2021.07.30

いよいよ訪れたニューノーマルなオフィス時代!
働き方とオフィスの変化に合わせて、必要な印刷環境を考える
~経営、総務、ITが一体となって取り組むべき最適化とは?

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新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、企業ではリモートワークを中心とした働き方改革が急速に進められている。働き方の多様化は、印刷環境を含めたオフィスのあり方を大きく変えるきっかけになる。企業にとっては生産性を高め、企業価値を向上させるチャンスでもある。

コロナ禍以降、リモートワークを働き方の大きな選択肢として取り込んでいく中で見えてきたものとは何か。これからのオフィスの“あるべき姿”はいかなるものか。組織の生産性と社員エンゲージメントを最大化するには何が必要か。あわせてこれからの印刷環境についてどのように考えるべきか。そして、誰が改革をリードすべきか。大きなオフィス変革を実践中の日本HPプリンティング事業本部長の小島宏、サービス・ソリューション事業本部マネージドサービス部の佐藤直明の二人に聞いた。

求められるのは、人とのつながり、コラボレーションの場

――日本HPは2007年にフレックスワーク制度を導入し、正社員で最大週4日、派遣社員で最大週2回のリモートワークを可能にするなど、早くから働き方改革に取り組んできました。新型コロナウイルスの感染拡大以降は制限をなくし、社員の9割が在宅勤務を選択しています。お二人がリモートワークを実践する中で感じたメリット、デメリットについて聞かせてください。

小島 デスクワークや会議については、リモートワークに移行しても労働生産性を下げることなく実施できています。通勤時間が短縮されたことを考えれば、労働生産性はむしろ高まっているといっていいでしょう。その一方で、人とのつながり、コラボレーションという意味では、リモートワークならではの難しさを実感しているのも確かです。オフィスという場に身を置くことでしか実感できない“らしさ”といいますか、組織の理念を肌で感じる機会はどうしても減りますし、多様な社員の「偶発的な衝突」による”ケミストリー(化学反応)”も起こりにくい。年代によって違いはあると思いますが、他部門の社員とのちょっとした雑談から、自分ひとりの頭で考えていてはなかなか思いつかないアイデアを生み出す機会が減っている感はあります。

こうした感覚は私のみならず、多くの社員が共有しているようです。2020年夏に日本HPが社員を対象に実施したアンケートによると「リモートワークによって生産性が上がった」「維持できている」という回答が8割以上を占めたほか、リモートワークの継続を希望する社員は9割を超えました。その一方で、HPが米国・英国・日本のリモートワーカーを対象に行った調査では、コラボレーション効率に差があるという理由で、必要な際には4割超がオフィスへの出社を選択すると回答しています。人とのつながり、コラボレーションといった側面に課題を感じている方は少なくないと感じています。

――佐藤さんは如何でしょうか。

佐藤 失言を取り消しづらい、非言語的な要素が伝わりにくい、誰が権限を持っているのかわかりにくいといった、リモート環境に特有の難しさを感じる一方で、営業職の本質的な部分で大きなメリットを感じています。従来はともすると、お客さまのもとを「訪ねる」「目的がなくとも、とにかくお会いする」ことに意義を見出す営業メンバーが少なくありませんでした。しかし、リモートワークが一気に普及したことで、“話してナンボ”といいますか、お客さまの困り事や悩み、ニーズをしっかり聞いて、最適なソリューションを提案するという本質的な価値に重きを置く営業メンバーが若手を中心に増えてきました。

当たり前といえば当たり前ですが、実際に会える機会がより貴重になり、リモートでの会話も準備が必要となった現在、営業職にとっては非常に重要な変化だと思っています。

――上記のメリット、デメリットを踏まえた上で、これからのオフィスの“あるべき姿”について聞かせてください。

小島 オフィス勤務とリモートワークを組み合わせた、ハイブリッド型のワークスタイルがますます浸透していくでしょう。そのなかで、オフィスはビジネスの持続的成長を支える拠点として、労働生産性を最大化するための選択肢の一つであると同時に、人とのつながり、コラボレーションを推進する場としての機能がこれまで以上に重要になるのではないでしょうか。

ちなみに、私自身はオフィスのあるべき姿を考えられるようになったということ自体、非常に良い傾向だと思っています。以前は、仕事はオフィスでするのが当たり前で、それ以外の選択肢は考えられませんでしたからね。こうした問いにしっかり向き合うことすらありませんでした。

――オフィスの本質的な価値が改めて問われているのかもしれませんね。

小島 そうですね。今後は、社員一人ひとりが自らの課題やゴールを理解した上で、それを効率的に実現するための最適な環境を自分自身で選択できなくてはなりません。

一方、マネジメント層に求められるのは、社員が持てる力を最大限に発揮できる“場”を提供するとともに、効率的に成果を生み出した人を正しく評価することです。出社することが仕事としてみなされ、会社で長時間仕事をする社員が評価される時代は終わりました。マネジメント層がアウトプットを正しく評価するスキルを身につけることが、社員との信頼を育み、チームとしての一体感の醸成につながっていくはずです。

