2022.04.20
写真左)株式会社日本HP デジタルプレス事業本部 ビジネス開発部 出口 慶 氏
写真右)GMGジャパン株式会社 テクニカルセールスマネージャー 竹下 祥文 氏
印刷物の仕上がりイメージや色調を本番生産前に確認・調整するのが色校正である。印刷の世界は奥が深く、色の再現性や安定性は印刷業界における永遠のテーマともいえる。オフセット印刷における校正の現場では、平台校正機の耐用年数が過ぎ、部品供給ストップに伴うサポート終了など、従来型の校正環境の維持が困難になりつつあるのが現状だ。代替校正機、色校正専門職ともに減少傾向にある現場に対し、印刷物の品質への要求は依然として高く、価格や納期へのプレッシャーも大きい。HPは、印刷会社が抱える色校正に関する課題に耳を傾け、HP Indigoデジタル印刷機とGMG OpenColorのコラボレーションによる新しい色校正のソリューションを打ち出した。
色校正(いろこうせい)とは、印刷物がイメージ通り再現できているか実際の印刷前に確かめるための試し刷りで、「カラー・プルーフ」とも呼ばれる。モニター上の色合いがそのまま印刷されるとは限らないので、色調のズレを調整する色校正は重要な工程である。
入稿データの準備が整ったら、印刷物の色数、紙のサイズや種類、ページ数、綴じ方など仕様を決定し、入稿する。入稿完了後は色校正の工程に進み印刷サンプルを作成し、必要に応じて色合いを調整するのが基本的な流れだ。校正が終了すると「校了」となり、オフセット印刷では製版し本印刷に入る。
オフセット印刷の色校正には、本機校正、平台校正、インクジェットデジタル印刷機校正、インクジェットプリンター校正の4種類の方法がある。詳細は次の章で解説する。
色校正の目的は、イメージした色調の再現性を高めることだ。モニター画面と実際の印刷では色の見え方に違いが生まれるケースがあるからだ。カタログ印刷の場合、カタログで見た商品と手元に届いた商品の色合いが大きく異なっていると、トラブルに発展するリスクがある。そこで、本番の印刷を行う前に色校正の工程を入れ、イメージ通りの色調になるよう調整が必要なのだ。
日本の印刷物の品質は世界でもトップレベルだと言われている。そのため、色校正においても高いレベルが要求されるケースが多い。デザイナーや発注者にとっては、自分の求める色で完璧にできあがった最終稿が自分の作品でもあるからだ。一方で、日本の色校正は、世界的な指標で見ればやや過剰だと言われていることも事実だ。しかし、色校正がなければクライアントの思い通りのものが作成できず、何千部、何万部と印刷したものの色が違えば刷り直しとなってしまう。さらに、色校正は、クライアントに色の確認をしてもらうという目的の他に、契約書代わりの意味合いも併せ持つ。特に海外では、校正刷は厚みのあるインクジェットコート紙に刷られ、校了の署名欄が設けられるなど、それ自体が契約書のような役割を担っているという。言い換えれば、色校正は、印刷会社とクライアントが互いに印刷物の色に合意することで量産に進むための重要な工程なのだ。
デジタル化が進む印刷業界において、色校正も時代とともに合理化・簡易化されてきた。特に商業印刷では、ブランドオーナーの判断で、PCモニター上のみで確認を行うデジタルプルーフなども増えている。しかしながら、印刷物そのものが商品である出版物や、厳密な色再現が必要とされるカタログなどは、色に対する品質要求や紙へのこだわりが極めて高く、色校正は依然不可欠なプロセスとして位置づけられている。
では、現在オフセット印刷の現場ではどのような色校正が実施されているのだろうか? ここで一度整理したい。
本番の量産時に使用する実際の印刷機、用紙、インキをほぼ同じ環境で使用 するため、仕上がりとほぼ同じ校正が可能だが、版が必要で手間と時間がかかり、最もコストがかかる方法だ。主に高い色品質が要求される印刷物の校正で使われる。
校正に特化した専用の印刷機で、本番と同じ版や用紙を使用するため、実際の風合いに近く、本機校正よりも少ない損紙・インキ量で済む。しかし、構造上、気温や湿度などの影響を受けやすく、また、職人の個人差で色調のばらつきがあり、下版後は印刷オペレーターが色調を合わせづらくトラブルが起きやすい。一方で、蛍光ピンク等の特色が使用できるため、平台校正機が必要とされる場面が根強く残る。
