2021.07.16

バックオフィス部門こそが企業の働き方を創る!
~株式会社オカムラ遅野井氏インタビューから見えた持続可能なオフィスのあり方

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 奇しくも新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの日本企業に一斉にリモートワークの導入が広がった。その一方で、デジタルトランスフォーメーションと並行して多様な働き方をどう実践していくのか、また自宅を含めてオフィス以外に広がった働く場所を効果的に使いながら、生産性をどのように向上させるか、その時のオフィスとは以前とどう変わるのか、という次のハードルに立ち向かっている。生産力強化の時代から知識労働が中心となった時代へと変化していく中で、本来向き合わなければならなかった課題であるオフィスの存在価値を必死に考えている。オンラインで様々なコミュニケーションが可能となった時代において、オフラインの場にはどのような価値があるのか、そして、企業はどのような観点でオフィスに投資をするべきなのか。

 新しい時代に向けて様々なオフィス改革ソリューションに力を入れる株式会社オカムラのDX推進室 室長・遅野井 宏氏にお話を伺った。取材は、同社が共同運営している丸の内のコワーキングスペース「point 0 marunouchi」で行った。

オフィスには「ライトサイジング」の観点が重要

―― まずは、コロナ禍におけるオフィスを取り巻く環境の変化について、オカムラ の考えを教えてください。

遅野井: 日々様々なニュースでも、オフィス移転の計画が無くなったとか、オフィスを縮小したみたいな話がよく出ているので、今大きな岐路に立っていると思います。一方で、僕は、「皆さん、自分たちの働き方を主体的に考えたことはありますか?」ということを問いかけていきたいです。今まではオフィスという与えられた場所があることが当然で、何の疑いもなく自席と呼ばれる場所で働いてきた。日本は、執務エリアと会議室の2種類しかないオフィスがほとんどだと思いますが、仕事の種類は多岐にわたります。しかし、働く場所は二つの選択肢しかない。そもそもこれはとても不思議なことでした。

―― 外部環境が変わり、働き方と場所が多様化していく現在、オフィスのあり方で重要なポイントはなんでしょう?

遅野井: 一番は「いかに自然か」ということではないでしょうか。一例ですが、日本のオフィスは、濃いグレーや黒っぽいカーペットにスチールパーティション、木目調の天板のデスクと青色のオフィスチェアで構成されることが多いです。無機質な空間で、クリエイティビティを発揮しろと言われても、無茶なわけです。

―― 五感的な刺激がほとんどないですからね。

遅野井: どういう状態が自分にとって一番自然で、パフォーマンスが高く働けるのか、を考えなくてはいけない。人によっては騒音が激しい環境の方が、アイデアが湧きやすいこともあるでしょう。図書館みたいに静かな空間を好む人、カフェみたいな空間が集中できる人などそれぞれです。さらに同じ人でも仕事内容によって最適な空間が異なります。このようにワーカー(働き手)が自然に特性を発揮して働ける環境をいかに多様に用意できるか否かが、サステナブルなオフィスになる要因ではないかと考えています。

画像:オカムラホームページより

―― 現在では、集中ルーム、カフェテリアなどサードプレイス的な機能を備えたオフィスが増えています。

遅野井: オカムラは「ライトサイジング(Right Sizing)」という言葉を使って説明しています。“ライト”とは、軽い(light)ではなくて適切な(right)の意味です。つまり、オフィスに必要な機能を必要に応じて分解し、それぞれの空間の中に適正化することです。オンライン会議がスタンダードになっている状況で、どういう目的のもとオフラインで集まるのか、そのためにはどういう機能が必要なのか、を考えることを提唱しています。会議は一例ですが、ニューノーマルの働き方に合わせて、オフィスの機能、面積、コストなど投資の最適化を考える「ライトサイジング」の提案を行っています。

オフィスのあり方を再定義する共創のコワーキングスペース「point 0 marunouchi」

2019年7月16日に開業された「point 0 marunouchi」。東京駅より徒歩3分(地下直結)のロケーションにあり、月額固定からドロップインまで、用途に応じて柔軟に活用できる

―― コロナ後のオフィス需要の変化としては、どのようなことがありますか?

