2020.05.13
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、にわかにリモートワークが注目を集めている。大手・中小を問わずこの2月より積極的にリモートワークを導入している企業も多い。ここでは、リモートワークの実態と、必要な環境について解説する。
「リモートワーク」を直訳すると「離れての労働」ということになる。その意味として、会社員が在宅で業務を行うことや 、アルバイトや副業を在宅で行うことを含む。フリーランスが外出先をオフィス代わりとする「ノマドワーク」も広義のリモートワークに含まれるが、現在話題になっている感染症予防に対する効果は薄い。リモートワークとノマドワークなどをまとめて、「テレワーク」と呼ぶこともある。
最も原始的なリモートワークは、電話でオフィスと連絡を取りつつ仕事を進めるというものだが、現在では一般に作業環境とコミュニケーション環境をパソコンに統合し、ネットワークを介してオフィスの他メンバーと協業するという形態が一般化している。ニュースで散見される、大企業が急速に導入を進めるようになったリモートワークは、ほぼ例外なしにこの形態を意味している。
2020年2月から、数千人~数万人の従業員を雇用する大企業が次々とリモートワークを導入している。その事例をいくつか紹介しよう。
武田薬品工業は2020年2月17日より、国内全拠点の従業員に対して「可能な限りの在宅勤務」を推奨するガイダンスを発出している。また、出勤が必要となる従業員に対しては、通勤ラッシュのピークを避けて出社するようにと通達したという。同社は全国に拠点があり、拠点によっては感染が確認できていないエリアもあるため、最終的な判断は各エリアの支店長に委ねている。
NTTグループでは、2020年2月17日から、グループを構成するNTT東西・NTTドコモでリモートワーク・時差出勤の実施を推奨している。持株会社のNTTが、グループ各社に通達し、具体的な実施方法については各社の判断に任せている。グループ全体で20万人を超える従業員を要するNTTグループが、リモートワークを積極的に推進するようになった意味は大きい。
化粧品大手の資生堂は、2020年2月26日から従業員約8000人を原則在宅勤務とした。対象となるのは本社事務所や全国の営業所の職員が中心で、国内従業員の約3割に相当する。
化粧品業という特性から、社内にはどうしても直接接客をしなければならない部署もあるが、顧客の肌に直接触れるのを自粛し、マスク着用と手洗い徹底を義務付け、通常通りに勤務させている。
ヤフーでは、今回の新型コロナウイルス流行前から、月5回を上限にリモートワークで勤務できる制度を整えていた。2020年2月5日からは、妊娠中・就学前の子がいる社員、家族に介護を必要とする人がいる社員、糖尿病などの持病を持っている社員を対象に、リモートワークの上限を解除している。
それでは、一体どんな職種がリモートワーク に適しているのだろうか。
仕事のほとんどをパソコンに向かってこなすことになるシステムエンジニアやプログラマーは、仕事の道具がそのまま本社やクライアントとのコミュニケーションツールになるため、リモートワークに移行しやすい。仕事柄、所持しているパソコンの処理能力も高いことが多く、この点でも有利だ。
かつてはペンと紙を使って作業するのが標準であったデザイナーやイラストレーターだが、現在ではグラフィックソフトを使って作品を制作し、データファイルをクライアントに納品する、というパターンが一般的になっている。
ライター・エディターの場合、納品すべき成果物は文字データが中心になる。文字データはイラストなどの画像データや動画データなどと比べるとサイズが小さく、電子メールに添付する形で送受信が可能だ。ただし、打ち合わせやプロジェクト管理をしっかり行うためには、機能の豊富なコミュニケーションツールが必要となり、相応の処理能力を持つパソコンもまた必要となる。
営業職はまずクライアントに電話連絡をしてアポイントを取り、その後クライアントに直接出かけていくという業務形態を取っていた。しかし、コミュニケーションツールを利用すれば、先方に直接出かける必要がなくなり、在宅のままで仕事ができるようになる。マーケターの仕事も、ターゲットを分析・戦略の立案・広告施策の実行とレポーティングなどが多いが、それらの多くはパソコン上での資料作成やメールやオンライン会議で可能だ。
管理部門の中には、「人事は当人と常に顔を合わせて互いに理解し合うことが大切」と考えている人もいる。しかし現在では、勤怠管理や、従業員の業務成績の評価も、システムで行うのが主流となっている。また、近年は社内研修やトレーニングに関してもオンラインを用いたe-learning型で実施する企業も多い。「人と人との繋がり」というあいまいなものではなく、デバイスを通じてデジタルデータを元に仕事を進める現代的な管理部門は、リモートワークへの移行も行いやすくなっている。