平台校正のニーズはあるものの、生産や販売、メンテナンスサービスが停止されており、オフセット印刷現場での継続した使用は難しいと考えられる。
枚葉型インクジェットデジタル印刷機でオフセット印刷機の色再現を疑似的に行う。本紙での校正が可能で色のブレが少なく、低価格・スピーディに色校正ができる。但し特色を搭載しない機種が多く、特に蛍光色の再現が難しい。
「インクジェットプルーファー」と呼ばれ、色校正用のプルーフソフトウェアと連携する大判インクジェットプリンターを使用する。色校正の工程をデジタルで簡易化し、低コストで実現できるため、現在では主流の校正方法となっている。利便性や色の安定性は高いが、インクジェット専用紙を使用するため、本紙の質感を確認できないというデメリットがある。
印刷物の色合わせは、最終印刷物を生産する印刷機が基準となるが、色校正と本機印刷の色が違うというトラブルは後を絶たない。色校正では、どれだけキレイな色を出せるかを追求するのではなく、イメージ通りの色を的確に再現し、最終印刷物の色を一致させることが最優先事項となる。
校正は重要なプロセスだとはいえではあるものの、発注者が求めるているものは最終製品である。当然、発注者も色校正で無駄なコストは掛けたくないはずだ。そこで、現在の色校正の課題について日本HPの出口氏に聞いた。
「海外では、色校正をひとつのサービスとして有償化しているケースも見られますが、日本では一般的には色校正で1回当たりいくらというシステムにはなっていません。印刷の価格は、最終成果物に対する対価であり、色校正はあくまでも品質確認の手段だと考えられているため、色校正だけを有償化しづらく、本番印刷費等に転嫁しているのが現状です。そうなると、校正機やソフトウェアの導入に対する投資や予算確保は難しくなります。しかし、校正はやらなければならない。これが印刷業界のジレンマです。
インクジェットプルーファーは、1システムあたり200万円台~500万円程度と比較的投資しやすいのは事実です。ところが、ここで大きな課題となるのが、CMYKと特色を掛け合わせる場合のシミュレーションです。これを実現するためには、ハードウェアとソフトウェアの両方が対応できなければなりません。特色を再現するには、ハード側でその特色インキそのものを搭載できるか、あるいは二次色のインキを持ち、色域の広いところから合わせ込んでいくか、そのどちらかが必要です。とりわけ蛍光色となれば、通常のインキでは対応できませんから、蛍光インキを特色として搭載できなければなりません。この分野は平台校正機を使って対応しているケースが多いのですが、これを代替しようとした時に、以前は完璧に当てはまるソリューションがありませんでした。
一方、マッチング精度を上げるには、色空間の特性を記録するプロファイルを作成し、カラーマネジメントできるソフトウェアが必要です。GMG OpenColorは、特色に対応できる色管理システムですが、以前は接続できるハードウェアが限定されていました。ですが、GMG ColorServerというソフトウェアを介して色変換することで、あらゆるデジタル印刷機で使用できるようになり、HP Indigoデジタル印刷機とGMG OpenColorの組み合わせが実現しました」と出口氏は解説する。
蛍光ピンクのインキは、出版分野で利用頻度が高く、特にコミックスで、キャラクターの肌や髪の色を発色の良い仕上がりにするための補色として使用される。これはコミックスの伝統的な技法であり、日本特有の需要だ。HPは、日本のコミックス分野の要望に応える形で蛍光ピンクのインキを開発・商品化しているため、出版分野にとって魅力的なデジタル印刷機だといえる。付け加えると、CMYKと特色がグラデーションの中で掛け合わせになる印刷需要は、出版分野においてはほぼ蛍光ピンクのみであるため、色校正のシステムを検討する上では、蛍光ピンクへの対応が重要なポイントとなる。
