2021.11.19

天文学の歴史と宇宙の神秘が体感できるXRコンテンツにHPのVRゴーグルが貢献

在日スイス大使館科学技術部

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 宇宙の神秘を知りたいという欲求は、国籍、人種を問わず、世界中の人類共通のものだろう。人類がこれまで集積した宇宙の膨大なデータを可視化し、あらゆる人々に届けてくれる試みの一つにXR(拡張現実技術)がある。宇宙開発研究の分野で世界に貢献するスイスは、HPのVRテクノロジーを採用したイベントで多くの人々に研究の成果を届けているという。どのような取り組みなのか取材してきたので紹介しよう。

スイスと日本の科学技術の架け橋に

 スイスと日本は1864年の修好通商条約締結以降、伝統的な友好関係を持っている。美しい自然と最先端の科学技術が同居する国土には約860 万人の国民が暮らし、日本からの入り口として在日スイス大使館(以降、スイス大使館)がその架け橋となっている。

 「私が所属しているスイス大使館科学技術部は、スイス教育研究イノベーション庁の管轄にある機関で、当大使館においては日本とスイスの間で、高等教育、研究やスタートアップにおけるイノベーションなどの分野で交流を促進することを主なミッションとしています」と語るのは鈴木恭子様です(以降、鈴木氏)。

在日スイス大使館科学技術部 鈴木恭子様(写真のマシンは四脚ロボット探査機の「スペースボック」)© Ayako Suzuki

 2021 年9月にスイス大使館で行われた「EPFL Virtual Space Tour」は、スイス連邦工科大学ローザンヌ(EPFL)が開発したARゲーム「静かの基地」と、VR宇宙プロジェクト「VIRUP」の最新作が日本で初公開されるイベントであり、スイス大使館科学技術部のプロデュースによるものだった。

スイス大使館科学技術部のメンバー。左から、ミヒャエル・フォーゲルサンガー様、鈴木恭子様、松本康子様、ドゥンキー智也様 © Ayako Suzuki

 「スイスではサイエンスコミュニケーションに力を入れていますが、その取り組みを強化する狙いで、こういったイベントを通じて日本をはじめ全世界に広げていきたいと考えています」という鈴木氏。

 日本の次にはドバイ国際博覧会での発表も予定されており、同コンテンツの他にも、スイスがおこなっているスペースデブリの除去をはじめとした機械工学的な分野や、天体観測などの分野をはじめとした宇宙科学全般に関して国家として力を入れている姿勢を全世界へ向けて発信を続けている。

自国の科学技術をインタラクティブに紹介

 今回世界に先駆けて公開された「静かの基地」は、タブレットやスマートフォンにダウンロードしたARゲームを解きながら、危地を脱出するといったインタラクティブ要素が満載の内容となっている。観客は科学に裏付けられたコンテンツを楽しみながら、スイス発の最新の研究について学べるという趣向だ。「このゲームで紹介されている技術は複数あります。

 例えばその中のひとつ『ロボガミ』は日本の折り紙にヒントを得たロボットで、宇宙の現場で多種多様な構造体が作れるよう、三角形のモジュール『MORI』をはめ合わせて組み上げるテクノロジーです」と鈴木氏。他にも、地球からの輸送に頼らず、月面の資源で金属材料や酸素を作り出 す「AMISRU」や、四脚のロボット探査機の「スペースボック」など、様々な技術が紹介された。

 そしてもう一つの主要コンテンツ、VRで宇宙の階層構造の理解を深めることができる「VIRUP(VR 宇宙プロジェクト)」に採用されたのがHP Reverb G2 VR Headset(以降、HP Reverb G2)だ。

HP Reverb G2

 VIRUP は EPFL の天文物理学研究所(LASTRO)が、チューリッヒ大学(UZH)、ジュネーブ大学(UniGE)などと共同で進めているプロジェクト。

「VIRUP」の開発をおこなったEPFL天文物理学研究所(LASTRO)のメンバー

Jean-Paul Kneibスイス連邦工科大学ローザンヌ(EPFL)
天文物理学研究室 教授・EPFL 宇宙センター ディレクター

Yves Revazスイス連邦工科大学ローザンヌ(EPFL)
天文物理学研究室 シニアサイエンティスト・VIRUP 研究主宰者(PI)

