2021.05.07

月刊総務編集長インタビュー(後編)
総務だからこそ価値のある実践が可能に!生産性向上を実現する「ワークフロー」の作り方とは?

リンクをクリップボードにコピーしました

 働き方改革、そしてコロナ禍を経て、企業は「ワークフローの再構築」が求められている。

 しかもそれは単なるBCP対策の一環ではなく、進化したテクノロジーをフル活用し、生産性の向上とイノベーションを創発させる仕組みを組み込んだ、まさにニューノーマルなワークフローだ。

 一方で、それを推進する上で大きな壁に直面する。それは「誰」が率先して進めるかという課題だ。

 この課題に対して、『月刊総務』の編集長を務め、自ら著書も執筆して総務のあるべき姿を説いてきた豊田 健一氏は「総務が先頭に立ち、進めるのが最適だ」と答える。今回は、豊田氏の真意を紐解きながら、新たなワークフローを構築する上で欠かせない視点をお伝えする。

なぜ総務が、ワークフローの構築に最適なのか?

 「総務は現場のあらゆる業務に触れ、人と仕事を把握しているのが強みです」

 豊田氏は、総務の特性についてこのように語る。特にこの1年は、この動きが顕著だという。

 「コロナ禍になって、総務は矢継ぎ早に対応が求められるようになりました。リモートワークが進んで、オフィスへの出社率が低くなると、オフィスをどう活用するのかが議論になります。それこそテレカンブースを増やそうなどの方針が決まれば、実際に動くのは総務になります。その他にも、脱ハンコを見据えた承認プロセスのデジタル化など、さまざまな対応が一気にふりかかっています」

 だからこそ、この流れに乗って「総務がワークフローの再構築を進めるのが最適だ」と豊田氏は説く。他のバックオフィス部門に比べて誰よりも現場を知り、何より社員の様子を知っているからこそ、総務はワークフローの再構築の旗手となりうるのだ。

 「ワークフローを考える上で、もちろん人事やデジタルに精通したITの力も欠かせません。しかし、音頭をとるのは総務がベストです。企業のコロナウイルス感染症対策も、おそらく経営層から総務に指示が出ているケースが多いでしょう。進めるなら今がチャンスです」

 現場だけでなく、管理部門の垣根も超えて動ける。総務の力がワークフローを再構築する上で欠かせない。やるべき業務を粛々とこなすだけでなく、より成果を出すための環境とそれにあわせたワークフローづくりなどの業務を生み出して変革を推進することが求められる。

デジタル時代のワークフローは「人」を起点に考える

 ワークフローを考える上で、何を起点にすべきか。この視点が、デジタルとフィジカルを融合させた今後のワークフローを考える上で不可欠だ。これを踏まえ、豊田氏はあるキーワードを挙げる。

 「やはり『人』に焦点を当てるのが、各企業におけるワークフローの最適解を導く鍵になるでしょう」

 イノベーションが求められる現代では、これまでの延長ではない発想で課題解決ができる有能な人材の重要性がより高まっている。バブル期前の生産型社会では、機械や装置、それらを配置する工場などに資本が集まり、それをいかに効率よく運用していくかに焦点が当てられていたが、よりITが進化し、AIやIoT、ブロックチェーンなど新たなテクノロジーが登場した現代では、ビジネスの成長に本当に必要な資産が変化している。そしてその中心にいるのが「人」なのである。

 また現代は「所有から使用」への流れが、個人だけでなく企業にも到来している。10年以上前なら、オンプレミスでサーバーを設け、多額の費用をかけて業務用システムを構築する企業が多数あった。しかし、よる優れた業務用SaaSなどのクラウドサービスが提供されている現代では、かつてのように個別に費用をかけなくても業務システムの立ち上げが可能なケースも増えている。これにより、資産を圧縮してROICなどの経営指標の改善も期待できる。

 さらに、最新の業務用クラウドサービスを活用することで、ワークフローの再構築がより加速する。そもそもこのようなツールがなければ、オフィス以外の場所で働くのは現実的ではない。しかし、いつでもインターネットがつながり、オンラインビデオ会議が容易に開催でき、さらに業務用クラウドサービスによって業務が進められれば、もはや働く場所にとらわれることはない。ワーケーションなどの概念が叫ばれる背景には、このような事情があることは言うまでもない。

 テクノロジーの進化によって、物理的な制限が解消されることで、ワークフローもより柔軟にできる。それは住む場所にとらわれず、日本国内、いや世界中の多様かつ優秀な人材を集められることを意味している。

 しかし、ポイントはあくまで人にフォーカスすること。つまりその優秀な人材の創造性を最大限発揮できる働き方に寄与するには、オフィス空間とデジタル空間をどう設計するのか、また生産性を向上させるためのテクノロジーやクラウドサービスをどう活用するかを考え抜くことにある。現場を熟知する総務部門がこれらを押さえながら、オフィスという物理的な場所のあり方とあわせてワークフローの再定義を行うべきなのである。

