2022.05.09

人間を苦役から解放する“人機”の開発にVRソリューションが貢献

株式会社人機一体

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今や製造業を中心に事業活動の大きな一翼を担っている産業用ロボット。AIやプログラム制御によって、製造ラインの自動化を実現し、業務効率化に大きく役立っているのはみなさんご存じの通りだ。一方で「力」を必要とする業務においては未だに人間の手を必要とする作業は多く残っており、限りある人的資源をそこに投入し続けなければならないのは日本社会にとっても大きな課題となっている。そんな状況を大きく改善しようと、斬新なアイデアで人間を苦役から解放するための人型重機を開発している企業がある。VR技術を用いてそれを実現する方法とはどのようなものなのか、取材してきたので紹介しよう。

株式会社人機一体 開発部 広報部 情報部
Sun NanNan (ソン ナンナン)氏

人型重機ロボット“人機”の 社会実装を目指す

株式会社人機一体(以降、人機一体)は、独自の人型重機ロボット「人機」を開発する企業だ。「Man-Machine Synergy Effector (MMSE)=人間機械相乗効果器」をコンセプトに、力学を操ることができる人機の研究開発を続け、近い将来の社会実装を目指して活動を続けている。

「いわゆる産業用ロボットとは違い、人が操縦し、力を操る人機によって、現在は人間が行っている重作業の負担を減らして、最終的には世界からフィジカルな苦役を無用とすることを目的にしています」と語るNan Nan SUN氏(以降、ソン氏)。産業用ロボットが手先の器用さをマイクロミリレベルで追求しながら作業の早さを実現するのとは違い、あらゆる物体を最適な力加減で掴み、確実に移動させられるのかを追求するのが人機なのだ。

「例えば鉄道インフラに必須な高所メンテナンスには重いパーツを持ち上げる作業が必要です。そんなパーツを交換するにはワイヤーで持ち上げ、何人かでそれを制御する危険な作業がつきまといます。私たちが開発している人機であれば安全な位置にいるオペレーターの意のままに、人間の代わりに重労働を実行することが可能になります」とソン氏。

“人機”と呼ばれる人型重機の開発が人機一体の仕事。力を制御する人機が人類を苦役から解放する

実際に彼らの人機のデモを見ていると、人型ロボットが高所にあるパイプを手に取り、それを自在に操っている様子が見て取れる。パターン化された作業ではなく、立てかけたパイプが思ったより揺れた場合は、アームをまるで腕のように使って揺れに合わせてその挙動を抑え込むといったオペレーションまで可能としている。その人機の操縦に欠かせないのが、HPのヘッドマウントディスプレイ「HP Reverb G2」だ。

距離感を把握しやすくする必須デバイス

ロボット操作にVRゴーグルを使う理由はどこにあるのか。「初期に開発した人機は単眼仕様で、当時市販されていたVRゴーグルを使って単眼で得られた画像を2枚描画させていましたが、距離感がつかめず、操作がうまくできませんでした。そこで距離感が把握しやすいように人機の目を人間と同じように両眼にして、それぞれのカメラで得られた情報をそのままVRゴーグルの右目、左目に届けるようにしたのです」と、開発を始めた初期当時の様子を振り返るソン氏。

これによって距離感が掴みやすくなり、操作性が格段に向上。ついにはプロトタイプの実稼働も可能になったのだ。「本来、VRゴーグルはバーチャル空間の中で何かをする、というもののために作られたと思いますが、ロボットの遠隔操作というものにとてもマッチしていることが分かりました。偶然だとは思いますが、VRゴーグルを選んだ最大の理由はそこにあります」とソン氏は語る。

ここ数年、市場が急拡大しているVR市場にはVRゴーグル製品が大量に投入されている。「市場にはたくさんのVRゴーグルがありましたが、いろいろと試した結果、HP Reverb G2を選びました」とソン氏。その理由として真っ先に出てきたのはパフォーマンスの高さだ。

