2019.07.17

機械学習をエクセル、パワポ感覚に。ソニーの予測分析ツール「Prediction One」の勝ち筋と未来

リンクをクリップボードにコピーしました
img

2019年6月12日、ソニーネットワークコミュニケーションズは機械学習を用いた予測分析ソフトウェア「Prediction One」の無料提供を開始した。AIツールを実体験すべく多くのユーザーがアクセスし相次いでダウンロードを行なうなど、好スタートを切ったようだ。

「使いやすさ」と「高精度」を両立させた同社の新製品は、データサイエンティストなど専門性が高い業務と思われている「予測分析」という仕事の定義を一変させる端緒となるかもしれない。

本稿では、Prediction Oneの開発者であるソニー株式会社 高松慎吾氏(R&Dセンター、統合技術開発第2部門 知的アプリケーション技術開発部2課)に、同ソフトウェアの開発背景や解決したい課題など、話を聞いた。

「『Prediction One』をエクセルやパワーポイントの様なツールにしたい──」

新製品の将来像を語る高松氏の言葉には、多くのビジネスシーンが直面している「働き方改革」への大きなヒントが詰まっていた。

ソニーのコア技術の活用法を模索し続け開発に至った「Prediction One」

ワンクリックだけで自動予測し高精度、そしてシンプル設計。Prediction Oneは、専門的な知識やノウハウがなくても予測分析を可能にするツールだ。

簡単かつ高精度を最大の特徴としている同社のAIソフトウェアは、Neural Network Console、機械学習による画像判別ソリューションなどに続く3シリーズ目の製品となる。

img

──Prediction One開発の背景を教えてください。

――高松
「開発背景としては、先発の2つと同様で機械学習の開発環境がaibo開発時期から確立していたことが大きかったと思います。

ソニーはかねてからビッグデータに着目していたこともあり、社内には機械学習の開発者が多数在籍し、日々Prediction Oneのコアとなる技術を磨き続けていました。

こうした背景から、私たちは長くコア技術の活用法を模索していたのです。その流れのなかで社内外のネットワークを活かしニーズの探索や発見、効果測定を行ない開発に辿りつきました」

高松氏の話から、Prediction Oneがソニーのコア技術を基盤にした満を持してのものだとわかる。

また、グループ企業内に業界の垣根を超えた多様なデータが蓄積されていたことも見逃せない。サービスリリースと同時に事例が出ている背景にも、それがある。さまざまな業種のグループカンパニーからデータが収集できることが、Prediction Oneの開発を加速させたことは間違いないだろう。

ターゲットは、専門家以外全員

――Prediction Oneは「無料」「簡単に使える」を大きく打ち出していますが、狙っているターゲット層は?

――高松
「開発当初からPrediction Oneのメインターゲットは、予測分析の専門家ではない方です。

ビジネスの現場では、データを保有していながら予測分析をデータサイエンティストに高い報酬を払って任せる。もしくは、手つかずのままにしているのが現状です。つまり、『自分たちでスピーディに予測分析する』という選択肢がないんです。

この市場の空白を埋められれば、予測分析の専門家でない層を一気に獲得できると感じました」

予測分析の仕事の定義を変えていくことがPrediction Oneのミッションだと高松氏はいう。

サービスの無料提供に踏み切ったことも、1人でも多くのユーザーに体験を促すことが目的だ。予測分析の専門家マターとして認識されている機械学習の裾野の広がりにつながると見越してのことだ。

img

――高松
「コールセンターでは入電数が予測できれば効率的な人員配置が可能になる。営業やマーケティング領域で、見込み客を顧客へ移行させる有効な打ち手が分かればKPIを向上できる。

もうそういったことに専門知識は必要なく、Prediction Oneを使ってもらえればいいですね」

Prediction Oneの商品説明会には、高松氏を中心とした開発チームの思惑通り、多様な職種の方々が参加しているそう。Prediction Oneへのユーザーの反応はどのようなものなのだろうか。

予測結果について説明できる、根拠を示せる機能も

――ユーザーからはどんな反応を?

――高松
「Prediction Oneの説明は、顧客の成約の予測を例に行なっています。企業担当者の方々にとくに関心をもっていただけるのは、予測結果について理由が説明できる点です。

自動的に評価データを構成したあと、複数の先端モデルを試し、最も精度の良いモデルを選択してから最後にその選択モデルで予測精度と予測寄与度を算出してレポートを生成していきます」

Prediction Oneを使用すれば、データのどの項目が予測確率の増加、減少に有効かが一目瞭然だ。予測算出の根拠を客観データとして提示できる。

  • なぜその予測結果になったのか?
  • どうしたらさらに精度を向上できるか?
  • どのデータが予測結果にとくに影響を与えているか?

もうこのような質問に口をつぐむこともなくなるだろう。

データを信頼して利用し続けられること、予測分析が組織内コンセンサスを得られるようになることがPrediction Oneの真のバリュー、CSの源泉になる、そんな予感がする。

将来的にエクセルやパワーポイントのようなツールにしたい

img

――高松
「Prediction Oneは現在、ユーザーの活用シーンを確認している段階です。おかげさまで、職場の効率化、生産性向上に尽力されている多様な職種の方にダウンロードしてご利用いただいています。

人事部の『社員の離職予測』や生産管理部門の『不良品予測』といったこともPrediction Oneのターゲット課題になりますので、職種横断的なソフトウェアになることは間違いないと思います」

ビッグデータが盛り上がってから9年。ソニーはそれよりもはるか前から機械学習に触れコア技術の開発に努めてきた。蓄積したコア技術をいかに活用していくかを模索し、辿り着いたPrediction One。昨今、企業が直面している働き方改革の流れに沿うように創出されたようにも見える。

――Prediction Oneを今後どのように展開していくのでしょうか?

――高松
「私たちはPrediction Oneを “ビジネス版天気予報”のよう捉えています。

将来的には、企業のインフラを超えて、ビジネスパーソンにとってのエクセルやパワーポイントの様な身近なツールにしていきたいと考えています」

今後、Prediction Oneがエクセルやパワーポイントのようにオフィスに広く普及していったとき、企業と働く人の意識と行動はどのように変わっていくのだろうか。

なお、Prediction Oneは定期的に、使い方や活用方法についてのセミナーを実施する予定だ。

img

(制作:Ledge.ai 執筆:Ledge.ai編集部)