コミックスの表紙で使われる蛍光ピンクは、主にDICカラー584または584Bの2種類だという。HP Indigoデジタル印刷機はDIC584を搭載し、通常2ヒットで印刷するが、3ヒットさせてカラーマッチングすることで、濃度の高いDIC584Bに近似させることができるという。つまり、出版業界が求めるこの2種類のインキを再現できるのがHP Indigoデジタル印刷機の強みだ。
「最新のHPデジタル印刷機は、キャリブレーションの精度も上がり、色差を表す平均ΔEではわずか1前後の値で補正できるものもあります。色の安定性が高く、校正機としても申し分ありません。平台校正機で発生する内面ムラもなくなり、プロファイルに忠実に印刷されるので、むしろマッチング精度は平台校正機よりも上がるはずです。
インクジェットプリンターの中には、蛍光色を印刷できるものもありますが、かなり大きいフラットベッド型で、価格は数千万円、印刷スピードは1時間当たり10枚程度です。色校正のためにそれだけの投資ができるか、と考えるとハードルが高いですが、HP Indigoデジタル印刷機は印刷スピードも速く、生産機としても使える点は大きな差別化となります。きっかけは平台校正機のリプレイスであっても、パーソナライズや可変印刷などを軸にした新たなデジタルならではのジョブを開発することで、投資のハードルを下げ、採算も取れれば一石二鳥となります」と出口氏は語った。
HP Indigoデジタル印刷機は、これまでオフセット印刷現場で実施されていた校正の課題を解消する役割が期待できる。オフセット印刷で校正する場合、本機校正を選択すれば成果物と同様のサンプルを印刷できるので、認識のズレが生じない。しかし、本機校正で使用する印刷機は本番用であるため、生産能力を維持するという観点では校正でのフル稼働が難しいというジレンマがある。そこで平台校正機を利用しようとしても現在は生産 及びメンテナンスが終了しており、インクジェット印刷による校正は色合いの再現性が低いという課題があるのだ。
HP Indigoデジタル印刷機は、オフセット印刷の校正における新たな選択肢だ。色合いの再現性が平台校正機よりも高く、インクジェットプリンターよりも印刷スピードが速い。HP Indigoデジタル印刷機で校正作業を実施すれば、本番用のオフセット印刷機を稼働する必要がないため、生産能力は維持できる。
これまでも、プロセスカラーや、プリンターの色域内にある特色単色であれば高い精度で再現できるソリューションはあったが、「CMYK×特色」または「特色×特色」の掛け合わせをデジタルプルーフ上で再現することは非常に困難だった。結果として、特色を含む掛け合わせは、本機や平台校正機に頼らざるを得なかった。これを解決するために開発されたのがGMG OpenColorであり、そのカラーマッチング精度は高く評価されている。
「GMG OpenColorは、『プロファイラー』と呼ばれるソフトウェアで、最大7色まで、多色から多色へ変換するプロファイルを作成することができます。従来のプロファイラーは、色の明度・色相・彩度を表すL*a*b*値でプロファイルを作成しますが、GMG OpenColorの最大の特徴は、チャートから分光反射率を読み取ってプロファイルの計算をするということです。L*a*b*値を使用するよりも、正確な数値情報を持つ分光反射率で色を合わせる方が、マッチング精度を格段に上げることができます。
GMG OpenColorのプロファイルをHP Indigoデジタル印刷機で使用するためには、GMG Color Serverという色変換ソフトにプロファイルを設定して運用します。GMG Color Serverにプロファイルを取り込んでホットフォルダーにリンクし、そのホットフォルダーにPDFを入れると、色変換済みのPDFができるので、そのままHP Indigoデジタル印刷機から出力します。従来のインクジェットプルーフのソフトでは、ユーザーが色変換済みのデータを受け取ることはできませんでしたが、GMGのソリューションではそれが可能です」とGMG竹下氏は説明する。
