【山形 巧哉 編】第10回:AI時代の自治体とコミュニティ(後半)

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-10-30

山形 巧哉氏
山形 巧哉氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

山形 巧哉

山形巧哉デザイン事務所 代表社員
一般社団法人コード・フォー・ジャパン
北海道森町 政策参与

山形 巧哉
  • 北海道森町出身。自治体職員として、行政や教育現場でのデジタル技術活用や構築に関する実務経験を重ねながら、その経験をもとに、地域社会においてデジタルをどのように結びつけると良いかという実験・実証を行う。
    独立後は社会ニーズや技術進化により変わりゆく「公共空間」に関し、研究調査・計画・設計・実証・実装といった多角的な支援を行っている。座右の銘は「まあすわりなよ」
    合同会社山形巧哉デザイン事務所・Code for Japan・国際大学GLOCOM客員研究員・公立はこだて未来大学アソシエイト・デジタル庁オープンデータ伝道師

前回は、芽室町が「カレーライスシート」を使って業務の問題や改善策に気づき、多くの職員が「自分ごと」として取り組むようになったと伺いました。一方、システム開発で難しい点はなかったのでしょうか。

山形

「カレーライスシート」を通じ、自分の業務にある具材とルーをどう組み合わせれば、おいしいカレーになるのかという身近な発想で、物事を進めるコツをつかんだ方もいます。

役場の場合でいえば、「具」というのはデータとして存在する住民情報などが中心になるので、後はそれをどう盛り付けて提供するか、その方法論だけだったという言い方もできます。

現在では、それをバイブコーディングによって実現できるようになってきたので、これまでとは違った世界がやってきたとも言えるのではないでしょうか。これを職員が自分たちで作り上げて、オープンソースでガッチリやったというところが、他の自治体ではほとんど見られなかった新しい事例だと思います。

コロナ禍には、必要に迫られて職員がワクチン接種会場の仕組みなどを作り、GitHubで他の自治体にも公開した例があったと聞きます。ただし、特殊な状況下での対応という側面が大きく、通常は専門業者への依頼が一般的です。

例えばある自治体が専門業者にシステムを発注し、開発されたものをオープンソース化したという事例はありましたが、職員自らがここまでのシステムを作り上げた事例を、私は芽室町以外に知りません。正直にいうと、だからこそ先行事例としてオープンソース化してみようといった動きになったことも事実です。

GitHubでの公開後、イシューやプルリクエストが届いていると前回伺いました。専門のエンジニアではない職員が、改良やバージョンアップに対応できるのでしょうか。

山形

実際にプルリクエストが来ても、採用してよいか判断できない場合があります。決裁権者に上げても、専門家ではないため判断が難しいのです。

そこで必要になってくるのが、OSPO(Open Source Program Office)と呼ばれるオープンソースに関する利用方法や指針を定める委員会組織のようなものを作っておくことです。

職員同士で合意し、安全に活用するための組織を作ろうと議論しています。作って終わりではなく、継続的に成長させていくための体制も整いつつあると感じます。

従来の自治は一つの地域内で閉じ、ベンダーからシステムを購入するのが一般的でした。しかしインターネットを介し、自治に関心のある人もGitHubなどを通じて協力するようになっています。一方、珍しい事例だけに「善意の労力を搾取している」との見方もあります。

ここから先はどうなるか分かりませんが、この形が未来永劫よいということではないので、「こういうケースではどういう判断をするのか」といったナレッジを蓄積していく時期だとも思います。

ここで注意しておきたいのは、オープンソース化というのは芽室町の内部システムそのものを公開しているのではないということです。当然ですが芽室町のシステムに侵入することはできませんし、もしオープンソース化したものにセキュリティ上の問題が発見されれば、そのパッチを本当のシステム内部に当てればいいだけのことです。

実際にそうしたイシューやプルリクエストが数多く寄せられており、それを素人の職員向けに丁寧に解説してくださる方もたくさんいらっしゃいます。そういう助けを借りながら、内部システムを継続的にブラッシュアップしているのです。こういう時代になったのだと、本当に実感するところです。

運用しながら改善まで図っていけるということは、セキュリティ面でも機能面でも安心して使えるということにつながりそうですね。芽室町の場合は、バイブコーディングなどによって内製を進めていこうとしているのでしょうか。

山形

それに関しては、私はなんでもかんでも内製すればいいわけではないと思っています。

これまではすべて外部の業者さんに頼んでいたところを、一部でも自分たちで作れるようになったということは、言い換えれば予算を振り向ける選択肢が広がったということだと思います。

当然ですが専門のノウハウがないとできないものも絶対にありますので、それこそある程度の人口レンジの自治体に関してはSIerさんが力を発揮する場面はあるでしょうし、そういうシステムは堅牢性などにも優れているでしょう。いくらバイブコーディングが出てきても、それと同等のものを一般職員に作れと言っても無理があります。

芽室町のような小規模自治体の場合、十分な予算がなく、それほどの労力をかけられないこともあります。そういった場合の選択肢として、今回のようなやり方もあるということです。

北海道内には179市町村がありますが、その多くは超小規模団体です。そういうところは予算も職員も少ないので、その場合にはこのようなオープンソース化されたシステムを使うという方法があることを知ってもらいたいと思っています。

