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2021.04.28

来場者100万人規模、巨大VRイベント「バーチャルマーケット」がクリエイターや企業から注目される理由

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 いま、国内外から注目を集める巨大バーチャル展示会がある。VR/ARコンテンツを手掛けるHIKKYが企画・運営する「バーチャルマーケット」(Vket)だ。Vketは仮想空間で行われる3Dアバター/3Dモデルの展示会として2018年にスタート。順調に開催を重ね、20年12月には「バーチャルマーケット5」(Vket5)が開催された。

 Vket5は「World Beyond」をテーマに1000人規模のクリエイターが参加した。入場料は無料で24時間いつでも参加可能、3Dアバター/3Dモデルを自由に鑑賞、試着、購入できることもあり、一般来場者は100万人以上を記録。かなりの盛り上がりを見せた。

 なぜVketはクリエイターたちを熱くさせるのか、そして企業から熱視線が向けられているのか。HIKKYでバーチャルマーケット開催に携わる角田拓志さん(最高営業責任者)と、チーフエンジニアの車軸制作所さん(以下、SHAJIKU)に話を聞きながら、クリエイターを支えるワークステーションの可能性を追った。

バーチャルイベントに企業も注目

 Vketは、仮想空間で他の参加者とコミュニケーションできる「VRChat」というソーシャルVRプラットフォーム上でHIKKYが開催しているイベントだ。PCゲーム配信サービスを通じて、PCにVRChatをインストールすれば誰でも参加できる。VRヘッドセットを持っていれば、より没入感がある状態で参加できる。

 Vket全体で特に注目すべきは、個人参加者だけでなく、大手の企業ブース出展が相次いでいることだ。その中には日本HP、阪急阪神百貨店、ディズニーストア、アウディジャパン、テレビ東京、ニッポン放送、東宝、タカラトミー、ビームスなど(順不同)、ここで紹介しきれない程の企業が名を連ねている。Vket5だけでも73社が出展している。

 Vketに企業ブースを出展する場合、企業側とHIKKY側でコンテンツのイメージに食い違いが発生しないよう、事前にブースのイメージやBGM、3Dモデルを手に取って動かせるギミックなどの検討が緻密に行われるという。

 VRChatの仕様上、描画できるポリゴン数など技術的な制約もあるため、その調整は大変だというが、HIKKYはUIやUXの改善など、回を重ねるごとに試行錯誤を続けている。

出展企業は「集客力に可能性を感じる」

 実際に出展した企業はどう感じているのか。Vketの出展は2回目という日本HPの担当者は、実際に出展してみて「リアルイベントでは不可能な集客力が実現した」と驚いている。

 もともとはVRメディアのMoguraが主催したVR/AR/MRカンファレンス「XR Kaigi」に出展した際に、日本HPのブースで名刺交換をしたことがきっかけだった。同社は「HP Workstation Zシリーズ」というクリエイター向けのワークステーションを多数展開しているが、こうした製品を3DCGやモデリングに関心のあるクリエイターにアピールする場と考え、バーチャルマーケットの参加を決めた。

 Vket5では日本HPのワークステーションを使って制作された「RX-78-02 ガンダム」の3Dモデルを展示。さらに同社製のVRヘッドセット「HP Reverb G2 VR Headset」の3Dモデルを用意し、“VR空間でVRゴーグルをかぶる”というユニークな体験も展開した。

 その結果、何万人もの参加者が日本HPのブースを訪れるなど、リアルで開催する展示会では、ほぼ不可能な数字をたたきだした。さらにブース内で募ったアンケートの回答数は2000件にも上り、その6割が日本からの参加者だったという。日本HPオリジナルアバターのモデルを配布したところ、期間中に500件近いダウンロード数も獲得でき、期待以上のプロモーションが実現できたという。

日本HPのVket5ブース

 日本HPでワークステーションのプロモーションを担当する島﨑さくらさん(ビジネスディベロップメントマネージャー)は「まだニッチなVRという空間で日本HPという存在に愛着を持ってもらうことができ、ユーザーとのコネクションも作れました。理想的なゴールを達成できたと思います」と当時を振り返る。

 Vketの企画は、HIKKY社内では当初「VR空間への挑戦」という題目で立案されたという。直近で開催されたVket5においては、規模を拡大しながらも企画立案からリリースまで約8カ月というスパンで進められた。

 他社のVRプラットフォーム上でイベントを開催する──そこそこのハードルがありそうだが、実現に向けてどのように歩みを進めたのか。

オリジナルのワールド製作、その体制は?

