【山形 巧哉 編】第8回:地域と学校とのコミュニケーション

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-08-13

山形 巧哉氏
山形 巧哉氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

山形 巧哉

山形巧哉デザイン事務所 代表社員
一般社団法人コード・フォー・ジャパン
北海道森町 政策参与

山形 巧哉
  • 北海道森町出身。自治体職員として、行政や教育現場でのデジタル技術活用や構築に関する実務経験を重ねながら、その経験をもとに、地域社会においてデジタルをどのように結びつけると良いかという実験・実証を行う。
    独立後は社会ニーズや技術進化により変わりゆく「公共空間」に関し、研究調査・計画・設計・実証・実装といった多角的な支援を行っている。座右の銘は「まあすわりなよ」
    合同会社山形巧哉デザイン事務所・Code for Japan・国際大学GLOCOM客員研究員・公立はこだて未来大学アソシエイト・デジタル庁オープンデータ伝道師

山形さんは地域の生徒にも様々な形でかかわっているそうですが、どのような取り組みをされているのでしょう?

山形

いろいろな取り組みをしていますが、そのひとつとして地元の北海道森町にある森高校とつながりがあって、生徒たちとも様々な活動を行っています。伴走支援のような形で寄り添うことが多いのですが、最近では探究学習のような形で、生徒たちが自作アプリを作ってみたいとか、ボードゲームを作ってみたいというような要望を持つ子も出てきました。

そんな生徒たちとやり取りするなかでいちばん面白かったのが、「森町の桜はとてもきれいなのに、そこに若い人が来てくれないのが寂しい」と感じている子がいて、その課題をアプリで解決できないかというアイデアが出たのです。

面白いテーマだったので私もお手伝いをすることにしたのですが、まずアプリを作るための前準備として「花見の時期にフィールドワークをしてみてはどうか」という提案をしました。

そこで生徒たちがフィールドワークをしてきてくれたのですが、私が想像していたよりも数倍すごい成果になっていて、よくユーザーを観察しているし、それをまとめた観察結果も素晴らしい内容になっていました。

その結果に対して私が「次はこういう動きをしてはどうだろう」とか、「こういうペルソナを作ってみてはどうだろう」というようなレビューを行いたいと考えました。しかし、どうもやり取りのタイミングがうまくいきません。

そのタイミングというのは、どういう意味のものなのでしょうか。

山形

リアルにやり取りをするタイミングという意味なのですが、例えば生徒たちが授業の時間を使ってフィールドワークをして、それをまとめて私に送ってくれます。私も別の仕事をしていますので、時間ができたらその結果をみてレビューするわけですが、そうしたアドバイスをする時間をいつにするのかという問題が生じてきます。

「この時間なら森町にいるから、直接話ができます」となっても、それが生徒たちの空いている時間と合致するとは限りません。

今回の花見のフィールドワークは5月には終わっているのですが、実はその件に関して生徒たちとお話しができたのは1カ月近く後になってからでした。それも生徒と直接ではなく、担当の先生を通したやり取りなので、かなり手間がかかるものになってしまいます。

また、学校の場合は連絡手段がいまでも電話中心というのも課題です。基本的に学校側としては外部の大人と、生徒たちがLINEなどで直接つながるようなことは避けるようになっています。実際にはその生徒たちは私の知人、友人の子どもであるというのが実情なのですが、学校のルール上、やむを得ないことは理解できます。しかし、生徒たちに外部の大人からなにかアドバイスを送ろうとする際、大きな隔たりがあるようにも思えるのです。

例えば、隔たりを解消するためにGoogleのツールを使うことはできないのでしょうか?

山形

先生方を中心に、GoogleのツールやM365などを活用して、生徒たちとやり取りするような方法は採れないかということも相談しています。学校側もそれについては検討してくださっているので、現在ボールは向こうにあるという状況です。

ただ、これもたまたま私がアドバイザーとしても活動しているからできることであって、他にもお手伝いしてくださっている方や、ボランティアの方などもたくさんおられます。そういった方々にとってもこれは共通の課題になっていて、むしろ仕事をしながらボランティアなどをしてくださる方の場合は、いわば商売の時間を削って協力してくださっているので、なるべく無駄な時間をかけないように配慮する必要があるとは思っています。

こういう実情があるので、このあたりのコミュニケーション手段などに関しては、ぜひともモダン化していく必要があると思います。地域のために、学校もそのあたりをもう少し柔軟に開放できないか、という思いがここ最近特に私も感じているところです。

SNSなどで不特定多数とつながるのは危険も大きいと思いますが、地域の限られたメンバーの場合であれば、それぞれの素性が明らかという場合もあると思います。先生や保護者なども含めて、オープンなやり取りができる形があればいいのかもしれませんね。

山形

地域の方のためのゲスト用アカウントを準備するやり方もあるでしょうし、我々が個人で持っているGoogleアカウントやMSアカウントでアクセスできるような仕組みを作ることもできると思います。

ゼロトラストやユーザー認証などというと、一般的にはビジネス関連の話と思われるかもしれませんが、これからは地域のためにも使える仕組みなのではないか、と最近では思っています。