Florian Cabotスイス連邦工科大学ローザンヌ(EPFL)
天文物理学研究室・VIRUP エグゼクティブディレクター

 「われわれが開発した新しいマルチプラットフォームのVR環境で、ユーザーには太陽系から太陽系外の宇宙へ、星を超えて天の川の渦巻き銀河を飛び出し、局所銀河群へ、時空を超えて体験していただけるのです」と、主宰のEPFL シニアサイエンティスト、イヴ・レバ氏は語る。

 「宇宙について最新のダイナミックな映像を、最も先進的なコミュニケーション技術のひとつ、つまりVRを使ってお届けすることを目指しました」。

 VIRUP で採用されたHP Reverb G2は片眼2160×2160、両眼で4K品質の高解像度の描画性能を持ち、フレームレートも90Hzと高速なため、あらゆるシーンで大容量データを滑らかに表現できる性能を持っている。また、3Dオーディオを搭載するなど、ストーリーへの没入感を高める機能も充実しているなど、VRを余すところなく再現できるようになっている。

 最大で数十億個の粒子を含む宇宙シミュレーションの出力を表示するように特別に設計されているVIRUPの精密な映像を再現するには、高いフレームレートも必須だ。このVRコンテンツに使われている映像データはすべて、世界規模の天体観測と数値シミュレーションから得られた、いわば「本物のデータ」なのでリアリティも非常に高い。

「VIRUP」体験スペース Credits: LASTRO & EM+, EPFL

 「本物のデータで作られた実際の宇宙を体験してもらうことで説得力を持たせることができたと思います」と鈴木氏はコンテンツへの想いを語る。この緻密な映像の再現をイベントの中で、実際に観客が体験するにはHP Reverb G2 のような高性能ヘッドマウントディスプレイが最適だったのだ。

 開発を担当したVIRUPエグゼクティブディレクター、フロリアン・キャボット氏は、VIRUPのプラットフォーム自体は特定のヘッドセット向けに開発されたわけではないが、「ベースステーションや三脚を持ち歩かなくてよい、インサイドアウト方式でトラッキングできるヘッドセットを求めていて、Reverb G2がベストだと判断しました」と説明。

 実際の発表会場において、余分な設備を必要とせず、準備作業などを短縮してスピーディーに来場者にコンテンツを楽しんでもらうにはHP Reverb G2が採用しているインサイドアウト方式は重要な要件だったのだ。

VIRUP VR 体験会場 © Ayako Suzuki

高まる宇宙への関心

 開催期間がコロナ禍の最中であったこともあり、来場者数の制限やコンテンツの発表の仕方に変更があるなど、かなりの制約があったイベントではあったものの、「静かの基地」「VIRUP」を楽しんだユーザーの満足度はかなり高かったという。

 「本来、ご来場いただいてVRによるVIRUPを楽しんでいただきたかったのですが、オンラインイベントという形でご参加いただくことになってしまった方も大勢いらっしゃいました。ですが、想像していた以上の方に参加していただけたのがうれしかったです。コンテンツを見ていただいた方々からは、これまでとまったく違う体験ができたという感想もいただきましたし、改めて宇宙というトピックへの関心の高さがうかがわれました」とイベントの手応えを語る鈴木氏。

「VIRUP」では、宇宙の階層構造を美しくダイナミックな映像をVR空間に再現Credits: LASTRO & EM+, EPFL

 VRが初体験という来場者も多く、素直な驚きとコンテンツへの満足感を感じて笑顔で帰る姿がとても多かったのが印象的だった。「映像の美しさによって伝えられることもあるということが理解できるイベントでした。VRは多くの人にコンテンツに関心を持っていただくことができるツールだと思いますので、見せるだけでなく、ハッカソンのような形で皆さんにも参加してもらうための仕組みを取り入れられないか考えてみたいですね」と最後に今後の展望を語ってくれた鈴木氏。

 HPはこれからもスイスと日本の科学技術の発展のため、サポートを続けていく。

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