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2021.11.25

高層ビルの防災管理に
HP Reverb G2 VR Headsetが貢献

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 ビル管理事業者にとって、防災管理の充実は非常に重要な課題だ。専用の管理基準や資格取得などを前提に各事業者が積極的に取り組んでいるが、実際の訓練となるとビル全体のスケジュールを合わせることも難しく、実施するには多くの手間と時間が必要になる。

 その問題を解消すべく森ビル株式会社は防災訓練にVRを導入。HP Reverb G2 VR Headsetを活用し、自身が管理するビルをリアルに再現した空間で、より実践的な体験を可能にしたという。どのような取り組みか、話を伺ってきたので紹介しよう。

安心安全なビル運営を目指して

 高度成長期から賃貸ビル事業を開始し、近年では大都市を象徴する数々のインテリジェンスビルを建設するなど、日本の都市づくりをけん引してきた都市開発事業者、森ビル株式会社(以降、森ビル)。現在の東京を見れば、その景観の要所には必ず森ビルが手掛けた建築物があることからも分かるように、魅力のある“都市”を創造し、さらなる発展を期待させてくれる街づくりのプロフェッショナルだ。

 「私が所属している管理事業部では、最新技術を今後のビル管理運営に役立てるための活動も行っています。その中でVRを使ってみようという話が浮上してきたのです」と語る日向氏。様々なアイデアが出てくる中、ビル管理に欠かせない防災というテーマが浮上してきたのだという。

森ビル株式会社 管理事業部 事業企画部 事業企画グループ 兼 震災対策室事務局 日向真一郎氏

 「訓練などを通じてどんな問題があるのかと再考したところ、一連の防災手順の中で担当員が初歩的なミスをしてしまうケースがあることが分かったのです。それを克服するためにストーリー性を持った防災シミュレータをVRでやってみたら効果的ではないかという結論に達しました」と日向氏は今回のプロジェクトが始まった経緯を振り返る。

VRの可能性を引き出す

 2019年、森ビルのVR防災シミュレータ制作のプロジェクトが動き始めた。シナリオは防災に必要な一連の流れをよく知る日向氏のチームが担当することになり、VR化へ向けた技術支援という形でVRコンテンツの開発経験がある岩淵氏のチームが入ることになった。

都市開発本部 計画企画部 メディア企画部 岩淵麻子氏

 「私たちの部署では、都市模型を使って一般の方々にも都市開発について広くご理解をいただくための活動をしています。その中でVRもプロモーションなどに活用してきた経験がありました」と岩淵氏。

 そしてVRシミュレータの開発をどこへ委託するか、いくつかの事業者の中から浮上してきたのが株式会社理経(以降、理経)だった。

 「別のチームから理経様の情報をいただいていて、こちらでホームページを拝見したところ防災に多くのノウハウを持っていらっしゃることが分かったので、ご相談させていただきました」と振り返る岩淵氏。

 理経はVRシミュレータの開発でも広く知られており、エレベーター救出訓練や空港ターミナル防災訓練など、実際には実施が難しいシチュエーションのシナリオにおいてもVRコンテンツ化してきた経験がある。

 「弊社には防災訓練シミュレータを作ってきた経験があったので、森ビル様がご希望されている一連のストーリーも再現できると思い、ご一緒させていただこうと思いました」と語る石川氏。

株式会社理経 次世代事業開発部 部長 石川大樹氏

 防災訓練シミュレータの場合、どこか一場面の再現をすることはあるが、一連のストーリーの中に多くのポイントを盛り込む例はほとんどないのだという。そういった意味では、森ビルの事例はチャレンジングでもあったのだ。

 「そもそも、ビルの中にある防災センターに詰めている担当者は全員防災管理の資格を持っています。ですから、基本的には出来て当たり前なのです。しかし、非常用エレベーターを呼ぶ手順の前後を間違えたり、鍵を取る順番を間違えたり、ミスが起こりやすいポイントがいくつかあるのが実際なのです。それを克服するためには、なるべくリアルに現場を再現し、緊張感のあるシミュレータを作る必要があります」と日向氏は語る。

