2021.03.17

コストだけではなくサステナビリティも優先
印刷環境の見直しこそ「持続可能性」を考える最優先テーマであってほしい

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世界中で相次ぐ大災害や地球温暖化、そしてコロナ禍により、企業はあらゆる側面で「持続可能な成長」を考える場面が急増した。

昨年より「サステナビリティ」という言葉も一般的になり、実際に世界中のビジネスリーダーたちが、持続可能な環境構築性を前提に事業をトランスフォーメーションしている。

また日本でも「SDGs(=Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」への取り組みが進められつつあった状況に加え、菅首相の昨年末の「カーボンニュートラル宣言」から一躍、全国の企業が持続可能な環境への貢献にコミットするのが常識となった。

このような時代において、印刷環境など企業の業務システムや企業活動そのものについても、持続可能な環境構築への貢献を最優先して活動すべきことは明らかだ。

株式会社日本HPの営業として10年以上、クライアントと共に時代の変化を見つめてきた、サービス&ソリューション事業本部 ソリューション営業部 エンタープライズ・アカウントソリューション営業 佐藤直明氏は「日本のお客様のサステナビリティに対する意識は明らかに大きく変化している」と語る。

そこで、今回は持続可能な環境構築の観点から、印刷環境を中心とする業務システムを見直す重要性について考えてみたい。

営業現場でも問われる「SDGsのどの目標にコミットしていますか?」

近年、急速に進むサステナビリティに関する議論。しかし、これは今に始まったことではない。

例えば、SDGsの前身には2000年国連で採択された「MDGs(=Millennium Development Goals: MDGs)」がある。「極度の貧困と飢餓の撲滅」など8つの目標を盛り込み、2015年を達成期限に設けて進められた。また日本人にも馴染み深い「京都議定書」は1997年に制定。温室効果ガス削減に向けて国際的な取り決めを行い、注目を集めた。

しかし、MDGsや京都議定書は一定の効果や意義はあったものの、課題も残した。例えば、MDGsでは貧困問題の解決には一定の成果が見られたが、2000年以降に地球上で大規模な災害が相次ぎ、地球温暖化も進むなど環境の悪化が進んだ。

MDGsでは、第7の目標に「環境の持続可能性の確保」を掲げていた。しかし、これを今後実現するには、より細分化されたゴールを設けて、世界中の国々のコミットが欠かせない状況となった。

また京都議定書では、排出量削減の法的義務が先進国のみに課せられた。しかし、1997年以降にかつて途上国だった中国やインドなどが急激な経済発展を遂げ、特に中国はアメリカを抜き、第1位の温室効果ガス排出国となった。

そのため、途上国に削減義務が課せられない京都議定書は、その実効性と公平性に疑問符がつき、1997年当時で世界最大の排出国であったアメリカが批准しないなどの課題が残った。

そこで、これらの経緯なども踏まえて、2015年にSDGsが掲げられ、2017年にはパリ協定が合意に至った。SDGsでは、主に環境の持続可能性に関する目標が細分化され、17の目標とそれに付随する169のゴールが2030年を期限に設けられている。また、先進国だけでなく、国連に加盟する全ての国や地域が目標にコミットすることが求められている。

またパリ協定は発効の条件として「55カ国以上が参加」と「世界の総排出量のうち55%以上をカバーする国の批准」が設けられ、より多くの国や地域の参画を呼びかける内容へと変わった。

このように環境の持続可能性に取り組む枠組みができたこと、そして世界で相次ぐ大災害によりサプライチェーンが危機に晒されたことは、産業界にも大きな影響を与えた。例えば、日本でもそれを示すある出来事があったと佐藤氏は指摘する。

「日本経済団体連合(以下、経団連)が、SDGsへのコミットを宣言しました。2018年7月には特設サイトを開設。経団連の加入企業がSDGsの各目標と結びつけている商品やサービスを紹介しています。日本を代表する企業の動きが本格的に変わるきっかけにもなったのではないでしょうか」