色変換では様々な用途が考えられるという。例えば、5色 → 5色では、CMYK+蛍光ピンクのデータを受けて、色調をオフセット印刷とマッチングさせ、色数は変えずにHP Indigoデジタル印刷機で再現できる。4色 → 7色の変換では、CMYKの4色を受けて、プレス色域外の領域をCMYK+特色3色(OGV:オレンジ、緑、紫、またはVP VG:ビビッドピンク、ビビッドグリーン)などでターゲットの高色域に近づけることが可能だ。このように、色を合わせるというプロファイラーとしての機能に加えて、色数の変換が同時にできるところが強みである。操作は至ってシンプルだという。GMG OpenColorとGMG ColorServerを合わせて価格は600万円程となる。
従来のプロファイラーの課題は特色の再現性にある。これまで、特色は分光測色器を使って手動で印刷物のベタ部分を測定し、100%部分のL*a*b*値を決めていた。グラデーションは単純に面積率に従って算出されるため、それを手動でカーブ調整していくが、使用する特色数が多いとそれも困難となる。CMYK+蛍光ピンクのように、絵柄の上で色を掛け合わせている場合は、CMYKと特色のそれぞれのプロファイルを重ね合わせるだけなので、マッチング精度は低いのが前提だった。対するGMG OpenColorは、最初からCMYK+蛍光ピンクの掛け合わせの5色でチャートが作れるので、マッチング精度は極めて高い。
また、GMG OpenColorは、従来のソフトでは難しかった掛け合わせの色を予測し、シミュレーションでプロファイルを作ることもできる。例えば、CMYK+特色3色を使用する場合、蛍光ピンクは高いマッチング精度を求められるので、CMYK+蛍光ピンクの5色でチャートを作り、残り2色の特色はシミュレーションで高精度に色を合わせることも可能だ。
GMG OpenColorは、必ずしも大きなカラーチャートを測定する必要がないこともユニーク。従来は、1500ものカラーパッチから成る大きなチャートを印刷する必要があったが、GMG OpenColorは掛け合わせの色を予測できるため、絵柄の余白に配置したミニストリップを測定するだけで再現性の高いプロファイルを作成できる。実際には、縦と横のサイズ(mm)を指定すると、GMG OpenColorが指定範囲に入るだけのカラーパッチを優先度の高い順に入れてくれる。
なお、GMG OpenColorは、印刷物を作成し、分光反射率の測色が前提となる点に留意したい。(Japan Color2011は標準搭載)
「HP Indigoデジタル印刷機とGMG OpenColorのソリューションは、カナダやアメリカでは既に複数台が稼働していますので、日本でも積極的にご紹介して展開できればと思います」とGMG竹下氏はいう。
日本HP出口氏は、「まずはCMYKと蛍光ピンクの掛け合わせでお困りの出版分野での解決策としてご紹介したいと考えています。4色データを受けて7色で高色域印刷をする方法や、蛍光ピンク以外の特色のマッチングは出版以外の分野でも需要があると思います。
また、今後はラベル・パッケージ分野への展開も視野に入れています。現在は、サンプルから色を合わせ、アナログの印刷機で印刷する際にインキを調整しながら対応しているケースが多いかと思いますが、このソリューションではその工程を一気に短縮できます」と語った。実際、GMG OpenColorは、ラベル・パッケージ分野でも実績が多く、軟包装や段ボールの印刷などで広く活用されているという。
HP Indigoデジタル印刷機とGMG OpenColorのソリューションを使えば、インクジェット校正の利便性を持ちながら、これまで本機や平台校正機でなければできなかった特色の掛け合わせも本紙で刷れるようになる。HP Indigoデジタル印刷機とGMG OpenColorは、これまでデジタルの世界では叶わなかった色校正を可能にするベストマッチなソリューションだといえる。
クリエイティブに込められた想いやイメージを正しく伝えることは印刷の原点であり、印刷会社は、お客様の「色」への要望に応えられるよう日々努力を重ねている。オフセット印刷機に見劣りのしない品質で出力できるHP Indigoデジタル印刷機は、校正機としての用途はもちろん、現代のニーズに即した小ロット、バリアブル、サステナブルな印刷を支え、今後より一層活躍の場を広げるだろう。時代は間違いなくデジタルに向かっている。本ソリューションが、校正現場に残る様々な課題をクリアし、これからの校正業務を支える画期的なソリューションとなるか、期待が高まる。