2020.01.14
2019年7月に公開され、今もロングランが続く新海誠監督のアニメーション映画『天気の子』。制作会社のコミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)では、制作現場のCGチームや美術チームなどに日本HPのワークステーション「HP Z Workstation」シリーズを導入し、緻密かつ美しい映像の制作でフル活用していた。
CWFの制作現場にHP Z Workstationを提案したのは、システムインテグレーターのTooだ。同社は1919年創業の画材専門店「いづみや」を原点とする歴史ある企業で、80年代にAppleの「Macintosh」、90年代にクォークやアドビのDTP・グラフィックデザイン関連ソフトウェアの取り扱いを始めたことがきっかけとなり、次第にクリエイティブ業界のデジタライゼーションをリードするシステムインテグレーターとして業界に認知されていく。
2000年以降は3DCG・映像関連分野にも幅を広げ、その一環としてワークステーションをはじめとする日本HP製品も取り扱うようになった。
そんなTooがCWFのシステムインテグレーションを始めたのは、新海誠監督の『君の名は。』(2016年)が公開された後のことだった。
CWFもデスクトップマシンに限らず、ネットワーク、サーバ、ストレージなど、制作現場のシステム全体に課題があるという認識を持っていないわけではなかった。Tooの宮内章臣氏(デジタルメディアシステム部 営業1課 マネージャー)は、「『天気の子』の制作スタートに向け、システム環境を一から作りたいというのがCWF側の要望だった」と話す。
CWFの要望を拾い上げたTooは、適材適所のシステムを提供することで、現場が抱えていた課題を一つずつクリアしていった。その中で3DCGなどの高負荷処理に耐えられる環境として導入を提案したのがHP Z Workstationだった。
Tooの板山裕樹氏(デジタルメディアシステム部 営業1課 アカウントマネージャー)は、日本HPのHP Z Workstationを提案した理由を次のように説明する。
「以前のCWFでは、マシンが故障すると制作スタッフが対応していたそうです。その影響でアニメーション制作の作業進行にも遅れを生じてしまうことがあるという現場の苦労話を伺っていたため、当社では信頼性や実績を重視して日本HPのワークステーションを提案しました」(板山氏)
Tooが日本HPのワークステーションを高く評価する理由はいくつかある。そのうちの一つは、マシンが堅牢で壊れにくく、メーカーサポートが充実しているところだ。Tooの内山拓哉氏(デジタルメディアシステム部 セールスサポート課)は、システム全体の安定性を評価しているという。
「ホワイトボックスでも他社製品でも、マシンを導入した時点では問題なく動作します。しかし、何カ月も高い負荷の処理を続けていくと、必ずトラブルに見舞われてしまう。内部の各パーツ自体は頑丈でも、システム全体のバランスが悪いと不具合を引き起こす可能性が高まるのです。日本HPの製品はシステム全体が一貫して設計されているため、バランスが良く、壊れにくいと感じています。他のアニメーション制作会社にも多くのシステムを導入してきた経験上、『日本HPの製品なら何とかなる』ことを身を持って感じています」(内山氏)
さらに本番導入を想定したハイスペックのワークステーションを事前に試用できる点も、他社にはない日本HPの強みだという。
「3DCG映像制作のような非常に負荷の高い処理を実行する場合、実際に導入してみないと必要なスペックが分からないこともあります。その点、日本HPは高負荷の処理性能を体感できるハイスペックの貸し出し用マシンが用意されているため、実際の作業データを用いて事前検証していただくことができました。こうした細かな部分も、CWFにHP Z Workstationをおすすめした理由です」(板山氏)
ワークステーションを制作現場に導入するにあたり、Tooは制作現場の用途に応じてスペックが異なる2種類のマシンを提案した。『天気の子』には随所に雨や水滴の表現があるが、これらの3DCG映像の制作を担当するCGチームには、ハイエンドの「HP Z840 Workstation」を導入した。一方、撮影や編集のために映像合成を行うレンダーファームには、インテル® Xeon® W-2102 プロセッサー搭載「HP Z4 G4 Workstation」をクラスタ構成にして導入した。
それぞれの用途に合わせてスペックとモデルを決めたが、HP Z Workstationならいずれのモデルでも「処理を止めてはいけない」という要件を満たせる信頼性があったと内山氏は語る。
インテル® Xeon® インテル® Xeon® E プロセッサーは、エントリーレベルのサーバー・ソリューション、プロフェッショナル・ワークステーション、セキュアなクラウドサービスに必要不可欠なパフォーマンスと高度なセキュリティー・テクノロジーを備えています。インテル® UHD グラフィックスと、トップ・ワークステーション・アプリケーション向けの認証機能を搭載しています。
実際にZ840を導入したCWFのCGチームは、そのパフォーマンスをまさに体感したという。『天気の子』のCGチーフを務めた竹内良貴氏も「HP Z Workstationを導入したことで、CGチームをはじめとする制作現場では、ストレスなく仕事ができるようになりました。故障対応などの本業以外の作業に時間を割かれずに済み、仕事の生産性が大きく向上したと実感しています」とコメントしている。
一方、内山氏自身が特に気を配ったのが、レンダーファームの構成だったという。CWFでは十数台のHP Z4 G4 Workstationを同一スペックで導入した。これはパーツの共用化によって、万が一のトラブルが発生してもマシン間でパーツを融通し合えるという利便性も想定したものだ。しかし、理由はそれだけではないという。
「実は異なるメーカー、スペックのマシンをレンダーファームに混在させた場合、レンダリング処理した映像の色が微妙に変わってしまうというトラブルも発生しかねないことが分かっています。同一のマシンを導入して並列処理すれば、それを避けられます」(内山氏)
CWFが導入したHP Z Workstationは、『天気の子』の “新海ワールド”の要となる美しき映像制作を支えたと言っても過言ではない。また、TooがCWFに対して提供しているソリューションは、CGチームや美術チームが使うハイスペックなワークステーションに限ったものではなく、デスクトップマシンからサーバ、ネットワークまでシステム全体にわたっている。そして現在、『天気の子』の制作を通じ、いくつかの新たな課題も浮き彫りになったという。
「今回はサーバのファイルをデスクトップマシンにコピーしてから処理をするという使い方をしていましたが、ストレージネットワークの性能を向上させれば、サーバにあるファイルを直接編集できるようになり、さらに作業の効率化、仕事の生産性向上に役立つと考えています。こうした課題解決をはじめとするシステムのあるべき姿を、CWFの制作現場とコミュニケーションを取りながら、『天気の子』に続く次回作に向けて、よりよい作業環境構築の提案をしていきたいと考えています」(内山氏)
『天気の子』の制作に合わせて導入されたHP Z Workstationは、今後もCWFの制作現場で使われ続けていくだろう。制作環境の進化によって、作品作りはどう変わるのか。今後の新作にも期待が高まりそうだ。
記事制作:ITmedia NEWS編集部
『天気の子』の3DCG制作画面が見られる!