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さらに、2020年に開催された第50回の世界経済フォーラムでは「ステークホルダーがつくる持続可能で結束した世界」をテーマに、世界中のビジネスリーダーたちが「気候変動」と「ESG(環境・社会・ガバナンス)」をキーワードに掲げ議論が行われた。前年に続いて地球環境に関する議論が経済人の中核を占めたわけである。

このように、環境の持続可能性を考えるのは国や政府だけでなく、産業界も当然の流れとなっている。そして、その変化は営業現場でも強く感じられると佐藤氏は語る。

「お客様によっては、HPがSDGsのどの目標にコミットしているか確認されることもあります。営業担当者は、自社の商品やサービスだけでなく、SDGsへの取り組みなど自社の持続可能性に関する活動についても把握しておくことが必須になりました」

サステナビリティにコミットすると、企業のパフォーマンスが上がる

さらに、環境の持続可能性を真剣に考える企業にはあるメリットがある。佐藤氏は「サステナビリティにコミットした企業は株価などのパフォーマンスが高まっている」と指摘して、データを示した。

その1つが、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが2021年1月に示した「Market Know-how」だ。この資料によれば、コロナショックにより下落した株価が回復するまでの期間、サステナビリティに強いコミットを示す企業のパフォーマンスは、同業他社に比べ、9.6%上昇したという。また2020年初来、ESG関連のファンドへ世界で約1,350億ドルの資金流入があり、約4,220億ドルの資金流出が発生したESG関連以外のファンドとは対照的な結果となっている。

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サステナビリティにコミットする企業に、なぜ資金が集まるのか。その理由の1つに、環境の持続可能性にコミットする企業は、長期的な成長が見込め、将来価値が高まることが挙げられる。持続可能な環境への貢献を踏まえた新規事業の立ち上げや継続性の高い業務コストの削減などに成功すれば、将来のフリーキャッシュフローの増加も見込める。仮にDCF法などを用いて企業価値を算定した場合、サステナビリティにコミットする企業は現在価値が高まるのだ。

またESGへの投資を行うのは投資家だけでなく、各国の政府も同様だ。パリ協定への復帰を表明したアメリカのバイデン政権は、環境対策に約2兆ドルの予算を割り当てると発表。日本政府も2兆円の基金を創設して、カーボンニュートラルな社会づくりに一歩踏み出す。このような政府の予算が呼び水となり、新たな需要が創出される可能性は極めて高い。

さらに、現段階で環境対策を進めて利益を生み出した企業もある。HPもそのうちの1社だ。HPは長きにわたり、企業の戦略として「サステナブルインパクト」を推進。世界中のあらゆる評価機関から「世界で最も持続可能な企業」の1つとして認定を受けている。さらに、サステナブルインパクトがもたらした差別化により収益は拡大し、2019年には16億ドル以上の新規収益を創出した。前年比の増加率で見れば69%にも及ぶ。

HPは「今後 5 年間で、使い捨てプラスチック梱包材の割合を75%削減する」

利益を創出して企業価値を高める持続可能性に関する取り組みとはどのような内容か。ここでは、HPのサステナブルインパクトについて少し触れたい。

HPのサステナブルインパクトは、主に3つの柱がある。それが「Planet」「People」「Community」だ。

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HP サステナブルインパクトレポートより引用

その中でも、環境の持続可能性に関する取り組みが「Planet」になる。Planetでは、SDGsの「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「つくる責任 つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」の3つにコミットしている。

「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」では、業務で使用する再生エネルギーの割合を増やすことに注力。2019年は全体で使用したエネルギーの43%が再生エネルギーとなった。またこのような取り組みの成果もあり、2010年以来サプライチェーンのCO2排出をおよそ126万トン削減している。

「気候変動に具体的な対策を」では、使用済みプラスチックの海への流出を防ぐ取り組みを積極的に推進。すでに3,500万本以上のペットボトルの水路や海への流出防止に成功した。