「解像度が高く、画像の描画能力が非常に高いところが気に入っています。基本的に映像の中の文字が読めないと話にならないのですが、この製品は非常によく見えるのです。また、価格も手頃ですし、HPのオンラインストア(HP Directplus)でも在庫があれば簡単に入手できます。例えば、人機が普及していった場合、オペレーションに使っているVRゴーグルが壊れても修理している時間が無いかもしれません。そんなケースでも迅速にデバイスを調達できるメリットは大きいと思います」とソン氏は語る。

また、HP Reverb G2には他には無かった大きな特徴があるという。「インサイドアウト方式なので、外部センサーが不要な点が大きなメリットになります。人機のコックピットは基本的に安全のためにシャーシに囲まれています。外部センサーを取り付けるスペースも少ないですし、赤外線タイプであれば反射物が多いこの中では誤作動も懸念されます。また、コックピットはエンジンで動く車両に載せることもあり振動があります。HP Reverb G2はそのような環境でも問題なく動作しているので操作に集中できます」とソン氏は解説する。

人機はあくまでも人間がコントロールする。オペレーターは専用の操縦席に座り、HP Reverb G2から人機の視覚情報を受け取りながら作業する

VR技術との融合で開発はさらに加速

現在の人機はロボットの視点の共有だけでなく、頭の上下左右の動きに人機の頭部も追従し、アームを操作するユニットからは物を掴んだ感触がフィードバックされる。まさに会社名通りの人機一体を実現している。例えば先ほどのような「揺れを止める」といった動作はもちろん、操作になれてくれば「おにぎりを握る」といったような動作も可能になる。

「それができるのは、まさに“力”を制御しているからなのです。人間と同様に力加減ができる機械なので、産業用ロボットのような直線的な動きだけでなく、より人間的な動きが可能になっています」とソン氏。

すでに実用段階の一歩手前まできている人機に、あらゆる業界が注目しているのも理解できる状況だ。

柔らかいパーツをアームで受け渡したり、両手でおにぎりを握るような動作したりできるのは“力”制御する人機だからこそ実現できる技だ(下写真)

また、新たな試みとして、アイトラッキングや心拍センサー、フェイスカメラなどの新たな要素が加わった「HP Reverb G2 Omnicept Edition」の導入も今後の予定に含まれており、HPのVRパートナーでありOmniceptソリューションパートナーでもある株式会社理経からの技術的な協力を受けながら検証を進めているという。

センサー類が強化された「HP Reverb G2 Omnicept Edition」の導入も予定されている

「人機をオペレーションしている最中は操作に集中しているので、他のことができません。しかし、アイトラッキングがあればディスプレイ内のアイコンを目の動きで操作するということもできるようになります。そしてさらに聴覚情報を人機と共有することで、さらに直感的な操作も可能になると思います。また、人機はとても目立つので多くのみなさんが注目されますから、ある程度のエンターテインメント性は必要と考えています。人機は力を扱いますから、危険をはらんだ機械であることを直感的に分かってもらうためにあえていかついデザインを採用しています。例えば目の部分にLEDを仕込んでオペレーターが笑顔になれば人機の目もにっこり笑うといった表情が作れると見る人に与える印象も和らぐでしょうからね」と笑顔で解説するソン氏。

最終的には人機のオペレーションに免許制度を設ける可能性もあるという人機一体。その際には心拍センサーを使い、オペレーターの体調管理やメンタルの状態などを管理することも考えているという。

すでに各方面で大きな反響を受け、人機の開発・製造がますます進んでいる人機一体。
「私たちだけではロボットの開発・製造はとてもできるものではありません。今回のプロトタイプも参画企業様の協力があってこそ実現できています。そういった意味ではご助力をいただける企業が増えることはとてもうれしいことです。私たちは人機のなるべく早い社会実装を目指しています。今後もより多くの企業と協業して、理想の実現へ向けて加速していきたいですね」とソン氏は最後に語ってくれた。

人機一体は独自のコンソーシアム「人機プラットフォーム」を開設し、より多くの参画企業様を募っているので、興味のある方はぜひ連絡をしていただきたい。HPも彼らの目指す日々がなるべく早く来るように精一杯のサポートを続けていく。

人機のいち早い社会実装へ向け、人機一体は今日も活動を続ける

※2022年3月、日本科学未来館 特別展「きみとロボット」会場にて撮影

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