2021.08.27
KADOKAWAを進化させた日本型『GAFAな働き方』とは
コロナ禍においてKADOKAWAやドワンゴをはじめとするグループ数社で7割を超えるリモートワーク率を実現したKADOKAWAグループ。2020年の1年間でDXを大きく推し進めた。その成功の原動力となったのが、「日本型にアレンジした『GAFAな働き方』」だ。日本企業がDXを成功させる上で、“GAFA的視点”をどう取り入れればよいのか、同グループのDXの担い手を務めたKADOKAWA Connected 各務茂雄氏に話を聞いた。
株式会社 KADOKAWA Connected 代表取締役社長 各務 茂雄 氏(取材時)
各務 茂雄 氏(以下、各務氏) 生産性を向上させるためのDXを「守りのDX」と呼んでいるのですが、守りに関しては、かなり進んだのではないでしょうか。それが最も表れているのが、リモートワークです。リモートワークの本質は、ただ遠隔で仕事ができることではなく、リモートでありながらリアルで会っているときと同等の仕事ができたり、リモートワークをすることでプラスの効果を得られたりすることにあります。
KADOKAWAグループは、在宅はもちろんのこと、飯田橋エリアのオフィスやところざわサクラタウンのオフィスも含め、全従業員が時間や場所にとらわれず、自律的に行動する働き方「ABW(Activity Based Working)」を導入しています。加えて、グループ内の人と連携をとりやすい仕組みがあります。このようにフレキシブルな場所で、フレキシブルにいろいろな人たちと連携できることが、真のリモートワークだと捉えています。
各務氏 逆説的ではありますが、フレキシブルに働けるようにするには、ベースとなる“きまり事”が必要です。制約がある中でこそ、真の自由があるのと同じですね。当社では、そのルールを地道につくり上げてきました。
ルールというだけに、白黒をはっきりさせることがまず大切です。「こんな時は出社してもOKにしよう」とか「こんなケースでは直接会って連携をとれるようにしよう」といった細かなパターンにまで踏み込んでいきました。要は白黒だけでなく、“濃淡”も設けること。そうしたルールを、少しずつ定着させていきました。
ルールに濃淡を設けることが、フレキシブルな働き方実現のポイント
各務氏 現在、KADOKAWAやドワンゴ、ブックウォーカーなどのグループ会社でリモートワーク率は高水準で推移しており、2020年度のリモートワーク率は7~8割にのぼっています。今後もグループ会社個々の特性に合わせながら、リモートワークを行っていきます。
ただしDXは、言うなれば「経営改革」です。経営改革に終わりはありませんので、DXもこの先ずっと続くものと捉えています。特に、今はコロナ禍の影響もあり、変化が一層激しくなっているので、常にDXのあり方自体も変化・進化させていかなくてはいけません。
各務氏 『GAFAな働き方』を端的に言えば、白黒をはっきりさせた上で仕事することです。ゴールがどこにあり、各人がどんな役割を担い、そのためにどんなコミュニケーションをとり、その結果どんな報酬を得られるのか。そういった事をはっきりさせることが大事です。
ただ、中には『GAFAな働き方』が向かないチームもあります。例えば、当社には編集やクリエーションを行うチームが多くありますが、その中には『GAFAな働き方』をきっちり当てはめると、かえって機能しなくなるチームもあります。先ほどの“濃淡を付ける”と同じように、そうしたパターンも明確にし、そこに見合ったルールを設けることが「日本型なアレンジ」に該当する部分です。
各務氏 『GAFAな働き方』を標準化する上で生命線となるのが、強固な「横串チーム」を作ることです。「横串チーム」とは、部署や組織を横断したチームのこと。KADOKAWAグループでは、総務・人事・経営企画・経営管理・ITといったバックエンドの部署の各人員で構成されるICTチームを設けています。日本では大きな会社ほど、バックエンドの部署は縦割り構造になっていて、横に連携を取りにくい傾向にあります。そこで、バックエンドの部署をワンチーム化したのです。
このチームを「サービスチーム」として機能させることを愚直に目指しました。
各務氏 社内の従業員を “顧客” と見なし、その顧客に向けてサービスを提供するチームのことです。いずれのサービスチームも、カスタマーサクセス、つまりは従業員の成功や利便性の向上をゴールとしています。
一般的に総務などのバックエンド機能の部署は自部署の仕事の進めやすさを第一に考える傾向があります。そのため、面倒な仕事はできれば他部署に任せたいし、たとえ会社にとって良い施策を思い付いても提案を控えたりすることがあります。
