オフィス移転に際して、デスクトップ環境のクラウドサービスを採用
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
流通・サービス事業本部
メディア・エンターテインメント
ビジネスユニット
eライフ統括部 eライフ営業担当
主任
柾屋 浩明氏
国内はもとより、世界でも屈指のスケールを誇るSIerであるNTTデータ。その中で、流通・サービス業向けビジネスを行っているのが流通・サービス事業本部 メディア・エンターテインメントビジネスユニット eライフ統括部(以下、eライフ統括部)だ。
アミューズメント事業向けにさまざまなシステム開発、営業活動を行う、総勢200名以上に及ぶ部署である。
このeライフ統括部がオフィスを移転することになったのが、2011年5月のことだった。
「SIerやシステム会社のオフィス移転では、膨大な量のビジネス機材を移設しなければならないというのは、弊社に限らないことと思います。特に私たちの部署ではほとんどのスタッフが、開発用の環境に接続するPCとOA用途のPCの2台体制で仕事を進めていますので、一般的な企業の移転に比べ、移設の手間はほぼ倍になります」と語るのは、eライフ統括部 eライフ営業担当 主任の柾屋浩明氏。移転の陣頭指揮を執ったスタッフのひとりだ。
通常、オフィス移転に際してのITインフラ移設には、移転先の環境を整備・構築し、入居までに機材を整備することが必須だが、これには膨大な時間と手間、コストがかかるものだ。
そのコストや手間を削減するため、機材やネットワーク設備などを含むデスクトップ環境をクラウド提供するサービスの活用に注目が集まっている。 そして、そのソリューションとして、同社ではオフィスクラウドクラウドサービス「BizXaaS® Office」を提供している。
DaaSによるワークスタイル革新への期待
「BizXaaS® 」はNTTデータが展開している総合クラウドサービスのブランドネーム。「最適化コンサル」や「マイグレーション」から「クラウド構築」「運用管理」といった「クラウド構築・運用サービス」と、SaaS、PaaS、IaaSなどの「クラウドプラットフォームサービス」の2本立てでサービスを提供しており、その提供スタイルもプライベートプラウドからパブリッククラウド、さらにはハイブリッドクラウドなど、およそあらゆるオーダーにワンストップで対応可能。企業のITシステム、ITサービスの全領域にわたり、クラウド技術によるソリューションを提供する、文字どおりの総合クラウドサービスとなっている。
その中にあってBizXaaS® Officeはデスクトップ仮想化サービス(DaaS)領域をカバーし、サーバ運用から端末提供を含めたシンクライアントシステム、および、メールやファイルサーバ等のユーザが日常的に利用するOA環境をトータルでクラウド提供する。
柾屋氏らのeライフ統括部が導入したのも、この「BizXaaS® Office」だ。eライフ統括部が デスクトップサービスを導入した狙いはもうひとつある。
「ワークスタイルの変革は、全社方針となっています。オフィスはもちろん、外出先や自宅でのテレワークにも柔軟に対応できるOA環境の整備を進めていこうということで、BizXaaS® Officeならこの要求もクリアできるという期待がありました」(柾屋氏)
3.11以降、ディザスター・リカバリーの重要性が高まっている。災害の影響で、交通網が麻痺状態となり出社困難な社員、停電によるシステム停止など、事業が停滞してしまう事態が各所で発生し、事業継続をめぐる早急な対策が重要なテーマとなっている。さらに、節電などの要因も重なり、在宅勤務の推奨をはじめワークスタイル変革への要求が本格化していることも背景にあるということだろう。
コモディティ化したOAをクラウドサービスとして提供する
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
基盤システム事業本部
システム基盤サービス
ビジネスユニット
第一基盤サービス統括部
第一基盤担当
部長
木幡 康弘氏
では、ここでBizXaaS® Officeのサービス提供主体である、基盤システム事業本部 システム基盤サービスビジネスユニット 第一基盤サービス統括部 第一基盤担当の部長である木幡康弘氏にBizXaaS® Officeの概略を聞いた。
「BizXaaS®を推進してきた立場からすると、BizXaaS® Officeは次の1手に相当します。具体的には、サーバーやストレージなどのバックエンド系を仮想化、クラウド化することでITコストを削減しようという流れが進展した時に、その次に企業ユーザーの方々が期待されるのは、おそらくOAの分野だろうと考えたのです。コモディティ化してしまったOA機能をいかにコストダウンしていくのかが次のターゲットになるに違いないと」(木幡氏)
