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2020.11.13

コロナ禍で労働生産性の低下を抑えるための視点

テレワーク継続に不可欠な仕事の再配分、サポート、投資の見直し

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PHOTOGRAPH BY freddie marriage / UNSPLASHで印刷を担う

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 コロナ禍で急なテレワークの導入を決めた後、従業員の労働生産性の低下に悩む企業は多い。在宅勤務(WFH:Work from Home)を含めた柔軟なワークスタイルを続けるべきか、オフィス勤務に戻すべきか、経営者は難しい判断を迫られている。

 しかし、そもそもこうした悩みの前提となる、自社の生産性を正確に捉えている企業はそう多くないのではないだろうか。リモート環境でのマネジメントを求められる時代、経営者は従業員の生産性をどのようにとらえ、最善の判断を下すべきなのか。経済産業研究所(以下、RIETI)の所長・CROで『生産性 誤解と真実』(日本経済新聞出版)の著者である森川正之氏に話を聞いた。

生産性低下を抑えるために「仕事の配分をいかに見直すか」

―― 在宅勤務を継続するか否か、今の社会状況では判断に迷う経営者も多いと思います。その判断材料の一つに「生産性」が挙げられると思いますが、そもそも従業員の生産性をどのようにとらえればよいのでしょうか。

森川 正之 氏(以下、森川氏) 在宅勤務時の生産性については、RETIが公開したディスカッションペーパー※1に調査結果を掲載しています。この調査では、オフィスの生産性を100としたとき、あなたの在宅勤務の生産性はどのくらいですか、という聞き方をしています。結果として、在宅勤務の平均値は61、中央値でも70程度ですので、オフィス勤務の時と比べると3~4割程度下がっているわけですね。

※1 https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/20j034.pdf

独立行政法人経済産業研究所 所長・CRO 森川 正之 氏で印刷を担う

独立行政法人経済産業研究所
所長・CRO 森川 正之 氏

(出典)森川正之(2020). 「コロナ危機下の在宅勤務の生産性:就労者へのサーベイによる分析」, RIETI Discussion Paper, 20-J-034.で印刷を担う

(出典)森川正之(2020). 「コロナ危機下の在宅勤務の生産性:就労者へのサーベイによる分析」, RIETI Discussion Paper, 20-J-034.

 一方で、「自宅の方が生産性は高まる」と考える方も一定数います。RIETIの職員ほぼ全員に対してインタビュー調査をした際には、120~150と回答する人もいました。ただし、全体から見るとごく少数なので、企業全体の生産性は確かに下がっていると思われます。

―― 在宅勤務で生産性が下がる要因としては、どのようなことが挙げられるでしょうか。

森川氏 調査の結果、最も多かったのは、「職場のようにフェイス・トゥ・フェイスでの素早い情報交換ができない」(38.5%)ということ。そして、「自宅はパソコン、通信回線などの設備が勤務先よりも劣る」(34.9%)、「法令や社内ルールによって、自宅ではできない仕事がある」(33.1%)が続きます。

(出典)森川正之(2020). 「在宅勤務の生産性を低下させる要因」, RIETI Discussion Paperで印刷を担う

(出典)森川正之(2020). 「在宅勤務の生産性を低下させる要因」, RIETI Discussion Paper

 4番目に多い「法令や社内ルールによるものではないが、自宅からでは現実にできない仕事がある」(32.5%)という回答は、おそらく人事や経理、調達など、紙媒体の資料で過去の情報を参照しなければならない業務だと思います。「自宅だと家族がいるので仕事に専念できない」「仕事できる自分専用の部屋がない」というように環境面が要因と感じている方も見受けられます。

仕事の性質に応じたきめ細やかな判断を

―― 複数の要因が絡んでいるわけですね。こうした結果を受けて、企業の経営者は従業員の労働環境にどのような配慮をすればよいでしょうか。

森川氏 緊急事態宣言が解除されてから、オフィス出勤を再開した企業も一定数ありますね。一方で、コロナの前から在宅勤務を行っていた企業については、いまも変わらず在宅勤務を継続しているのではないでしょうか。そのあたりを分けて考えたとき、企業のトップに必要なことは、第一に「仕事の性質への配慮」だと思います。