――昨今のリモートワークの急速な普及は、コロナ禍という環境要因はさることながら、テクノロジーの進化によるところが大きいと思います。これからの働き方を支えるコアテクノロジーについてはどのように考えればよいでしょうか。

佐藤 「ABW(Activity Based Working)」という概念の浸透にも見られるように、時間や場所を主体的に選択し、オフィス勤務とリモートワークを最適なかたちで組み合わせながら仕事をする“モビリティ”の時代に入っています。忘れてはならないのは、「セキュリティ」が担保されない限り、”モビリティ”の可能性を最大限に引き出すことは不可能だということです。その意味で、変化に対応した働き方を維持する全ての企業に、セキュリティ対策を経営戦略として実践することが求められているといっていいでしょう。

また、製薬会社のMR(医薬情報担当者)などお客さま先の医療機関を直接訪問しなければ成り立たなかった職種でもリモートワークの導入が進んでいますが、こうした変化を支えているのが「クラウド」技術です。クラウドサービスとどのように連携し、情報共有の効率化を図るか。具体的な導入方法についてはお客さまによって千差万別ですが、業務の生産性向上に向けて、多くの企業が取り組むべき課題といっていいでしょう。

このように、「モビリティ」「セキュリティ」「クラウド」がそのキーとなるテクノロジーとみています。

雑談のできる関係性がイノベーションの基盤になる

――日本HPは2021年4月、江東区大島の本社オフィスを港区の品川シーズンテラスに移転することを発表。同年11月の正式開所を予定しています。その狙いについて聞かせてください。

小島 本社オフィスの移転を決めたのは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、働き方やオフィスの役割が大きく変化する中で、オフィス勤務とリモートワークを最適な形で組み合わせたハイブリッド型ワークスタイル「Mobility at HP」を推進し、組織の生産性及び社員エンゲージメントを最大化するためです。

2020年2月以降、オフィスに出社する社員が全体の1割以下になっていることを踏まえ、床面積は従来よりも削減。新たなオフィスは人とのつながりやコラボレーション推進の場として位置づけられます。

――社員エンゲージメント向上にむけて、どのような取り組みを推進していますか。

佐藤 社員エンゲージメントを高めるための仕組みの一つとして、日本HPでは趣味からスキルアップまで、共通の価値観や興味関心を持った社員が自由に参加できるオンラインの社内コミュニティ「HP Japan CONNECT」をスタートさせました。

子育てをしている社員、料理が好きな社員、音楽好きの社員、ペットが好きな社員、高校野球ファンの社員、コンビニスイーツ好きの社員、ボディメイキングが趣味の社員が集まるサークルや真面目にDXを研究するグループなど、20数種類のコミュニティが結成され、それぞれのテーマで活動を展開しています。

各コミュニティには所属部門や雇用形態を問わず、あらゆる社員が参加できるほか、その取り組みが仕事に直結するグループなど、業務時間内に活動できるサークルもあります。オフィスで仕事をしていたときには面識のなかった社員と、和気藹々とした雰囲気の中で肩肘張らずに雑談ができる場としても機能しており、社員同士の人格的な結びつきや偶発的なコミュニケーションを生み出すきっかけになっているという実感があります。

また、離れたオフィスで働くメンバーの交流や自由な時間設定など、リモートならではのメリットを多く感じます。

――仕事以外でのインフォーマルな会話が社員エンゲージメントにもたらす影響は小さくないということですね。

佐藤 雑談ができるということは、多様な社員が安心して議論できる環境が存在するということだと思います。性別や年齢、国籍、文化、価値観など多様なバックグラウンドを持った社員が立場や役割を超えて積極的に意見を出し合い、「そういう考え方もあったんだ」という形で学び合いながら、新たなアイデアを生み出していく。正解が見えない課題に直面しても失敗を恐れることなく挑戦し、とりあえずやってみる。このような活動を実践していくためには、安心安全な人的環境づくりが重要です。

その意味で、「HP Japan CONNECT」という取り組みは、立場や役割を超えて安心安全な関係性を創り出す大きな基盤になっていくと思います。

――こうした文化・風土は、HPのDNAと考えてもよいでしょうか。

小島 おっしゃる通りです。創業者の一人であるビル・ヒューレットは、「人間は男女を問わず、良い仕事、創造的な仕事をやりたいと思っており、それにふさわしい環境に置かれれば、誰でもそうするようになる」という言葉を発しています。働きやすい環境をつくれば、あらゆる社員が自立し、主体的に仕事に取り組むという信念を持っていたんですね。

