2021.11.15

DXは企業の使命!周回遅れの日本企業が取り組むべきアプローチとは?

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 DXが叫ばれて久しいが、本質的なDXの定義や意味を理解しないままIT活用だけに陥るケースもまだ多い。このような日本企業のDX事情を「世界から周回遅れ」と指摘するのが、株式会社アイ・ティー・アールの会長/エグゼクティブ・アナリストの内山悟志氏だ。

 数多くの企業にDX推進のコンサルティング、IT戦略の立案・実行を提供してきた内山氏に、日本企業のDXの現在地と、課題と解決策について話を聞いた。

日本企業のDX事情、着手はすれど実践なし

―― まず今回お話をうかがうにあたり、明確にしておきたいのがDXの定義です。内山さんが考えるDXの本質・定義を教えていただけますか。

内山悟志(以下、内山氏) 2018年の経済産業省による「DX推進ガイドライン」に私も関わっていました。その時は“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データやデジタル技術を活用して、ビジネスモデルや業務モデルを変革するとともに、組織や人材、企業風土・文化も変革し、競争優位性を確立する”を定義としました。大きなポイントとしてデジタル化することが目的なのではなくて、デジタル化を手段として会社そのものを大きく変えていくことですね。

 現在は「DX推進ガイドライン」からも3年近く経っていますので、状況が少し進んでいます。あの時点では、“データやデジタル技術を活用”と、手段として捉えていたのですが、現在では“手段”ではなく“前提”に変わりつつあると考えています。ですので、現在は、経済産業省のDXの定義を説明しつつ、加えて“デジタルのあまねく浸透を前提として会社が丸ごとそれに適合する様に変革すること”という定義を説明しています。

―― デジタルは前提ということを踏まえてお聞きします。DXが日本に広まって久しいですが、推進は遅れています。日本企業のDXの現在地点についてどのように捉えていますか?

内山氏 日本は遅れています。大袈裟に言うと世界から周回遅れで、デジタル後進国と言ってもいい状況です。

 経産省による最初のDXレポートが発表された2018年9月あたりから、経営者もDXの重要性をある程度認識し始め、私の周りでもDX関連のプロジェクトが非常に増えました。当初は、初期支援なんかをお手伝いするケースが多かったのですが、DXの実践にあたる部分、それこそ既存の事業の中でデジタル化を進めていく、もしくは新規事業を模索する動きや社内のアイデアイベントといった組織的な動きは活発になったと思っています。

 このようなブームに乗った動きは盛んに行われている一方で、なかなか本番化されていない。例えば、DX推進部門はあるけれど、事業部の協力が得られず孤軍奮闘している状況も見られますし、定着せずに元に戻ってしまう現象もあります。

 つまりDX推進に着手していない、関心がない企業は皆無に近くて、なにかしらの取り組みは始まっているが、本当にDXが円滑に進んでいるのか? いくつか成果を生み出せたのか? 実際は、非常に心許ない状況であるということが真実でしょう。

実践と環境整備の4つポイントでDXを推進する

―― 実践・本番化されていない原因はどのように捉えていますか?

内山氏 私はDXの全体像を2段で考えています。上がDXの実践部分で、下が環境整備です。さらに実践部分にも2種類あり、既存事業のデジタル化を進める「漸進型イノベーション」と言います。もう1つはまったく新しい事業やサービスを生み出す「不連続型イノベーション」です。

 実践部分は、各企業で様々なプロジェクトがありますが、PoC(Proof Of Concept)の段階から脱せない、全社に広がらない、事業部の協力が得られない、定着せずに元に戻る、ということが現象を起きています。この原因は、環境整備が疎かになっているからです。

 また環境整備にも2つあって、「企業内変革」「IT環境の再整備」です。前者は、組織や人材、制度・権限・プロセスなど社内制度やカルチャー、ルールになります。DX推進するにあたり、企業内からデジタルにフィットするように変えなくてはいけないのですが、従来のままDX推進をしようとしている企業が多い。もう1つの重要なポイントである「IT環境の再整備」は、クラウドシフトもそうですし、いわゆるアジャイルな方法を取り入れるなどITプロセスも含めてですが、IT環境が昔のままのため、DX推進の足かせになっています。

―― レガシーシステムの弊害は経産省のDXレポートでも指摘されています。実践と環境整備はどちらから着手した方がいいのでしょうか?

