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2021.05.24

転換点を迎えたESG。非財務要因が企業価値を左右する時代に

金融市場からの「新たな要請」に企業はどう応えるべきか

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 近年、企業経営の現場においてSDGsやESGを踏まえた「非財務要因」の重要性が増している。この点について、「環境と金融」の視点から長年研究を進めてきた環境金融研究機構 代表 藤井良広氏は「この流れはここ数年で一気に進む」と語る。

 なぜ、財務的な評価が難しい「非財務要因」が重要視されているのか。そうした時代を企業が生き抜くために、経営者はどのような視点を備えればよいのか。同氏にインタビューを試みた。

一般社団法人環境金融研究機構 代表理事 藤井良広 氏

企業価値(時価)に影響を与える要因が激変した

―― 藤井様は「環境金融」という分野の研究を通し、企業が環境面のリスクをはじめとする「非財務要因」をきちんと捉えて財務諸表に反映させることの重要性を説かれてきました。まずは、それがなぜ重要なのか、簡単に教えてください。

藤井 良広 氏(以下、藤井氏) 例えば、事業活動によって公害や環境汚染が起こった場合、その原因となった企業には被害者の方々への賠償責任や原状回復の義務が生じます。そうしたリスクは環境に限らず、社会問題や企業ガバナンスの領域でも同じように発生する可能性があります。従って、企業としてリスクマネジメントを考える上では、それら非財務面のリスクを事前にきちんと把握し、削減に必要なコストを投じる対応をとることが非常に重要です。

 加えて、投資家や金融機関が投融資を行う際にも、投資先企業の非財務要因に対する備えの有無を評価する傾向が強まっています。逆に言うと、環境リスクにしっかり向き合っている企業ほど、投融資資金が集まりやすいともいえるわけです。

―― そうした流れは、いつ頃から始まったのでしょう。

藤井氏 私がこの分野の研究を本格的に始めた約20年前は、こうした考え方を実務に取り入れている会社は、日本ではほとんどありませんでした。「環境」と「金融」は繋がらない、という反応がほとんどでしたね。

 金融機関が「環境リスクに対する備え」を考慮して投融資することもほぼなかったと思います。企業側も非財務要因をどう財務諸表に反映させればいいかわからない、という状況でした。そもそも、環境や社会的リスクへの対応を財務諸表で表示する概念自体がなかったわけです。

 ところが近年、そうした状況が確実に変わりつつあります。それを示すのが、米国で知的財産関連ビジネスを展開している米オーシャン・トモ社の分析です。

―― それはどのような分析でしょうか。

藤井氏 同社によると、1975年におけるアメリカ主要企業の時価総額に及ぼす影響度は、約80%が財務要因で、約15%が非財務要因でした。しかし、2015年には比率がきれいに逆転し、約80%を非財務要因が占めています。さらに2020年には90%にまで上昇しています。

米・主要企業の時価総額には、財務要因以上に非財務要因が大きな影響を及ぼしている
(PHOTOGRAPH BY Jeffrey Blum / UNSPLASH)

 ここでいう非財務要因には、ESG以外の知的財産の評価等の将来、利益を生み出す無形資産も含まれます。しかし、環境リスクや社会的リスクに対する対応が、投融資において重視されていることは間違いないでしょう。要は投資家が企業を評価する観点が、40年前とは大きく変わり、現在の利益よりも、将来のリスクに移ってきているわけです。

 そして2017年、その流れを世界にはっきりと示すできごとが起きました。

金融システムに大きな影響を与えたTCFDレポート

―― 2017年に起こったできごととは何でしょうか。

藤井氏 金融安定理事会による、気候関連リスクを財務情報として扱うタスクフォース(TCFD)のレポートが公表されたのです。内容は、気候変動は金融システムに大きな影響を及ぼすものであり、そのリスクを、事前に把握して財務的に対応すべきだ、というものでした。注目すべき点は、レポートが世界の主要国で構成するG20の活動の一環として出されたことでしょう。

 同レポートは、企業は自らが抱える気候変動リスクを推計・評価し、財務諸表にその推計コストを計上する必要がある、としています。加えて、金融機関は投融資判断に際して「企業が環境リスクに対処しているかどうか」を評価すべき、としています。つまり、企業は自らの環境リスクを推計して開示しなければ、投融資の対象から外れる可能性が出てきたのです。

 金融機関と企業は同レポートにより、気候変動の重みを突如突きつけられたのです。そういう意味で、TCFDレポートは、気候リスク、環境要因、非財務要因を重視せざるを得ないというターニングポイントの一つになったといえます。

