「変革の加速」を支える仮想デスクトップ導入プロジェクトが始動
1917年設立、1世紀近くにわたり、北海道とともに歩み続ける北洋銀行。「北海道の洋々たる発展の礎となる銀行」を企業理念に、個人から法人まで総合的な金融商品やサービスを提供し地域社会を支えている。
1998年に北海道拓殖銀行の営業譲受、2008年の札幌銀行との合併を経て資金や預金量も道内最大規模を誇る、名実ともに北海道のリーディングバンクとなった。現在、大通り公園に面した大規模複合ビル、北洋大通センター内に本店を構え、道内187店舗(2012年3月末現在)を展開し、地域密着型金融機関としてのサービスに注力している。
国際情勢の変化、東日本大震災の影響など経済の先行き不透明感が増す中、北洋銀行では新中期経営計画「変革の加速」(2011年4月から2014年3月まで)を策定。北海道経済のサポートと合わせて自らの改革を加速することで、お客様とともに持続的な成長を目指す。経営目標として掲げたのは、お客様に選ばれる銀行、地域成長のバックアップ、収益力の強化の3点だ。
「変革の加速」を実現していく上で、企業活動のベースとなる情報システムの変革は重要な施策となる。北洋銀行 システム部 部長 櫻井誠氏は次のように語る。
「変革の加速に基づき、システム部としては、2つの変革と2つのコスト削減を掲げて取り組んでいます。1つはシステムによって銀行を変革すること。そしてもう1つがシステム自らが変革すること。コスト削減も同様です。システムによって銀行全体のコストを削減するとともに、システム自体もコスト削減を図っていきます。」
2010年10月、新中期経営計画「変革の加速」を実現する仮想デスクトップ導入プロジェクトが始動した。その目的は、お客様との接点の強化、セキュリティの向上、ITコスト構造改革推進の3本柱で「変革の加速」の実現に大きく寄与すること。そのために仮想デスクトップ環境導入の枠を超え、斬新なアイデアやさまざまな工夫が盛り込まれた。
北洋銀行 システム部
部長
櫻井 誠 氏
北洋銀行 システム部
システム企画課
課長
平林 誠司 氏
北洋銀行 システム部
システム企画課
管理役
佐々木 勉 氏
北洋銀行 システム部
システム企画課
主任調査役
門脇 秀樹 氏
目的
- 店頭でのお客様の待ち時間の短縮、相談機能の強化
- 端末の台数削減や運用管理の効率化によるイニシャルコストとランニングコストの削減
- スペースの有効活用、消費電力量の削減
- 端末における情報漏えいの防止、セキュリティの強化
アプローチ
- Citrix のXen DesktopとXen AppをMicrosoftのWindows server 2008 R2 Hyper-V上で稼働させ、仮想デスクトップ環境を構築
- あらゆる周辺機器を利用するため、標準ドライ バー利用の観点からWindows® Embedded Standard 7搭載のHPデスクトップシンクライア ント(HP t5740e Thin Client)を採用
- シンクライアント端末の運用管理の効率化を図 るためにHP Device Managerを活用
システムの効果
- 個別に用意していた勘定系、情報系、OS系の端末3台を1台に統合しシームレスなアクセスを可能に
- 端末が6,200台から職員1人1台の5,000台に削減
- 運用管理コストの削減、端末費用を変動費化するなどITコスト構造改革の推進
- HP Device Managerによりキッティングを短縮、3,500台のシンクライアント端末における運用管理業務を効率化
ビジネスへの効果
- お客様との応対中も職員は離席することなく、手元にある端末で勘定系、情報系、OA系の情報にアクセスし適切な情報やサービスを提供
- 情報を残さないシンクライアント端末の導入により情報漏えいを防止
- シンクライアントを基盤に、サテライトオフィス、お客様先での情報提供など地域密着型金融としてのサービス強化へのアプローチの拡大を期待できる
1台の端末で、勘定系、情報系、OA系に シームレスにアクセスできる
