2019.07.25
「月間180時間の労働時間を削減し、残業をなくしました。」革新的な店舗運営を行うオーダーメイドスーツ・シャツのスタートアップ「FABRIC TOKYO」でのAI導入ストーリーを、2019年1月に紹介した。その後同社では、顧客満足度が1.5倍に向上するなどポジティブなインパクトが起こっているという。
顧客満足度が上がった背景には、AI導入で生まれた心の余裕とチャレンジを後押しする会社風土があるとFABRIC TOKYO 表参道店 藤本崇氏は語る。
――藤本
「以前は採寸データの入力に、お客様1人あたり15~20分ほど時間を取られていました。接客の間にデータ入力の時間が取れず、溜まった採寸データを閉店後にまとめて処理することも多かったです」
しかし株式会社Cogent Labsの手書き文字認識AI OCR『Tegaki』の導入で、採寸データの入力作業が溜まることは一切なくなったという。
――藤本
「閉店後のデータ入力作業がなくなったことで、店舗スタッフに時間的余裕だけでなく、心の余裕が生まれました。すると、自然とお客様ひとり1人と向き合って接客ができるようになりました」
――接客に気持ちの余裕を持てたことで、どのような変化がありましたか?
――藤本
「まずアンケートの回答率が約10倍に向上しました。接客の質がよくなっているのが一因だと思います。アンケートの集計では、顧客満足度はAI導入以前の約1.5倍に上がりました」
接客業だからこそ、店舗スタッフのメンタリティーがそのまま顧客満足度に直結している。
――藤本
「AI導入前は採寸データの登録完了に長いと3~4時間かかることもあり、登録完了と同時に送るアンケートの送信も遅れていました。
しかし現在は採寸から15分後には登録が完了しています。来店後、まだお客様の記憶に残っているうちにアンケートを送れているからなのか、回答率が上がっただけでなく、リアルな声を多く頂けています」
アンケートの回答を参考にし、店舗に設置する採寸用の靴を革靴からスリッパに変えるなど、サービス改善にも役立っているという。
ユーザーの声をダイレクトにヒアリングできる機会が増え、さらに顧客満足度が上がる余地もありそうだ。サービス改善のよい循環が生まれている。
――藤本
「採寸時の満足度が高くなったことで、その後の購入率も上がりました。現在では90%前後のお客様が採寸後、商品のご購入をされています」
――従業員満足度の観点ではどのような変化がありましたか?
――藤本
「AI導入以前と比べ、店舗運営だけでなく部署を横断した社内プロジェクトに積極的に参加する人が増えました。会社全体で新しいことに取り組もうという士気が高まっています。
もともとスキルアップに積極的なスタッフは多いですが、接客以外の業務改善がより活発です。いい接客ができているという自信があるからこそ実現しているのだと思います」
従来のアパレル業界では、毎月売り上げ目標が掲げられ、達成のために在庫管理や店舗レイアウト、人員配置を考えるというのが鉄板の業務だ。
一方、FABRIC TOKYOでは売り上げを至上主義としていない。NPS(ネットプロモータースコア)、または顧客満足をより重視している。
――藤本
「『Tegaki』導入後、顧客満足度や従業員満足度の向上に直結する本当に大事な業務に時間が使えるようになりました」
テクノロジーが人の仕事をサポートする。仕事がAIに奪われるのでは? とよく話題になるがそうではなく、サポートしより良くするものだということをこの話を聞いて再認識した。FABRIC TOKYOではAIが人間のチャレンジを後押ししている。
導入当初、最先端テクノロジーを駆使して、結果を出していくことで、業界全体をアップデートしていきたいと志を語っていた FABRIC TOKYO。実際にテクノロジーを駆使して、顧客との外部接点の強化においても、社内の働き方改革でも大きな成果を出している。
最先端テクノロジーの導入について現場ではどんな気落ちの変化や戸惑い、あるいは抵抗のような受け止め方があったのだろうだろうか?
――藤本
「今回の導入で感じたのは、劇的な変化ほど自然と適用できてしまう、ということです。とくに何のトラブルもなく、スタッフみんなが自然とAI OCRに慣れていきました。気づいたら作業が楽になっていて、ミスも減っていたという印象です。
現場スタッフの変化への抵抗などを予想し、受け入れの準備をしていましたが、実際ほとんど必要ありませんでした」
AI導入をきっかけに、顧客満足度や購入率向上を実現したFABRIC TOKYO。
テクノロジーのサポートにより生まれた時間や心の余裕は、店舗スタッフだけでなく、その先にいる顧客にとってもポジティブな効果を生み出していた。スマートフォンの劇的な普及もそうだったように、AIのもたらす変化も、想像以上に自然な形で社会に定着していくのだろう。
(制作:Ledge.ai 執筆:金田 捺)