内山氏 私は企業の大小関わらず、業種に関わらず実践部分と環境整備部分は歩調を合わせてやっていかなくてはいけないと思っています。下だけやっていても実践が何も始まらないので、成果がでない。上だけ走っても、環境が整っていないので途中で頓挫することがあるので、小さい実践を繰り返しながら、社内の環境整備をして、次の大きなチャレンジをする、というスパイラルで実践を回していく必要があります。

DX推進の核となる企業内変革とは

―― 日本型の文化が根付いている企業でも、DX推進に成功している事例はあります。成功している企業はDX推進の進め方に特徴はありますか?

内山氏 例えば、日本のDX先進企業として小松製作所があります。彼らは1995年くらいにe-KOMATSU推進室を作りました。最初は社長直轄の7~8人の部隊で、今で言うDX推進室ですね。KOMTRAX(コムトラックス)と呼ばれる建設機械の移動管理システム、IoTを活用したセンサーなどを開発しています。組織ができてから30年近く経ち、その間に社長も5人変わりましたが、現在はICTソリューション事業本部になっています。つまり1つは経営トップ・本当のトップ・社長が中心となってトップダウンで強烈なメッセージを発し、現場も理解して進めているパターン。おそらく大企業であっても、グローバル大企業であってもこれが王道です。

 しかし、デジタル感度が低い経営者だとトップダウンでやっていくのは難しい。ザッカーバーグやジェフ・ベゾスのような経営者ばっかりだったら何も苦労はしないんですけれど(笑)。もう一方は、ボトムアップとかミドルアップダウンで、現場の社員やミドルマネージャーが小さなムーブメントを起こして、徐々に協力者・賛同者を増やしていき、経営者も動かすパターンです。ですが、後者は現段階では事例が非常に少ないです。

―― いずれにせよ、全社を巻き込んで組織カルチャーや意識を変えていかなくてはいけない。環境整備の「企業内変革」でつまづく企業も多いのでしょうか。

内山氏 我々もデジタルリテラシー研修を企業に行う機会が増えてきました。一人一人がDXを身近に感じなくては難しい。具体的には、新しいチャレンジの推奨、従業員や現場の一人一人のアイデアを聴く姿勢やデータに基づいて判断するなどのカルチャーを醸成していかなくてはいけない。

 そうでなくては、必ず対立が起きます。また対立より怖いのが無関心です。DX推進に対して、多くの場合反対を唱える人はおらず、総論は賛成です。しかし、各論になると、自部門は大丈夫だから、と非協力的になったり、無関心になるケースがDX推進における最大の社内の抵抗です。

 危機意識が共有されておらず、DXの目的やメリットを腹落ちするまで理解していないと必ず現状肯定と将来不安が起きます。人が変化に対して抵抗するのは、現状を肯定しているからか、変化する将来に不安を持っているからのどちらか、あるいは両方の場合もありますが、それを払拭しない限り、各論反対は必ず起こります。チェンジマネジメントや組織カルチャー改革に着手して、会社のDNAを入れ替える必要があると主張しています。

―― 推進チームが組成されるケースが非常に多いですが、チームを組成するときのポイントを聞かせていただければなと思います。

内山氏 例えば、DX推進室・チームを作るのは、経営者が組織図に1つ書き足せばいいだけですし、IT部門や経営企画、事業部の中堅・若手からスマートな人たちを集めてくれば、組織ができます。実際にそういう作り方をしている事例は多いですが、問題は経営者が組織をつくって、あとはよろしくで終わっていることです。このように経営者の関わりが薄れると、DX推進室に精鋭を集めても後ろ盾がなく、必ず行き詰まります。

 まず組織をつくったら、全社にミッションと役割を周知する。一定の権限と予算も与えて、事業部に直接協力を要請するような権限を渡すなど企業内変革を進めなくてはいけない。人材、権限、プロセス、制度を部分的でもいいので、やりやすい環境を整えてあげないとやはり成果が出せません。

―― IT人材の枯渇はDXが進まない要因であるとも思います。そのような人材確保にはどのような打開策がありますか?

内山氏 現実的なこと申し上げますと、超一流のグローバル企業はIT業界から人材を引き抜くケースありますが、一般の事業会社が優秀なIT・デジタル人材を獲得することは容易ではありません。なので、そこは諦めてくださいと説明しています。

 ですので、既存の従業員を再教育して、DX人材に育てるのが1つの方法。もう1つが外部の活用です。DXを内製化で進める動きはありますが、外部のデジタル人材としっかり協調できる社内人材が生まれれば問題ありません。

 要するに社内ではプロジェクトを回せる人を育てる。そして実際に技術は、これも流行り廃りがあるので、ある技術に詳しい人が1人いても難しいシーンがあります。悪い言い方をすると、そのときに必要な技術に詳しい人材を外部からお金を払って借りてくる。その後、外部人材から学習して、社内人材を育てていく方がいいと思います。

既存事業と新規事業、両利きの経営はどのように実現するのか

―― もう一つDXの壁となってくるのが、イノベーションです。既存事業のデジタル化と新規事業の創出のバランス、両利きの経営についてはどのように進めるべきでしょうか?