 一方で、そもそも非財務要因は文字通り「財務として計上できない要因」ですので、企業にも金融機関にも財務的に評価する術がありません。では、その方法論をどうすればよいのか。こうした背景があり、ここ数年で「非財務要因の評価手法の共通化とその開示」への対応が急速に進められています。今年が1つの山となるのではないでしょうか。

―― 国内外で、企業が環境リスクを定量化する動きは見られていますか。

藤井氏 もともとヨーロッパはNGOや金融市場からの企業へのプレッシャーが強く、既にそうした「評価と開示の共通化」の動きが顕在化していました。SDGsやパリ協定もその一環ですね。また、アメリカもバイデン政権になって、再生可能エネルギーシフトを含めたエネルギー産業の転換に注力し始めており、産業構造全体が環境負荷を低減する流れに向かっています。

欧州に加え、米国も環境負荷軽減の流れを強めている
(PHOTOGRAPH BY Mariana Proença / UNSPLASH)

 これに対して日本は、遅れをとってきました。なぜ遅いのかと言うと、企業がNGOや金融市場等の外部のステークホルダーから受けるプレッシャーが少ないことが大きいと思います。日本は戦後復興から右肩上がりに成長し、1億2千万人の良質なマーケットを抱えてきました。素晴らしい企業がたくさん生まれ、先駆的な取り組みもいろいろ進められた。ただ、その構造はバブル崩壊を経て損なわれたにもかかわらず、以前の「国内市場の成長」を前提とした「勝ち組」思考の余韻が未だに残っています。

 この先、国内市場は縮小する一方なので、国内市場だけに立脚した経営のままでは、生き残れない企業がたくさん出てきます。だからこそ、企業は戦略を変えなければいけない。にもかかわらず、これまでは外部からの圧力もあまりありませんでした。しかし、ここにきてグローバルで見られるような動きが、ようやく日本でもみられるようになってきました。

―― 具体的にどのような動きでしょうか。

藤井氏 例えば、去年、みずほフィナンシャルグループに対して日本の環境NPOが行った株主提案です。この提案では、気候変動への対応を定款に組み込むことが求められ、内外の株主の3割強の賛同を得ました。

 今年に入ってからは三菱UFJフィナンシャル・グループに対しても、国内外のNGOから株主提案が行われました。同様に住友商事でも、海外のNGOが気候対応を求める株主提案を行っており、機関投資家も注目しています。こうしたNGOや金融市場からの要請は、今後日本国内でも活発化するはずです。企業経営者はこうした外部からの圧力に答えることを求められています。

環境リスクを想定したシナリオが信用を生み出す

―― 環境NGOが企業経営に与える影響も強まっているわけですね。

藤井氏 NGOも自ら株を持ち、株主として自由に提案を行えます。その提案に対し、欧米の年金基金や資産運用会社などの機関投資家が賛同を示す。彼らは「社会的に意義があるから」として賛同するのではなく、むしろ「企業が変わってくれないと、株価が下がってしまうから」という投資の視点での判断基準を示すわけです。従って、企業が変われば、つまり企業が環境リスクにきちんと対応するようになれば、機関投資家は“買い”の評価を下します。

環境コストへの対応が金融市場からの評価にも影響を及ぼす時代に
(PHOTOGRAPH BY M. B. M. / UNSPLASH)

 今や日本株全体における外資が保持する株の割合は3〜4割にものぼります。企業によっては、8割近くの株を外資が持っていることも珍しくありません。今後はそうした“変化を求める株主”がグローバルな目線で、日本企業の経営にさらなる変革を求めてくるでしょう。グローバルなビジネスをやっているのなら、グローバルな問題に応えなさい、さもなければ株を売りますよ、と。そうしたことが、既に日本でも起き始めているのです。

―― 国内外の金融市場の変化を受け、企業は非財務要因に対する取り組みをどのように行えばよいのでしょうか。

藤井氏 まずは10年、20年先の“自社の絵”をきちんと描くことです。具体的な手法としては「シナリオ分析」※1 が挙げられます。「株価がいくらに下がったら…」「円高がここまで進んだら…」といった財務要因はもちろんのこと、たとえば「平均気温が4度上がったら…」「この規模の天災が起こったら…」など、非財務要因のネガティブな条件の展開も想定したシナリオで評価することが求められます。

 その上で各条件に対し、「たとえそうなっても、損失はこの程度で済む」、あるいは「こんな手立てを講じるので大丈夫」との備えをし、それらの対応コストを、財務諸表等で可視化する。非財務要因で起こり得るネガティブなシナリオにも対応できる事業計画や中長期経営計画を立て、財務への影響を含めて「見える化」することが、投資家からの信頼向上につながります。

