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2022.5.9

横河電機が進める製造業DX、目指すはデジタルエンタープライズ

インターナルDXが提案価値を高め、全社のDXを加速させる

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 計測・制御機器メーカーとして100年以上の歴史を持つ横河電機。世界13カ国に工場を持ち、海外での売り上げが全体の7割を占めるほどグローバルな事業展開を行っている。同社は現在、企業内すべてのビジネスプロセスをデジタル化する「デジタルエンタープライズ」を目指し、DXの取り組みを進めている。物理的なものを扱う製造業ならではの難しさもある中で、どのように変革を推進しているのか。同社 常務執行役員でCIOの舩生幸宏氏に話を聞いた。

横河電機株式会社 常務執行役員 (CIO)デジタル戦略本部長
兼 デジタルソリューション本部 DX-Platformセンター長 舩生 幸宏氏

全てのビジネスプロセスをバーチャルでつなぐ

―― まず、「製造業におけるDX」として、御社が目指す姿を教えてください。

舩生 幸宏氏(以下、舩生氏) 我々が目指しているのは、シンプルに言って「デジタルエンタープライズ」になることです。物理的な制約を受けず、いつでもどこでも社員がオペレーションを回すことができる。そんな状態をつくり出そうとしています。とはいえ、当社の工場は世界13カ国に展開していますし、工場そのものをバーチャル化することも難しい。そこで、そこに付随する管理業務を含めて、可能なものからどんどんバーチャル化していくことをコンセプトに進めています。

―― それが実現することで、会社にどのような変化が起こるのでしょうか。

舩生氏 一つは、ビジネスプロセスのオンライン化が進むと考えています。我々は自社だけで仕事をしているわけではありません。ですから、社内の業務がバーチャル化すれば、お客様やパートナー企業とのやり取りもオンライン化が進みます。現在はメールで行っているサプライヤーからの部品購入もオンライン化を進め、最終的にはエンドツーエンド(end-to-end)で全てのビジネスプロセスがオンライン化された状態を目指します。

(写真:metamorworks /shutterstock)

 もう一つは、サービス化の進展です。「モノを作って売る」という従来の製造業の提供価値も、これからは次第にモノからサービスへと移っていきます。元々、お客様はモノそのものが欲しいわけではなく、モノを買うことで得られる価値を買っているからです。そのため、今後はその価値をサービス化することと向き合わなければいけません。

インターナルとエクスターナルの両輪でDXを推進

―― 製造業がDXを進めていく過程で、特に障壁になることはありますか?

舩生氏 一つは、工場自体のバーチャル化です。やはりモノを作っているので、工場そのものをバーチャル化するのは難しい。そしてもう一つは、モノを作る上での見えないノウハウがあることですね。これは「暗黙知」や「匠の技」と言われるもので、現場や人に蓄積されていて他者に対してうまく説明ができないことが多いものです。これまでは匠の経験をもとに製造現場の改善を行ってきましたが、その技を持った社員が高齢化して引退してしまうと、技術を次世代に引き継ぐことは困難になります。

 そこで当社の工場では「データドリブンオペレーション」を進めています。これは、データを中心としたオベレーションの改善を目的としたものです。まずは、さまざまなオペレーションデータを集め、「OT (Operational Technology)Data Lake」という工場側のデータベースを作成します。そして、それらのデータがどういう意味を持っているのか、何が問題なのかを分析して改善する、データ起点の改善プロセスを回し始めています。

 このスタイルに慣れることは、かなりハードルが高いことです。そこで今、工場の社員にもデータ分析の勉強をしてもらって、さまざまな分析レポートを自ら作ってもらっています。

―― そうした取り組みがお客様へ提供する製品やサービスに及ぼす影響はありますか。

舩生氏 社内のDXは生産性向上を第一に進めています。ここで同時に、自分たちがお客様が参考にできるDXのユースケースになることも目的としているため、当社の成功例・失敗例を踏まえた提案につながっています。

 我々はお客様に対して、プラントや工場のオペレーション改善など、OTを中心としたソリューション・サービスビジネスを行っています。これらを進めていると、お客様から「DXはどうすれば成功して、何をすると失敗するのか」と聞かれることが多い。だからこそ、社内のDXをユースケースとして、失敗を含めた弊社の具体的実例を伝えることが、一つの差別化要素になっています。

 こうしたインターナル(社内)のDXとエクスターナル(社外)のDX、その両面の取り組みを重要視しています。この両輪があることで、お客様との具体的な議論もスムーズに進むわけです。

組織を一つにするために「同じ目的を掲げて、共にコミットする」

―― DXに全社的に取り組む過程において、部門間の分断や隔たりが生まれることは不可避だと思います。そうした場合の対処法を教えてください。

舩生氏 基本となることは、定期的なコミュニケーションを欠かさないことです。何故ならば、ビジネスプロセスをつないでいくことは、結局はそれを担当している人と人をつなぐことだからです。

