2021.10.25

事業再構築補助金の最新情報と、コロナ禍を生きる印刷会社へのメッセージ

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ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するため、中小企業・中堅企業の事業再建を支援する「事業再構築補助金」は2021年3月の公募を皮切りに、第2回、第3回と続き、本年度中に合計5回の公募が予定されている。本記事では、最新の採択結果の解説および今後の申請に向けたアドバイスと、コロナ禍そしてコロナ後を生きる印刷会社へのメッセージをまとめた。印刷業界に特化したコンサルティングファームであるGIMSの代表取締役であり、自らも印刷機械メーカーおよびグラビア印刷会社での経験を持つ印刷のスペシャリスト、寳積氏に話を聞いた。

株式会社GIMS 代表取締役
寳積(ほうづみ) 昌彦 氏

大学卒業後、印刷機械製造会社に入社。各種印刷機、CTP等関連機器等多岐にわたる機械の営業担当を経て、営業管理・推進業務を担当。市場調査や製品開発企画とプロモーション、仕入商品・部材の調達管理や販売・製造台数の予測などの業務に従事。その後、グラビア印刷業の会社に入社し、大手コンビニエンスチェーン、大手カフェチェーンの軟包材の営業を担当後、中小企業診断士として独立。印刷業・製造業の経営戦略立案と事業計画策定及び実行支援を得意とする。

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事業再構築補助金の最新情報 〜第1回、第2回の採択結果からの考察

まず、第1回と第2回の公募を比較すると、第1回の応募件数が22,231件だったのに対し、第2回は、20,800件と約1,500件の減少が見られた。第1回に引き続き、第2回でも申請不備は多く、審査に至らなかった応募が全体の1割強を占めている。不備を除いた申請件数の採択割合は通常枠で40.8%、緊急事態宣言特別枠が77.3%、全体で50.9%となり、第1回目よりも採択率は上昇。採択の割合は全産業の中で製造業が23.2%を占めるものの、GIMSの調査による印刷会社の採択占有率は全体の0.8%と厳しい結果となった。

「特に東京や埼玉など、従来ものづくり補助金の採択が多い地域において、事業再構築補助金では印刷業の採択が少ない傾向が見られました。地方であれば似たようなビジネス案件が少なくても、首都圏では競合が多くひしめき、ターゲットとする市場や期待される効果において理解を得られなかったのかもしれません」と寳積氏は分析する。

印刷業界における申請類型の区分では、新分野展開が56%と圧倒的に多く、25%を占める業態転換と合わせると全体の81%に及ぶ(GIMS調べ)。新分野展開は、産業や業種は変更せずに新製品などで新しい市場を狙うというもので、業態転換は、製造方法やサービス提供方法を変えるというものだ。いずれにしても、印刷業をやめて全く違う事業をやるというケースは極めて少ないようだ。

第3回公募からの変更と注意点

第3回公募からは、通常枠の補助額・補助率に変更があった。第2回までは通常枠の上限値が一律6,000万円だったのに対し、第3回からは従業員数に応じた上限値が設定された。従業員数51人以上の枠では、最大8,000万円の補助金に増額となり、より大きな設備投資を検討する場合にメリットが大きい。反対に、従業員数20人以下の枠は、上限が4,000万円に変更され2,000万円の減額となった。労働者名簿が提出書類に追加されたため、提出書類にもれがないよう注意したい。

良いニュースとしては、補助対象要件が一部緩和されたことだ。「2020年10月以降の連続する6ヶ月のうち任意の3ヶ月の合計売上がコロナ以前と比較して10%減少していること」というのが第1回、第2回の基本要件だった。しかし、同年4月には緊急事態宣言が発令されており、新型コロナウイルスが顕在化したのは2020年10月よりはるかに早い。第3回公募からは、2020年4月以降に影響が出ている場合も補助対象要件に含まれることになった。2020年10月以降の6ヶ月で売り上げが10%落ちていればそのまま申請できるが、そうではない場合は、2020年4月以降、10月以降と分けて申請を出せる。

また、たとえば、ある会社の営業権を事業譲渡された結果、売上は増えたが従業員や設備を引き受けたことで利益が下がったというケースもある。そのような場合、売上ではなく付加価値額の減少でも申請が認められることになった。付加価値額とは、営業利益+人件費+減価償却費の合計で、売上または付加価値のいずれかで減少していれば要件を満たす。

緊急事態宣言特別枠は、通常枠の要件に加えて2021年1月〜8月のいずれかひと月の売上高30%減少(または付加価値額45%減少)の要件を満たすことが必要だ。

さらに、補助金を活用して取り組む事業の新規性については「過去に製造等した実績がない」を「コロナ前に製造等した実績がない」に改められた。つまり、2020年4月以降に新たに取り組んでいる事業については、コロナ対策としていち早く手を打ったと見なされることになったのは大きな改正点だ。