※1 戦略立案する上で、不確実なリスク要因に対処するべく、複数の異なる条件を設定して分析する手法。

―― 非財務要因に向き合う上で心がけるべきことは何でしょうか。

藤井氏 日本の場合、環境問題や社会問題への取り組みを、環境配慮、社会配慮といった形で、“配慮”にとどめる傾向があります。環境や社会のことも踏まえて事業に取り組んでいますよ、というメッセージがこれに当たります。他にも、グリーンビルディングや、農業の有機栽培等も、「環境配慮」を強調しますね。もちろん、「配慮」すること自体は悪いことではありませんが、目的が“配慮”だけだと、景気や業績が悪化した時にはリスク対応のコストを削減されかねません。

 優先すべきことは「自社にとっての環境リスクは何かを把握し、リスクが顕在化しないように、一定のコストをかけて、抑えること」なんです。単に環境に良いことをするのではなく、企業本来の「リスクマネジメント」としてとらえる、ということです。

「変わらないことのコスト」の方が遥かに大きい

―― “一時的な配慮”から持続的な取り組みへと変えるには、発想の転換が求められそうです。

藤井氏 環境リスクを評価し対応することは、時に企業の本業のあり方にかかわることもあり、企業にとって避けたい場合があります。政府も、経済の中心にいる企業には、強制的な規制をかけづらい。政府がCO2を削減するために、電力会社に対して「石炭火力も、天然ガス火力もダメ」との規制をかけようとしたら、電力会社だけでなく、電力を消費する企業からも反対の声があがる可能性があります。

 しかしグローバル課題としての温暖化問題が切迫する現状を踏まえると、「変わらないことのコスト」の方が遥かに大きい。そもそも製品やサービスは消費者が選ぶので、環境負荷の高い事業の製品・サービスは、消費者から遠ざけられ、競争に負けてしまいます。気候変動が進展すると、政府は企業を転換させるための政策を取らざるを得ないし、企業側も気候リスクに備えないと、自社の本業の持続可能性が揺らいできます。「変わること」を受け入れ、直面する環境、社会リスクを抑えるためのコストを最小化することが、持続可能性を高めると思います。

 そうした対応を迅速にやって非財務要因をリスクマネジメントにうまく取り込める企業には、結果として投資家からの資金も集まり、ビジネスチャンスが生まれる可能性が高まります。リスクマネジメントをサポートするビジネス等の市場も拡大します。環境、社会の非財務要因のリスク対応に取り組むことで、新たな事業展開と市場拡大の好循環が生まれるわけです。今はまさにその転換点であり、この流れは避けようのないものだと思います。

―― 様々な企業が取り組みつつあるグリーン購入活動に関しては、どのように見られていますか。

藤井氏 企業が非財務要因のリスクに備える取り組みは、事業活動の仕入れ・購入プロセスも例外ではありません。グリーン購入の視点、つまりは企業が購買する製品・サービスについても環境を配慮し、「価格やスペックに表れない環境面や社会面の価値を重視する」ことが一層求められるでしょう。たとえば機材や包装に再生プラスティックを使っているかとか、サプライチェーンでの格差是正や雇用・教育への貢献等も求められます。

 グリーン購入についても前述したように「環境配慮にとどまらないこと」が重要です。環境配慮製品だからといってコストを考えないと、製品価格が想定以上に上昇する可能性もあります。そうなると消費者離れが起きかねません。繰り返しですが、環境等の非財務のリスクを推計し、そのリスクを抑制する最適コストを把握することによって、リスクを減らし、収益を維持できるのです。それがまさに「持続可能な経営」の土台です。

―― 最後に、環境金融の視点を経営に取り入れようと取り組む企業にメッセージをお願いします。

藤井氏 この先は多くの企業が、これまで述べてきたような「環境リスクをきちんと把握し、そのリスクを低減するコストを払う」ことに取り組むようになるでしょう。そのうえで大事なことは、そうした対応とプロセスを、市場、消費者に伝える「メッセージ力」だと思います。

 例えば、「あなたの使っている製品は、こんなふうに社会に貢献している」、「こうした取り組みを通して、我々は将来こんなところを目指している」といった具合です。こうした「製品ストーリー」を伝えることで、ユーザーも「企業が取り組む環境、社会的価値」を共有することができます。ユーザーとの価値観の共有は、製品・サービスの市場価値を高めることにつながります。これらのことを実行できる優秀な経営者が日本にはたくさんいると思います。今後の展開を期待しています。

※本記事は JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです

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