Project MARSに参加した豊島岡女子学園高等学校天文部。第1フェーズで惜しくも破れるも、開成高校、聖心インターナショナルスクールと合同チームを組み、敗者復活として第2・3フェーズに挑戦しました。「答えのない課題」に取り組む生徒たちはどんな経験を得、成長したのか。天文部顧問中嶋淳先生に聞きました。
―「Project MARS –Education League JP-」は天文部の活動の一環として挑戦されたそうですね。
中嶋淳(以下、中嶋) たまたま本校で行われたJAXAの方による講演会で、小惑星探査機「はやぶさ」や火星についての話を聞いたばかりだったので、Project MARSの企画を知ったときは非常にタイムリーだなと思いました。それで天文部の生徒に「こんなプロジェクトがあるよ」と伝えたところ、「やりたい!」と即答したんです。
―高校1年生の6名が2チームに分かれて参加したんですね。
中嶋 6名のうちの2名がもともと大学のプログラムに個人的に参加するなどして、自ら活動の幅を広げており、残りの4名はその2名に刺激されたところが大きいです。あとは、女子校なので他校の男子が課題をどう捉えるのか、プロジェクトには大学生や専門学校の生徒も参加するので、高校生レベルの「好き」とは違う専門的な側面に触れられるのではないか、という知的好奇心もあったと思います。
―最初はHPの方が学校にいらして、ミニワークショップをされたんですよね。
中嶋 彼女たちはProject MARSの課題に関して何から考えてよいかもわからず、暗中模索しながら、火星の情報だけは個別に調べていました。そこでワークショップを開催いただき、ブレインストーミングをする中で何か答えらしきものを結びつけていくことができる、というのが、普段のクラブ活動とは違ってすごく新鮮だったみたいです。
中嶋 端で見ていても、彼女たちのポテンシャルの高さを感じました。ワークショップ後も3人ずつ2チームに分かれ、ぶつかりあいつつ、意見を交換していました。
―その後、本戦に挑戦するも、第1フェーズ「書類選考」で残念ながら2チームとも敗れてしまった。
中嶋 ええ。ただ、決勝のプレゼンを全員で見に行ったのですが、決勝に進んだチームと自分たちとの間にそれほど差がないことに気がついて。頑張った、やりきったというのはあるけれど、「もっとやれたかもしれない」という悔しさが滲んでしまったみたいなんですね。彼女たちはアイデアの正解・不正解という固定観念に縛られていたので、もっと自由に自信をもってやりきっていたら、違う結果になったかもしれなかったと……。
それで、その悔しさ、やり場のないもどかしさを、文化祭の展示発表に向けて昇華しよう、と気持ちを切り替えました。火星に対する都市計画を模造紙に書いてプレゼンするという企画を立案したり、自分たちなりに「答えのない課題」を後輩たちに与えたりして、文化祭に向けて準備を始めたわけです。
そんなころに、開成高校の生徒から「一緒にやらないか」という打診があったんです。ただし、開成と聖心インターナショナルスクールと本校の3校合同で、1校から2人しか参加できない。やりたいと手を挙げた4人でじゃんけんをしたら、勝った田井と中野が、偶然にもともと外部でいろいろな活動をしていた2名でした。
―3校はどのように連絡を取り合って、第2、第3フェーズと進んでいったのですか。
中嶋 LINEでグループをつくって会話したり、休日にスターバックスなどカフェに集まったりしたそうです。第2フェーズはコンピューターを使った「3Dモデリング」だったのですが、これは初めての作業で相当苦労をしたようです。また国際コンペへの参加ということで刺激も多くあったようですね。第3フェーズのVR化の提案もさらに高度な作業で、いろいろあったようですが、チーム力強化のために直前に合宿なども行っていました。
―自分の意見を戦わせる機会というのは彼女たちにとって非常に大きかったのではないかと思うのですが、田井さんやと中野さんに感じる成長は何かありましたか。
中嶋 自分たちの視野の狭さがわかり、理論や裏付けが少ない分、アイデアで勝負しようという開き直りがあったような気がします。本当に強気になったなと。ただ、自分の学校の中に閉じていてはなかったことだと思います。
ただし3校合同だったので、男女の違いはもちろん、同じ女子でも学校の文化的背景から現れる違いに苦労したようです。自分たちが当たり前だと思っていたことが、他の2チームでは当たり前ではないということに気がついたというか。家でも母親に弱音や愚痴を言っていたようで、「いい経験をさせてもらっているけれど、ただ、いまは辛そうです」という報告をいただきいたこともありました。私としては「ここをどう乗り越えられるかで、今後が変わると思います」とお伝えしました。
彼女たちは、知識云々以前に、自分の考えを言えなかったらしいんですね。ぶつかることすらできないと。それで、「一方的に意見を言うのはよくないから、相手の意見をいったんは聞いて認めつつ、ここは通したいというように話してみよう」とアドバイスしたところ、少しずつ失敗や衝突を繰り返しながら、自分の意見をきちんと伝えられる関係性を築き、最後の合宿のころにはすごく仲良くなったと聞いています。
―第3フェーズで残念ながら負けましたが、その後の11月の文化祭でVRを展示されています。これはどのような経緯で?
