東北地域におけるシェア30%を支える全64拠点のサポート網
幸せな暮らしは健康が基本となる。高齢化社会が間近に迫る中、地域医療の果たす役割はますます大きくなっている。医薬品卸業を通じて60年以上に渡り、東北地域の医療基盤を支えている企業がバイタルネットだ。
同社の原点は、1948年、宮城県に誕生した鈴彦商店にまで遡る。その後、合併により事業拡大を図り、1983年にサンエス、2001年にバイタルネットと商号を変更し、2009年にケーエスケーと共同持株会社バイタルケーエスケー・ホールディングスを設立。特許切れ問題や医療費抑制政策など市場環境が大きく変化する時代にあって、経営統合により事業基盤を強化し経営の効率化、合理化を図り、より一層の飛躍を目指している。
製薬メーカーから仕入れた医薬品を地域の医療機関に対し迅速かつ安定的に供給するのが医薬品卸だ。そのビジネスの特長的な要素に薬価がある。薬価とは、病院で処方される医療用医薬品の価格のこと。薬価は国が定め全国一律だが、医薬品卸企業が卸す納入価格は納入先の病院や調剤薬局との交渉によって決められる。それだけに地域医療機関との関係は重要になる。
同社では、現在、東北6県と新潟を中心に64拠点、3つの物流センターを擁し、東北地域の医療機関のニーズに応えている。同社の得意先は、病院、診療所、調剤薬局を含めて約28,000件、東北地域におけるシェアは約30%。この数字を見ても同社がいかに地域医療機関から信頼を得ているかが窺える。その信頼は日々の事業活動の賜物でもある。「2時間以内でお得意先に対して納品できる供給体制を整えています。また、約1,500件のお得意先とは契約販売の仕組みを結んでいます」と、物流本部長兼情報システム担当 執行役員 菊地茂樹氏は語る。
同社では、医療機関に対して最新の医療情報の提供や病院経営に関するコンサルティングなど総合的な支援にも力を注いでいる。また、医薬品の流通段階でのトレーサビリティの実現などITを活用した先進的な取り組みも積極的に行っている。今回、同社では全64拠点すべてで「受注」、「発注」、「売上計上」などを行う業務用PCをシンクライアント端末に移行した。WAN経由でこれだけの規模のシンクライアント導入は全国でもほとんど例がない。
物流本部長
兼情報システム担当
執行役員
菊地 茂樹 氏
情報システム部
部長
工藤 整 氏
情報システム部
課長
鈴木 義秋 氏
情報システム部
宇留間 隆 氏
目的
- 老朽化、データ量増大に伴う業務用PCのレスポンス低下問題の解決
- 増加する業務用PCのトラブル解消と障害対応の迅速化
- 業務用PCの増大に伴う運用管理業務の負荷軽減
アプローチ
- 仮想PC方式によるシンクライアント化で端末台数の最適化
- デスクトップ仮想化ソフトウェアにVMware Viewを採用し、既存のアプリケーションをそのまま活用
- Microsoft® Windows® Embedded Standard OSを搭載したシンクライアント端末を採用し、印刷高速化ソリューションと組み合わせて導入。高速印刷環境を実現。
- CPUはもとよりメモリやI/O性能などに優れているブレード型サーバー(HP BladeSystem c-Class)を採用し、高いパフォーマンスを実現。
システムの効果
- 端末の立ち上げに要する時間も従来の1/5以上短縮、レスポンスが大きく改善
- ファンやハードディスクが搭載されていないシンクライアントのため、導入後、一切トラブルなし
- 端末のセンター集中管理によりメンテナンスや障害発生時の作業負荷も大幅に軽減
ビジネスへの効果
- シンクライアントにはデータが存在しないため情報漏洩のリスクを解消
- どの拠点の端末でもIDなどを使って自分のPC環境を利用可能に
- 障害発生時もユーザーは代替機と交換するだけ、業務継続性が向上
業務用PCの老朽化による性能不足が深刻化、障害も増加し業務に影響
シンクライアントにするかどうか。その検討以前に、業務用PCの老朽化による性能不足が深刻化し、その解決が急務となっていた。
「既存のPCを使って6年以上が経過し、クライアント上で稼働するアプリケーションも導入当初に比べ3倍になる中、レスポンスの悪化によりユーザーのストレスも相当溜まっていました」と、情報システム部 部長 工藤整氏は当時を振り返る。
また、業務用PC端末の老朽化による障害対応の増加は、業務に支障を及ぼしはじめていた。「ここ1年で8件/月とヘルプデスク対応が急増しました。故障機を引き取って代替機を届けるまでに平均2日は必要です。その間、業務に支障が生じます。従来、PCを通してプリンタ出力を行っていましたから伝票も出せない状況になりました」と、情報システム部 課長 鈴木義秋氏は語る。