印刷業における採択の実例

2021年9月2日に第2回の採択結果が発表されたが、印刷業界における採択の実例をいくつか見てみたい。

「G社(資料参照)は、オンデマンド印刷機を活用し、デザイン性の高いラベルを小ロット短納期で提供し、八戸市の魅力を伝えるという事業、H社は、ウェブサイトを活用した個人向けオリジナル卒業アルバムをオンデマンド印刷機で制作するというもの、I社はデジタル印刷機のバリアブル印刷を活用してQRコードを印刷した名刺やDMを専用ウェブシステムで販売するというものです。このように、印刷業を継続しながら新しい商品を投入するというケースが多く見られます。一見、それほどの目新しさは感じられないかもしれませんが、印刷単体ではなくウェブ受注とからめたり、地域活性化につなげたり、その地域における市場のニーズや競合の有無などで訴求できたことが採択につながったと考えられます」

一方、不採択となった申請を精査すると、第1回と比較して第2回は採択員からのコメントが「〜するとより良い」という無難な表現にまとめられ定型化している傾向にあった。採択されるためには審査項目の把握が必須であり、次回再提の際には、指摘箇所を徹底的に修正すべきだ。審査項目は、事業の優秀性を見る「事業化点」と、再構築に対する妥当性を見る「再構築点」に大別される。寳積氏は、これまでのコメントを書き出し、審査項目に対するチェックリストを独自に作成した。事業再構築補助金の相談を多く受ける専門家ならではの考察と対策であり、きちんと事業計画に全てのキーワードが網羅されているかしっかりと見直したい。

審査項目に関するチェックリストは資料に掲載しております。
以下より資料をダウンロードいただけます。

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最後に申請不備の落とし穴について解説してもらった。売上減少を証明する「法人事業概況説明書」は、表面に売上高や決算書の主要科目を記載し、裏面に月別の売上高を記載するが、金額を千円単位で記入するため、四捨五入の関係で合計金額が一致しないことがある。表裏の合計金額に差異があると、形式不備として差し戻されてしまう。この場合、決算済みの場合は税理士に事業収入証明書を作成してもらって代替し、コロナ後の決算を迎えていない証明は、売上台帳またはそれに相当する試算表などを提出することで、法人概況説明書を代替できるという。

コロナ禍そしてコロナ後を生きる印刷会社へのメッセージ

後半では、補助金申請に関わらず、寳積氏の印刷業界に対する考えを聞いた。印刷会社からGIMSに寄せられる様々な相談の傾向は、コロナ前と比較して少し変化が見られるという。

「対面営業が難しくなったことから、営業活動の効率化を図るため、マーケティングオートメーション(MA)ツールの導入や社内のワークフローを見直したいという方が増えてきました。『ものづくり補助金』では、受注管理や帳票を管理する社内の基幹システムを入れ替えたいという相談も複数受けています。これを機会に、きちんと営業や社内業務の生産性を見直し、サービスも変えていこうと考えられているのでしょう。ここに来てMIS(経営情報システム)を入れたいという会社も複数おられ、経営におけるデータ分析に対して投資に前向きな相談が見られます。

『DXって何をやったらいいの?』と聞かれることも多いです。デジタルに取り組まれていない会社は、まずデータ収集ができていません。データの重要性を理解されていない場合も多いので、そもそも、何のために、どのようなデータを収集するかというところからお話します。例えば、生産性を向上したいのに、機械の稼働状況や稼働率を計算する基礎データが取れていない。データがなければ生産性の分析はできませんから、まずそこから始めましょうということになります。そこを理解してもらえば、どんどん興味を持って頂けます。

営業活動では、お客様との交渉にどうデータを使うかが肝心だと思います。たとえば、私は、フィルム軟包装のグラビア印刷の会社で営業の経験がありますが、お客様との価格交渉の際、フィルムの原料であるナフサ(粗製ガソリン)の価格推移を見ながら話をしていました。ナフサのデータは営業としてスタンダードなツールでしたが、世の中がどう動いているか、客観的な数値を使ってどう説得すれば効果的かを共有すれば、営業の交渉力が上がるのではないかと思います。

また、ある印刷会社では印刷物や用紙を積載するパレットがなくなっていることに気づきました。パレットで搬送するとそのまま戻って来ない。調査をするとパレット代は年間で何百万円にもなっていました。MISの活用でパレットの購入や流れが明確になると、金額の一部についてお客様にも負担して頂くことができました。このように、数字を見ればどこに問題があるのか明確になります」

