2022.08.31
グリーンプリンティング制度とは、環境に配慮した印刷工場で製造された印刷物を認定する制度です。従来の環境認証とは異なり、印刷工場、印刷資機材、印刷物のそれぞれに対し認定制度を設け、総合的に判断しているのが特徴です。
しかし、差し迫る気候変動リスクと対峙するためには、印刷業界に閉じたグリーンプリンティング制度への対応だけでは不十分です。そこで本稿では、グリーンプリンティング制度の概要、取得メリットを解説した後、印刷業界だけでなく、社会から全産業に向けた要請でもある気候変動対策の一部であるカーボンニュートラルへの取り組みまでご紹介します。
グリーンプリンティング(GP)制度とは、印刷業界における環境自主基準に基づき、客観的証明として認定を行い、「GPマーク」という認定マークを表示できる制度です。日本印刷産業連合会が認定機関となり、環境に配慮した製品づくりを推進しています。
グリーンプリンティング制度の特徴は、印刷物の営業や企画、デザイン、製版、印刷、表面加工、製本、出荷、リサイクルなどすべての工程に基準を設けているという点です。従来の印刷物に対する環境マークは、製造工程の一部や紙などが対象でしたが、グリーンプリンティング制度では総合的に判断しています。
本制度は印刷形式により、オフセット印刷部門、シール印刷部門、グラビア印刷(軟包装)部門、スクリーン印刷部門の4部門に分かれています。さらに、下記で解説するように、印刷工場、資機材、印刷製品に対して認定制度を設け、印刷業界における環境配慮を包括的に推進している点が特徴です。
2006年度から運用をスタートし、2019年3月末時点でGPマークが表示された印刷製品は5億9千万部に及びました。企業のCSR報告書やパンフレット、官公庁の発行物などにGPマークが付与されています。
出典・引用:GP認定&SDGs / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/files/user/pdf/greenprinting/GPandSDGs_leaflet.pdf
グリーンプリンティング(GP)工場認定制度とは、認定基準に基づいた審査を実施し、環境に配慮した工場を認定する制度です。認定基準は事業所全体と工程ごとに定められており、次の内容が含まれます。
印刷工場がGP工場認定を受けるには、まずGP認定審査員による申請書および現地審査を通過する必要があります。その後、第三者で構成されるGP工場認定委員会の審査を通れば、認定が受けられる流れです。また、GP工場認定後は3年ごとに更新審査が実施されます。
GP工場として認定されるには、次に説明するGP資機材の使用が評価項目として挙げられています。
出典・引用:制度概要 / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/greenprinting/detail/id=1449
GP資機材認定制度とは、印刷工場で使用する資機材について、環境配慮基準に基づいて認定する制度です。本制度はオフセット印刷部門において運用されており、対象となる品目は次のとおりです。
認定されるには、印刷資機材メーカーの認定基準適合証明書から、環境配慮レベルをスコア化する必要があります。そしてスコアに応じて、3段階のGPマークが付与される仕組みです。
出典・引用:制度概要 / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/greenprinting/detail/id=1449
GP製品認定制度とは、GP認定工場において環境配慮基準に基づき製造された製品に対し、環境ラベルであるGPマークを付与できる制度です。具体的には、次に挙げる項目において環境配慮基準を満たしている必要があります。
GPマークには、GP認定工場の認定番号や、環境配慮の水準がわかるスターマークが表示されているのが特徴です。環境配慮の水準によりGPマークが異なり、ワンスター、ツースター、スリースターの3段階があります。
出典・引用:制度概要 / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/greenprinting/detail/id=1449
グリーンプリンティングをSDGsの観点から考えてみましょう。GP認定制度は、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」の「持続可能な生産消費形態を確保する」という目標達成に貢献します。
GP認定を取得するには、調達者として「つかう責任」を果たすだけでなく、VOC排出量の抑制や水なし印刷、デジタル化、リサイクル活動などを通じて、「つくる責任」も果たす必要があるからです。
出典・引用:GP認定&SDGs / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/files/user/pdf/greenprinting/GPandSDGs_leaflet.pdf
グリーンプリンティングの基準や審査について、取得方法や費用も含めて具体的に解説します。
GPマークの取得方法はシンプルです。GP認定工場が製造した印刷物の資材がグリーン基準を満たしていれば、無料で表示できます。
GPマークを表示するには、製造工程と印刷資材のふたつの基準を満たす必要があります。製造工程の基準とは、GP認定工場で印刷されているか、印刷資材の基準とはグリーン基準に基づいた資材を使用しているか、という意味です。
オフセット印刷部門の例で、GPマークの表示基準を考えてみましょう。オフセット印刷部門において、製造基準と資材基準は次のようになります。
製造基準 | GP認定工場が製造している 営業企画、デザイン、製版、刷版、印刷、表面加工、製本、デリバリにおいて環境基準を満たしている 事業者は環境に配慮した製品を提案している デジタル印刷が導入されている など |
---|---|