事業拡大に伴い、TCOの増加も課題だった。「PCの台数も2003年の導入当時は900台、2009年では1,500台と大幅に増えています。当然、クライアントごとに行うアプリケーションのインストール、バージョンアップ、パッチの適用などシステム管理工数も増大しています」と、情報システム部 宇留間隆氏は話す。
ユーザーからのレスポンス向上への強い要望に加え、業務用PC端末のハードウェア、ソフトウェアの保守期限も迫っていた。加えて、コスト削減や運用管理の効率化も避けて通れない。現状の課題の解決はもとより将来の拡張性や内部統制の強化といった経営課題も考慮し、同社はシンクライアントの導入検討に入った。
さまざまな検証の結果、VMware ViewとHPの組み合わせを選択
サーバールーム
一口にシンクライアントと言っても複数の方式があり、それぞれの用途や利用環境によって最適なシンクライアントの方式は異なってくる。同社は、サーバーベース方式、仮想PC方式、ブレードPC方式について実際に利用しているアプリケーションを使って評価を行った。
仮想PC方式はサーバーベース方式と同じように画面データだけを端末側に送り、端末は表示処理のみ実行する仕組みだが、各端末を仮想化し1台のサーバーに複数のユーザーを集約するのが特長である。ユーザー側からは論理的に1人1台のPCを使っているイメージとなり、CPUやメモリを動的に割り当てることも可能だ。スピードを重視すればリソースを共有しないブレードPC方式だが、「シンクライアント方式でありながら、一般的なPCと同じくらいの性能がでれば問題ありません」と、工藤氏は話す。
同社が採用時にこだわったのは、増加するPC台数に歯止めをかけ、リソースの最適化によって運用管理コストの削減を図ることと、将来の台数や業務量増加などにも柔軟かつ迅速に対応できる拡張性である。選択肢として有力な仮想PC方式は、検証の結果、スピード面もクリアできた。その際、代表的なデスクトップ仮想化ソフトウェアについても検証が行われた。
「当社で利用しているアプリケーションをすべて動かすことができたのがVMware Viewでした。AD (Active Directory)を使った管理のしやすさもポイントになりました」(宇留間氏)。
シンクライアント端末を含むプラットフォームの選択では、サーバーのスペックやサポート面など総合的な観点からHPが選択された。「HPのシンクライアント端末は、プリンタとの連携面でMicrosoft® Windows® Embedded Standard OS搭載であること、なおかつ低電力消費と高パフォーマンスを両立している点がポイントになりました。また、仮想PCの集約率につながるため、CPUはもとよりメモリやI/O性能などサーバーのスペックを重視し、『HP ProLiant BL460c』を採用しました」(鈴木氏)。
さらに宇留間氏もこう言葉を添える。「アレイ単位の仮想化技術を備えていて管理負担を軽減するファイバーチャネルディスクアレイEVA(HP StorageWorks Enterprise Virtual Array)の評判も耳にしていましたので導入してみたいということもありました。端末、サーバー、ストレージなどプラットフォームのサポートをワンストップで受けられる点も安心につながります。HPはコストも含めたトータルな提案で優れていました」。
プラットフォームは、シンクライアント端末にHP t5630、サーバーにHP ProLiant BL460c、ストレージにEVA4400、そしてデスクトップ仮想化ソリューションVMware View を中心とする構成になった。
前例のない中、WAN経由で全64拠点に仮想PC方式のシンクライアントを導入
WAN経由で全64拠点に仮想PC方式のシンクライアントを導入する。ほとんど前例がなかっために、同社では導入時にさまざまな工夫を行っている。「シンクライアントなのでデータはセンターで集中管理していますが、プリンタへの出力の際、各拠点へ必要なデータを瞬時に送る必要があります。そのためThinPrint社の仮想プリンタを導入してデータを圧縮して送ることでWAN環境での印刷の快適性を実現しています」と、鈴木氏は一例を挙げる。
回線の帯域の設定にも配慮が加えられている。「センター側にアクセスしてアプリケーションを利用するシンクライアントでは、回線の帯域がレスポンスを大きく左右します。シンクライアント導入の際、1クライアント200kくらいと説明を受けましたから、多い拠点のとこで端末20台位なので4Mの帯域が必要です。これに対してレスポンスを重視した形で余裕を持たせた帯域を確保していますが、運用していく中で適正な帯域を検証してみる必要はあるかと思います」(工藤氏)。今回、回線も二重化し、基幹業務は専用線、情報系はBフレッツと使い分け、回線コストの抑制も図っている。