従来、お客様との接点における課題として、窓口でお客様との応対の最中に、職員が別の端末で情報を見るために離席してしまう点が挙げられた。預金などを管理する勘定系、顧客情報を管理する情報系、行内イントラネットのOA系と、3種類の端末を業務ごとに使い分けていたからだ。端末の台数も、職員やパートを含めた5,000人に対し、1人1台を超える6,200台に増大。端末の増大はコストや運用管理の面で大きな負荷をもたらしていた。
さらに、システム部にとって頭の痛い問題となったのが、情報系やOA系で使用していたWindows® XPパソコンの老朽化に伴うリプレース時期が迫っていたことだ。 「Windows® 7への移行も選択肢の1つでしたが、当行の戦略とは関係なく、将来も同じようにOSの問題でリプレースを続けなければならない という状態から脱却したいと考えていました」とシステム部 システム企画課 課長 平林誠司氏は語る。
端末側の課題だけでなく、従来の業務システムはブラウザ環境としてInternet Explorer(IE)6を利用しており、端末環境をWindows® 7に移行すると、ブラウザ環境もIE8に移行されるため業務システムの更改も必要になる。また、新規に導入するシステムはブラウザ環境としてInternet Explorer(IE)8となることから、ブラウザやOfficeのバージョン混在環境が必要であった。また、サブシステムにはクライアント・サーバー型のアプリケーションも存在することから、専用クライアント端末も機能的に吸収する必要があった。
端末側とサーバ側の両面の課題を解決するべく仮想デスクトップの導入が決断された。ポイントは、行内すべてのパソコンを対象としたことだ。今回のシステムの特長は、プレーンな状態のデスクトップにユーザー権限にあわせたアプリケーションをトッピングするイメージで自分に合った仮想デスクトップ環境をつくっていく点、また、専用クライアント環境も1台のシンクライアント端末で利用する点にあるという。
アイデアを考えたシステム部 システム企画課 管理役 佐々木勉氏は「全職員が使うためにどうするかという発想から生まれました。1台の端末で勘定系、情報系、OA系にシームレスにアクセスできます。また1つの画面の中でIE6とIE8の新旧ブラウザ環境やMicrosoft® Office 2010(64Bit)とMicrosoft® Office 2003(32bit)が共存します。利便性を高めながら、仮想環境上でリソース共有が図れ、移行も効率化できることから、コストの最適化も実現できます」と話す。
店頭の端末からも勘定系にアクセス可能となるため、データが残らないシンクライアント端末に切り替えることが必要だった。セキュリティの強 化に加え、コスト削減、故障率低減、運用管理の効率化などもシンクライアント導入の目的となった。
シンクライアント端末選定のポイントはWindows® Embedded Standard 7の搭載
今回、Citrix のXen DesktopとXen AppをMicrosoftのWindows server 2008 R2 Hyper-V上で稼働させることを想定していたため、ドライバーなどの連携からシンクライアント端末にはWindows® Embedded Standard 7の搭載が求められた。また、USBポートの制御、画面および設定等の端末制御を細かく対応するため、認証系のActive Directoryで制御することからもWindows® Embedded Standard 7の搭載は不可欠であり、OSレスのゼロクライアントを選択しなかった理由にもなった。HP t5740e Thin Clientを選択した理由について佐々木氏は次のように話す。
「国内で最初にWindows® Embedded Standard 7を採用したのがHPシンクライアントでした。当時は、ほかに選択肢がない状況でしたが、もちろん実績やスペックも評価しました。Windows® Embedded Standard 7を動かすにはオーバーヘッドがかかるので十分なメモリーが必要でした。コストパフォーマンスはもとより低消費電力や運用管理ツールなども重視しました」
デュアルディスプレイに対応しているため、
1台のシンクライアント端末で
2台のディスプレイを利用できる。
