では、シート印刷後にスクリーン印刷を施す後工程が必須となる。既設のPOD機では、見当精度に問題があり、この後工程移行時に1枚1枚手作業で見当を確認してからスクリーン印刷を行うなど非常に手間と時間がかかっていた。しかし、Indigo 7Kでは、見当ズレがないため、そのまま後工程に移行することができる。

「POD機で印刷してスクリーン印刷をするデジタル転写を他社が手を出さなかったのは、この見当の問題による作業性の悪さが要因だったと思う。当社は、その中で経験値を活かしながら最適な手法でデジタル転写を実践してきたが、Indigo 7Kによって、次のステージへの進出を遥かに超えた自動化を見据えた生産体制を構築することができた」(野口氏)

この後工程の自動化により、従来8名で行っていた作業が2名体制で問題なく稼働できるようになった。また、5時間を費やしていた作業時間も約30分で完了するなど、驚異的な効率化を実現している。

Indigo 7K
Indigo 7K

大須賀氏は、Indigo 7Kとともに日本HPサポート力を高く評価している。

「D・O・Tの立ち上げから現在まで、日本HPのサポートには感謝している。普通であれば、諦めてしまうようなケースでも真摯に対応策を提案してくれた。また、海外事例の豊富さなどもグローバルに展開するHPの強みだと実感している。D・O・Tは、日本HPをはじめ、多くのパートナー企業の協力があったから実現できたものだと思う」(大須賀氏)

D・O・Tの開始から約2年、現在、同社では月間平均で3万シートの印刷をIndigo 7Kで行っている。「D・O・T」の用途としては、Tシャツや各種スポーツ関連のユニホームなど。傾向としては「安くできるもの」ではなく、「コストが上がっても高精細、高画質といったプレミアム感を演出したい」といった用途が中心となっているという。また、インバウンド関連の商品や現在、2025年4月から日本で開催されている国際イベントの公式グッズなどにも採用されている。

Indigo 7Kの導入は、自動化による効率生産だけでなく、同社のビジネスの成長にも大きく貢献している。

現在における同社の売上比率では、約2割強がIndigo 7Kでの生産で売上は、この分純増加しているという。これに自動化による時間コストの大幅削減などを加えると、その導入効果は、さらに大きなものとなる。

DTF(Direct To Film)プリンターの台頭が顕著になってきた昨今、同社は、Indigo 7KによるD・O・Tで、ほかでは真似のできないグレードの高いプロ仕様のデジタル転写シートの提供で差別化、高付加価値化を図っていく。

さらに同社では、印刷産業とのコラボレーションにも期待を寄せているという。

「当社はアパレル業として、様々なデザインの転写シートを制作しているが、それらのコンテンツの先には、印刷、出版業者が存在する。その皆さんとIndigoという共通点を介して相互メリットを見出して、新たなビジネスを創出できればと考えている」(大須賀氏)

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【本記事は印刷時報株式会社が制作しました】

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