共同化・共通化というのはみんなでお金を出し合って購入することだけではなく、知恵を出し合うことも含まれているはずです。小さな団体それぞれに情シス担当者を置くのは大変ですが、例えば0.5人の情シス担当者を179市町村それぞれに配置した名目にすれば、全体では数十人規模の情シス担当者を確保し、複数の市町村を支援できるようになります。今後はそういったやり方も、可能になってくると思います。

平成が始まってからの数十年間、役場のなかでもデジタル化は少しずつ進んできました。その蓄積があったうえで、バイブコーディングでシステムが作れるようになったということは、これまで住民データなどをきちんと整備してきた先輩方の尽力のおかげでもあると思います。

芽室町がバイブコーディングで開発したシステムは、現在、クラウド上で利用しているわけではないのですか。

山形

そこは難しいポイントだと思っているのですが、私は元々クラウド活用がいちばんいいと思っていました。ただ自治体の場合には、個人情報や秘匿情報などの問題があります。さらに大変なのは、それが個人情報なのか秘匿情報なのか、あるいは機微情報なのかなどの判断をすることが、役場のなかでも難しいというところです。。

また最近ではPCの性能も向上しているので、ローカルLLMも十分に活用できることがわかってきました。このところメモリー価格の高騰によってコストは上昇していますが、クラウドサービスも従量課金制を採用していることが多いため、トータルではそれほど変わらないかもしれません。

そういう観点からも、クラウド利用にもローカル利用にも力を入れて、研究しているところです。

確かにクラウドサービスはセキュリティ対策をしていると思いますが、それを完全に信用してすべてを委ねていいかどうかという問題はありますね。

山形

ほとんどの場合は問題ないとは思うのですが、ほんの数%でも心配なところはあります。そのリスクを自治体として認められるのかというと、そうならないのが普通だと思います。
クラウドもローカルもどちらも必要だとは思うので、どちらを利用するのか、AIをどちらで動かすのかも真剣に考える時期なのだと思います。
その意味でも、バイブコーディングによってシステムを内製して、それを実装した勇気のある職員には感銘を受けました。やればできることは分かっていましたが、それを本当にやろうとするバイタリティには驚きました。

他にも東京都立川市さんの事例で、「福祉相談の現場でローカルLLMを活用」というものがありましたが、これなどもとてもいい活用方法だと思います。

参考:Tokyo区市町村DXaward・アイデア部門優秀賞受賞|【実証実験・東京都立川市】生成AI活用による住民サービスの向上と業務負荷低減の実現に向けてHPワークステーションを使ったPoCを実施

各自治体さんもいろいろとチャレンジして、様々な事例が出てきているということですね。

山形

例えば役所で議会答弁などを作成する業務がありますが、従来は職員にいろいろと調査させて骨子を作成し、それを確認していく作業が必要でした。そこに生成AIを活用すれば、対話しながら答弁資料を参照したり、必要なデータを収集したりできるようになります。

そのときに、首長の考えなどもプロンプトで反映させながら作成していけば、人口対策や総合戦略なども完成度の高いものにしていけると思います。エージェンティックAI(事前に設定された目標を達成するために、自律的に動作できるAIのこと)を活用することで、構造化されたデータでなくても、資料をある程度まで作成できるようになれば、職員の負担も大幅に軽減できるでしょう。

私がいま実験的に使っているエージェンティックAIに「Anything」というものがあるのですが、これはテキストで指示していくだけでコーディングやデータベース構築までできるものです。

ここでもいろいろなことができそうだということが分かってきたので、行政のなかでも活用できるのではないかと思っています。こういったものが動けば、役場の業務も変わっていくのではないかということです。

例えば国会でも地方自治体の議会でも、その内容を必ず議事録に残します。AIのことが分かってくると、逆にAIの挙動をハックしてあえて記録に残すための行動を起こす人なども出てくるかもしれません。

そうしたことも含めて、役場の職員だけではなく地域住民や観光に来られた方なども、そのまちを好きになり、何らかの形で関わってくれるようになるかもしれません。そういったところは、今後も注目していきたいと思っています。

前後編に分けてお話しいただきましたが、生成AIの台頭によって、自治体DXへの動きも大きく変化していることが分かりました。バイブコーディングにはじまり、それをOSS化して共同で改善していく過程などはもちろん、最終的にはエージェンティックAIによる自律化まで視野に入っているのは驚きです。今回は特に先進的な事例についてお話いただきましたが、他の自治体へと伝播していくことで明るい未来がやってくるのが楽しみです。本日はありがとうございました。

連載
  1. 第1回:小さな町から始めたDIY行政ネット改革
  2. 第2回:「まちづくり」を阻む壁を取り除くデジタルテクノロジー
  3. 第3回:まちづくりに気づきを与える住民と観光客の視線とは
  4. 第4回:ライフスタイルに合う土地と、生きづらさを感じる土地の違いを考える
  5. 第5回:親世代からの自然伝播が子どもたちの心に届くときに何が起こるのか
  6. 第6回:デジタルはそれぞれの世代に何を伝えてきたのか
  7. 第7回:学びの場の広がり ~学校と地域のゆるい往復
  8. 第8回:地域と学校とのコミュニケーション
  9. 第9回:AI時代の自治体とコミュニティ(前半)
  10. 第10回:AI時代の自治体とコミュニティ(後半)

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