2020.02.20
時代とともに消費者のニーズも変化し、消費者が求める商品やサービスも変わっていきます。商品やサービスを提供する企業側は、これまでの価値観や技術だけにとらわれていると時代の変化についていけなくなります。これからは新たな変化を柔軟に取り入れていくことが大切となりますので、過去にとらわれることなく常に前進していきましょう。
ビジネスにおけるイノベーションとは「革新」や「変革」といった意味をもち、新しいものを創造することによって付加価値を生み出すことをいいます。一般的には、新しい技術の発明だけだと思われがちですが、それだけではありません。ここではイノベーションの具体例を紹介するとともに、新たな発想を生み出すためのプロセスなどについても紹介します。
イノベーション(innovation)とは「革新」「変革」といった意味を持ち「技術革新」や「大きな変化」という意味もあります。イノベーションは、ただ単に科学技術の革新などを指すだけの言葉ではありません。たとえば、コンタクトレンズが使い捨てになったり宅配業者が冷蔵品の宅配を始めたりして人々の今までの常識を大きく変え、ライフスタイルに大きな影響を与えました。このような人に与えるさまざまな変化もイノベーションのひとつなのです。新たなアイディアから経済的・社会的付加価値を生み出すのがイノベーションであり、幅広い意味を持つのです。ビジネスにおいても通信業界を始め電気機器や医療関係など、あらゆる業種で新たな変化が起きています。
イノベーションという言葉は、オーストラリア出身の経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの著書「経済発展の理論」のなかで始めて提唱されました。また、この本のなかでイノベーションには5つの理論があることが定義されました。5つの理論とは「新しい財貨の生産」「新しい生産方法の導入」「新しい販売先の開拓」「新しい供給源の獲得」「新しい組織の実現」です。1つ目の新しい財貨の生産とは、新しいものを発明したり開発したりすることをいい、プロダクション・イノベーションとも呼ばれています。
たとえば「お寿司」は、酢飯の上に刺身を乗せて食べることがなかった時代に、酢飯の上に刺身を乗せて食べたら美味しいことに気づいて「お寿司」という商品名を付け、新しく売り出しました。こうした新たなものを発明したり開発したりすることを、新しい財貨の生産、プロダクション・イノベーションというのです。2つ目の新しい生産方法の導入とは、画期的な方法で生産性を向上させることを指し、プロセス・イノベーションとも呼ばれています。これは、お寿司の例でいうとお寿司が評判となり繁盛しますが生産が追い付かなくなった場合に、早く大量のお寿司を作れるようにさまざまな工夫することです。
3つ目の新しい販売先の開拓は、社外販売や代理店による委託販売によって新しい販売先を確保することを指し、マーケットイノベーションともいわれます。お寿司を自分の店だけでなくスーバーマーケットなどに置いてもらえるように売り込むことです。4つ目の新しい供給源の開拓は、商品を生産するための原材料の買い付けや仕入れ先を新たに開拓することで、サプライチェーン・イノベーションとも呼ばれています。お寿司の例でいうと、魚や米などの仕入れ先を新たに開拓することです。
最後の5つ目の新しい組織の実現とは、他社と契約して新たな組織を作ることなどを指し、オルガニゼーション・イノベーションとも呼ばれています。有名になった寿司店が事業の拡大を目指し、フランチャイズチェーン展開をしたり回転ずしの会社と契約を結んだりすることなどを指します。
イノベーションをさらに具体的にイメージするためには、実際の事例を知るとわかりやすいです。ここからは、実際のイノベーションの事例について紹介していきます。
物を買うために必要なお金ですが、IT産業の発展によってクレジットカード決済や電子マネー決済が普及するというイノベーションが起きました。クレジットカードは後払いで買い物の支払いができるカードです。クレジットカードの仕組みは、たとえばカードを使える店舗で商品を購入したとします。するとクレジットカードを利用したという通信情報がカード会社に届き、カード会社は購入した店舗に購入代金を立て替え払いしてくれるのです。このとき、店舗からカード会社に対して加盟店手数料が発生するため、実際は購入代金から手数料を差し引いた金額が店舗へ支払われます。
