2022.07.08

HP Indigoデジタル印刷 世界屈指の生産性を誇る株式会社吉村
トップランナーが歩んだデジタル印刷の軌跡と、持続可能な社会に向けた最先端の取り組み

前編

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(左から)株式会社吉村 代表取締役 副社長 吉村 鉄也 氏
生産部門エスプリ印刷課 増田 尚夏 氏
生産部 部長 小柳 典昭 氏

株式会社吉村は、デザイン・印刷・製袋加工までの一貫生産を強みに、高品質な軟包装製造を実現する日本茶パッケージのトップメーカーである。同社は、2008年にHP Indigo WS4500デジタル印刷機を導入し、小ロット・多品種・短納期のパッケージ製造に乗り出した。現在では4台のHP Indigoデジタル印刷機がフル稼働し、その生産金額は同社のグラビア印刷をも上回る。今回、株式会社吉村は印刷の生産性の高さを示す「HP PrintOS Print Beat」スコアにおいて、「企業別」および「印刷機別」ランキング共に世界No.1の栄冠を獲得。栄えある第1位となった印刷機を担当するのは、入社4年目の若き女性オペレーターである。本記事は、前編でパッケージコンバーターという枠にとらわれず高い企画力でイノベーションをもたらす同社の取り組みを、後編ではデジタル印刷機活用の軌跡の中で生産現場が直面した数々の苦労と、女性活躍や環境課題など持続可能な社会を目指した取り組みにスポットを当て、同社の強さの根源を解き明かす。

1. 軟包装のデジタル印刷の先駆者としてのスタート

株式会社吉村は、2022年7月に創業90周年を迎える老舗コンバーターだ。長い歴史の中で数々の難関を乗り越え、常に新しい挑戦を続けてきた同社の歴史を、吉村副社長は次のように振り返った。

吉村氏:「株式会社吉村は、紙の水引や熨斗など祝儀用品を手加工する『吉村英一商店』として、1932年に東京の品川で開業しました。1954年に『吉村紙業』として設立、主に紙の茶袋を手掛けていましたが、生産者の近くで商品を製造するために、1973年に日本茶の産地に近い静岡県焼津の地に工場を建設し、グラビア印刷によるお茶袋の製造をスタートさせたのです。

2008年3月に、デジタル印刷機第1号となるHP Indigo WS4500デジタル印刷機を導入し、『エスプリ』と名付けました。今から14年前のことで、まだ国内外含めて軟包装のフィルム印刷をデジタル印刷機で挑戦している会社などありませんでしたから、皆が驚くような一大転機です。ところが、この初号機は本来ラベル用の印刷機ということで、ラベル紙と違って薄いフィルムが引っ掛かり、導入前のテストでもなかなか印刷機を通りませんでした。

当時の社長である義父は、『そんな機械を買うのはとんでもない』と大反対。最終的には理解を得ることができましたが、説得は大変でした。当初は、グラビア印刷工場の一角にスペースを作り、湿度や温度などの環境を整えて設置しましたが、2013年にデジタル印刷専用の工場を新しく設立し、デジタル印刷機とグラビア印刷機の生産現場を完全に分けました」

しかし、導入当初のデジタル印刷機は、まだ軟包装のフィルム印刷に対して課題が山積しており、吉村氏はこのままデジタル印刷を続けられるか大いに悩んだという。その後HP Indigo WS6000シリーズが発表され、吉村氏は日本国内でのリリースに先立って渡米し、HPデジタル印刷ユーザー会である「Dscoop」とユーザー訪問に参加し、デジタル印刷に再度チャレンジできる見込みをつけて帰国した。1号機導入から1年半後のことである。同社は、2009年9月にHP Indigo WS6000デジタル印刷機を導入、それから毎年1台のペースで新規導入し、現在ではHP Indigo WS6000、WS6600、6900、6Kの4機種が稼働している。グラビア印刷機は2台、スリッター3台、製袋機は20台保有しており、社内で小ロット・多品種も含めて一貫生産ができる態勢をととのえている。現在、年間8000社以上との取引実績を誇り、3000種類以上のパッケージを提供しているという。

