【山形 巧哉 編】第5回:親世代からの自然伝播が子どもたちの心に届くときに何が起こるのか

元自治体キーマンが描く、ICT活用の過去・現在・未来シリーズ

2026-04-27

山形 巧哉氏
山形 巧哉氏

日本のICT活用の進化を決定づけるのは地方自治体だ。国家レベルの施策を実際に運用し、国民へのサービスとして昇華させるのは各自治体の役目でもある。そんな自治体において、ICT活用の進化が著しいケースがいくつかある。そしてその共通項として必ず浮上するのが、特筆すべき人材、いわゆる「キーマン」の存在だ。ここでは各自治体においてキーマンとして活躍し、大事業を達成させてきた人物にそれぞれが思い描くICT活用について語ってもらっている。彼らの考えや軌跡をみることによって、同じ自治体はもちろん、企業、組織にも大きなヒントが得られるはずなので、ぜひ熟読していただきたい。

取材:中山 一弘

山形 巧哉

山形巧哉デザイン事務所 代表社員
一般社団法人コード・フォー・ジャパン
北海道森町 政策参与

山形 巧哉
  • 北海道森町出身。自治体職員として、行政や教育現場でのデジタル技術活用や構築に関する実務経験を重ねながら、その経験をもとに、地域社会においてデジタルをどのように結びつけると良いかという実験・実証を行う。
    独立後は社会ニーズや技術進化により変わりゆく「公共空間」に関し、研究調査・計画・設計・実証・実装といった多角的な支援を行っている。座右の銘は「まあすわりなよ」
    合同会社山形巧哉デザイン事務所・Code for Japan・国際大学GLOCOM客員研究員・公立はこだて未来大学アソシエイト・デジタル庁オープンデータ伝道師

今回は「子どもに伝わる価値観」がテーマということですが、これは山形さんご自身の経験で何か感じたことがあったのでしょうか。

山形

私は自治体を退職してから、地元の高校で講師のような形で教育にも携わらせていただいています。そこで、記憶に残る出来事がありました。

当時の高校1年生で、いまは卒業してしまった生徒なのですが、授業のなかでモックアップを作るようなことをしていたことがありました。いまの高校の授業では「探求」というキーワードがあって、地域の課題を解決しようというような内容もよくあります。そういった課題解決をするために、「アプリを作ってみよう」というような授業がありました。これは高校の「情報Ⅰ」のカリキュラムに含まれている内容です。

そういった授業をしていくなかで、非常に伸びていく女子生徒がいて、私も「面白いからもっとやってみるといいよ」というような声かけもしていました。ところが何回目かの授業で、突然その生徒の熱意が低下したように感じられることがありました。あまり深い事情を聞くことはできませんでしたが、どうやらお父さんやお母さんに「こういうのは先生だからうまくできるのであって、お前はどうせうまくできないだろう」というようなことを言われたようでした。

そのため、すっかりやる気をなくしてしまっているような感じで、私の方もショックを受けてしまったという出来事がありました。こういうことを目の当たりにすると、「このモヤモヤは何なのだろう」と感じざるを得ませんでした。

また、私の地元の高校は生徒数もぐんと減ってきていて、存続の危機も現実化してきたような状況にありました。もちろん高校側でも学校の魅力を中学生などに伝えようとはしているのですが、そうすると周りの大人たちが「あんな学校に行っても仕方ないから他の高校がいい」などと言うようなこともありました。

私がいた森町の場合は、例えば高校が1校なくなるということは、それだけ転出する人口が増えるということでもあります。森町の高校に行かないということは、函館市などの大きな街の高校に子どもが移動してしまうということでもあります。最近では少子化ということもあって、子どもが函館市の学校に行くなら親も一緒に引っ越そうということにもなりかねません。小さな町の場合は、人口が減ればさらに交付税も減ることにつながっていきます。

もちろん、子どもたちの成長の芽を摘みたいわけではないので、自分でいいと思う高校などに行くことは当然応援したいのですが、必ずしも外に出なければならないものではなく、地元でも、地元だからこそ学べることもある。そこでも可能性は開けているということを地域住民のみなさんにもお知らせする努力は必要です。

ただ、そういう努力をしても周囲の親やおじいちゃんおばあちゃんたちがネガティブなことを言い続けると、どうしても悪循環になってしまうこともあります。

こうした親やおじいちゃんおばあちゃんたちの発言については、子どもたちは実は普段から敏感に聞いているものです。こういう方たちは子どもたちにとって、いちばん身近なロールモデルでもあります。そこをなんとかしなければいけない、ということも私はずっと考え続けていました。

山形さんのご活躍は、地方にいてもチャンスが生まれることをまさに体現されていますね。

山形

例えば高校生の親御さんたちがそういうところに気づいているのかというと、実際にはあまり気づいている人はいないように思えます。

例えば、最近の私自身に起こっている出来事ですが、もともとシステム開発者でもないし、コーディングをするような自分ではありませんでしたが、バイブコーディングのやり方を覚えたところ、資料作成や何かの調査なども寝る前に指示しておけば、朝になれば完成しているような世界を体験しています。こういった新しい世界を感じ、新たな可能性があることを知ると、思わず学びなおしてみたいと考え直す気持ちになることもあります。

自分にはこういう状況に対する焦りのようなものがあって、生成AIをどう使っていくのか、そのときに自分の立ち位置や存在意義はどうなるのかというようなことについても、考えていきたいと思うようになったのです。