遅野井: 当社の製品の「TELECUBE by OKAMURA(テレキューブ by オカムラ)」(集中して作業ができるフルクローズ型ワークブース)の売上や、吸音素材のパーティションで囲われた空間のニーズも増えています。社員のパフォーマンスを向上するために必要な空間や、オフィス家具は何だろうか? コロナの影響で働く場所、働く空間についてようやく経営層が本気でパフォーマンスやエンゲージメントと結び付けて検討するフェーズに入ったと実感しています。ネガティブな反応だけではなく、ポジティブな外発的動機付けになったと感じています。

―― 本日の取材場所であるコワーキングスペース「point 0 marunouchi」はどのような取り組みでしょうか?

遅野井: 働き方やオフィスのあり方を再定義する、大企業による共創を展開しているコワーキングスペースです。さまざまな実証実験を行う場所として、今では全20社で協業して運営しています。

遅野井: もともと当社では、オフィスの家具や様々な場所にIoTを活用する構想がありましたが、家具だけをIoT化してデータを取得しても十分ではない。例えばプリンターのような事務機ともオフィスが連動しなくてはいけない。そんな時、ちょうどダイキン工業株式会社が、オフィスで空調をベースにしたデータプラットフォーム構築を検討していると耳にしました。担当者に会いに行くと、当社の構想と合わせて実際に実証実験できる場を作ろう、と「共創」することになりました。

―― コワーキングスペース空間で意識されていることはなんでしょう?

遅野井: やはり「共創」ですね。コワーキングスペースの特徴を生かした、企業や組織を超えた交流がとても機能しています。企業の働き方は効率化の名目で社員旅行や飲み会などの余白が削られ、従業員同士の関係が「仕事」に限定されている。そんな日本企業が失ってしまった余白が、ここにはたくさん存在します。その余白を生むのに一役買っているのが、ビールが飲める、シャワーを浴びて仮眠ができる、好きな音楽や本を紹介するなど従来型のオフィスではなかなかできないことができるということですね。ビールやコーヒーを飲みながら、何気ない対話を交わす。メンバーが趣味で集う部活も盛んです。お互いのことを仕事以外で良く知り合っているので、むしろ仕事の話がうまく進む。ここでのそうした経験値を、企業側に還元する必要があると感じています。

バックオフィスが企業の働き方を創っている

―― ワークプレイスの価値やその生産性を考えるにあたり、そもそも「人が働く」ことをどのように捉えていますか?

遅野井: 「働く」という事象を、「人」の側面で捉えた時、働き方を創造しているのは、人事部門や情報システム部門、総務部門の方々の日々の業務だと私は思います。バックオフィスとも表現される通り、働き方をデザインする部門は日本企業だと総じて裏方です。しかし、私が日本マイクロソフト株式会社に在籍していたときに強く思ったのは、バックオフィス部門、別の表現ですとファシリティマネジメント部門こそが、社内の改革を牽引していることです。日本企業もバックオフィス部門の方々が今よりもっと自分達の仕事に誇りを持てたらと考えています。日本では現場が強く、「バックオフィスに現場の仕事が分かるわけない」と思われがちですが、実際はバックオフィス部門の皆さんが設計した場所やワークフローで現場の人が働いていて、そのことがパフォーマンスや生産性をあげているのです。

―― 総務という言葉がいけないのかもしれないですね。

遅野井: そうですね。バックオフィスの方々が働き方改革などの大きな変革を引っ張っていける存在ということが、すごく大きなポイントなのです。もう少しそういう感覚が日本企業に広がって欲しいな、と常に感じています。オフィスと人事制度、そしてIT。この三つのどれか一つでも欠けると働き方改革は絶対に上手くいきません。三つを司る部門が連携・推進して一つのゴールに向かっていくことが、必要不可欠です。

経営層が考えるべきこれからのオフィスのあり方

―― これからの時代におけるオフィスのあり方についてどのようにお考えでしょうか?