 コロナ以前からテレワークをしている人たちは、テレワークになじみやすい仕事をしているわけです。しかし、急にテレワークを始めた方々は無理が生じている可能性が高いですね。ですから、経営者には「フェイス・トゥ・フェイスでないとできない仕事」と「一人で完結できる仕事」を分けたうえで、業務の配分を見直すことが求められると思います。

 そして、仕事のプロセスやインフラを在宅勤務に合うように変えることも必要です。最たる例が決裁書類に必要な捺印。書類の電子化を進めて自宅からでも処理できるようにすることで、「在宅勤務に適したインフラを用意すること」が欠かせません。

 最後に、勤務体制です。例えば、週休2日の会社の場合でも「週5日フルで在宅勤務」というのは無理があると思います。「週に2~3日の在宅勤務」「半分は自宅、半分はオフィス」という形が現実的ではないでしょうか。

 オフィス勤務と比べたときに在宅勤務の生産性は落ちてしまうものと割り切って、ローテーションでオフィス勤務をすることが必要ではないかと考えています。コロナ禍では「下がり方をいかに小さくするか」という視点が求められます。

従業員のサポートは、物理的・制度的インフラの2側面から考える

―― 続いて、従業員一人ひとりの目線で考えたときには、どのようなサポートが必要でしょうか。

森川氏 単純化すると「物理的なインフラ」と「制度的なインフラ」の整備が必要だと思います。ここでいう「物理的なインフラ」は通信環境に関するもので、「制度的なインフラ」は社内ルールのことです。

 「物理的なインフラ」の特性は、通信速度が遅い方、つまりボトルネックになっている方に依存してしまう点です。各自がある程度の通信環境を整備できていなければ、会議の進行も滞ってしまいます。

 「制度的なインフラ」は社内ルールの見直しですね。法律上の縛りがある書類や、社外とやり取りする契約書は難しいと思いますが、社内の決裁業務などは積極的に変えていく必要があるでしょう。

―― ネットワークや社内業務の問題などは、在宅勤務を続ける中で気付く点が多そうです。

森川氏 この半年ほどの在宅勤務で得られた学びも多いと思うので、在宅勤務でできること、できないことの棚卸しも有効だと思います。まだまだ発展途上と考えたうえで「実はこんなことにも困っている」という現場の実態を踏まえて、改善していくことが大切ではないでしょうか。

スケジュールの不確実性をいかにして報いるか

―― 在宅勤務や間引き出社を行う中では、これまで通りの業務手順では対応できないことなど「イレギュラーな対応」が増えることも多いと思います。森川さんの著書『生産性 誤解と真実』(日本経済新聞出版)では、スケジュールの不確実性が生産性に及ぼす影響について述べられていますが、企業の経営者や現場の管理者がマネジメントを行う際に意識すべき点は何でしょうか。

森川氏 これは在宅勤務に限った話ではありませんが、急な業務がなぜ発生するかというと、重要なことだから発生するわけですよね。例えば、取引先やお客様からのクレーム対応や、突発的に発生した事故への対応などです。社長や管理者の立場にある人から「なんとかしてくれ」と指示される内容は、会社にとっても重要なことである可能性が高いのです。

 しかし、従業員の立場からすると、急な予定が入ったり残業が必要になったりすることは、負の効用があります。就労スケジュールの不確実性に関して行った調査結果では、平均値でいうと27%、つまり賃金が3割くらい高くなければ不確実な仕事を引き受けたいとは思わないという傾向が見られます。

(出典)森川正之(2018). 「就労スケジュールの不確実性と補償賃金」, RIETI Discussion Paper, 18-J-008.

(出典)森川正之(2018). 「就労スケジュールの不確実性と補償賃金」, RIETI Discussion Paper, 18-J-008.

 要するに、そういった急な仕事を引き受ける社員には、相応の報い方をすることが必要です。企業の生産性にとって大事なことだからこそ、それを支える人に対してはきちんと報酬で報いるべきだということが、私の基本的な考え方です。

―― 3割程度の上乗せすることが適正な報酬の一つの目安ということですね。

『生産性 誤解と真実』(森川正之著、日本経済新聞出版)

『生産性 誤解と真実』
(森川正之著、日本経済新聞出版)

森川氏 そうですね、海外の研究でも比較的近い数字が示されています。ただし、大企業の正社員の場合には長期的にみてみると(就労スケジュールの不確実性を受け入れたほうが)「昇進しやすい」「昇給しやすい」というように、負担と報酬が釣り合っている場合もあります。そうした実態があるので、短期的に報酬をそのときの仕事と完全に対応させることには無理があるでしょう。