自治体の方などとお話しする機会も多いと思いますが、まちづくりの視点から見た場合、生成AIなどに関する認識はどのようなものなのでしょうか。

山形

自治体ではどうしても定期的な人事異動があるために、前任者と同じ熱量を持っているとは限りません。先日もある自治体で人事異動があって、新しい担当者さんとお話しする機会がありました。その席で「AIについてお話ししましょう」ということで、いろいろと話すことになりました。

そこで簡単な実例として、出退勤管理システムをバイブコーディングを使い、たった2分で作るところをお見せしました。新しい担当者さんが、これまで人事系の部署から来たということだったので、馴染みのありそうな話題として作ってみたわけです。「いまはAIを使うとこんなシステムも、ちゃんとロジックを組んであげればすぐできるのですよ」というようなお話しとして体験してもらいました。するとその方はビックリされて、「こんなことがすぐできるのですか!」という反応になったわけです。

私たちはこういう生の体験をどんどん自治体の方にもしてもらって、理解・共感してくれる人たちを増やしていかなければならないのだと思います。

また別の町の例では、役所の発券システムを自作した職員さんとお話しする機会があって、どうやったのか伺うと「バイブコーディングで作ってみました」という方もいらっしゃいました。すでにそのシステムは役場で稼働しているのですが、こういう方も増えているのだと感じました。

ただ、印象的だったのはその方が「やればできることは分かったのですが、同時に怖さも感じています」と言ったことでした。

バイブコーディングは大事なのですが、役場の側でついていけなくなることもあるでしょう。もちろんそこで単に「やるな」ということではなく、すべてをPoCとして役場の側でガードレールを作って保護しつつ、実証実験を重ねていく必要もあると思います。

そうすることで職員の能力を伸ばしながら、なにかトラブルがあったときでもその職員を守ってあげることもできます。

そういう建て付けがないと職員の意欲も削いでしまうので、役場のDX担当などとも密接に連携しながら実験するなど、「町をよくしていこう」というような思いを大事にしてあげるべきだと思います。小さな町だとしても、こういう方策であれば進めていくことができるでしょう。

そういう意味でいうと、いまの子どもたちは学校でも生成AIなどを使う場面が増えていると思います。高校生などのレベルになれば、それこそバイブコーディングでいろいろ便利なものを作り出す生徒もいそうですね。

山形

それはまったくその通りで、高校生くらいになればその新しい価値観でガンガン新しいものを作り出していきます。

ところが地域の大人たちはどうかというと、現在の高校生の価値観とはかなり隔絶したものがあるのも感じます。例えば私の父親は昭和20年代生まれで、私自身は昭和50年代生まれです。ここには30年の差がありますが、価値観というものはあまり変わらなかったような気がします。

ところが現在の子どもたちの価値観と比較してみると、同じ日本語を話しているのにまるで違う言語を話しているのではないか、と思うくらいに違うような気がしています。あたかも異なる世界で暮らしているような感じです。そのような状況のなかで、我々大人はどのような姿を見せるべきなのかは難しいところだと思っています。

かつて、そろばんから電卓へと移り変わっていったときには、「電卓を使うと暗算ができなくなる」とか「頭が悪くなる」ということを言っていた人がいたかもしれません。いま生成AIなどに関して言えば、同じようなことが起きているのだと思います。

しかしその後、電卓からパソコンに移り変わったときには、一瞬でExcelなどを使う状況に変化しました。こういう変化は加速度的になっていて、かつて20年かけて馴染んできたものでも、生成AIなどはほんの数年で普及するまでになってきています。

こういう考えというものを、地域の大人たちや保護者の方が知っていれば、子どもたちにかける言葉というものもまた違ってくるかもしれませんね。

山形

そういった意味もあって、去年ですが教育に関するイベントを森町内で開催したことがありました。

大人たちにこういうことをちゃんと知ってもらいたいと思ったのですが、私たちの町内にはおじいちゃんおばあちゃんたちのための地域学校のような「オニウシ学園」というものがあります。いわゆる生涯学習といった感じのものなのですが、60代~80代の方が中心になっています。

そこで私たちのようなもう少し下の世代はそこから見たら下級生になるので、「オニウシ学園中等部」というものをイベント用に作って町内で教育系のイベントを開催したのです。そこでは地域づくりや学校の在り方などを中心にしながら、町の魅力などについても取り上げていきました。

私たちの町の人たちは、実は地域のことが好きな方が多くて、どういうところが好きかと尋ねると「やはり自然がいい」などということが多くありました。北海道の場合は、たいがいどの町も自然に恵まれているわけですが、それをきちんと言語化しようということでイベントでも取り上げました。

たくさんの方が来てくださったのですが、我々のようなデジタルの世界の人間についても、泥臭くても地域の方々にちゃんと知っていただくことが大切だと実感しました。

我々のことも知ってもらえれば、活動に興味を持ってくださるかもしれませんし、街づくりなどに興味を持ってもらえれば子どもたちに話す内容も変わってくると思います。やはり地道なことではあっても、こういう活動を通じていくことが結果的に大切なのだと実感しています。

本日はありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

連載
  1. 第1回:小さな町から始めたDIY行政ネット改革
  2. 第2回:「まちづくり」を阻む壁を取り除くデジタルテクノロジー
  3. 第3回:まちづくりに気づきを与える住民と観光客の視線とは
  4. 第4回:ライフスタイルに合う土地と、生きづらさを感じる土地の違いを考える
  5. 第5回:親世代からの自然伝播が子どもたちの心に届くときに何が起こるのか

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