その後、商品を購入した人の口座から引き落とすなどの方法で、購入代金分がカード会社へ支払われるのです。このクレジットカードのおかげで現金を持ち歩かなくても決済ができるキャッシュレス社会が実現しています。また、クレジットカードの利用に抵抗がある人のために、デビットカードというものもあります。これは商品を購入して決済するときに、利用者の口座から即時に利用代金は引き落とされる仕組みのカードです。さらに、カードに事前にお金をチャージして利用するプリペイドカードなどもあります。
さまざまな年代の人が当たり前のように利用しているインターネットも、代表的なイノベーションのひとつです。インターネットのベースとなった技術である初期のパケット通信の開発は1960年代から始まりました。そして、1982年にインターネットという概念が提唱され、徐々にネット環境が整備されて一般にも使いやすくなり普及しました。インターネットの普及によりメールやチャット、SNSにブログなどが開発され、情報通信の分野でさらにイノベーションが起きたのです。また、あらゆる電子機器をインターネットにつなぐ「IoT」の普及にも注目されています。
IoTは自動車分野や交通機関、医療分野など、さまざまな分野で活用されています。たとえば、自動車分野ではバスが渋滞などで遅れることがありますが、WEBサイトや停留所などにあるQRコードからバスが何分後に到着するかリアルタイムで知ることができるのです。医療分野では、着用型ウェアラブルデバイスなどが活用されています。これは、腕時計型やスーツ型などがあり、自分の健康状態の記録を医師と共有できるシステムです。これにより病気の予防と効率的な治療が可能となります。
また、IoTは一般家庭にも普及してきています。家電とスマートフォンをアプリで連動させて外から家の中にあるエアコンを動かしたり、部屋の電気を点けたりできるのです。さらに、ドアに器具を装着してスマートフォンで鍵の開け閉めもできるようになりました。
電話に関する代表的なイノベーションは携帯電話の普及です。携帯電話の大元は、モールス符号(無線電信機)まで、さかのぼります。その後、軍事目的でトランシーバーが開発され、通信技術を一般向けにするために開発が進められてきました。そして、1980年代中盤から携帯電話のレンタルが始まり、一般に携帯電話が本格的に普及し始めるのです。その後、着メロが開発され写真付きメールサービスの開発や着うたの開発、動画を送信できるサービスなど何度もイノベーションが繰り返されてきました。
2010年代に入るとスマートフォンが開発されました。携帯電話に使用されていたキーボードから「指で画面を操作する」という新たなライフスタイルを提供し始めたのです。この開発は、すでにあるものに何かを加えるだけではなく、これまであった機能を取り除くことでイノベーションが生まれるという、新たな形のイノベーションでした。
1997年にアメリカのハーバード・ビジネススクールの教授をしているクレイトン・クリステンセンがイノベーションのジレンマという概念を提唱しました。これは「巨大企業が新興の事業や技術の前に力を失う現象」のことを指します。大企業にとってイノベーションを起こす事業は、市場に出たばかりは割高であったりターゲット層が曖昧に見えたりするため、無視してしまいがちです。しかし、新興企業が大企業の目に入らない市場で、大企業が行う既存のサービスの価値を無にするような圧倒的なサービスを提供することもあるのです。
そんなときに、大企業は守りに入ってしまい、これまでの技術やサービスにこだわり過ぎて、なかなか新たな市場へ参入しようとしない状態が発生してしまいます。これがイノベーションのジレンマです。これによって、大企業や安定企業が市場シェアを失っていく状態に陥ることもあります。このイノベーションのジレンマを回避するためには、日ごろから市場の動きや人々の行動の変化に関心を向ける必要があります。新興市場で存在感を発揮するベンチャー企業と提携したり、自社サービスとの相乗効果が見込める場合には買収したりといった選択肢を取ることも大切になるのです。