 2021年8月に完成を見たVRシミュレータは、リアルさを追求するにあたりある工夫があったという。「リアルな内部データを再現するという意味ではBIMデータを使うことも考えましたが、実はシミュレーションでは裏側の再現までは不要なのです。ですから、実際の内部構造を再現した上で実写画像を貼ってVRシミュレータを作りました」と石川氏。

 そんな森ビル用に作られたVRシミュレータに採用されたのが、HP Reverb G2 VR Headset(以降、HP Reverb G2)だ。

 実際のシーンをHP Reverb G2でみてみると、間取りや照明の位置はもちろん機器類の位置、そこに書かれている文字や数字まで現在するビルと防災センターが忠実に再現されていることに驚く。

 「VRというとゲーム感覚の人がやはり多いのが実情です。ですからディティールにも徹底的にこだわり、火災を知らせるアラート音や館内図、電話機の位置まで徹底的にリアルさを追求しています。体験する人にとっては見覚えのある風景なので没入感も高くなりますし、緊張感も出てきます。訓練ですから、その感覚を大切にしたいと思いました」と日向氏。

 このこだわりを再現するため必要になったのが描画される文字だ。実施の防災手順では、計器やそこに出てくる文字を確認して以降の動作を決定する。そのため、正確な動きをするにはそれらがVR内できちんと読み取れる必要があったのだ。

 「そのために、何種類かのVRゴーグルを試しましたが、どれも文字の輪郭がはっきりせず、読み取りづらいものがほとんどでした。きちんときれいに読み取れたのはHP Reverb G2だけだったのです」と石川氏は採用の経緯を語る。

 HP Reverb G2は片目あたり2160×2160、両眼で4K クラスの高解像度を実現し、90Hzという高速リフレッシュレートによって動きの中でも、細かな描写をしっかり伝えられるスペックを持っている。そのため、今回のようなストーリー性を持たせた災害シミュレータには最適な仕様となっているのだ。

 ストーリーの中に用意されたポイントでは、ミスをするとその後の行動がとれなくなるなど、間違えるとどうなるかといった部分まで再現されている。「きちんとミスが反映されるのも今回のシミュレータの特長です」と石川氏。「絶対に間違えてはいけない事案に対しての訓練なので、そこはシビアに作り込みました」と日向氏は言葉を繋げる。

 成功へと誘導するタイプのシミュレーションは多いが、失敗が体験できるものは少ない。体験者は失敗を通じて、自分がミスしやすい箇所を発見できるようになり、そこを克服するための努力もしやすくなるというわけだ。

火災発生から火点確認、消火、避難誘導まで一連のストーリーが仮想空間の中で展開される。機器類に書かれている細部の文字や数値を確認しながら手順通り防災訓練を進める

2名で火点へ向かい、一人が消火、もう一人が防災センターへ連絡して消防署へ通報といった役割分担のシーンもある。迫力のある炎や実際の間取りと同じ風景がリアリティを生み出し、緊張感のある訓練が実施できる。

森ビルらしさでVRの可能性を広げる

 2021年には本格運用が始まっている森ビルのVR防災シミュレータ。利用者からは「私たちが管理している実際の物件の中で訓練できるところがとてもよい」などと高い評価を得ているという。

 「今後は各ビルの防災センターで訓練していけるように、評価を続けていきます。また、建築中の物件のデータをVR化することで、ビルができる前から訓練が可能になるのでそういった部分でも活用していきたいですね。今回は防災がテーマでしたが、救命訓練にも応用していきたいです」と今後の抱負を語る日向氏。

 VRで効果的な訓練ができることが分かったので、資格取得のための練習教材として応用できる可能性も視野に入れているという。

 「デジタルツインとしてもVRの可能性は大きく広がっていますから、今後も森ビルらしさのひとつとして取り入れ、多くの人々のためになる企画を立てていきたいですね」と岩淵氏は最後に語ってくれた。

 実際の防災訓練シーンを仮想空間で体験し、ミスも含めてスキル向上や修練を熟成ができるという新しい可能性を発掘した森ビルと理経。この画期的なVRシミュレータはこれからも多くの人々の安心安全のために活躍を続けていくだろう。HPは今後も両社の活動を支えるべくサポートを続けていく。

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