 そこで「同一労働・同一賃金」という議論が出てくるわけですが、一見同じようでも、急な予定が入るような仕事は同一な労働とはいえなくなります。原則としての「同一労働・同一賃金」には多くの人が賛成でしょう。しかし、それを現実に適用しようとすると、かなり注意深くマネジメントしなければ企業の生産性をさらに落としてしまうことになりかねません。

―― 急なスケジュール変更やイレギュラーな依頼を避けられないケースもあります。今後はより一層、従業員からの同意を得られる報酬設計が必要そうです。

森川氏 そうですね。今回のコロナ危機では、医療従事者や保健所の職員がハードワークな状態になりました。それは労働時間が長くなったということもあるし、急患に対する対応が増えたということもあるので、要因は様々です。そういう方々に報いる、という意味では金銭を含めた報酬があるのは当然ではないでしょうか。

 そして、他の職種でも同じようなことが起きています。例えば、職場で新型コロナウイルスの感染者が発生した場合、濃厚接触者も含めてしばらくの間、自宅待機や療養施設への隔離が必要になるはずです。そうした方々の業務をカバーしなければならない人に、きちんと報酬を支払う、といったことも大事ではないでしょうか。

 いずれも在宅勤務に限ったことではありませんが、昨今の環境下でマネジメントに携わる方々が想定しなければならないことだと思います。

コロナ禍でも人的資本投資の重要性は変わらない

―― 従業員のサポートや報酬の再考が求められる中、企業が中長期的に生産性を高めるためには、どのような対策や投資が必要でしょうか。

森川氏 企業の投資に対するリターンについては、物的な機械と比べると、従業員に対する人的資本投資の収益率は極めて高いことがわかっています。同じ1万円投資したときのリターンは、設備投資よりも教育訓練投資のほうが大きいわけです。そう考えると、在宅勤務を導入しているかどうかを問わず、人的資本投資を増やすことは大切です。

 しかし、在宅勤務とオフィス勤務ではOJT(On-the-Job Training)のやり方が大きく変わってきます。OJTのメリットというと、入社したばかりの方が自分より少し先輩の従業員から何かを学んだり、同僚と雑談する中で「そういうやり方があるのか」というように気付き得たりできることですが、在宅勤務ではこれが難しい。そこで週2~3日はローテーションで出勤して、直接業務について学んだり話を聞いたりする機会をつくることが必要だと思います。

 これは入社数年の若手の方もそうですし、異動してきたばかりの方にも必要なことでしょう。オンラインのコミュニケーションが中心になるからこそ、リアルの接点をつくるためのローテーションを組み立てて、そこから企業の生産性を高めるという工夫が重要です。

―― マネジメントする側から見えない部分をいかに教育でカバーするか、という視点が必要になりそうですね。

森川氏 OJTに限らず、会議でも同じことがいえますね。オンラインの会議のほうが効率的ではありますが、オンラインで話すと余計なことを話す人が減ったり、雑談がなくなったりします。でも、本当に大事なことは会議の前後の時間で話されるんですよね(笑)。こうした時間を今後どう作っていくかは、意外と大切な視点ではないかと思っています。

 もちろんダラダラと会議をすることは望ましくありませんが、雑談がなくなることでコミュニケーションの本質が削がれてしまうことは一つの課題ではないでしょうか。

―― 今後はオンラインでのやり取りと直接的なコミュニケーションをいかに使い分けるか、各社の方針が分かれそうです。

森川氏 一言に在宅勤務といっても、業界や業務の特性によって実態は大きく異なります。いくつかの調査結果をみても、全体の3分の2程度の人は在宅勤務を行っていないわけです。だからこそ、労働者全体の分布を踏まえると、在宅勤務は高学歴・高賃金のホワイトカラーを中心とした話であることは認識しておかなければならないと思います。

 特に、大企業に勤めている方や、情報通信業、金融・保険業に従事する方は在宅勤務実施率が高い傾向にあります。こうした前提を踏まえつつ、一律に在宅勤務を実施するというよりは、仕事の性質に配慮しつつ業務を再配分したり、出勤のローテーションを組んだりする取り組みが必要です。こうした創意工夫の先に、企業の生産性向上がみえてくるのではないでしょうか。

※本記事は 2020年11月11日 JBpress に掲載されたコンテンツを転載したものです

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