資材基準 | 印刷製品の資材(用紙、インキ類、表面加工材料、製本のり)がグリーン基準の水準2以上を満たしている 用紙は、古紙パルプ配合率が60%以上で、残りは森林認証パルプを使用している インキに化学物質を使用していない など |
オフセット印刷部門におけるGP認定工場の基準として70項目があり、必須項目に加えて70%以上の項目をカバーしている必要があります。
出典・引用:
GPマーク表示 / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/greenprinting/detail/id=1449
印刷物ができるまで〜環境に配慮した印刷への取組〜/ 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/air/air_pollution/voc/event/voc/h25voc04.files/printorder2.pdf
GP工場認定とGP資機材認定にかかる費用は、次のとおりです。
<GP工場認定>
日本印刷産業連合会の会員企業か一般企業(非会員)かによって、審査料と認定登録料が変わります。ここでは、一般企業(非会員)の費用を提示します(2019年8月時点)。
従業員規模 | 認定審査料 | 審査料 | 認定登録料 | 合計 |
---|---|---|---|---|
9人以下 | 20,953円 | 83,809円 | 41,905円 | 146,667円 |
10〜19人 | 20,953円 | 167,619円 | 41,905円 | 230,477円 |
20~29人 | 20,953円 | 272,381円 | 41,905円 | 335,239円 |
30~49人 | 20,953円 | 377,143円 | 41,905円 | 440,001円 |
50~99人 | 20,953円 | 481,905円 | 41,905円 | 544,763円 |
100~149人 | 20,953円 | 586,666円 | 41,905円 | 649,524円 |
150~199人 | 20,953円 | 691,428円 | 41,905円 | 754,286円 |
200~249人 | 20,953円 | 796,191円 | 41,905円 | 859,049円 |
250~299人 | 20,953円 | 900,953円 | 41,905円 | 963,811円 |
300人以上 | 20,953円 | 1,005,715円 | 41,905円 | 1,068,573円 |
<GP資機材認定>
登録費 | 認定申請可能点数 |
---|---|
104,900円 | 10点まで申請可 |
209,800円 | 30点まで申請可 |
314,700円 | 50点まで申請可 |
419,600円~ | 104,900円増えるごとに20点加算 |
GP認定を目指す場合は予算を確保し、しっかり準備して臨みましょう。
出典・引用:
グリーンプリンティング工場認定に係る認定申請料、審査料、認定登録料の改定について / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/files/user/pdf/greenprinting/gp_price2019.pdf
資機材認定/ 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/greenprinting/detail/id=1469
GP認定を取得するメリットを3点解説します。
GP認定の取得を目指す中で、コスト削減が期待できます。廃棄物の削減やリサイクル推進活動、省エネ対策を講じる必要があり、結果的に経費削減につながるからです。
具体的には、省エネ対策として最大電力の抑制、空調設定温度の調整、機器の停止などに取り組めば、電気料金をカットできます。また、印刷用紙の使用枚数を徹底管理したり、印刷ミスを削減する取り組みを行ったりすることで、廃棄物削減につながるでしょう。たとえ廃棄物が出たとしても、リサイクルできる仕組みを整備すれば、廃棄物の処理費用が削減可能です。
以上のように、ワークフロー全体を見直し、無駄を改善すればGP認定が取得できるだけでなく、コストカットにも貢献する点がメリットです。
取得したGPマークをホームページや名刺、パンフレットなどに掲載すれば、クライアントに環境に配慮した工場としてアピールできる点もメリットのひとつです。
製品のライフサイクル全体で環境問題に取り組む企業は少なくありません。GP認定工場で環境に配慮した資機材を用いて印刷ができると伝えれば、関心のある得意先の目に留まる可能性もあります。
しかし、下記で伝えるように、GPマーク取得だけでは十分に環境配慮ができているとはいいきれません。印刷会社はGP認定の取得だけでなく、2050年のカーボンニュートラルの達成に向けCO2排出量の削減に真摯に取り組む必要があるのです。
GP認定の取得が、環境問題に対する社内への啓もうにつながる点もメリットとして挙げられます。GP認定に向けて従業員が一丸となって取り組む必要があり、手順書の配布や掲示で従業員の環境意識も向上するからです。
また、GPのガイドラインや認定審査基準、評価表などはグリーンプリンティング認定制度のホームページで公開されています。従業員とチェックシートを共有することで社員教育にもつながるでしょう。
環境に関する社内啓もうは、カーボンニュートラルへの取り組みと合わせて実施すると効果的です。では次に、日本の産業全体が求められている環境への対応を詳しく解説します。
出典・引用:
工場申請方法 / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/greenprinting/detail/id=1467
気温や海水温度の上昇など、気候変動リスクの高まりは今や明らかです。気候変動の原因である温室効果ガスの排出を阻止し、カーボンニュートラルを実現するため、京都議定書やパリ協定を経て世界各国が取り組んでいます。