きちんと電話番号なども含めて個人が認証されているアカウントであれば、OKとして使えるような仕組みはすぐにできるはずです。

私は学校運営協議会にも参加しているのですが、従来はそのメンバーそれぞれに教頭先生から電話やメールなどで個別に連絡をいただいているような環境でした。

これでは連絡する側の負担も大変なので、私の社団法人で加入しているSlackのNPOプランを活用させてもらって、地域のためにも使えるようにしてみました。ところがそれでも、「自分はこういうのは無理だから電話してくれ」というようなリクエストをされることもありました。

無理強いすることはできませんが、デジタル化していく場合にはこういう方も含めてどう使っていくかということも課題になると感じました。ただ、今後に関していうといまの若い世代が中心になってくるので、こういった問題も自動的に解決してくる部分はあるかもしれません。

デジタルツールが活用できるようになれば、先生方も空いている時間に対応できるようになって、仕事も効率的に進められるようなこともあるのではないでしょうか。

山形

ドキュメントやスケジュールの共有ができるだけでも、これまでよりかなり事務負担なども減らすことができると思います。これは現状すでにあるGoogleやM365のツールを使うだけでも、すぐに実現できそうなことです。

生徒たちに同じツールを与えれば、たぶんみんな躊躇なくすぐに使いこなしていくと思います。

基本的には「使えばいいだけ」というのが答えなのですが、それでも使うことをためらう人にどのように広げていくかも課題です。

ユーザー認証などの仕組みで安全性は理解されているとは思うのですが、「そうはいっても怖い」という漠然とした理由によって拒絶されている部分もあると思います。個別の先生方はそう思っていなくても、学校という組織全体になるとそうした意識になっていってしまうこともあるかもしれません。そのためには、ログがきちんと取れるような仕組みを作ることも大切だと思います。

いまの生徒たちにとっては、昔に比べると地域の大人たちが遠い存在になってしまっているような気がします。「地域について調べよう」などという課題があったとして、昔であれば電話帳をパラパラめくってめぼしいところを探して、とりあえず電話して連絡を取ってみて、直接会いに行ってお話しを伺うようなことも普通にありました。これは小学校などでも普通にあったやり方です。

ところが電話帳はなくなり、連絡手段がネット中心になった現在では、どこかに連絡するのでもいったん先生に頼んで、その介在の下でなければダメということになってしまいました。

とはいえ現在でも学校側では地域の方に対して、ある程度の目星はついていることも多いので、そういう場合は学校専用のFacebookでもなんでもいいのですが、相談できる大人と連絡できるような仕組みも作れると思います。

また連絡手段が電話だった時代には夜遅くは避ける風潮もありましたが、メールやチャットであれば、読む、返事をするというアクションをする分には何時でも問題はありません。ただし、相手に反応を求める場合は夜遅くは避ける等のルールは必要だと思います。

山形

結局、やればできることが多いのですが、いろいろな「大人の都合」で予算などを理由にすることで進まないという実情もあります。

森町でいろいろな仕事をされている人がいます。人口減少のなかでも、この土地で踏ん張り、それぞれの思いを抱えながら生きているのです。そんな地域の人たちが持っている価値観や思いを、子どもたちが知る機会を作ることはこれからの地域づくりにとって重要なことだと思います。

それを後押しするためにも、デジタルですぐにつながれる環境を作ってあげることが、未来を創ることにもつながっていくのだろうと思います。例えば地域で働く方々をよく知る地元の商工会議所などと連携すれば、もっと面白い取り組みができると思います。ほかにも地域貢献や人道奉仕をおこなう団体もほとんどの自治体にあるので、そういった方々とつながることで子どもたちにより広い選択肢を与えられるのかもしれません。

高校を卒業したら外に出て行くことも多いと思いますが、いずれ地元に帰ってきて新しいことを始める人も多いと思います。戻ってきて盛り上げてくれるキーパーソンになる人材も多いので、我々はそういった子どもたちが帰ってきやすい環境を整えることも大切だと思います。

地域とつながった経験が生徒時代にあれば、俯瞰的に地元を見ることもできるでしょうし、「やっぱりいい町だな」と思うこともあると思います。

私自身が森町役場で経験を積むなかで、大人になってもなお知らなかった町の取り組みに出会ったり、お祭りや伝統の意味を改めて理解したりする中で、より地元への愛着が増していったという経験があります。

そういった身体で覚えた経験というのは生涯忘れないと思います。どのような方法でも構わないと思います。デジタルツールの活用も含めて、従来のやり方から脱却し、コミュニケーションをかき混ぜ、地域と子どもたちがスムーズにつながることができる方法を見つけ出すことが大切だと思います。

その方法が見つかれば素敵な未来が待っていそうな環境がつくれそうですね。本日はありがとうございました。

連載
  1. 第1回:小さな町から始めたDIY行政ネット改革
  2. 第2回:「まちづくり」を阻む壁を取り除くデジタルテクノロジー
  3. 第3回:まちづくりに気づきを与える住民と観光客の視線とは
  4. 第4回:ライフスタイルに合う土地と、生きづらさを感じる土地の違いを考える
  5. 第5回:親世代からの自然伝播が子どもたちの心に届くときに何が起こるのか
  6. 第6回:デジタルはそれぞれの世代に何を伝えてきたのか
  7. 第7回:学びの場の広がり ~学校と地域のゆるい往復
  8. 第8回:地域と学校とのコミュニケーション

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