内山氏 現在の企業の多くは、様々なビジネス環境の変化に対応してきたからこそ生き残っています。大震災があってもリーマンショックがあっても、もっと遡ると関東大震災とか世界大戦とか経験しても100年200年と残っている企業がいくらでもあります。今まさにその時期にいるので、次の成長カーブ(S字カーブ)の種をまく必要がある。

 既存事業も高度化してなおかつ新規事業の種まきもしなくていけない。その戦略についてビジャイ・ゴビンダラジャンの著書「ストラテジック・イノベーション」では、「忘却」「借用」「学習」という3つを述べています。

 「忘却」は新しいことをやる際は、一度前のことを忘れなさいということで、新規事業や新サービスの担当者は、既存事業から離れる。しかし、既存企業の枠組みで新規事業を特区のように切り出しても、なかなか勝ち目がないんです。競合やベンチャーにスピード感で負けてしまいます。

 「借用」は、既存事業で成功しているノウハウやリソースを借りて新しい事業を伸ばしていくことです。そのためには新規事業に既存事業が協力する橋渡しが必要で、それは経営者の役割になります。そして、新規事業が軌道に乗ると、デジタルの世界で成功する勝ちパターンを今度は既存事業の方が「学習」する。新しい世界の成功法則を新規事業から既存事業が学ぶという方法です。これを繰り返すことが重要です。実際にいくつかの企業でトライしています。

IT部門に求められるDX推進の役割

―― DX推進部門と既存のIT部門。DXが社内で推進されていくと、それぞれ役割は今後どのように変化していくでしょうか?

内山氏 まずDX推進室という存在は、アマゾンにはありません。全社的にデジタルにトランスフォームすると必要なくなる機能です。企業のDX成熟度によって関わり方が変わりますが、初期はDX推進チームのような部門が主体となり、社内で広がりが生まれてくると、事業部門に主体性を持たせる。自分たちの業務は自分たちで変えていく、というマインドセットにする。

 その時はDX推進チームやIT部門は主体ではなくなり、支援とかノウハウ提供、人的リソースの調整などバックヤードの支援部隊に変わります。もっと進化していくと、会社中どこでもDXの取り組みが行われているので、IT部門はDXコンピテンスセンターみたいな感じでノウハウだとか部門間の調整とかそう言うことに徹する司令塔みたいな役割にかわっていくと考えています。

―― ありがとうございます。企業価値向上の視点で考えたときに今やデジタルは前提となる。経営目線で捉えた時にもう1つのトピックにサステナビリティがありますが、DXと今後どのように連動していくとお考えでしょうか?

内山氏 DXもサステナビリティも別ものだと思っていません。世の中の大きな流れとして、イギリスがEUを離脱したり、保護主義政策がさらに増幅されたりと世界中の各地で様々な出来事が起きており、何十年も頼ってきた資本主義の経済が制度疲労を起こしている。また同時にグローバル化が益々進行していると捉えています。その状況下で30~50年先の未来を考えた際、今大きな変化を起こして新たな経済秩序・社会秩序を生み出さなければ、地球環境の維持と経済発展を両立させることは難しい。

 企業も価値を出し続けなければ社会貢献できず、生存競争に勝ち残らなくてはいけない。地球環境と経済環境が変化する中で、お客様や社会に持続可能な価値を提供して存在価値を維持しなくてはいけない。変化した世の中でデジタルが前提になっているとしたら、企業はデジタルに適合するように変わらなくてはいけない。SDG’sやESGも同様で、企業は適応していかなくてはいけない。これは逆行できないし、逆らえない。企業の使命になってくると思います。

 撮影:土井 渉

内山悟志(うちやま・さとし)氏
株式会社アイ・ティー・アール 会長/エグゼクティブ・アナリスト

 グローバル企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパン(現ガートナージャパン)でIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要IT企業の戦略策定に参画。 1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを提供。2015年から経済産業省「攻めのIT経営銘柄」および「DX銘柄」選定委員を務める。

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