 当社でも組織がサイロ化しているところは多分にあります。でも、DXを進めていく上では部門間での連携は密でなければなりません。ですから、私たちDXを推進する立場の人間が、各本部長と最低月1回はミーティングをするようにしています。本部の数が多いので大変ではありますが、事業全体の戦略とDXの戦略を密に連携させることは極めて重要ですので、欠かすことはできません。

(写真:Narin Nonthamand/shutterstock)

――各部門とのミーティングでは、どのようなコミュニケーションが求められるのでしょうか。

舩生氏 ビジネス部門とDX部門で同じ目的を掲げ、互いにコミットしていくことですね。ビジネス部門の最大の目的は「売上・コスト・利益」の3つです。これらにヒットさせてビジネスリターンを得るためにDX部門が投資を行うわけです。このリターンがビジネス部門から生まれるからこそ、どの程度のリターンが予測されるか、そのためにどのくらいDX部門が投資をすべきかを話し合って、お互い同じところにコミットしていくことになります。

 当然、リターンが見えなければ投資も減らさなければなりません。そして、より多く出るのであれば、そこにフォーカスしていきます。つまり、それぞれの部門が同じ船に乗って、同じビジネス目的を目指すことが大事だと考えています。

情報システム部門もお客様サイドへの理解が必要

――DXを進めていく上で、情報システム部門にはどのような役割が求められるのでしょうか。

舩生氏 これまで情報システム部門は、インフラの管理やERPの導入・運用など、バックオフィスに関する重要な役割を担ってきました。しかし今後、エンドツーエンドでビジネスプロセスをつないでいくと、CRMやカスタマーポータルなど、対お客様・対パートナー企業でも重要な役割を担うことになります。

(写真:Alexander Supertramp /shutterstock)

 しかし、ただ業務範囲を拡大するとなると、当然コストもリソースもかかる。ですから、今まで取り組んできたことを最適化して、その分、新しいことに人的リソースを投下していく必要があります。

 また、情報システム部門の方がお客様(フロント)サイドを理解するためには担当をローテーションすることで、バックエンドとフロントエンド双方の業務理解を深めていくことも必要です。エンドツーエンドでプロセスをつなぐには、両方の領域がシステム連携しないとつながらないからです。

――バックエンドとフロントエンド、それぞれの業務がつながると、どのようなことが実現できるのでしょうか。

舩生氏 例えば、受注情報や製造の進捗ステータスを、お客様から直接確認できるようになります。

 eコマースを始めとするBtoCの領域では、自分の購入履歴をマイページから確認できることは当然でしょう。しかし、BtoBの領域では、購入履歴などは売り手の社内向けの情報になっていることがほとんどです。でも、それを開放できるようになると、お客様が自分で情報を確認できるので、情報の齟齬や問い合わせが減るなどのメリットがあります。そして何より、社内のシステムが整流化する効果が大きいですね。

 こうした過去の取引履歴をデータとしてお客様に見せるためには、使用しているシステムやツールを整えなければなりません。とても大変なプロセスではありますが、この取り組み自体が、お客様視点でビジネスプロセスを見直していくことにもつながります。

DX推進にはワークスタイルやセキュリティの変革も必要

――DXの推進にはワークスタイルの変更も必要だと思います。そのために製造業では、どのような課題をクリアする必要がありますか。

舩生氏 オンラインで仕事を進められること、すなわち「デジタルワークスタイルの確立」が今後も重要なケイパビリティ(組織能力)になると思います。オンラインでの仕事に慣れている社員が多ければ多いほど、オペレーションのレジリエンス(再起力)は非常に高くなるからです。

 もちろん、工場にはラインの仕事があるので、工場に足を運ぶ必要があります。しかし当社では、現場の人がウェアラブルツールを使うことで、工場内の様子を遠隔地からの現物確認も可能としています。

――DXを進めていく中で、セキュリティ対策はどのように進めましたか。

舩生氏 当社の場合は、東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴って、セキュリティーインシデントが起こることを想定していました。対策プログラムをスタートさせたのも、開催一年前からです。

 ハッカーは多くの場合、エンドポイントから侵入してきます。だからこそ、従業員一人ひとりの端末を堅牢化することに注力しました。とはいえ、100%防げるわけではありませんから、侵入された場合には「いかに被害を最小限に抑えるか」も重要です。そのため、セキュリティーオペレーションセンターによるグローバルな集中管理とモニタリングを強化しました。

 DXが進めば進むほどセキュリティーリスクは高まりますから、「つなぐこと」と「セキュリティの強化」を同時に行うことは欠かせませんね。

――今後DXを全社的に進めていく上での展望を教えてください。

舩生氏 当社では今年度から、DX人財の育成に注力しています。社内のeラーニングプラットフォームにDXトレーニングプログラムを整備して、社員に受講してもらっています。また、グローバルでDXの専門的トレーニングを受けられるようにすべく、インドに「グローバルDXトレーニングCoE」を設立しました。そこで、海外にいるOTのエンジニアたちにITやDXも理解していただこうと考えています。

 DX推進には、インターナルとエクスターナル、バックエンドとフロントエンドといった複数の視点が欠かせません。今後はそうした両方を統合できるエンジニアの育成を一層強化していきます。

※本記事は JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです



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