 VketはVRChat上で独自の世界観を表現するために、オリジナルのワールド(マップ)や造形物を多数用意している。その制作には100人ほどが関わっている。

 100人のうち、メンバーの司令塔となって指示を出すコアメンバーは20~30人、その他が3Dモデリングなどを担当するメンバーだ。

HIKKYの角田拓志さん(最高営業責任者)

 「何かを手伝いたいという人、エンジニアリングの知識はないがバーチャルマーケットに携わりたい人など、背景はいろいろありますが、いずれもこのイベントを素晴らしいものにして、VR界を豊かにすることを目指して頑張ろうという意思があります」(角田さん)

 Vketが利用しているVRChatは、VRの黎明期からユーザーの熱量が高く、その中での生活やコンテンツの取引といった経済圏が発展しやすい土壌があったという。

 「今ではいろいろなゲームやアプリで3D空間を表現したものがありますが、VRChatはUnityで創造したものを、ある程度のルールの中で自由に表現できるのが大きいですね。一番ハイエンドな仮想空間のイベント、楽しいイベントをやりたいと思ったときに実現できる場がVRChatでした」(角田さん)

HIKKYの開発環境

 そんなVketの世界を構築するには、開発プラットフォームの「Unity」やモデリングツール「Blender」などが用いられるが、大規模な3Dモデルの製作にはマシンパワーが求められる。

 HIKKYでは事務所にハイエンドPCやワークステーションを設置し、クリエイターがリモートアクセスして作業できる環境を構築。実際にSHAJIKUさんは福岡県在住でありながら、リモートという働き方でHIKKYの業務を完結させている。

 もともとクリエイターは自前のハイエンドマシンを自宅に持っている場合が多いというが、3Dモデルに陰影を焼き付ける“ライトベイク”と呼ばれる工程など、特に重い処理が必要な作業は事務所に設置されたマシンを活用することがある。

 このように「高負荷な作業が行えるワークステーションにリモートアクセスして使う」―― そんな用途の可能性が広がりつつある。HIKKYのように、場所にとらわれずクリエイターが活躍できる環境の構築や、あるいはコロナ禍で在宅勤務をせざるを得ない状況のクリエイターが自宅から作業を継続したいといったニーズが生まれているからだ。

 そのような状況下で、13年連続で国内シェアNo.1(※)を誇る日本HPでは、同社製ワークステーション向けに「ZCentral Remote Boost」という専用リモートアクセスツールを提供している。

 ※2008~2020年、出展:IDC's Worldwide Quarterly Workstation Tracker Share by Company, 2020 Q4

 ZCentral Remote Boostを使えば、オフィスのデスクやサーバルームに置いたワークステーションに、ノートPCなどのシンクライアント端末からリモートアクセスできる。リモートアクセス環境下であっても、描画のパフォーマンスを重視した高圧縮技術などによって、3DCGや映像編集など負荷の高い作業にも対応しやすいのが特徴だ。

HIKKYでチーフエンジニアを務める車軸制作所さん

 このツールについて、SHAJIKUさんは「(会社支給のハイスペックマシンを遠方のリモート社員に支給するのは大変なので)遅延が少ないツールで動かせるなら、モデリングもリモートでできるためすごく良いと思います」と活用の可能性を話してくれた。

 Vketの規模が拡大する上で人的リソースにも限界はやってくる。SHAJIKUさんは運営面での省力化なども検討したいと将来を見通している。

 「今後の(イベント)規模の拡大によってクリエイターが作業に追われるのではなく、作業を自動化するプロセスを組み立てていきたいですね。Vket5までは半自動だったといえる状態でしたが、次回以降はもう一度(開発の)仕組みから見直し、作業の自働化を進め、より重要な場面に人手を使う仕組みにしていきたいと考えています」(SHAJIKUさん)

 Vketプロジェクトを支えているのが、日本HPのデスクトップワークステーション「HP Z2 Tower G4 Workstation」とモバイルワークステーション「HP ZBook 17 G6 Mobile Workstation」だ。

 「HP Z2 Tower G4 Workstation」は制作に、「HP ZBook 17 G6 Mobile Workstation」は営業チームと動画制作のチームが持ち歩いて使っているという。

 「営業活動にワークステーションが必要なのか」と疑問に思う人もいるだろう。HIKKYでは冒頭で紹介したように、企業出展の機会が増えている。営業先でVRコンテンツのデモを行う機会も多く、出先で使えるハイエンドなマシンが必要になるという。

 ハイスペックというニーズならゲーミングノートPCでも十分に用件を満たすだろう。角田さんは「ゲーミングノートPCが悪いという意味ではない」と前置きした上で、ワークステーションの安心感や信頼感は頼もしいと話す。

 「(営業の場面で)マシンが止まってしまったら、取引先への印象が悪くなってしまうかもしれません。ワークステーションであれば安定した稼働が期待できる安心感があります」(角田さん)

まだまだ発展途上のVR、進化の行く先はクリエイターたちの手の中に

 多くの人のクリエイティビティーで成り立っているVketの世界。参加人数は100万人を超えたが、角田さんらは「まだまだ未開拓な領域や魅力を伝えていきたい新たな客層がある」と気持ちをあらわにする。

 「VRに携わる人々の生活圏、経済圏を豊かにできればと思います。『コンテンツを作る』『クリエイターを支援する』という立ち位置から貢献していきたいです」(角田さん)

 当初は“色物”だったVRの世界が、この数年で大きく変化している。クリエイターがクリエイティビティーを発揮する場として「バーチャルマーケット」は今後も進展を見逃せない場所になりそうだ。

※本記事は 2021年03月22日 ITmedia に掲載されたコンテンツを転載したものです

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