ビジネスにおけるOA機能とは、およそ1人に1台のクライアントPCがあり、そこから、文書作成や表計算などのオフィス系ソフトウェアが使え、印刷ができ、組織内の情報共有やメールによる社内外のコミュニケーションが図れ、インターネットにアクセスできるというものだ。いわゆる標準的なオフィスにおける一般的なデスクトップ環境といいかえることもできる。
これはよほど特殊なビジネス領域、例えば動画編集やCADによる設計など、特別な業務に特化した環境でないかぎり、業種業態を問わずに共通のものといえる。
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
基盤システム事業本部
システム基盤サービス
ビジネスユニット
第一基盤サービス統括部
第一基盤担当
課長代理
甲斐 友哲氏
「このOA機能を、クラウド技術を活用して広く提供することができれば、スケールメリットも活かしながら、コストダウンが実現できるだろうと考えたのです。BizXaaS® Officeを追加することにより、BizXaaS®は真の意味で、ビジネスの全領域を網羅するクラウドサービスになりました」(木幡氏)
つまり、バックオフィスからデスクトップ環境まで、ITインフラをまるごとクラウドとして提供していこうという野心的な狙いがあるというわけだ。
次に、BizXaaS® Officeの特色について、システム基盤サービスビジネスユニット 第一基盤サービス統括部 第一基盤担当 課長代理の甲斐友哲氏に聞いた。
「これはBizXaaS®全般の特色とも重なるのですが、SIerが提供するクラウドサービスということで、あらゆるお客様のあらゆるオーダーやリクエストにも、柔軟な対応できるカスタマイズ性を備えていることが大きな特色といえます。サービス提供単位も、サーバー共有タイプと仮想PCタイプのチョイスにはじまり、物理的マシンとしてのシンクライアント端末の提供まで、お客様のご都合に合わせた幅広い選択肢をご用意し、より多くのお客様にご利用いただけるようにサービスをデザインしています」(甲斐氏)
シンクライアント端末にHP製品3機種を採用
BizXaaS® Officeでは、標準端末としてHPのシンクライアント製品3機種を採用している。その選定について木幡氏らは次のように解説する。
「まず、なぜシンクライアントだったのかという点ですが、クラウドということで、データはデータセンター側にあるわけですから、クライアント側に機能はいらない。むしろできるだけシンプルな方が取り回しやすいということがあります。さらに、ユーザが実際に手に触れる設備に対するセキュリティ面の強化をしつつ、初期導入コスト、運用コストを下げるということでシンクライアントの提供をサービスメニューに加えました。」(木幡氏)
「シンクライアント端末のスペック、使い勝手などはサービスのクオリティを担保する重要な要素であると認識していましたので、その選定にはとても神経を使いました。具体的には、4社から4~5機種ずつを選び、検証を重ねました」(甲斐氏)
その結果、選ばれたのが、HP t5325 Thin Client(以下、t5325)、HP t5570 Thin Client(以下、t5570)、そしてHP 4320t Mobile Thin Client(4320t)の3機種のシンクライアント端末だった。
製品のデリバリー能力、無償管理ツールの機能を高評価
HP t5325 Thin Client
t5570 Thin Client
HP 4320t Mobile Thin Client
t5325は手のひら大という超コンパクトなサイズで、定型業務に十分なスペックと、低価格を実現した機種。
t5570はOSにWindowsR Embedded Standard2009を搭載し、高いフレキシビリティーとコストパフォーマンスに優れた機種。
一方、4320tはノートタイプの機種で、外出先や自宅でのテレワークをサポートするのに最適な機種だ。
「評価のポイントになったのは性能と価格、そして製品デリバリー能力です。BizXaaS® Officeは1週間程度での導入、稼働開始をターゲットにしていますから、ごく短期間で200台、300台というオーダーでのシンクライアント端末のデリバリーが必須なのです。端末自体の性能はもとより、日本HP社はその点でも、ビジネスパートナーとして一緒にやっていくという姿勢を見せていただけたことも大きかったですね」(木幡氏)