DXというと大ごとに感じられるかもしれないが、まず社内のデータ収集と活用から始めてみると解決できることもあるはずだ。

印刷プラスアルファの価値を前工程と後工程のどちらに置くか

印刷業界はアフターコロナをどう生き抜いていけるだろうか。

「一部の領域を除いては、製造という単独の強みで勝ち抜いて行くのは難しいかもしれません。言い換えれば、印刷の単一工程だけで差別化を図るのではなく、組み合わせてこそ強みを作れるという考えです。印刷業では、データを作って刷版・印刷し、後加工や製本をして在庫管理し、物理的に発送します。そこには、印刷という製造工程以外に、企画というクリエイティブの領域と、印刷物を在庫して配送するという物流の領域があり、この2つの領域に付加価値の余地があるのではないかと考えます。印刷単一で勝負するのではなく、印刷とクリエイティブを組み合わせるのか、印刷と物流を組み合わせるのか。もちろん自社で全てを賄う必要はなく、自社にない強みを持つ他社と連携することで印刷の能力を上げるのでもいいのです。「印刷+前」なのか「印刷+後」なのか、どこをプラスするかが変革の道筋を定めることになります」

製造業における付加価値や収益性を表すグラフは、両端が上がる曲線が笑顔のように見えることからスマイルカーブと呼ばれる。商品企画・開発やマーケティングといった上流工程、在庫管理やロジスティクスといった下流工程は高い利益を上げる一方で、中間工程である組み立て・製造部分は収益性が低い。印刷産業は成熟市場だ。コスト競争が激しく利益の確保が難しい中、製造という中間工程だけで競うのは難しいだろう。では、印刷+アルファを進めるにあたり、どのような要素が必要になるのだろうか。

「やはり経営戦略を明確に打ち出せるかどうかに成功がかかっていると思います。一定の成果を伸ばしている企業は、経営者が高い意欲で改革を推進されています。特にコロナ禍においてその傾向は顕著です。

また、新しいことに失敗はつきもので、修正しながら前進しなければなりません。行き詰った時に、本当に万策尽きているのかと振り返ることは大切です。客観的に見ると、まだ手を打っていないことがあることも多い。思考停止に陥った時は、外部の意見を取り入れたり、他部署の人と話して知見を合わせたり、なるべくお金をかけずにやってみることです。多くの場合、第三者の視点を入れることで見逃している改善ポイントが見つかります」

他にはない印刷業の魅力

「私はもともとオフセット印刷機の会社に勤めた後、グラビア印刷の会社に再就職し、その後独立しましたが、当初はもう印刷業界などまっぴらごめんだと思っていたんです。中小企業診断士の資格を取ったら、違う業界の仕事をしようと思っていました。それなのに、今はどっぷり印刷業界の仕事をしています。印刷業界の仕事をしていると、同業者には大変そうだねと言われますが、では大変ではない業界とは一体どこなのでしょう。IT業界でも倒産しますし、食品業界も競争にさらされています。印刷業界だけが厳しいのではありませんし、印刷業でもしっかり儲けているところはたくさんあります。

印刷業というのは実に裾野が広く、サービスが強いところ、製造能力の高いところ、物流が強くて後工程に長けているところ、クリエイティブに強いところなど各社様々です。大きなくくりで印刷業という産業と見ると、全体の出荷額は減少していて元気がないと思われがちですが、1社あたりの出荷額は逆に上がっているのです。つまり、強いところはどんどん力をつけて、地方創生・地域活性化に貢献もしています。そんな業界が他にあるでしょうか?

少なくとも印刷業は、サービス業でもあり製造業でもあるという特性を持つユニークな業界です。それをどう活用するかはまさに経営者の戦略次第です。どこで「尖り」をつけて差別化を図るか。印刷機を持っているプランナーでもいいし、印刷機ももっている物流会社でもいい。人口も減っており、内需型の産業なので印刷物の製造だけでは事業再生は限界がありますが、ITや物流などの異業種など、前後の工程とうまく組み合わせて『事業再構築型再生』ができれば印刷はもっと生きるのです。

自社の尖り具合をどこに持っていくか、事業再構築では、そこを徹底的に考えてほしいと思います。機械を新しくして少しだけ変えるというのではなく、抜本的に前か後かどちらの領域に踏み出したらいいのかを考える。印刷業はどの方面にも行ける業界なので、どんな会社にしたいかというあるべき姿によって変わってくる、こんなに面白い業界は他にないと思いませんか?」

印刷業にはまだまだ希望がある。もちろん時の流れに任せて何も手を打たなければ衰退していく事業もあるだろう。しかし、世の中のニーズを見極め、ぶれない軸として自社の強みを活かして事業改革に取り組めばきっと活路が見えてくるはずだ。正解がどこにあるのか、それは各社が探し求めながら進むしかない。ただ、この記事を読んでくださっている方々のように、事業改革に必要な情報を積極的に取り込み、生き抜くためのヒントを得ようとしている会社は、もう突破口の入り口に立っているのだと思う。踏み出した一歩の意義は大きい。

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