ワークフロー再構築に欠かせない「データ活用」

 その上で、豊田氏はワークフローの再構築に欠かせないもう1つの視点を示す。

 「デジタル化によって、データの収集が容易になりました。これを活用しない手はありません」

 近年、企業で普及が進むメッセンジャーツールやビデオ会議システムなど、企業は社員の行動をより把握しやすくなった。この行動ログの活用が今後のテーマの1つになると豊田氏は指摘する。

 「例えば、テレビ会議への出席状況1つとっても、ログインするタイミングをウォッチすることで社員のモチベーションを測ることができるでしょう。メッセンジャーからの連絡にリアクションが遅くなっているなどの変化があれば、事前に異常を察知できるかもしれません。これにより、離脱者が出ないよう対策が打てます。また逆に、意欲的になっている社員を発見できる可能性もある。このような社員には、さらに責任がある業務を任せることを推奨するなど現場のマネージャーと協力するのも有効でしょう」

 さらに、豊田氏はIoTの利活用も提案する。

 「IoTを活用すれば、オフィスのあらゆるデータが収集できます。最近では、二酸化炭素濃度の計測など換気の状況を調べるのに使われていますが、社員の行動ログの収集にも活用できるはずです」

 行動ログの収集目的は、あくまで社員のパフォーマンス向上に役立てる点にある。前回も触れたように、イノベーションの創発の鍵になるのは、人間同士の交流にある。オフィス設計の狙いどおり、社員同士の交流があるか。社員の動きをトレースすることで、それが見えてくる。

 このようなデータをIT部門から上げてもらい、人事と連携しながらオフィスの使い方や人材の配置などを検討する。これが、これからの総務の役割と言える。

 「こうなると、総務の立ち位置がガラッと変わります。デジタル化が進み、行動ログの収集が容易になったことで、それらのデータに基づき合理的な施策を次々と打てます。まるでコックピットにデータを表示させながら航空機を操縦するように、現状を可視化して会社を動かせるのです。もちろんワークフローを考える上で、試行錯誤は不可欠です。しかし、データに立脚してPDCAを回せば、最適解は発見しやすくなるでしょう」

 そして、企業の文書管理もワークフローを考える上で欠かせない視点だ。デジタル化を進めることで資産として有効活用が可能になり、企業が保有するコンテンツとしての価値を持つ。

 そして、それを推進する役割も「総務である」と豊田氏は語る。豊田氏の著書では、総務が行う文書管理には主に3種類あると述べられている。設備機器や消耗品などの使用状況を記録した「使用管理」、契約書や議事録などの「記録管理」、そして物品の購入の際に発生する「契約管理」だ。そして、これらをただキャビネットに入れるだけでは文書管理は完了しない。分類して即発見できるようにするだけでなく、そもそもなぜこの文書が必要なのか、その根源的な意味を理解して業務効率化に直結させるのが目的であると指摘する。

 「もし文書を通じて業務の意味が見出せなければ、文書とともに業務を無くすことも選択肢の1つです。何をやるかも大切ですが『何をやらないか』を決めるのも、ワークフローを考える上で必要であり、これも総務の業務の要諦とも言えるでしょう」

 また企業にある文書は、上記の3種類にとどまらない。業務を引き継ぐ際に作成したドキュメントや動画、営業が過去に顧客へ提出した提案書や見積書など、企業に眠る文書やコンテンツはまだまだある。これらを有効活用できる形で管理できれば、より持続可能性と生産性向上を両立させた新しいワークフローの構築が可能になるのである。

総務が変われば日本企業が元気になる。明日からやるべきファーストステップ

 「総務はオフィスやワークフローなど企業全体に関わる役割を担います。すなわち、企業で働く社員たちが演じる舞台装置を監修する立場にあるとも言えるでしょう」

 豊田氏は、総務の業務についてこう表現する。与えられる業務を粛々とやるだけではなく、見方を変えれば総務の動きで企業は大きく変化するのだ。大企業であれば、数万人が動く舞台装置に関わる総務の重要性は、今後さらに増すのは間違いない。

 豊田氏によれば、優秀なベンチャー経営者ほど、バックオフィス業務に優秀な人材を配置するという。自分が管理業務を経験することで、その重要性を痛感しながら会社全体の運営を理解することができるからだ。そして、これらの事実を踏まえて、豊田氏は総務担当者にエールを送る。

 「私は総務が変われば、企業が元気になると信じています。だからこそ、総務の方々には『マインドチェンジ』をして、自分に与えられた役割に対する認識を見直していただきたい。コロナ禍はピンチのように感じますが、見方を変えればこれほど企業を変革しやすい機会はありません。コロナ対応の一環と位置付ければ、予算だってつきやすいはずです。だからこそ、総務がITや人事、経営企画との連携を深めて、変革の先頭に立って欲しいです」

 総務部門のチャレンジはまさに今なのである。

リンクをクリップボードにコピーしました