シンクライアントの導入ではストレージの有効活用もポイントになる。同社では、仮想マシンの容量を最適化するVMware View Composerの機能を活用。従来の方式では、仮想マシンごとにHDD容量を確保する必要があったが、差分情報だけの仮想マシンを作成することが可能となり、同社はディスク効率で約40%のカットを実現している。
2010年4月に、データーセンターに近い仙台中央支店で15台のシンクライアント端末を使ってWAN経由でのテストを実施。VMware ViewではVMware ESX上でデスクトップ用の仮想マシンを実行し、View Connection Serverと呼ばれるコンポーネントが仮想デスクトップへのRDP(リモートデスクトッププロトコル)接続を行うが、WAN環境の利用でもスムーズだった。ネットワーク環境も含め、特に問題がなかったことから、北から順に展開し2010年9月に全拠点導入が完了した。
導入したシンクライアント端末は800台、搭載済みゲストOSはMicrosoft® Windows Vista® 1,000ユーザー、Microsoft® Windows® XP 200ユーザー。7筐体のブレードサーバーHP ProLiant BL460cによるHAクラスタ×8の構成でまだリソースには余裕のある状態だ。
レスポンスが大幅に向上、運用管理業務の効率化、内部統制の強化も実現
導入効果としてはまずレスポンスが大幅に向上し、端末の立ち上げに要する時間も従来の1/5以上短縮、1分以内まで改善できた。また、ファイルサーバーと仮想PCがセンター内にあるため社内でのメールのやりとりや大容量ファイルの閲覧もスムーズに行えるようになった。
最初に導入した拠点では半年が経過しているが、障害対応はまだ発生していない。「PCにおける障害の大きな要因だったファンやハードディスクが、シンクライアントでは搭載されていません。従来、端末障害に要する保守サービス料として発生していた年間約1,000万円も大幅な削減が見込まれます。またパッチ当てなどメンテナンスの作業効率も大きく向上しました。運用管理者も時間的な余裕が生まれ、本来業務により集中できるようになりました」(宇留間氏)。
端末のセンター集中管理によるメリットも大きい。障害の発生時もデータ復旧やセットアップ作業に関してセンター側での作業となるため作業負荷も大幅に軽減される。ユーザーも代替機と交換するだけですぐ利用できることから業務継続性の大幅な向上も図れる。
ソフトウェアを利用していてトラブルが起きた場合も迅速な対応が可能だ。「これまではリモート監視ツールを使って行っていたのですが、正確な状況はなかなか掴めません。いまは、ユーザーに対してちょっと見てみますから切り離してくださいと。原因の追及やトラブル対応時間の大幅な短縮も図れました」(宇留間氏)。
組織変更時の対応も容易になる。いままで各拠点のデータをファイルサーバーからWAN経由で取り出して次の拠点へ送るという膨大な作業をしていたが、これからはデータの移行はなく、AD側の変更だけで済む。利用者も自分のIDで端末からセンター側のサーバーにアクセスすればすぐに利用可能だ。効率面だけでなくセキュリティ面の強化も図れた。ファイルサーバーもセンターに統合し、シンクライアントはもとよりモバイルPCのデータも統合管理できる仕組みになった。シンクライアントにはデータが存在しないため、情報漏洩のリスクも解消できた。
エコの観点での効果も期待されている。「全拠点への導入が終わったばかりなので正確なデータはとれていないのですが、端末の消費電力は確実に減少しています。音もとても静かです」(鈴木氏)。
実際にシンクライアント端末を利用した感想について「急に出張命令書を出さなければならなくなったのですが、出先の拠点のシンクライアント端末を使って対応することができました。どの拠点の端末でも自分のPC環境を利用できるという利点は大きいですね」と、菊地氏は笑顔で話す。
今後の展開について工藤氏は次のように語る。「シンクライアントの全拠点展開が終わったばかりで、今後は運用フェーズに入ります。運用していく段階で改善を行っていくことに軸足が移っていきます。また、アンケートなどを実施しユーザーの声も聞いた上できちんと評価することも必要です」。
健やかな地域社会づくりに貢献するバイタルネット。同社の使命感と事業の成長をこれからもHPは先進技術とプラットフォーム製品の提供を通じて支援していく。