日本でも2050年までのカーボンニュートラルの実現、それまでのマイルストーンとして2030年に温室効果ガスを46%削減すると宣言しました。
国内外の流れを受けてグローバル規模でESG投資が加速し、その額は4,500兆円に達するともいわれています。社会経済の構造そのものが大きく変化しており、環境対応、すなわちカーボンニュートラルへの対応は社会から全産業における要請となっているのです。
印刷業界においては、もはやGPマークの取得だけでは不十分であり、印刷会社として生き残るにはグリーンプリンティング認定には主として含まれない地球温暖化ガス(GHG、その中心はCO2)の削減への取り組みを念頭においた経営が今や欠かせなくなったのです。
印刷業界では、これまでどのような環境対策に取り組んできたのでしょうか? GP制度を含め、1990年以降の歩みを表にまとめました。
1990年 | ・廃棄物処理法への対応 ・VOCなど化学物質の排出抑制 |
---|---|
1997年 | ・京都議定書の採択を受け環境委員会を設置 |
2002年 | ・印刷工場の環境配慮を評価、表彰する「印刷産業環境優良工場表彰制度」を構築 |
2006年 | ・「グリーンプリンティング(GP)認定制度」を構築 |
2010年 | ・経済産業省と経団連による「低炭素社会実行計画」に参画 ・印刷業界におけるCO2削減目標を設定 |
2022年 | ・日本印刷産業連合会によるカーボンニュートラル宣言を発表 |
出典・引用:
印刷産業「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて」 / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/files/user/pdf/kankyo/2022_2050carbon%20nurtral%20sengen.pdf
日本政府の発表を受け、印刷業界では2030年と2050年の目標として以下を掲げています。
具体的には、省エネや再生可能エネルギーの導入、デジタル化による業務効率化を図り、CO2排出量を極小化します。また、低炭素製品の開発や、サプライチェーン全体でのCO2排出量の削減に取り組み、カーボンニュートラル社会の実現を目指します。
出典・引用:
印刷産業「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて」 / 一般社団法人日本印刷産業連合会
https://www.jfpi.or.jp/files/user/pdf/kankyo/2022_2050carbon%20nurtral%20sengen.pdf
本稿の前半部分で解説したグリーンプリンティングへの取り組みは有益です。しかし、それはカーボンニュートラルの達成に向けた入り口にすぎません。なぜなら、グリーンプリンティングが主に目指しているのはVOCの削減だからです。
VOCは温室効果ガスの一部を占めるフロンガスですが、その割合は数%しかありません。温室効果ガスの中心はCO2で構成されていて、このCO2排出量を減らすことでカーボンニュートラルの達成に近づきます。したがって、CO2排出量の削減に取り組んでいなければ、環境に配慮した印刷会社だとは言い難いのです。
カーボンニュートラル達成に向け取り組むには、企業単独ではなく、サプライチェーン全体を俯瞰して取り組む必要があります。また既存事業を環境配慮型に変更するだけではなく、脱炭素社会でどのような付加価値を提供するべきかという、事業戦略の見直しも必須です。
今後10年、20年を見据えて、どのような事業活動を行うべきか、全産業が問われているのです。
では、印刷会社としてカーボンニュートラルに向けどのような取り組みをすればよいのでしょうか? ここでは3点解説します。
まずは自社内でのCO2排出量を把握し、削減計画や再生エネルギーの活用計画を策定しましょう。そして、デジタル化によるプロセスの省力化や自動化を進め、使用電力の削減に取り組みます。
デジタル化を推進すれば、CO2排出量の削減につながるだけでなく、若い人材の登用や採用がしやすいというメリットもあります。
関連リンク:デジタル印刷へシフトする必要性とは? オフセットとの違いや市場規模について
https://jp.ext.hp.com/techdevice/printing/40indg_sc01/
CO2の排出には、事業者による「直接排出」と、関連する他社による「間接排出」があります。日本企業では、サプライチェーン全体で排出量削減に取り組み、脱炭素化を目指す動きが顕著に現れています。
印刷会社も、取引先全体におけるCO2排出量を把握し、脱炭素化に向けた加速が必要です。
関連リンク:企業がカーボンニュートラルに取り組む方法は? メリットや実践事例まで解説
https://jp.ext.hp.com/techdevice/sustainability/planet_sc40_02/
カーボンニュートラル時代に突入することを想定し、自社がどのような付加価値を提供するか、改めて問う必要があります。
CO2排出量が比較的少ないデジタル印刷事業への転換、または商業印刷におけるマーケティング領域など、上流工程への進出が考えられるでしょう。つまり、既存のビジネスモデルを見直し、カーボンニュートラルに向けての変革と、ばら撒き型大量印刷の減少を前提とした新しいビジネスモデルの創出が急務なのです。
カーボンニュートラルへの取り組みは、私たち人類の持続可能性を担保するために、社会経済全体で取り組まなければならない必須命題です。グリーンプリンティング制度という形でいち早く取り組んできた印刷業界は他業界に比べ環境対応は早かったと言えますが、一方で脱炭素社会への対応という観点では、その入口でしかありません。
削減対象を温室効果ガスの大半を占めるCO2に定め、自社の排出量把握と削減計画、そしてサプライチェーンを含めた計画を取引先に開示できるよう、変革を推進していくことが求められているのです。