2021.06.11
日本HP サービス・ソリューション事業本部高木聡による印刷環境再構築への提言 第二弾
リモートワークが急速に普及し、働き方改革により働く時間や場所が多様になる中、企業の生産性を改善するために求められているものは何だろうか。リモートワークの本格化や働き方改革が進んでいるとすれば、次は企業活動の中心となる「業務フロー」や「それにあわせたオフィスの変革」ではないだろうか。
とりわけ「業務フロー」に関しては、物理的な紙の文書の扱いがリモートワークを本格的に展開する際の大きな障壁となっている。紙文書をいかにデジタル化するか、デジタル化された文書をいかに管理し運用していくかなど、意志決定を迅速化しながら生産性を向上し、かつそれらの文書を資産として管理する新しい業務フローへ変革していくことが今求められている。
解決策のひとつとして挙げられるのが「クラウド化」である。今回は、前回に引き続き、クラウドを活用した文書の効率的なデジタル化と、さらに生産性を向上させる印刷環境全体のクラウド化の取り組みについて、株式会社日本HP サービス・ソリューション事業本部 マネージドサービスデリバリー部 部長・高木聡氏のインタビューを通じて考察する。
コロナ禍で世界が大きく揺れたこの1年、変化が加速したことの1つに「働き方」があるのは間違いない。リモートワークは、働き方改革の文脈で大きく取り上げられてきたものの、この1年間でここまで日本でも急速に増加するとは、以前には予想できなかったことではないだろうか。
主なワークスペースはオフィスではなく自宅へと移った。これにより、生産性の向上や、働く時間の柔軟性確保などポジティブな側面がある一方で、課題も浮き彫りになった。
その1つが「文書」の扱いだ。元々オフィスでは全員がオフィスに出社していることが前提にあり、紙ベースの文書を複数人で確認し進める業務が多く存在したが、コロナ禍により状況は一変した。オフィス以外の場所で働くことが日常的になり、出社するのは少数の人員に限られるようになったことで、文書を紙でやり取りすることが困難になったのである。
これまでにも文書のデジタル化に関する議論は多くの企業で行われていたが、日本独特の押印文化の影響もあり中々進んでこなかった。しかし、この状況下、政府主導で「脱ハンコ」への取り組みが進んだこともあり、企業における文書のデジタル化はようやく現実的なものになってきたのである。
しかし、ここで考えるべきなのは単なる文書のデジタル化だけではなく、デジタル化した文書をいかに管理し運用していくか、それによって生産性向上につなげていくか、ということである。実際、高木氏も働き方の変化に伴い、文書の取り扱いに関連したクライアントのニーズが大きく変化しているのを感じるという。
「文書をどう効率的に管理するか。お客様の声を聞いていると、このニーズがもっとも大きいです。実際、企業の中で今大きな課題になりつつあるのではないでしょうか」
また、今回の感染症拡大時のような急激な変化は珍しいかもしれないが、社会はこれからも変化し続ける。例えば、世界中で急速に対応が迫られるようになったサステナビリティへの取り組みである。実際、カーボンニュートラルへの企業活動の対応として、工場などの活動だけではなく、オフィスからの温室効果ガスの排出量を削減するための努力、ゴミの削減にも影響を与える印刷環境の再考といったことが急務となっている。
このように社会が時代や状況にあわせて変化していくたびに、働き方や働く場所の変化が生じ、文書管理などの業務フローを柔軟に変革させることが不可避となっているのである。
つまり、ニューノーマル時代には、今後も起こりうるであろう変化に柔軟に対応できる業務フローの構築が必須であり、それに伴う文書のデジタル化と新しい文書管理の構築が急務であると言える。
それでは、変化に柔軟に対応できるニューノーマル時代の文書管理とは、どのように構築していけばいいのだろうか。
キーワードのひとつが「クラウドへの対応」である。すでに、多くの企業では複数のクラウドサービスを活用して業務を行っていると思われ、実際に高木氏も「当社がお付き合いしている大手企業も、印刷環境に限らずIT機器やサービスなど、オンプレミス(自社独自方式)で構築をするのではなく既存のクラウドサービスを利用した環境で業務が進められるケースが多い」と実情を紹介する。