2. デジタル印刷の需要とターゲット市場

周りの反対を押し切ってまで導入を決めたデジタル印刷機だったが、当時からデジタル印刷の需要を感じていたのだろうか?その問いに吉村氏は迷いなく回答した。

吉村氏:「当社は主に茶袋を取り扱ってきましたが、そもそもなぜデジタル印刷をやろうと考えたか、それはまさしくお客様の『小ロット・多品種』のニーズに応えたかったという点につきます。当時業界では、グラビア印刷の最小ロットは4000mが普通でした。ところが、当社はお客様のご要望に応じて、グラビア印刷でも2000m、1000mという短いロットに対応していたのです。

グラビア印刷機の場合、色の調合や版替えなどで印刷開始までに1時間以上かかるのも当たり前ですが、実際に印刷を開始すれば、2000mはものの20分で終わってしまう。1000mとなれば更に半分です。グラビアの稼働率は30%程度で、そこに大きな限界を感じていました。デジタル印刷機で印刷するのは日本茶の袋がメインですが、お茶業界に関わらず小ロット・多品種のニーズは多いと考え、幅広い分野にPRしています。最近では、健康食品、ペットフード、医療品のサポーター、パズルを入れる袋など、ニーズが少しずつ拡大、多様化していると感じます」

同社のグラビア印刷とデジタル印刷の売上比率は2年ほど前に逆転し、現在ではデジタル印刷である「エスプリ」の方が上回っているという。「エスプリ」はこの5年程、おおよそ年率2桁成長を達成。HPやDscoopが主催する世界デジタル印刷アワードで4度の受賞歴があり、最近ではHP Indigoデジタル印刷機の累計印刷枚数が3億1000万枚を超えるなど、業界屈指の功績を挙げている。

3. 日本茶業界を盛り立てる新商品開発

株式会社吉村のショールームには、「和」をあしらった彩り豊かでオシャレなパッケージがずらりと並ぶ。同社は、お茶の袋だけではなく、日本茶のお茶請けとして最適なお菓子の独自ブランド「江戸越屋」(https://edogoshiya.com/)も展開する。チョコレートの「洋」に対して、小豆、玄米、黒豆、柚子、わさびなど「和」のトッピングを組み合わせており、チャック付きの可愛いスタンドパックはちょっとしたお土産にも最適で、デザインに惹かれて「パケ買い」する人もいるだろう。デジタル印刷ならではの多品種パッケージ展開だが、包装材だけに留まらず、中の商品にまで開発に乗り出した理由はどこにあるのだろうか。

吉村氏:「それには、『想いを包み、未来を創造するパートナーを目指します』という当社の理念が大きく関係します。日本茶業界の未来を創造するパートナーを目指した時、日本茶離れを食い止めたい、お茶の魅力を広めたいという想いが強くありました。そして、日本茶の消費量を上げるために、まずはお茶との相乗効果を生むお茶請けを企画したのです。『江戸越屋』は、『江戸』と現在吉村の本社がある『戸越』を掛け合わせた独自のブランドですが、お菓子自体のおいしさにも徹底的にこだわっています。日本茶に合う和の素材とコラボして開発し、様々な和のデザインを取り入れたパッケージをエスプリ工場で製造しています」