しかし、DXや働き方改革の本質は、部署をまたいだ仕組みをつくることで、会社にとってよい施策を実行可能な組織に変えていくことにあります。それには、まずは「横串チーム」を設けること。そして、彼らが各部署の代表として動くのではなく、あくまでも「顧客(=従業員)の成功」を徹底追及するサービスチームの一員として動くことが、不可欠になるのです。
各務氏 仰る通り、最初は皆、やり方がわかりません。例えば「人事チームとしてはこうしたい」というような、自部署を代表した話をしてしまいます。
そんな中でも「自分はサービスチームの一員であり、部署の代表として参加しているのではない」ということを常に意識し続け、利用者が本当に求めているものは何かを考え、試行錯誤し続けること。さらにはその過程で「そうか、こういうことがカスタマーサクセスになるのか」という成功体験を得ることで、だんだんと意識改革がされていくイメージです。当社の場合も、サービスチームとして本当に機能するまでに約1年はかかりました。
しかし、人間は面白いものです。それまでは自部署の代表として、時に「仕事の押し付け合い」のような様相もあったのに、意識改革が進むと自発的に「“顧客”のためにこんなサービスを行いたい」という施策を出すようになります。一度そうなれば、「横串チーム」はどんどん活性化していきます。
各務氏 大事なポイントは、アナログ思考が価値の創出に結びついているチームに、デジタル思考を不用意に持ち込まないことです。
KADOKAWAグループは出版、映画、アニメ、ゲーム、 UGC(User Generated Content)など 多様なコンテンツを創出する、数多くのセクションがあります。そのため、一言で「編集チーム」といっても仕事の進め方は多種多様です。だから一律に「編集チームは、このやり方」とは括れません。当社では、その個々の特性をきちんと把握したうえで、バラツキも含めてパターン分けを進めています。
例えば、「このパターンであれば、このくらいまでデジタル思考を持ち込める」とか「このパターンの場合、デジタル思考は合わないので、ここまでしか踏み込まない」といった形です。一様に白黒付けるのではなく、“ペルソナ”に合わせてもう少し柔軟にカスタマイズしていくことがポイントですね。
各務氏 日本の伝統的な会社の多くは、多様性に満ちています。各従業員の能力や仕事へのモチベーション、趣味趣向もバラバラだったりする。だからGAFA的に厳格に白黒を付けてしまうと、その多様性が失われかねません。多様性を大切にし、さらにはそれを強みに変えるには、「ある程度の柔軟性を残した標準化」が鍵になると考えています。
各務氏 当社では、そこも非常に工夫しています。たとえばKADOKAWA Connectedにはカスタマーサクセスというチームがあります。そのメンバーは“お客様”を徹底的に研究するべく、対象となる社内組織に常駐し、彼らの横に座りながら「本当のニーズは何か」を調べています。
各務氏 前述の通り、「守りのDX」とは生産性を向上させるDXですが、守りが固まると、「攻めのDX」も行いやすくなります。ここで言う「攻めのDX」とは、売上や利益を狙うためのデジタル投資のことです。必然的に「攻めのDX」は事業チーム主体になりますが、「守りのDX」が進むことで、彼らは品質を維持しながら高スピードで仕事ができるようになります。
すると、当然ながら “挑戦回数” が増えます。今までは1回しかできなかったことを、同じ所要時間で3回できるようになったりする。そうなると、成功する回数も3倍に増える。さらには、そうして「攻めのDX」で得られたデータや知見を、「横串チーム」が収集し、全社的に標準化することができる。それにより社内の事業チームの成功確率は、より高まる。こうして会社全体で好循環が生まれていくわけです。
「守りのDX」が進めば、組織としての挑戦回数を増やすことができる
そうした効果を踏まえれば、守りと攻めをきちんと意識したうえでのIT化は、コストではなく「投資」と捉えるのが適切でしょう。
各務氏 費用の中から何%を “IT投資” に割くというベースラインを決めたうえで、それに則って従業員一人あたりの投資の内訳までを細かく計算することです。経験上、これをやった方が成功確率も上がります。言い換えるとこれをやらずして成功しないと私は考えています。
各務氏 ライバル企業も同じようにIT投資をしている可能性が高く、投資規模を誤ると、ライバル企業の方がデジタル技術を使ってより効率のいい仕事をしてしまうからです。従って、競争優位性を得るには、ライバル企業に負けない形でIT投資しなくてはいけません。そのためのベンチマークです。
「どのくらい投資すれば勝てるか」を見定め、自社の価値の源泉となる部分に「いかに投資するか」を見極める。それがDXを成功させる第一歩になるのではないでしょうか。
※本記事は JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです
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