イノベーションと似た言葉に「リノベーション」という言葉があります。イノベーションが技術革新や大きな変化、新たなアイディアから社会的付加価値を生み出すという意味を持つのに対し、リノベーションは「刷新」や「修復」といった意味を持ちます。主にリノベーションは不動産や住宅関係で使用される言葉です。住宅の改修や修復、改良を表す言葉だからです。リノベーション住宅という言葉を耳にしますが、これは既存の住宅を改装・改修したり設備を追加したりすることで、新たな付加価値を創造していく住宅のことです。
イノベーションは製品やサービスに対して企画などを新たに生み出すことをいいます。それに対してリノベーションは、もともとあるものを新たに作り直すことです。自社の置かれている現状を踏まえたうえで、イノベーションとリノベーションをうまく使い分けていくことが大切となります。
イノベーションを起こすためには、市場動向をしっかりと見ていく力、いわゆるマーケティング能力が必要です。ここからは、イノベーションを生み出すための発想法について紹介していきます。
イノベーションを生み出すためには外部環境の変化を捉えることが大切です。外部環境の変化には現在視点と未来視点の2つがあります。現在視点での外部環境の変化に対応する必要もあります。しかし、これは主に従来の問題解決型の着手方法で対応することになり、革新的なアイディアが生まれることはごくまれです。未来視点の外部環境の変化には社会や経済、産業における構造の変化があります。また、顧客や消費者のライフスタイルや価値観の変化という意味もあります。したがって、イノベーションを生み出すためのアイディアは未来視点で考え、その変化を捉えることが重要となるのです。
さらに、これからは人口推計やグローバル化、AIやIoTといったデジタル技術の普及などにも意識を向けておかなければなりません。
イノベーションを生み出すためには外部環境の変化を捉えることが大切です。外部環境の変化には現在視点と未来視点の2つがあります。現在視点での外部環境の変化に対応する必要もあります。しかし、これは主に従来の問題解決型の着手方法で対応することになり、革新的なアイディアが生まれることはごくまれです。未来視点の外部環境の変化には社会や経済、産業における構造の変化があります。また、顧客や消費者のライフスタイルや価値観の変化という意味もあります。したがって、イノベーションを生み出すためのアイディアは未来視点で考え、その変化を捉えることが重要となるのです。
さらに、これからは人口推計やグローバル化、AIやIoTといったデジタル技術の普及などにも意識を向けておかなければなりません。
事業活動においては企業自身が持つべき価値観も変化していきます。企業を取り巻く外部環境の変化によって、企業価値に対する考え方にも変化が出てきています。たとえば、従来の企業価値を測る売上高・利益率・費用対効果などの指標だけではなく、顧客満足度の向上などといった部分にも注目が集まっています。企業だけの利益ではなく商品を購入する消費者側に立った見方が重要となってきているのです。さらには、顧客価値の向上に加えて社会的な価値も重視されてきています。
イノベーションに取り組む目的をただ単に自社のためといったところに定めるのではなく「社会的な問題を解決する」といった未来志向の課題設定が必要となってきているのです。これらを実現するには1社単独でイノベーションに取り組むのには限界があるかもしれません。これからは他社と連携したり異業種と組んだりすることも、必要となってくるでしょう。
イノベーションの創出のためには過去の成功体験にとらわれない発想をすることが大切です。特に大企業ともなると、それまで築き上げてきた商品価値や販売網、プロモーション力などで市場の優位性を保ち、それによって成功を収めてきたという自負があります。しかし、外部環境の変化によって従来の延長線上での戦略を練っても、市場から受け入れられないケースも多くなってきているのです。新たな付加価値を生み出すためには、新たに市場を開拓するような大胆な発想が必要となってくる場合があります。
事業戦略の立案やマーケティングのワークフレームでよく用いられる3Cと4Pがあります。3Cとは「Customer」「Competitor」「Company」の頭文字をとっており、それぞれ顧客・競合・自社のことです。4Pとは「Product」「Price」「Place」「Promotion」の頭文字をとり、それぞれ商品・価格・流通・プロモーションのことです。イノベーションの創出には過去の成功体験にとらわれずに、この3Cと4Pを一つひとつ点検していくことが大切です。