また、ITインフラの標準化を進める上で選択基準として、「第1にグローバルスタンダード」、「第2にデファクトスタンダード」、「その他はコストおよび機能優位性」で判断しているが、HPシンクライアントはグローバルスタンダード技術で構成されていることを評価して採用した。さらに豊富なインターフェイスも採用を後押しした。デュアルディスプレイ対応により1台のシンクライアント端末で2枚のディスプレイを利用し、サブシステム画面を見ながら、業務システムを確認し、決裁文書を書くことも可能だ。従来、2台の端末を利用していたため、台数削減や省スペース化にもつながる。
20万台を超える導入実績の中でウイルス感染が一度もない点も評価された。ウイルス対策はサーバー側のみで行い、シンクライアント端末には ウイルス対策ソフトをインストールしないことで運用管理の効率化はもとより端末のレスポンスの向上も図っている。
コストを抑えたシンクライアント端末の導入により変動費化を実現
シンクライアント端末は、2012年4月の本部への試行導入から始まり、試行営業店、本部、全営業店へと順次展開していく。シンクライアント端末で勘定系、情報系が利用できることから、高額な勘定系端末から低価格のシンクライアント端末への切り替えによりさらにコスト効果を期待できる。
3,500台のシンクライアント端末をどのように効率的に展開するか。手作業で設定していては手間も時間もかかり過ぎて現実的ではない。そこで、システム部が活用することにしたのがHPシンクライアント端末に標準搭載されているHP Device Managerだ。
「シンクライアント端末のキッティング短縮により、OS設定後、15分くらいで個別設定が行えます。現在、専任ではなく、業務の合間に1日30台から40台をつくっています。また全店展開後、変更設定などもイメージで一斉に展開できます。新しい端末の追加も容易です。シンクライアントの運用管理に時間をとられることなく、その分、別の業務に取り組めます」とシステム部 システム企画課 主任調査役 門脇秀樹氏は話す。
3,500台のシンクライアント端末の導入はITコストの構造改革にも貢献する。この点も大きいと櫻井氏は話し、さらにこう続ける。
「シンクライアント端末はOSやソフトウェアをすべてサーバー側で一元管理するため、ハードウェアの価格のみで安価に購入できます。従来、端末は固定資産扱いでしたが、経費とすることにより変動費化できました。減価償却もなくなり、購入端末台数を制御することでコストの平準化が図れます。また、ハードディスクを搭載しないシンクライアント端末は故障率が低く、ライフサイクルを上手く調整することで投資の最適化も実現できます」
インニシャル・コストもランニング・コストも同時におとすことを目指した結果、端末をWindows® 7搭載PCに更改する場合よりも、シンクライアント環境に移行することでコストを抑制できた。平林氏は「部分的ではなく、全社で導入したことでコスト削減や生産性のメリットの最大化を図ることができました」と話す。
先行導入で消費電力量を15%削減、節電対策にも大きく貢献
節電への社会的要請が高まる中、シンクライアント端末の節電効果への期待も大きい。システム部内で先行導入した結果、84台をシンクライアント端末に切り替えただけでフロア全体の消費電力量を15%削減できた。またセキュリティの観点から、従来、店舗の端末はワイヤーロックでデスクに固定していたが、ハードディスクがないことからワイヤーロックを廃止することとし、鍵管理の煩わしさもなくなることで営業店からも期待されている。一方、高度なセキュリティ対策も実現している。全職員に対し、誰がどのシステムにアクセスし、どのような情報を閲覧したかに関して、マウスの動きも含めて行動記録がすべて画面キャプチャとして保存される。
「今回、窓口でのお客様の待ち時間の短縮や相談機能の強化など、お客様との接点における端末の重要性を改めて見直しました」と櫻井氏。そして 今後の展望についてこう話す。
「シンクライアントという基盤を活用し、地域密着型の銀行として、サテライトオフィス、お客様先など目的に合ったデバイスを選択し、お客様 サービスの向上に一層努めていきます。HPさんには、製品情報はもとよりシンクライアント環境の活用の仕方などのご提案もお願いいたします」
北海道のためにできることを常に追求し、チャレンジを続ける北洋銀行。HPシンクライアント端末は、職員とお客様との間で北海道の明日につな がる架け橋となる。