2019.11.15
個人用パソコンとは異なり、企業用パソコンはOSをインストールしたハードウェアだけでは販売されないことが多い。企業内のエンドユーザーの手に届いたらすぐに使えるよう、ネットワーク設定やドライバー、業務用ソフトウェアのインストールに、適切なセキュリティパッチのインストール等のキッティング作業をシステムインテグレータが行い、納品される。
このキッティング作業は1台、2台だけなら手作業で行われるケースが多いが、多くの台数を同時に、または一定期間ごとに導入する場合は、1台の基準となるマスターパソコンをセッティングし、そのディスクイメージをマスターイメージとして用いて、複数台のパソコンのセッティングを行っていくことになる。
情報システム部に属している、または関わりのある人であれば、この作業に多くの時間と手間が必要だということがわかるだろう。
しかし時によっては複数の案件が重なってしまい、システムインテグレータ側でキッティング作業を行うためのエンジニアリソースが足りなくなってしまうケースもあるだろう。
そこでHPがシステムインテグレータ向けに提供するのが、東京工場でキッティングまで行うコンフィグレーション&デプロイメントサービスだ。PCメーカーでありながら、パソコンの製造のみではなく顧客ごとに異なるカスタマイズイメージの作成・インストール、資産管理ラベルの貼り付け等のキッティングを一箇所で組み上げる同サービスには今までにないメリットがあるという。その本質を日本HP 須磨氏、千葉氏に聞いた。
—— システムインテグレータや企業の情報システム部の方が感じておられるであろう、「企業におけるパソコン導入・入れ替え時の課題」についてお聞かせください。
須磨 まずはOSアップデートの問題があります。Windows 10は半年に1回ほど大型アップデートがあるのですが、そのアップデートによりWindowsの設定画面のUIや、ソフトウェアの挙動が変わることがあります。なかには設定項目が置かれる場所が変わることも、設定項目自体が省かれることもあります。従来は動いていたソフトウェアが動かなくなる、設定が変更できなくなるといった問題につながり、これにお困りのお客さまは非常に多いですね。
月1回ほどのアップデートの適用でも、既存のソフトウェアが動かなくなるということが結構あります。
マイクロソフトとしてはOSやデバイスドライバーのセキュリティホール対策として、より安全な環境となるようにアップデートパッチを配布するのですが、バージョンごとに詳細な情報が出てくるわけではないので、企業内の情報システム部や、システムインテグレータの方では対応しきれないところがあります。毎日Windowsの最新情報だけを追いかけていくわけにはいきませんしね。
またWindows 8以降はWindows アプリ(Microsoft Storeで提供されるソフトウェア)とユーザーのアカウントが紐付けされるようになりました。これにより、マスターイメージで設定した内容もアカウントが変わると初期化されてしまうことがあります。
—— 今まで実行できたソフトウェアが動かなくなる、というのは大きなストレスですよね。
須磨 Windows 7の時は大丈夫だったのに、なぜWindows 10になって問題が起きるのだ、とおっしゃるお客さまはいますね。とはいってもマイクロソフト側に情報開示を求めるのも難しいと思います。彼らはOSの開発が主業務であり、システム構築分野ではありませんから。
—— トータルでの品質を確保するためのコストが増えてきているのですね。
須磨 BIOSで問題が起きることもありますが、多くはOSに起因するところが大きいですね。例えばお客さまの要望に合わせてマスターイメージを製作しても、それ以後に重要なセキュリティホールが発見され、対策用のセキュリティパッチが登場したとします。
そのパッチを適用したことで、今まで動いてきたソフトウェアに問題が起きるのではないか。だとしたら一時的にセキュリティレベルが低くなったとしても、すぐにはパッチを適用しないほうがいいのかの判断をするのが難しいですね。
そこでお客さま、システムインテグレータ、そして我々は、OSのアップデートやパッチリリースの都度、工数をかけながらトライアンドエラーで新バージョンのOSに適合するように、システムを調整してきました。
実際にはOSのアップデートやパッチが配布されたら、何台かテスト用のパソコンを用意して、アップデートパッチを当てた状態でテスト。必要なソフトウェアが正しく動くかどうかを確認した上で、本番環境に適用するといった作業を行っています。
ですからマスターイメージを製作したから終わり。ではなく、その後のメンテナンスを含めた工程の比重が大きくなってきています。
—— そのような状況下、システムインテグレータ向けにコンフィグレーション&デプロイメントサービスを提供されています。これはどのようなサービスなのでしょうか。
千葉 コンフィグレーション&デプロイメントサービスは通常のキッティングのほかに、ハードウェアの調達も行えるというメリットがあります。また同時にキッティングの仕様をHPのエンジニアが一緒になって決められるというメリットがあります。
まずコンフィグレーションサービスは、ハードウェア構成のなかに、お客さまごとのキッティング内容を組み込んだ上で型番化します。型番が決まることで、継続的に新しいパソコンをご注文いただいたときに、パソコンの生産のみならずキッティングもオートメーション化できるようになります。
キッティングはマスターイメージのインストール、お客さま指定ソフトウェアのインストール、BIOSやネットワーク、RAIDの設定、アセットタグやラベルの貼り付け、指定品の同梱など、多岐にわたります。不要な同梱物を省くといったオーダーも請け負っています。
—— 同梱物の抜き取りという指示もあるのですか。
千葉 お客さまによっては、「このドキュメントは何のためにあるものなのだ」というお問い合わせをヘルプデスクにされるケースもあるのです。実はヘルプデスクの運営コストを下げるための施策ともなります。
またアセットタグやラベルの貼り付け位置・角度につきましても、ご意見をくださるお客さまもいらっしゃいます。
