2019.08.27
6月3日、金融庁は「高齢社会における資産形成・管理」という報告書のなかで、今後年金が実質的に減額されることで、老後の生活資金として2000万円必要になることについて言及した。
同書で金融庁は資産形成の自助努力を呼びかけており、「投資」が国民から注目されている。
金融庁は、2001年から「貯蓄から投資へ」を政府方針として掲げていた。しかし、日本銀行調査統計局の「2018年第4四半期の資金循環」によると、2004年から2018年まで家計金融資産の現金・預金の割合はほとんど変わっていないのが現状だ。
つまり、政府方針で「貯蓄から投資へ」を掲げているにも関わらず、この14年間で国民の貯蓄が投資に回されることはほとんどなかった。
また、日本銀行調査統計局が2018年8月14日に発表した「資金循環の日米欧比較」によると、日本の家計資産の投資の割合はユーロ圏より2倍、米国より3倍も低い。諸外国に比べ、いかに日本人の投資に対するハードルが高いのかがわかる。
そんな投資へのハードルが高い日本人に紹介したいサービスがある。SMBC日興証券と、将棋AIで有名なHEROZが共同開発した「AI株式ポートフォリオ診断」だ。
AI株式ポートフォリオ診断とは、ユーザーのリスク許容度を踏まえ、より効率的な運用が期待できるポートフォリオを提案するサービスだ。
決算データや株価データを学習させた株価予測AIが国内株式上場銘柄の株価データを分析し、1ヶ月先の期待収益性を予測する。
その予測を基に、個々人にあったポートフォリオを提案するというものだ。SMBC日興証券のダイレクトコースを契約しているユーザーなら、誰でも利用できるという。
AI株式ポートフォリオ診断の使い方を、実際に見せてもらった。
ポートフォリオの提案か診断かを選択した後、投資金額と購入検討中の銘柄をひとつだけ選び、銘柄を購入する市場を選択。
最後に自分のリスク許容度を選択すれば、準備完了だ。ちなみに自分のリスク許容度がわからない場合は、いくつかの質問に答えることでその数値まで診断してくれる。
こちらがポートフォリオの提案結果。AIが投資金額やリスク許容度などから、3タイプの提案をしてくれる。リスクが10段階、期待収益が6段階で表示される。
自分が選択した銘柄と相性がよく、かつ指定した条件を満たすポートフォリオを提案してくれる。
一般的に個人で株式投資をする際は、企業の決算書の分析やチャート分析(株価や為替などの将来の値動きを価格や出来高などの過去の動きから予測する分析)は不可欠だが、初心者にとっては非常に難解かつ煩雑だ。
これらの煩雑な作業が、日本人の株式投資に対するハードルの高さの原因でもあるだろう。AI株式ポートフォリオ診断を使えば、煩雑な分析をすることなくAIが投資のサポートをしてくれるのだ。
ではAI株式ポートフォリオ診断を使えば、必ずAIが収益を上げてくれるのだろうか?
――棚橋氏(HEROZ株式会社)
「期待収益はEからSで評価されますが、Sだからと言って必ずしも利益が出るわけではありません。そのときの市場でより良いものをS評価とします。
たとえば、リーマンショック直後の株式市場では、どの株式を選んでいても大抵損失が出るでしょう。しかしそのなかでも損失がより少ないものをAIが選んでくれます。
つまり、絶対的なリターンを当てるのではなく、市場が下げ相場であればそのなかで一番下落幅の低い株を提案してくれるわけです」
煩雑な分析も必要なく、なによりAIがポートフォリオ提案で投資をサポートしてくれる。しかし、そもそもなぜ日本ではここまで投資が流行らなかったのだろうか?
SMBC日興証券の丸山氏によると、その理由に投資スタイルの変遷が理由として挙げられるという。
――丸山氏(SMBC日興証券株式会社)
「ネット証券が登場するまでの100年間、ずっと営業員が対面でお客さまを対応するビジネスモデルでした。
しかし、ネット証券が始まった1999年からは、お客様が自分で考えて自由に取引していただくモデルへと移行してきました。これまでずっと営業員が伴走していたものが、急に個人で考えて運用していくものに変わったのです。
運用初心者の方にとっては、自らの知識や経験が必要になったこともあり、投資に対するハードルが上がった側面もあります」
ネット証券の登場から20年、営業員がいないネット証券からの離脱層に対するサポートサービスの必要性を感じたそうだ。投資を始める前から離脱するユーザーも少なくないという。
口座開設してみたものの難しくて株取引をしていない“休眠口座”が、ネット上には無数に存在している。そのようなユーザーの手助けになるのではないか?と始まったのが、AI株式ポートフォリオ診断だという。
自社ユーザーの休眠口座の解消から投資×AIに着目し始めたSMBC日興証券。では、AI開発のHEROZはなぜ投資に着目したのだろうか。元々証券会社に在籍していたHEROZ CFOの浅原氏は、「証券業界や金融業界には、AIが活用できる余地が十分にある」と語る。
――浅原氏(HEROZ株式会社 CFO)
「我々は、AIでさまざまな産業にインパクトを与えたいという思いがあります。
金融業界には構造化されたデータがたくさんあり、新しくデータを集めなくても、決算資料や株価データはデジタルデータですでに存在しています。つまり、AIに学習させる教師データがふんだんにあったのです。
AIと掛け合わせることで、産業にインパクトを与えられるだけの素地は整っていたので、ここでAIを活用しないわけにはいかないだろうと思いました」
AIが株式ポートフォリオを提案することによって、ユーザーが買いに走りチャートに影響することはないのだろうか?
――浅原氏
「同じ銘柄を集中して推奨することはないように設計されています。提案内容を極力分散させ、また活発に取引されていない銘柄も推奨しないため、チャートになるべく影響が出ないようにしています」
AIは現在さまざまな産業に適用されている真っ只中だ。まさに金融業界にAIを適用させた今回のプロダクトは、今後投資の世界や競合他社にどのような影響を及ぼすのだろうか?
――安田氏(SMBC日興証券株式会社)
「AI株式ポートフォリオ診断が与える影響は非常に大きいと思っています。普通人間では3000もの銘柄すべてを把握することはできません。
しかしAIなら、マーケットのすべての銘柄を把握するだけでなく、そのなかから瞬時でより良いものを選んでくれます。また、このサービスは自動運用するものではありません。そのため、お客様も自分の意思に沿った決断ができるのです」
――丸山氏
「投資の世界への影響というと、他社による類似サービスの追随などの懸念の声がありますが、私はそれが悪いことだとは思いません。私たちは今回の技術を特許申請しましたが、それはこの技術をただ縛りたいわけではなく、知的価値を見える化しただけにすぎません。
他社が参入することによって、投資家がさらにマーケットに入ってくる。マーケットをより盛り上げることに繋がるのではないでしょうか」
金融庁の発表から1ヶ月近く経ってもほとぼりが冷めない「老後2000万円問題」。
先日の発表に困惑していた人たちや投資初心者にとっても、今回のプロダクトが大きな手助け、きっかけになるのではないだろうか。
AI株式ポートフォリオ診断を皮切りに「貯蓄から投資」への流れが加速するかもしれない。
(制作:Ledge.ai 執筆:堀健一郎)