さらに、プラスチックの利用については「つくる責任 つかう責任」でも大きな取り組みとなっている。「2025年までに梱包材に関する使い捨てプラスチックの利用を75%削減する」という目標を掲げ、2019年は2018年比で5%の削減に成功。さらに、8億7,500万本のHPカートリッジ、1億1,400万本の衣料用ハンガー、46億9,000万本の使用済みペットボトルを、埋め立てずにリサイクルしてHPの新製品で使用している。

このように、HPは環境の持続可能性について本気で取り組み、企業活動の柱としている。また、その活動は社会貢献という枠ではなく、すでに事業活動の中心となり浸透しているのである。

そして、このような考えを持つ企業は確実に増えている。世界中でビジネスを展開するグローバル企業だけでなく、日本でも原材料まで含め全て日本製の企業は極めて少ないだろう。だからこそ、持続可能な環境構築への貢献は全ての企業が大前提として考えねばならない課題なのだ。

サステナビリティにコミットする企業をパートナーに

「大事なことは”できること”から始めることです。例えば、地域の環境活動にボランティアとして参加する。これも企業にとって、誇るべき持続可能な環境に対する活動です」

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佐藤氏は数多くの企業と対話を通じて、このような見解を示す。形だけにとらわれず、企業として何をするか、何を希望するべきか。この問いに対する解を導くのが、まず先決だという。

また環境への持続可能性に対する意識は消費者も高まっている。 佐藤氏は「10円、20円高くても環境への取り組みを積極的に進めている企業の商品を選ぶ消費者も増えていくでしょう」と断言する。

さらに、持続可能な環境づくりは、1社だけの取り組みでは実現できない。政府やNPOなどの団体だけでなく、企業同士も共に手を取り合い行動する必要がある。

だからこそ、佐藤氏は企業にとって今後もっとも重要なのが「パートナー選び」だと指摘する。そして、その真意についてこう説明する。

「IT化が進む中で、企業の間では『セキュリティ対策がずさんな企業とは事業で手を組めない』という考えが一般的になってきました。それと同じように、今後は『持続可能な環境構築はじめ、サステナビリティに本気でコミットしていない企業と一緒に事業は出来ない』という考えが常識になると思います。商談でSDGsへのコミットが聞かれるのは、珍しいことではなく、当然のことになるのではないでしょうか」

今後、企業の業務フローにもサステナビリティがより問われるようになる。その時に、ステークホルダーが納得する説明責任を果たせるかが極めて重要である。様々な業務フローの中でも、とりわけ印刷環境の見直しは、サステナブルインパクトへの即効性が高く、わかりやすい行動だ。ビジネスに必要な印刷とは何かを定義し、それに必要な印刷機の再配置を行う。結果として印刷機自体は削減され、CO2排出量削減につながる。もちろん、使用する印刷機自体の再生プラスティックの利用や、リサイクルを前提とした機器導入なども考慮すべきである。企業としての大きなコミットと大きな成果を出す可能性のある活動や事業開発はもちろん大切だが、このような企業活動の足元、業務そのものを見直すことは「持続可能性」を考えていくうえで非常に重要な活動であり、これらはサステナビリティを担当する部門のみならず、経営企画部門、情報システム部門、総務部門、といった日々経営や企業活動全体を支えている部門から発案していくことも求められている。そして、これらの活動自体は1社では何も実現し得ないことを肝に銘じ、同様の取り組みを実践するパートナーと手を組み、持続可能性の高い環境づくりを共に実現していくことはこれまで説明してきた通りである。

「印刷環境の見直しこそ「持続可能性」を考える最優先テーマであってほしい。(佐藤氏)」サステナビリティに本気でコミットしている企業といかに多くパートナーシップを築けるか。未来の地球と社会づくりは、ここから始まると言っても過言ではない。