これは日本特有のケースのようです。ゆえにキッティングを海外で行うとなると、日本の文化を海外のスタッフに理解してもらう必要があります。さもないと「なんでこんな作業が必要なんだ」と工場側のほうから言い出しかねない。
しかしHPのコンフィグレーションサービスは、東京都内にある工場でキッティングを行うため、きめ細やかなサービス提供が可能です。型番を決めることで同梱物の管理もオートメーション化できるため、どの作業員が手掛けても品質を維持することができます。
—— オートメーション化によってキッティングを含めた生産性も上がりますか。
千葉 はい。お客様仕様のパソコンを、発注いただいてから最短5営業日で納品できるようになっています。これは通常モデルの納品スピードと同じです。
その一方でキッティングの仕様をコンフィグレーションで固めるまでには、それなりの期間を要してしまいます。どのソフトウェアを入れましょうとか、ネットワークの設定をどうしましょうとか、準備段階で時間がかかるのです。ゆえに年間で何百台、何千台のパソコンを定期的に発注するようなお客さまには向いているサービスですが、小規模台数かつつ短納期でキッティングまでやって欲しいというお客様にはあまり向いていないと言えます。
そこで製造のラインとは別にキッティングのスケジューリングを行い、オーダーに応じてお客さまのオフィスや工場に赴いてのセッティングを行うデプロイメントサービスもご用意しています。こちらはお客さま指定のファイルやフォルダの移行や、ストレージのデータ消去サービスもあり、コンフィグレーションサービスのオートメーション作業だけではカバーできない、痒い所に手が届くといったようなサービスを揃えています。
—— コンフィグレーションサービスのキッティングについてお聞きしたいのですが、先程のOSやセキュリティパッチのアップデートのコントロールも、準備段階で決めていくのでしょうか。
千葉 はい。どのバージョンでマスターイメージを作るのか、また大型アップデートのどのタイミングでマスターイメージを回収して改めて検証するのかを、お客さまご自身に決めていただくのは極めて難しいと考えております。弊社の方も最適なタイミングを見極めるために、私自身が営業に入ってコンサルとして活動しています。そしてお客さまの視点で、使われているソフトウェア自体がWindows 10の各バージョンに対応しているかどうかなどを細かくヒヤリングさせていただいて、須磨のチームと連携を取りながら最適な仕様を固めさせていただいています。
Windows 10になってからバージョンが変わるたびにいろいろな癖がでてきているのですが、普段から須磨のチームがユーザー視点で詳しく調査をしているので、これは弊社でなければできないことだと自負しております。
—— コンフィグレーション&デプロイメントサービスの導入事例を教えてください。
千葉 一例としましては、普段はコンフィグレーションサービスで提供させていただいているお客様なのですが。パソコンのモデルチェンジ時に仕様決定が間に合わないため、一時的に数台だけデプロイメントサービスを使っていただいて、残りの多くの台数はあとからコンフィグレーションサービスをご利用いただいたことがあります。
コンフィグレーションサービスは、工場内作業、つまり、インターネットにつながらない、厳重なセキュリティポリシーが敷かれておる環境で作業をするため、通常のキッティングと比較し、できない作業があります。それに対してデプロイメントサービスは、工場外作業となり、一般的なキッティングと同様、インターネット接続が必要な作業が可能です。例えばVPNルータを経由して、お客さまのドメイン環境内でしか行えない作業が可能です。いってしまえばどのような個別のニーズに対しても柔軟に請け負うことができます。
—— いままでどのような業態の方が、コンフィグレーション&デプロイメントサービスを使われたのでしょうか。
千葉 まず国の機関や自治体があります。他にも製造業、旅行業、金融機関、医療業、輸送業、サービス業、建設業の方に使っていただいております。
—— そのなかで、コンフィグレーション&デプロイメントサービスだからこそ実施できた事例を教えて下さい。
千葉 弊社はパートナー様経由でお客さまからのオーダーを請け負っているのですが、自治体のお客さまの入札に参加する際、決定したら2週間で納品といったように、納期が極めてタイトなケースがありました。これはパソコンの製造直後にキッティングしてすぐに出荷しないと間に合いません。
そのためパートナー様側としても、エンジニアのリソースが確保できていれば問題ないのですが、同時に複数の案件の入札に参加されたりしているなどの状況では、リソースを意識してしまって及び腰になってしまうことがあります。
パートナー様のリソース確保の一つの方法として、弊社にご依頼いただいたことがあります。
—— 基本的にはパートナー様と協業という形なのでしょうか。
千葉 日本国内でのハードウェア調達、IT導入の主役は、販売パートナーであるシステムインテグレータの企業さまです。
我々は本来、ハードウェアを生産するメーカーの立場ではありますが、このサービスにおいては、パートナー企業さまの下請けとして活動している感覚ですね。弊社が提案するのではなくて、パートナー企業さまとお客さまとの信頼関係の中で、よりキッティングの品質の信頼性を高め、よりよいビジネスを遂行するために、ハードウェアと合わせてキッティング機能をHPから調達するような形で提案されるというのが我々にとってベストだと考えています。
現在、キッティング作業の工数増に悩まれているシステムインテグレータ様は非常に多いと思います。エンドユーザーの感覚での「これまで通り」を実現するためには、従来以上の手間とノウハウが必要です。
HPのコンフィグレーション&デプロイメントサービスは、ユーザー視点でOSのことを考え、ノウハウを蓄積しているのが強みです。
ハードウェアの延長としてキッティングを捉えていただき、システムインテグレータ様のビジネスの一つの武器としてご活用いただけたらと思います。