なぜ今、IT環境のクラウド化が進んでいるのだろうか。高木氏は「管理部門の負担軽減」をメリットに挙げる。
「オンプレミスでは、IT部門の方が必要に応じてパッチを適用したり、管理の工数が多く発生していました。しかし、クラウドサービスを利用することでこのような保守業務を実質的にアウトソースできます。また前回にも触れた通り、管理部門は省人化と同時にこれまで以上に多様な業務に対応することが求められています。オンプレミス環境で使用するサーバーなどの管理工数の削減は、この流れにも沿うでしょう」
こういったIT環境の変化の中で、旧来の環境では、デジタル文書管理は企業独自のファイル共有サーバーやアプリケーションを利用して行われてきたが、昨今ではSharePointやGoogle Drive、One Driveに代表されるクラウド対応型の文書管理ソリューションの利用が急増しているのである。
そうした背景から、文書管理と常に同時に設計すべき業務フローもクラウド化にともなって変化させていく必要があるのだが、この文書管理にともなう業務フローは現在どうなっているだろうか。
まずは文書のデジタル化である。多くの企業では紙の文書をデータ化する際には、複合機のスキャン機能を利用し、PCのハードディスクや共有ファイルサーバー、もしくはe-mailで送付するなどしてデジタルデータを取得する。その後、自身のデバイスにダウンロードした後、文書管理ツールへアクセスし、さらにアップロードを行う、というのが一般的な業務フローではないだろうか。
このような業務フローは、紙ベースでの文書管理と比べて、ダウンロードやアップロード、アプリケーションの起動、さらに重なる認証システムへの対応など操作の回数が多く時間もかかるため、文書のデジタル化の促進を妨げる一因となっていると考えられる。
ここで、HPが提供する包括的な印刷ソリューションサービスMPS(= Managed Print Service)で提供されるHP独自の多様なソリューション群の中から、クラウド対応の文書管理ツールや、カスタマイズされた固有のツールと印刷機器から直接連携可能なソリューション『HP Workpath Apps』を利用することにより、どのように業務フローと管理環境を効率化することができるのかを見てみよう。
「『HP Workpath』を活用すればHPの印刷機の操作パネルから、お客様がご利用いただいているクラウド対応のアプリケーションや独自アプリケーションと連携し、直接データを保存できます。また、シングルサインオンの機能を組み込むこともできるので、文書のデジタル化に必要な操作回数と時間を効果的に削減できるのです。」(高木氏)
つまり、『HP Workpath Apps』の活用により、ユーザーがこれまで時間をかけてきた工数が大幅に削減され、社内の文書のデジタル化を促進することが可能になる。また、文書デジタル化のために必要となっていたPCやオンプレミスサーバーの管理コストの削減、さらには自動化することにより、データ入力エラーの削減なども期待できるのである。
しかし、ここで気になるのはこういったツールの開発や管理が複雑になり、管理側の工数が増大するのでは、という事ではないだろうか。この点についても『HP Workpath Apps』を利用するメリットを高木氏は強調する。
「『HP Workpath Apps』は外部のクラウドサービスや、企業内の業務システムとの連携を、印刷機のファームウェアではなく、ひとつのアプリケーションとして開発し追加することができます。お客様のニーズと予算に応じて、業務システムと直接連携して動作する文書を管理するアプリケーションを開発することで、業務プロセスの効率化を図ることができるのです。また、仮にクラウドサービスや自社アプリケーションに何らかの変更が生じても、アプリケーションで設定を変更すれば、今までどおり運用可能です。印刷機の入れ替えの際にも、ファームウェアの違いを意識せず『HP Workpath Apps』とその上で稼働するアプリケーションをインストールするだけで変わらず運用が可能になり、IT部門の工数を大幅に軽減することが可能になります。」
