2019.05.23

Ledge.ai

300店のベーカリーに導入された画像認識AIレジの秘密に迫る

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「弊社のAIは100%の精度は求めていません。人間と同じように、よく似たパンは間違えることがありますよ」── そう言うのは、AIレジ「ベーカリースキャン」開発元である株式会社ブレインの原 進之介執行役員だ。AIの精度が100%ではないにせよ、それを包み隠さず話す姿に驚いた。しかもAIレジを導入したベーカリー店長を前にだ。

これは一体どういうことなのか。店舗でパンがどのように購入されているのか、その様子を実際に見てきた。

画像認識が搭載されたAIレジでの購買体験

購入者がトレイに好きなパンを取り、行列に並ぶ。ベーカリーでよく見る光景だ。

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パンやトレイにも、特別変わったことはない。

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会計時に登場するのが、AIレジである。セミセルフ精算機の横にある特殊な撮影装置も、AIレジの一部だ。ここで画像認識技術を使い、パンを識別しているという。

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識別されたパンは購入者側のモニターにも表示される。

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その後、購入者自身が会計を済ませ、その間にスタッフがパンの袋詰めを行う。

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紹介した購入フローは至ってシンプルだが、じつに多くの課題を解決している。単に「パンを画像認識で識別する」ことだけが価値ではない。

ここからは、AIレジを導入したベーカリー「ジャン・フランソワ」東京ミッドタウン日比谷店の大津 綾香店長と、ジャン・フランソワ運営元である株式会社グルメブランズカンパニーの広報を担当する落合 菜月氏、原氏の3人に、AIレジの仕組みと導入後の本音を聞いていく。

ディープラーニングは、パン屋のAIレジでは使えなかった

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── 単刀直入ですが、パンをどのように識別しているのでしょうか? やはり、ディープラーニングを活用しているのでしょうか?

── 原
「ディープラーニングは使っていません。画像認識は独自開発した技術を使っています。画像データを学習させるという点では、ディープラーニングと変わりません。

しかし、学習させる個体は30~40あれば十分です。パンをさまざまな角度から撮影すればいいので、実際に用意していただくパンは3~4つで十分です。40個もパンを焼くのは大変なので」

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── 原
「ディープラーニングは、AIレジには適さないと思います。数百、数千の個体を学習させるのは、非常に時間とコストがかかります。ベーカリーでは毎月、多い場合で20種類近くの新商品が出ます。その登録を時間をかけて行うのは、現実的ではなかったんです」

実際、新商品が出た際には店員がたったの2~3分で登録できる仕様になっている。

驚くべきは、画像認識に必須のハイスペックなマシンも必要ないという点だ。ベーカリースキャンは、市販のパソコンレベルのCPUだけで十分に動作するという。

―― 画像認識機能だけでなく、POSシステム自体も開発されたということでしょうか?

── 原
「そうです。ただ、もともとは画像認識の部分だけを開発し、ベーカリー業界に適した既存のPOSシステムに連携させようと考えていました。しかし、当初はどのPOSメーカーに交渉しても、了解が得られませんでした。双方のシステム開発がハードルになったんです。

それなら自分たちで作ってしまおうと。POSシステムの要件をいちから勉強しました」

こうして生まれたベーカリースキャンは、すでに全国300店舗、合計450台が導入されている。さらに、画像認識の精度を上げるための特許も取得している。

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下から照明を当てることで、識別が難しい輪郭部分の認識精度を上げているという。

ベーカリースキャン誕生の裏にある、圧倒的ユーザー視点のプロダクト開発

── 今でこそ多くの導入実績がありますが、ベーカリースキャンはいつどこで誕生したのでしょうか?

── 原
「きっかけは、地元兵庫の外食事業者からの相談でした」

「ベーカリー事業をフランチャイズ展開したいが、初心者でも簡単に扱えるレジ欲しい──。」

ベーカリーのレジは、会計はもちろん、同時に袋詰めまでする必要がある。当然、ピーク時は混雑し、店内に長い行列ができる。その問題は地元だけではなく、全国の繁盛店の共通の課題だった。

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── 原
「ベーカリースキャンは、お客様自身が支払いをするセミセルフレジです。お客様が支払いをしている間に、店員は袋詰めができます。さらに、従来は金銭授受と袋詰めを交互に行っていたので、衛生的にも良くなかったんですね」

原氏は、ユーザー目線に立ったプロダクト開発・改良を徹底しているという。設置工事から稼働初日まで3日間は、担当スタッフが付きっきりでサポートする。導入後もスタッフが足を運び、現場の課題を見逃さない。

── 原
「袋詰めのスペースが狭いとか、レジ待ちの行列が他のお客様を妨げているとか、最大限の効果が出るように踏み込んだ課題抽出をしながら導入を進めています。地道に、着実に、ユーザーに寄り添ってモノを売るのが我々のポリシーです。

重要なのは、AIや画像認識の技術を使用することではありません。これらの技術が100%の精度を出すのは無理だと思っているので、AIと人間の役割分担を考えるんです。そうすることで解決できる課題が明確になります。

なので、ベーカリースキャンは人間と同じように間違えることは、お店の方にも伝えています。そのうえで、そこを補うように工夫しているんです」

ベーカリースキャンは発売当初、商品の輪郭を正常に認識できなかった場合は、スタッフがパンの位置をずらして再度認識させていた。しかし、商品を何度もいじることで顧客の表情はこわばっていた。現場に訪れ、観察することでその課題を発見できたという。

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スタッフが指でなぞることで、パンの位置をずらさずともすぐに修正できるようになった。また、パンの種類も確度が高い順に割り当てられるため、修正にはほとんど時間はかからない。

導入先パン屋からの声 ── 「メリットしかない」

── 毎日AIレジを使っていると思いますが、本音をお聞きしたいです。

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── 大津
「ベーカリースキャンには毎日助けられています。今までは、混雑時にレジ担当が4人必要でした。レジが2つあるので、会計する人と袋詰めする人ですね。

AIレジに変わったことで、2人で十分になりました」

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── 落合
「ジャン・フランソワは6店舗を展開していて、すべての店舗で必要なのがスタッフのトレーニングです。

スタッフは、

・パンの種類
・名前
・値段
・レジ打ち

を覚える必要があります。通常『覚えてから、やってみる』という流れが、AIレジが導入されたことで、『覚えながら、やってみる』に変わりました。そうなったことで、トレーニング時間が大幅に削減され、効率も上がりました

AIレジ導入の効果を数字で見ると、メリットは一目瞭然だ。

・レジの処理速度アップで売上5~10%アップ
・店員2人 × レジ3台 = 6人 → 1人 × 3台 = 3人で人件費大幅削減
・研修期間を1ヶ月から1週間に短縮
・レジ入力時間を1回あたり15秒 → 8秒に短縮

ベーカリースキャンの導入コストは、一般的なPOSシステムのおよそ2~3倍ということだが、導入効果を見れば妥当だと感じる人も多いのではないか。

── 原
「弊社のポリシーでもあるのですが、我々は、AIを作りたかったわけではありません。まだ世の中にない、役に立つ、夢のある製品を作りたかったんです。

今後も徹底的なユーザー目線で、世の中の役に立てる製品を生み出していきたいと考えています」

Ledge.ai(制作:Ledge.ai 執筆:河村 健司)
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