遅野井: 当社では、今後どのような状況が到来したとしても、事業を継続して成長維持ができるような柔軟性「レジリエンス」を身につけるべきだと考えています。具体的には、当社では「NEW NORMAL 11〜これからの働き方を考える10+1の視点〜」を提唱しています。働き方を考える領域を10個に分類し、どんな成果を出していくのかを定義しています。

画像:オカムラ「NEW NORMAL WORKPLACE PRINCIPLE / ニューノーマルのワークプレイスを考える指針」より

―― 現在では多くの企業が、場所と時間を決めて集まる「集積型」からテレワークなど時間や場所にとらわれない「分散型」の働き方を導入し、どう生産性をあげるのかを模索しています。

遅野井: 集積型と分散型のバランスを考えるタイミングに来ています。経験値の高い集積型はアップデートが求められ、分散型は追加して考えていかなくていけません。分散型には、自律性の向上やワークライフバランスの改善などのメリットがある一方で、一体感が薄れる、雑談が無くなる、マネジメントがしにくいなど最近よく言われはじめたデメリットもあります。経営層とワーカーによって分散型のメリットとデメリットは変わりますが、オフィスの機能の持たせ方によってデメリットを解消していくことが重要になります。

画像:オカムラホームページより

―― ニューノーマルの時代において特に重要な要素はなんでしょう?

遅野井: やはり「集積型への完全な回帰はない」ということは間違いありません。分散型の働き方を進めるにあたって特に重要なのが、当社では「自律性」「感情」「共通概念」の3点で、これらのことが生産性向上の鍵だと捉えています。例えば、柔軟な働き方と分散したワークプレイスではワーカーの「自律性」が重要になります。それを引き出して生産性を高めるには、「自然である」環境が重要なのは先ほど申し上げた通りです。一方で分散が進むとオンライン対応が増えるためリアルな人と人のつながりが希薄になり、「感情」や組織の「共通概念」の重要度が増します。リアルコミュニケーションは情報量が一番多いですし、相手の表情も含めて即時に感じることができるため、価値が高いことは間違いありません。オフィスという物理的空間は、従業員という特定多数の集団とのセレンディピティ(偶然の出来事から大切なことや本質的なことを学びとること)がある場所ですので、従業員の一体感を深めることができます。つまり、「共通概念」を「感情」をもって伝えることに適しているのです。

画像:オカムラホームページより

―― オフィスに来るという動機付けも重要になりますね。

遅野井: 例えば「point 0 marunouchi」は、バイオフィリックデザインを採用して、本物の植物を設置しています。上下昇降デスクなどオフィス家具にもこだわり、充実した環境を用意して、オフィスに来る動機を生んでいます。

いまこそ、実践すべきフェーズ

―― 各企業の経営、バックオフィスは多角的な視点で働き方をデザインしなくてはいけない。

遅野井: 重要なポイントは、すべての企業へ一様な環境を用意してもすべてに企業に効果が出るわけではない、ということです。ある企業にとっては1on1の環境構築が最優先かもしれませんし、別の企業にとっては社外の人との開かれた環境が重要かもしれない。各企業によって求められる環境、空間が異なります。経営層はどういう働き方をしてほしいのか、どういう人に育ってもらいたいのか、どういう人材を採用したいのか、社外とどのようなコミュニケーションをしたいのか。企業はその企業の存在価値などを見直し、そこに合った働き方とはどんな姿なのか、企業毎の根本的な働き方について問われているのです。

―― それでは最後にワークプレイス変革に関するアドバイスをお願いします。

遅野井: 最近よく「そろそろ勉強フェーズはやめましょう」とお伝えしています。色々な方とお話をした際に「勉強になります」と言われることが多いのですが、勉強はもう十分にされたんじゃないんですかと。一歩前進して実践してみるフェーズです、とお伝えしています。実践の中から学んで次の一手を考える。そんなタイミングに突入していると思います。

遅野井宏(おそのい・ひろし)氏
株式会社オカムラ DX推進室 室長
株式会社point0 取締役

 1999年キヤノン株式会社入社。レーザープリンターの事業企画を10年間担当後、事業部IT部門で社内変革を推進。2012年日本マイクロソフト株式会社に入社し、働き方改革専任のコンサルタントとして製造業の改革を支援。2014年から株式会社岡村製作所(現・オカムラ)に入社。働き方を考えるプロジェクトWORK MILLを立ち上げ、統括リーダーを務めながら「WORK MILL with Forbes Japan」「WORK MILL WEBマガジン」を創刊、編集長を務める。2019年4月よりワークプレイスのデジタルトランスフォーメーションを担当するDX推進室の発足と同時に現職に就任。同年2月から株式会社point0取締役を兼務しコワーキングスペースpoint 0 marunouchiにおいて企業間共創を推進中。

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