さらに、印刷環境を整えて文書のデジタル化がどんどん促進されていくと、企業の「コンテンツマネジメント」にも大きく踏み出すことにもつながる。さらに効率よくデジタルコンテンツを管理していくため、ECM(Enterprise Contents Management)ツールとの連携が必須となるが、『HP Workpath Apps』を定常的に利用し、シームレスに文書をデジタル化するオペレーションが浸透すると、必然的にECMの需要が生じてくる。そして、状況に応じて『HP Workpath Apps』を活用して、こういったツールとの連携も障壁なく進めることができるのである。
このように『HP Workpath Apps』を利用することにより、ユーザーの業務フローの効率化だけでなく、変化への対応が容易な文書デジタル化の環境を整えることができるのである。
これまで、文書のデジタル化と文書管理をどのようにクラウドに対応させ、業務フローを効率化するかを考えてきたが、ここからは一歩進んで印刷環境全体のクラウド化についても考えてみたい。
印刷環境全体のクラウド化のメリットは、リモートを含めた様々な環境からの利用が容易になることである。一方で、印刷環境でのクラウドの活用にはハードルもあると高木氏は指摘する。それは「セキュリティ」の問題が発生することだ。
「これまではオフィスの印刷機で出力するのが前提でしたが、ワークスペースが自宅であったり、自宅以外の外の場所であったりと多様化が進んでいくと、管理もこれまでのようにはいきません。また、自宅の個人向けプリンターや外部の印刷機など、企業で管理していない印刷機で出力させるのは、やはりセキュリティの問題がつきまといます」
印刷環境をクラウド化し、利便性とセキュリティのトレードオフを解決するにはどうすべきか。HP MPSを活用するとどうなるか、高木氏が説明する。
「例えば、『HP Secure Print』を利用すると、暗号化された印刷ジョブを認証データと一緒にクラウド上に送り、印刷時には印刷機の操作パネルから認証、もしくはスマートフォンを用いてQRコードで認証し、クラウド上の印刷ジョブを出力することができます。お客様がご利用いただいている認証サービスと、HPアカウントと呼ばれるお客様データとを連携し、安全かつ容易に印刷ができます。また、カード認証と簡易なPINの入力だけで認証が完了し、都度IDやパスワードを入力する手間も省けます」(高木氏)
また高木氏は「クラウドベースの印刷環境により、印刷環境の管理も大きく変わる」と指摘して、そのメリットを挙げる。
「クラウドベースにすれば、そこに接続できる印刷機であれば、場所を問わずどの印刷機からも出力できます。例えば、インターネット接続のみが可能なレンタルオフィスを活用して臨時オフィスを開設する場合も、社内ネットワークを敷設することなくオフィス内と同様に業務が可能です。しかも、デバイス側のドライバー設定で出力できる印刷機を一台ずつ登録する必要はないので、実際に印刷するユーザーにかかる負担も最小限です。また印刷機の稼働状況およびユーザーの利用傾向は、前回もお伝えしたとおり『HP JetAdvantage Insight』で俯瞰することができます。無駄な印刷が発生していないかなどの管理も可能です」
このようにクラウドベースの印刷環境を整えれば、スキャンも出力もこれまで以上に柔軟に多様な働き方や働く場所に適応することができる。仮にオフィスを移転したり、サテライトオフィスを設けたりする際にも、印刷機の設定は最小限で済んでしまうのだ。これは、オンプレミスベースの印刷機環境では実現が極めて難しい。
今、コロナ禍によって働き方が変わり、文書管理のあり方も大きく変わろうとしている。そして、その文書管理の入り口になる印刷環境も、今後見直しが迫られるのは間違いない。
最後に、その第一歩を踏み出すために取り組んでいただきたい具体的なアクションを高木氏は示した。
「まずは、文書をデータ化していただくのが先決です。データ化しなければ、そもそもクラウドで共有もできませんし、働く場所を含めたワークフローのアップデートにも対応が難しい。しかしデータ化していれば、先ほどからお伝えしているメリットの恩恵を受けられる可能性も高まるでしょう」
3回シリーズでお届けする高木氏のインタビュー、最終回の次回は「印刷環境のセキュリティ」をテーマにより深く考察する。