育児休業中の職場復帰に備え、情報の提供を目的に社内LANのポータルサイト
「C’s☆Cafe」にアクセスできる方法を模索していたカシオ計算機
人事部
人事開発グループ
グループリーダー
受川 浩之 氏
2005年4月1日の改正育児・介護休業法の施行により育児や介護のための休暇制度が一般化し、企業では積極的に取得を進めている。その一方で、職場に復帰した際に上司が代わっていたり組織体制が変更になっていたりする場合もある。法律で認められた最長1年半の長期休業となると、こうしたケースは往々にして起こりがち。休業中は業務に携わることができないが、休業中の社員を会社から隔離しないためにも社内情報の提供は継続したいという企業も多いだろう。
カシオ計算機では、社内に次世代育成支援専門委員会を設置しており、その中でも育児休業の課題を取り上げて子育てをしている社員や会社側にどのような対策が必要なのかを検討してきた。子育てに対する不安などの意見とともに職場復帰を経験した社員から、「会社がどうなっているか、何も知らないことが不安」、実際に復帰してみたら「職場の環境が変わっていて“浦島太郎状態”だった」という意見もあがってきた。
「実際にそういう意見を聞いて初めてそうした状況があることがわかった」とする人事部人事開発グループの受川浩之グループリーダーは、「社内のポータルサイトであるC’s☆Cafeに掲載されている人事情報をはじめとした社内情報だけでも提供できないか」ということを考えたという。育児休業を終えた社員は、「原則として元の職場に復帰する。復帰前には職場がどう変わっているのか、あるいは変わっていないのか不安になるという社員は多い」(人事部・千葉繁雄氏)という状況をなかなか打開できなかった。「同僚に電話やメールで個人的に聞くことはあったようだ。会社から隔離されているという感覚を排除するために、最初はPCを貸与して社内LANにアクセスできるようにすればいいか、と軽く考えていた。しかし情報漏えいなどセキュリティ面で問題があることから、解決策を探していた」(受川グループリーダー)。ちょうど情報が端末に残らないHDDレスのPCが話題にのぼっており、「これなら使えるかも知れない」と業務開発部情報戦略グループの菅野雄二氏に相談を持ちかけた。
目的
- カシオ計算機の福利厚生を充実させる一環として、長期の育児・介護休業中の社員への、職場復帰に備えた最適な社内情報提供を行なう
- 休業中の社員が自宅のPCから社内イントラのポータルサイト「C’s☆Cafe」へアクセスした場合のセキュリティを確保
アプローチ
- シンクライアント端末を休業中の社員に貸与する制度を作り2007年7月から実施
- Windowsベースの既存の社内システム環境をそのまま休業中の社員に提供
- セキュリティを確保するために、HP CCIによるシンクライアントシステムの導入を決定
システムの効果
- 長期の育児休業を取得している社員が社内LANにアクセスできる環境を整備したことで、休業中でも会社の様子がわかり職場復帰への不安を払拭
- IT部門である業務開発部では、ブレードPCを使ったCCIによりセキュリティを確保し、さらに保守も会社内で行えるなど容易なシステム管理を実現
ビジネスへの効果
- 育児休業中の社員へのシンクライアント端末の貸与を開始し、今後は介護休業など長期間、職場を離れることを必要とする社員へも展開
- 将来的には本社の各部署や支社、地方営業所などへのシンクライアント導入を目指していくことを検討
- CCI導入の拡大が可能になれば、セキュリティ強化と端末が数千台にのぼるシステム全体の調達から保守・管理コストの削減が期待できる
検討段階であった社内のシンクライアント化を情報提供ツールに。
CCI導入の決め手は、「社内システムと同じ操作性」
業務開発部
情報戦略グループ
菅野 雄二 氏
菅野氏は情報戦略グループの中でシンクライアントシステム導入の企画を練ってきた。大規模導入の投資効果を慎重に見極めていたが、その矢先に人事部で、育児休業対策で休業中の社員に情報提供を検討しているという話を聞き、「休業中の社員の自宅に社内のネットワークにつながるPCがあれば、管理者がいない中でセキュリティ上問題がある。その点、シンクライアントならば安全という提案を行った」(菅野氏)。菅野氏は笑いながら、「元々は2-3年で本社内に1000台規模というシンクライアント導入を企画していたがまとめきれていなかった。ちょうどその時に育児休業対策のアイデアを探していると知り、シンクライアントがそのいい解決策になった」と語る。大規模なシンクライアント化はまだ実現していないが、育児休業対策というインフラ整備の面から陽の目を見ることになったわけだ。
HP CCIの導入を決めた理由について菅野氏は、「CCI以外にもシンクライアントソリューションはあるが、何よりも社内と同じ環境を提供できることをまず重視した」という。サーバベース方式やネットブート方式などと比較して、「ブレードPC型ならば、現在のPCを使っている環境と全く同じ使い勝手」(菅野氏)ということにさらに付け加えて、「HPは標準の技術を使っており、今後の発展を考えたときに固有の技術に依存する必要がない」(同)という安心感があることも選定の理由になった。
2007年7月からシンクライアントの貸与をスタート。
社内ポータルの掲示板やメールの活用が休業中でも可能
もちろん「万が一のトラブルの際にもブレードPC側の交換で済む」など管理の容易さも後押しした。菅野氏は、「実際、大規模にシンクライアントを導入しようとすればテストも必要になる。今回の育児休業対策でのCCI導入は、シンクライアントの効果などを検証するにはちょうどよい機会になるだろう」と見ている。2007年7月から実際に育児休業中の社員へのノート型PCベースのシンクライアント貸与が始まり、自宅からIDとワンタイムパスワードにより社内LANへのアクセスが可能だ。
ただし休業中のため業務にはタッチできないので、MS Officeはインストールされているものの使える機能は掲示板の閲覧・投稿やメールなどに限られている。7月に導入したばかりなので、まだ使用している社員は多くはないが、それでも菅野氏の元には、「会社の情報が見られることで、隔離されているという不安が払拭される」というメールも寄せられており好評だという。
将来は本社内に加えて、ITスペシャリストのいない国内営業拠点への展開も目標に
人事部
千葉 繁雄 氏
「社内には育児休業中にシンクライアント端末を貸与することを周知してあり、今後、休業に入る社員が活用する機会が増える。また、育児休業中の社員同士のコミュニティツールとして使えないかという要望も出ている」(千葉氏)と徐々にではあるがCCIを使ったシステムに対するさらに活用範囲を広げる要望も出てきている。
「こうした情報提供の仕組みを作ったことで、これから育児休業などに入る社員、職場復帰が決まっている社員の活用は広がるだろう」(受川グループリーダー)というだけでなく、「余っている端末を社内で活用できないのかという話も出ている」(千葉氏)とか。「当初は本社のPCのシンクライアント化を考えたが、今回の制度での活用が広がればITスペシャリストのいない国内の営業拠点などでの活用にも広がる可能性がある」と菅野氏は社内システムとしての導入についても実現を目指している。