「それからHP製品に共通することとして、管理ツールが充実しているということもポイントでした。端末を配備した後は管理サーバーから我々が管理することになりますから、その部分の動作確認もきっちりさせていただきました。似たような機能の管理ツールは他にもありましたが、商用サービスで使えるレベルのサポートを提供しているのはHPだけでした。」(甲斐氏)
HPシンクライアント製品は無償の管理ツール「HP Device Manager」のエージェントソフトを搭載しており、シンクライアントのイメージ配布、パッチ適用、システム設定の変更などをリモートで統合管理することが可能だ。システム管理者の負荷を大きく削減できる資質をあらかじめ備えていた点が高く評価されたということだ。
普通のPCと変わらない使用感、大きく変わったワークスタイル
柾屋氏らのeライフ統括部に導入されたのはt5570。モニター裏に端末本体を取付けられるHP フラットパネルQuick Releaseも合わせて採用されている。
その使用感を柾屋氏に尋ねると、「これまでのPCとまったく同じなので、特に感想らしい感想はないですね」とのことだが、これを木幡氏は最高の褒め言葉だと喜ぶ。
「BizXaaS® Officeは普通のパソコンと変わりなく使えるというところを狙ってのサービスですから、そういう感想は我々としては嬉しいのひとことです」(木幡氏)。
使用感はこれまでのクライアントPCと変わりないということだが、ではワークスタイルはどのように変わったのだろうか。
「1人1台というのとは別に、オフィス内の各コーナーに共用マシンとして大きめのディスプレイとともに端末を置いているのですが、そこがちょっとした打ち合せやレビューの場として活用されています。従来はプリントアウトしたものを上司に確認してもらうのが常でしたが、共用マシンで画面を見ながら気軽にレビューしてもらえるようになりました。これは特にこういう使い方をと周知したわけではなく、社員が自主的にはじめたもので、働き方を選ばないという意味では大きく環境が変わったと思います。それからミーティングスペースにもプロジェクターにつないだ端末を置いています。これも大人数での打ち合せに有効に活用されていますね」(柾屋氏)。
まだ導入されて日が浅いということだが、eライフ統括部のワークスタイルは徐々に変わりつつあるようだ。
また、柾屋氏は自らの体験として次のように語る。
「私の部署では、ネットワーク環境やファイルサーバーなどの環境の構築と管理を、若手社員がOJTを兼ねつつ実施していました。私もWindowsR サーバーによるアカウント管理を担当していたのですが、その負荷は決して小さくありませんでした。クラウドサービスなのでその部分をおまかせできるようになったというのは、個人的にはとてもありがたいです」
さらに、柾屋氏はデスク上がすっきりしたことに驚いたともいう。
「開発用のファットPCが置かれていない社員のデスクは、ディスプレイとキーボードだけが置いてあるというかたちで、本当にすっきりとしているのに感動しました。いっそ、開発用の端末もBizXaaS®でシンクライアントにしてしまえばいいと思っています」と柾屋氏はいうが、木幡氏らによれば、そこも今後の展開として考えているとのこと。
「現在、NTTデータ内の各部署に開発環境を構築・運用しているというものを、ひとつにまとめてしまい、開発クラウドとして提供していこうという動きがあります。そのときのクライアントもBizXaaS® Officeで提供できればということで、準備を進めています」(木幡氏)
海外への展開も視野にビジネスパートナーとしてのHPに期待
このように高いポテンシャルと大きな可能性を秘めたBizXaaS® Office。社内・社外を含め、数多くの問い合わせがあり、eライフ統括部の導入をモデルに、NTTデータ内の他部署でも着々と導入が進んでいるという。
「BizXaaS® Office自体は100億円を超える規模の事業に育てていこうという目標で動いています。その中でもDaaSは中核になるべきサービスととらえています」(木幡氏)
「今後はスマートフォンやタブレットPCへの対応などを進めながら、よりサービスメニューを拡充するとともに、サービス品質を磨いていこうと考えています」(甲斐氏)
また、海外へのサービス展開も視野に入っているという。
「海外でもBizXaaS®ブランドのサービスを使いたいというリクエストが出始めており、当初の予定よりも前倒しで海外展開の準備を進めている状況です。ワールドワイドでビジネスを展開されているHP社との協業の可能性もより広がっていくものと期待しています」(木幡氏)
BizXaaS® Officeを介して、小さなシンクライアント端末が高品質なオフィス向けクラウドと結び付くことで、世界のビジネススタイルが大きく変化していく可能性に注目したい。