1939年の創業以来、HPはテクノロジーの進化、時代環境の変化に合わせてオフィスの位置付けや社員の働き方を柔軟に変えてきましたが、その根底にある理念・信念は創業時から全く変わっておりません。今回の本社移転に当たっても、個室や集中ブースの整備、社外でリモートワークをしている社員とシームレスにつながる環境の整備、出社率に関する考え方など時代変化とテクノロジーの進化に合わせて新たに追加した要素はありますが、社員への「信頼と尊敬」「柔軟性と革新性の奨励」といったHPウェイの基本的な価値観は一貫しています。

――社員はさることながら、お客さまとのコミュニケーションの場として見た場合でも、オフィスが果たす役割は大きいと考えてよろしいですか。

佐藤 もちろんです。“ショールーム”としての機能は、その一例です。当社はPCから大型の商業用印刷機に至るまで、さまざまな製品を扱っています。オフィスに足をお運びいただき、実機を手に取って体験していただくことで「なるほど、こういう使い方もできるんだ」といった気づきを得てもらえると嬉しいですね。

私たちの調査によれば、製品の機能訴求という文脈でも、ストーリー訴求という文脈でもオンライン動画を見ていただくことで解決できることも多くありますが、実機の触感など視覚や聴覚以外の要素、人間がストーリーと共に製品やサービスを語りかけることで伝わる要素は、まだ科学的には証明されてはいませんが、お客様の心を動かす大きな要因になると思っています。これはリアルな場ならではの圧倒的なメリットです。

また、お客様の言語以外での反応もリアルであれば感じることができます。「黙っているけど感動しているな」というような感覚をあらためて言語化することで、商談の成功に至ったケースはこれまでも数多くありました。とりわけプリンターは、デジタルとフィジカルをつなぐデバイスです。やはりその紹介もハイブリッドで行うことの意味を感じます。

機能面についてはオンラインで確認いただきますが、同じようなスペックの製品でも感じ方は十人十色です。印刷品質の微妙な違いや印刷スピードの実感値は、お客さまご自身にリアルで体感いただきたいですね。

経営トップ、経営企画が働き方・オフィス改革をリードする

――オフィス改革と切っても切れない関係にあるのが、印刷環境です。オフィス改革と新しい働き方が進む中で、印刷環境はどのように変化していくのでしょうか。

小島 当社は「最適化環境」の構築をテーマとして、自社及びお客さまのオフィスの印刷環境をサポートしてきました。従来は同じブランド、同じ型番の製品を揃えるのが最適だと考えられていた時代もありましたが、いま、求められているのは「集約と分散」です。

佐藤 当社を例に取ると、今回の本社オフィスの移転に伴い、オフィス内に設置する複合機は従来の20台から4台へと一気に“集約”します。その一方で、各職場の仕事内容や働き方に最適な小型の複合機やプリンターを”分散”的に配置します。

コロナ禍を契機としたリモートワークの普及や、ペーパーレスの推進をはじめとする時代のトレンドに伴って「最適化」のあり方は変わっていきます。また、プリンティング・ポリシーや、ドキュメントの保存や管理、廃棄に関する法律、リモートワークの浸透度は国によって大きな違いがあります。HP内でのノウハウも含めて、お客さまのニーズに寄り添いながら、各企業に最適な印刷環境を創り上げるお手伝いをさせていただきたいと思います。

――印刷環境についても、働き方改革やオフィス改革と一体で進める必要があるということですね。最後の質問になりますが、これらの改革は、誰が中心となって、どのようにして進めていくべきでしょうか。

佐藤 結論から申し上げれば、それは「経営」の役割にほかなりません。総務部門や人事部門、IT部門がオフィス改革や働き方改革を所管している企業が少なくないと思いますが、一つの部門ではどうしてもやり切れない部分がありますし、部分最適に陥ってしまう可能性もあります。

また、最も大きなポイントは、経営戦略として「社員にどのように働いてほしいか」というメッセージを発信するのは、経営者自身であり、またそれを浸透させていくのは経営層、あるいは経営に近い立場で仕事をしている方々だという点です。これはIT部門や総務部門だけではやり切れず、自分達のできる範囲での部分最適に終わってしまいがちです。

また同時に「コロナ禍だから取り組む」といった一過性の課題ではありません。さらに、非財務情報が企業価値向上に与える影響に注目が集まる今日、企業は社員エンゲージメントの向上にこれまで以上に力を入れる必要があります。

小島 いま、求められているのは、経営トップもしくは経営企画が、働き方やオフィスの改革を経営戦略として位置付け、長期的なビジョンをもって会社全体をリードする。その上で、総務部門や人事部門、IT部門が確実に実行に落とし込んでいくことです。これが働き方改革やオフィス改革の本来あるべき姿ではないでしょうか。

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