中嶋 その6名がやってみたいと最初に言い出したんです。ただ、天文部としてやるのか、6名が有志でやるかが問題で。天文部としての活動になった場合は、その6名だけでなく、天文部所属の中学生にも参加してもらわないといけない。それは後輩たちからすると大きな負担になる可能性があったんです。
一方で、それまでの天文部は文化祭でタロットカードを使った占いブースをやっていた。「天文部といえばタロット」というところがあって、来場者も多かった。それをなくして、完成するかどうかわからないものを天文部の展示のメインに据えるということに対しては、きちんと考えないといけなかった。
そこで私は「中学生たちに『やろう!』と思わせられなかったら、無理だよ」と高校生に伝えたのですが、彼女らの情熱が届いたのか、中学生からも「やりたい」という意思表明を大多数の子たちからもらったそうで、天文部としてVRを展示することに決定しました。
テーマは「火星にいて、地球では体験できないような環境下でいろんな施設をまわる」です。中高合わせて20人以上いるので、5つのグループに分かれ、徹底的にブレストしてアイデアを出し合った。最初はVRがどれほど大変なものかわからず、すごく欲張っていたんですよ。あれもつくりたい、これもつくりたい、こんな動きもやってみたい、と。それをだんどんとシェイプアップさせていきました。
―最終的には中学生も高校生もみんな楽しめましたか。
中嶋 楽しんでいましたね。全員分のコンピューターがないので、中1と中2がひとりずつ、高2がふたり、講習会などに参加してモデリング制作を頑張ってくれました。中学生が3Dモデリングに挑む姿は当初想定していませんでした(笑)が、上手に夏休みを利用してなんとか形に仕上げてくれました。技術的にも素晴らしい成長を感じました。その他の生徒は、アイデア出しとアナログなデザインとバックアップを担当しました。
―文化祭を見に来られた方の反響はいかがでしたか。
中嶋 本校の文化祭来校者は14,000人を超え、天文部の展示スペースに来てくださる方は例年数千人いるんです。今年は希望される方々に抽選券を配布したのですが、2日間で100人ほどの方にVRを体験していただけました。抽選券の倍率は約10倍だったので、1,000人近い人に関心をもっていただけたことになります。
体験された方からは「すごい」「驚いた」という声をたくさん頂戴しました。文化祭後、本校の生徒向けに体験会を開催したのですが、そのときもかなりの人数が集まってくれて、「すごいね」と言ってもらえたようです。他教員からも「なかなか難しいことをやったね」と褒めてもらって、それぞれが誇らしく、自信になったみたいです。
―すべてイチからつくったんですよね。
中嶋 ええ。楽器やゲームに比べると動きは少ないし、生徒にできる限られた世界のVRではありましたが、モデリングからプログラミングまですべてイチからつくりました。体験提供という意味では、なかなか体験できないものを来校者に提供できたというのはとてもよかったですね。基礎ができたので、今後はその基礎にアイデアをプラスしていけたらいいなと。ただ、発起人の2年生が来年の文化祭でも中心になってやってくれるのか、後輩が不安に思っているようで……。時間はまだあるので、「後輩を育成することもクラブ活動のうちだよ」と伝えて、発破をかけています。
正直、彼女たちがそういうことをできるようになるとは思っていませんでした。自分の中だけで終わらせず、後輩たちにも伝えていこうとしている、というのが、Project MARSが本校にもたらした最大の功績かもしれません。