お茶と消費者との距離を縮めるための、さらなる新商品開発

吉村氏:「次に、お茶そのものを『おいしい』と感じて頂くために、茶器や茶葉そのものにも着目しました。当社が茶葉を扱うことは、お茶屋さんと競合する恐れもありますが、『日本茶専門店ではお茶を買わない消費者層』に別の角度から提案することで、日本茶市場の拡大に貢献できればと思ったのです。当社には社内公募によって策定された『2027”年“ビジョン』がありますが、合言葉は『“日本茶で”日本を、元気に。』です。その取り組みの一環として展開したのが、茶葉入りの紙コップ『リーフティーカップ』(https://leafteacup.jp/)でした。紙コップに、茶葉とフィルターがセットされているので、お湯を注ぐだけで本格的な日本茶が楽しめて、しかも急須と同じように3煎までおいしく飲むことができるという商品です。

リーフティーカップは、当社の企画担当者が台湾の展示会で見たことが発端となりました。構造自体は単純なのに日本には同様の商品はなく、これは日本茶でも流用できると考えたのです。製造機を開発した台湾企業とライセンス契約を締結し、日本では当社が独占販売をしています。製造用の設備を導入し、お茶屋さんとタイアップして、このカップで一番おいしく感じ、しかも3煎までおいしく出る茶葉を吟味厳選し、これまでにない新しい発想の商品として誕生しました。お茶屋さんのオリジナル茶葉を詰めるカスタマイズ製造も可能で、パッケージはエスプリ工場で製造しています。(※最低500個より)

昨今では、その手軽さからペットボトルが人気を集めていますが、『急須では入れないけれどペットボトルのお茶なら買う』という消費者層や、『会社や外ではコーヒーを飲むけれど、自宅では日本茶を味わいたい』という在宅勤務の方などに提案すれば、日本茶を楽しむ層がもっと広がるでしょう。現在は、生分解性の素材を使用した土に還る環境に優しい紙コップの採用を評価検討しているところです」

さらに、同社の開発は茶器にも及ぶ。刻音(ときね)(https://tokineteadrip.jp/)は、お茶本来の豊かな香りと味わいを楽しむために開発されたこだわりの茶器だ。フィルター部分は土由来の温かみのある手触りと強度を併せ持つ半磁器で、サーバーは緑茶の鮮やかな翠(すい)色や、お湯の落ちる抽出音などを楽しめるガラス素材によって、贅沢な「おうち時間」のひと時を演出する。見た目もおしゃれで、キッチンやリビングにあえて出しておきたいと思わせる新しい時代の茶器である。このように、パッケージの提案だけに留まらず、日本茶離れに「待った」をかけ、需要創出にまで活動を広げているところが株式会社吉村のトップランナーたる企画力と行動力だ。

吉村氏:「刻音は、沈殿抽出式ティードリッパーで、茶葉自体をろ過フィルターにして日本茶をドリップするという、日本茶800年の歴史に『新たなときを刻む』というコンセプトの茶器です。開発当初、お茶屋さんでは長い歴史の中で、『日本茶は急須で入れるもの』という考えが根付いており、なかなか理解を得ることができませんでした。それであれば、直接消費者にPRして高い評価を得られれば、お茶屋さんにも市場の需要を感じていただけるのではと考え、クラウドファンディングに踏み切ったのです。茶葉から入れた本格的なお茶の良さを若い層にもアピールするため、現代のライフスタイルに合わせた茶器として開発しました。例えばコーヒーにこだわる男性に、日本茶もドリップして楽しんでもらうような提案ができます。山登りに刻音を持参して、本格的な日本茶を山頂で堪能したという声も頂いています」

こうした新しい市場を開拓するのは、「日本茶を楽しむ層を広げてお茶屋さんの力になりたい」という同社の日本茶を愛する心に他ならない。

4. デジタル印刷ビジネスの実態

次に、HP Indigoデジタル印刷機4台が集まる「エスプリ工場」では、実際にどのようなジョブが印刷されているのか、生産現場の責任者である小柳氏に話を聞いた。

小柳氏:「デジタル印刷機で製造するパッケージは、1000m〜2000m(5000枚程度)の小ロット・多品種がターゲットの中心となります。ですが、最長で8000m、Webを通した受注に対しては50mからの極小ロットにも対応しています。ロットが大きい場合でも、スポットもので版代をかけたくないケースや、商品の回転が速いものなど、お客様のニーズに合わせてデジタル印刷を提案しています。デザインや材質を精査しながらデジタル印刷に適したものを見極め、デジタル印刷機でできないものはグラビア印刷機で対応しています」