主婦・主夫のアルバイト・副業としても、本人が労働時間や働き方をコーディネートできるリモートワークは魅力的だ。
会社員にとってのリモートワークの最大のメリットは、オフィスまでの通勤に精神的・肉体的リソースを使わなくて済むということだろう。またオフィスに通勤する場合、普通は一度出社したら退社時まで時間を自由に使えない。しかしリモートワークの場合、勤務時間をある程度分散させ、仕事の合間に家事をしたり、育児をしたりということもできる。一日の仕事量も、自分でコントロールできるようになるのだ。
ここ数年労働力不足が深刻化しているが、家庭内にはまだ多くの未就労者がいる。中には、労働の意欲や能力はあるが家事や育児の都合でフルタイムの社員として働くことが困難な人もいるだろう。リモートワークによりこうした人材が活躍できる可能性が高まる。地方在住者の場合、リモートワークにより都市部に拠点のある企業から仕事を請け負えるようになり、選択の幅が大きく広がるだろう。このように、雇用側にとっても労働者にとってもメリットが大きいので、正社員以上にアルバイト・副業のリモートワーク化は進んでおり、ネット上で多くの求人が行われるようになっている。
リモートワーク環境の構築は、オフィスとの連携を取るための各種ツールをパソコンに組み込むことによって行う。
かつてはリモートワーク用のコミュニケーションツールとして、電子メールが幅広く使われていた。しかし、最近ではオンライン環境でも会話に近いスピード感のあるコミュニケーションを求める人が増えている。そうしたニーズの中で普及したのが、 相手にメッセージをリアルタイムで送ることができるチャットサービスだ。コミュニケーションツールは、音声通話・チャットの機能を持ち、パソコンだけでなくスマートフォンとも連携する機能を持っているものが使いやすい。
プロジェクトを進めるために必要な資料や、完成したデータをオフィスと共有するためのファイル共有サービスも、現代のリモートワークには必須といえる。企業で導入する際は端末認証によるアクセス制限や、利用者ごとにアップロード・ダウンロード・編集などの権限を設定できる、セキュリティ機能を有した法人向けのオンラインストレージがおすすめ。 また、アルバイトや副業で一時的に大容量のファイルを受け渡しする場合には、ネットワークストレージサービスではなく、FireStorageやギガファイル便などのような、無料で使える時間限定制のファイル共有サービスが使われることもある。共有するデータの性質や、リモートワーカーとの関係などを考慮しつつ使い分けよう。
Web会議は、複数の人間が同時に音声通話を行えるようになっていれば最低限成立する。ただし、より効率的な会議とするために、資料をオンラインで画面共有でき、会議参加者の映像が表示されるいわゆるテレビ電話型のツールを利用するケースも多い。Skypeを代表とするコミュニケーションツールは、ほとんどがグループ会話機能やビデオチャット機能を持っているので、Web会議システム構築用のツールとしても使用できる。
ネットワークを通じて複数の人間が共同作業を行う場合、誰から誰に何を、いつまでに仕上げるように依頼したかを記録し、進行を管理するツールが必要となる。これは企業側がグループウェアを導入して一括管理することもあるが、最近ではChatworkのような、チャットやファイル共有の機能も持っているサービスを利用することが主流となりつつある。
リモートワークはパソコンに各種ツールをインストールすることによって実現できる。ただし、「快適に使用できる」ようにするためにはリモートワークでの使用を意識したモデルをチョイスすることが必須だ。まずリモートワークにおいては、メインの作業をするアプリケーションと同時に、コミュニケーションツールを起動しなければならないため、処理速度や搭載メモリ量に余裕がある方が有利だ。また、多くのケースにおいて、外部に流出するとビジネスが成立しなくなってしまうデータを扱うので、セキュリティについても十分に配慮されたモデルが望ましい。さらに、持ち運びすることを考えるとデスクトップよりもコンパクトかつ堅牢なボディのノートPCを選ぶべきだ。
本記事で解説した通り、快適なリモートワークの環境を構築するためには、リモートワーク に適したマシンが必要不可欠だ。リモートワークの導入を検討している企業担当者は、各社員が所有するマシンのスペックに環境を委ねるのではなく、最適なマシンを吟味したうえで全社導入し、社員に支給することをおすすめしたい。
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