2023.11.24
シンクライアント総合研究所
奥野克仁
現在、日本のあらゆる組織が求められているDX。少子高齢化社会が加速する中、必然的にITによる業務効率化や生産性向上を実現しなくてはならず、課題の多い既存のシステムの改修はもちろん、ワークフローの見直しなども含め、組織全体の再構築が求められている。
特に地方自治体は、多くの国民にとって生活するための窓口として機能しなければならず、多様なニーズに対してDXを加速していかなくてはならない状況だ。そんな自治体にとって、DXの課題やそれを乗り越えるために必要な施策の立て方など、問題は山積している。
今回は、多くの自治体のDX促進のために一緒になって取り組んできたシンクライアント総合研究所の奥野氏による寄稿コラムをお届けします。
いま自治体が直面している課題は大きく分けて4つあると考えています。ひとつは自治体の業務システム標準化・共通化に対する取り組み、そしてもうひとつは国策にもなっているデジタルトランスフォーメーション、いわゆるDX関連施策への取り組みです。自治体の財政状況によっては予算が確保できないケースも非常によくみられます。さらに資源という意味ではコストと同様重要なDX施策を立案実行する人材に対しても課題を抱えているようなケースが多いように感じます。まずは、それぞれのケースで何が課題としてよく浮上してくるのか見ていきましょう。
シンクライアント総合研究所
奥野克仁 氏
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
株式会社 NTT データ、 NTT データ経営研究所を経て2012年株式会社シンクライアント総合研究所を設立。
30年近く手掛けてきた各自治体及び公的機関の情報基盤最適化の実績を踏まえ、情報システム部門の人員の確保に悩む人口5万人未満の中小自治体を中心に次期セキュリティ強靭化、 DX 推進計画づくりまで、全国各地をめぐり助言している。
標準化・共通化といった部分では、標準化対象業務に対し、自治体が独自に対応する標準化対象外業務が存在します。多岐に渡る自治体の業務において対応する職員の数には限界があり、小規模な自治体ほど少ない人員で対処しなくてはならず、かつ職掌が広範にわたるため、標準化以降、自分たちの業務にどのような影響があるのか、認識しづらいところがあるようです。
標準化以降、自分たちの業務にどう影響するのかイメージできない状況下で、今使っている業務システムから離れられなくなり、現行環境でなんとか対応できないかと、保守的な考え方に支配され、DXが進まないケースも見受けられます。
そういった自治体にとって重要なパートナーとなるのがベンダーの存在ですが、彼らはシステムの実装にとらわれがちで、自分たちの仕事だけに意識が集中してしまい、個別の自治体のケアまで手が回らないところもあるようです。
現在、日本が掲げている「デジタル田園都市構想」があり、各自治体はこれに沿って施策を進めるようにといっています。いくつかのパターンがあり、私自身もいくつかの自治体で情報化アドバイザーとして、情報基盤の刷新に取り組んでおり、支援させていただいている自治体の中にはデジ電甲子園で事例として紹介されている自治体もいますが、実際にこういった先進的な取り組みについていける余裕のある自治体はまだまだ少ないのが現状です。
実際には、どう展開していくか悩みながら、とりあえず理想に近づけようと、国が例示したベストプラクティスをそのまま模倣してしまうところも少なくありません。また、現状のネットワーク及び端末環境が最適化していない状況下で、そもそもDXにまったく対応できないというケースもあります。現行システムをとにかく大過なく安定的に稼働させることに腐心している部署と、働き方改革を標榜し情報企画を進める部署が、それぞれのできること、できないことを引き合いに出して、せめぎ合っている姿を見ることもあります。こういった例はDXを進める上で大きな障壁といえるでしょう。
これは分かりやすく、そのための予算が無い、予算が足りないということに尽きます。しかし、国からは補助金をはじめ、一定の予算は投入されます。規模的にはエントリーのための費用に留まることが多いのですが、とりあえずそれを原資に数年間はシステム導入から試行運用を続けますが、それ以上経過すると運用継続やさらなる改善のための財源が確保できないまま、その後はフェードアウトという状況になりがちです。
また、補助金等の施策のおかげでシステム導入できたはよいが、十分なシステム運用がされず、結局は使われないまま終わってしまうこともあります。つまり、せっかくシステム構築を始めても予算が足りないか、ギリギリ持ったとしても一過性の花火で終わってしまい、無駄な投資になってしまう事例も少なくないということになります。
自治体のDXには必ずキーマンが存在します。デジタルに明るい人、明るくなくともベンダーをうまく使いこなして足りない知識を補いながら進める人、強力なリーダーシップで目的に向かって組織をまとめる能力がある人など、タイプは様々ですが、そういった人材がいると、DXは割と健全に進んでいく傾向があるといえます。
しかし、これは自治体に限った話ではありませんが、往々にして組織はそういった人材を簡単に異動させてしまいます。その瞬間にデジタルへの取り組みは継承されず、盛り上がったDXの機運はフェードアウトしてしまいます。これは組織全体にとって大きな機会損失と言わざるを得ません。
DXを妨げる要素はこれだけではありませんが、関係者各位には十分理解いただけるポイントだと考えます。単純に自治体におけるDXの課題を総括すると「重すぎるミッション」「受け止める情報インフラの最適化がなされていない」「それを回すための予算と人的資源がない」という三重苦があるといえます。DXを進めている中で、うまくいっていないと思ったときは、まずこの点について、再度チェックしてみると良いでしょう。
後編はこちら