デジタル印刷の「エスプリ」を始めたのは、お客様にもどんどん新しい市場にチャレンジして欲しいからだと吉村氏はいう。気軽にテストマーケティングを実施したり、コストをかけずに期間限定キャンペーンを展開したり、大ロットではコストに見合わない中小企業や個人事業主でも高品質なオリジナルパッケージを作れるのもデジタル印刷ならではだ。

同社はデジタル印刷機のサービスを「エスプリ」(https://www.yoshimura-pack.co.jp/s-pri/)として、小ロット・多品種のオリジナルパッケージを展開している。Webや電話で問い合わせを行い、担当営業が打合せをして、必要に応じて自社デザイナーがデザインを手掛け、お客様のご要望に応じたパッケージを作り上げていく。デジタル印刷サービスのオンラインプラットフォームとしては、マイパケ(https://mypake.jp/)、ウェブパケ(https://web-package.jp/)もあり、積極的なDX展開をしている。吉村氏は、これらのオンラインサービスのすみ分けについて次のように話した。

Web to Printによる自動化とフォロー体制

吉村氏:「2014年から開始した『マイパケ』がWeb to Printのスタートです。もともとは、お茶袋の製造がメインでしたが、市場を絞らずに、より広い用途に対して、より小さいロットで請け負うというコンセプトで開始しました。ロットでいうと50m、袋100枚からの極小ロットに対応し、その代わり、材質とサイズ、袋の形態は3つの選択肢から選んで頂きます。デザインについては、お客様にデータを入稿頂くか、年賀状ソフトのように簡単にデザインできるツールで、お客様ご自身で作って頂きます。

2021年秋に新たにリリースしたのが『ウェブパケ』です。サイズや材質など、営業対応の『エスプリ』で可能なサービスを全て提供できるWeb to Printで、データのやりとりも見積もWebで行い、こちらも業界を問わず幅広くご利用頂いています。様々なジャンルのお客様にアピールできるよう、SEO対策をしながら運用しています。

デジタル印刷で小ロットのサービスを始めようとすると、多くの場合、営業コストがネックになります。見積や入稿をできるだけ簡素化し、お客様にもストレスなく、かつ気軽にサービスをご利用頂く為には、使いやすいWeb to Printサービスが必要でした。また、軟包装やデジタル印刷の知識がなく、お客様だけでWebで完結させることが難しい場合には、営業が窓口で相談も受けられるようになっているのでフォローも万全です。まだまだPR不足のところがあるので、小ロット・多品種の需要は今後さらに拡大するだろうと感じています」

コロナ禍の最初の緊急事態宣言時は、お茶屋さんの閉店なども相次ぎ厳しい状況だったという。しかし、株式会社吉村では、Webを使った電子商談にいち早く取り組み、在宅勤務への迅速な移行を実現するなど、コロナ禍でも柔軟な対応で順調に売り上げを伸ばしている。世間一般で在宅勤務が増えたことによるお茶の需要増もプラスに作用した。そして、小ロット・多品種の需要はどんどん増え、現在もデジタル印刷の生産量は増加の一途を辿っているという。

後編では、軟包装業界の先駆者である同社のデジタル印刷の生産現場にフォーカスし、「生産現場における試行錯誤の日々」、「世界一の生産性実現の秘訣」、「女性が輝ける職場の実現」、「サステナビリティへの取り組み」をお届けします。

後編:HP Indigoデジタル印刷 世界屈指の生産性を誇る株式会社吉村
トップランナーが歩んだデジタル印刷の軌跡と、持続可能な社会に向けた最先端の取り組み

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