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2021.09.30

顧客に「ありがとう」と言われることが存在意義――、日本マイクロソフト・吉田社長が経営方針と中期経営計画を発表

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 日本マイクロソフト株式会社は7日、2020年7月からスタートした同社2021年度(2020年7月~2021年6月)の経営方針、および2024年までの中期経営計画について発表した。

政府・自治体のDX、市場・顧客のDXに力を注ぐ

 日本マイクロソフトの吉田仁志社長は、「日本マイクロソフトはビジネスの成功だけを目指すのではない。2020年度の日本のGDPはマイナス6%前後と予想されており、再生も長引く。重点分野での取り組みを通じて、日本の社会の活性化に貢献したい」と前置き。政府、自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)、市場・顧客のDXの2点に力を注ぐ姿勢を示した。なお、具体的な数値目標などについては公表しなかった。

日本マイクロソフト 代表取締役社長の吉田仁志氏

 政府、自治体のDXでは、「デジタル庁の構想をきっかけに、クラウドによるデジタルガバメントの実現が注目を集めている。業務のデジタル化、データの一元化、基盤の構築、行政を横断するシームレスなコミュニケーションの確立を、マイクロソフトのクラウドによって実現する」とした。

 また、市場・顧客のDXでは「2021年度は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた分野を盛り上げたい。日本の産業の変革を支援する」と語った。

 ここでは、物流分野において、ヤマトホールディングスがデータドリブン経営への変革を進め、5万6000台の配送トラックでの、年間18億個の配送データをAzure上に集約し、AIを活用することで配送ルートやオペレーションを最適化したことを紹介した。

 また製造分野では、日立製作所が生産現場のデータを収集して、生産の進行や設備の稼働状況、作業員の動作などを見える化。HoloLens 2やDynamics 365で現場とオフィスをシームレスにつなぎ、リモートでのメンテナンス作業を支援する環境を構築したことも示している。

 このほか小売分野では、ファミリーマートやローソンとともに、新たな店舗オペレーションを実現。AzureとAIを活用し、遠隔操作できるロボットを通じて在庫管理や商品陳列の自動化を実現するという。

 さらに、中堅・中小企業のDXでは、事業継続に必要なリモート環境の整備を支援することを強調。ワークショップやトレーニングのほか、いままでにない低価格なサブスクリプションモデルを提供するとした。

 「DXやそこから生まれるイノベーションを推進するのは、ソフトウェアとクラウドコンピューティングである。マイクロソフトのクラウドとエコシステムが、顧客から注目されている理由はここにある」などと語った。

DXを実現するための4つの取り組み

 DXを実現するための日本マイクロソフトの取り組みとして、「セキュリティ基盤の確立」、「ワークスタイル変革Next」、「次世代デジタル人材の育成」、「アプリケーション開発の民主化」の4つを挙げた。

 吉田社長は、「日本の国や日本企業の競争力を高めるのがDXとなる。2020年度もこの方針を掲げたが、2021年度は、そこに舵を切った力がさらに増したといえる。社員が腹落ちして顧客に提案できる体質へと変わった」と述べる。

 取り組みのうちセキュリティの確立では、「セキュリティはDXの基盤である」と前置き。「Microsoftは世界各国のサイバー攻撃の状況をモニタリングする専門組織を持っており、1日8兆件のセキュリティシグナルを検出し、AIで分析している。ここでは2020年2月~5月に、日本をターゲットとしたサイバー攻撃は1万4000を超えたことがわかっている。また、クラウド利用やリモートワークが広がるなかで、内部不正や情報漏えいも増加している。日本マイクロソフトは、社員のID管理からデバイス、アプリケーション、データ、クラウドインフラまでを、包括的にセキュアなソリューションとして提供できる。セキュリティは日本マイクロソフトに任せ、企業は改革やイノベーションに集中してもらいたいと考えている」とした。

 ワークスタイル変革Nextでは、Microsoft Teamsによる会議時間が1日50億分を越え、7500万人以上が利用し、2倍以上の利用に増加していることを示しながら、「Microsoft 365やMicrosoft Teamsは、コロナ禍での業務継続を支援したり、生産性を向上したりできる重要なツールであるが、AIによって社員固有の働き方を分析し、効率化の提案を行うといった使い方も可能である」と述べた。

 次世代デジタル人材の育成では、2030年には79万人のIT人材が不足し、2050年には労働人口が6割にまで減少するという経済産業省などの予測値を引き合いに出しながら、「人材育成は日本の将来には不可避である。DXの観点からも、IT人材、デジタル人材が重要になる」と話す。

 そして、「日本マイクロソフトは、政府や自治体の職員を含めた社会人のIT人材育成を推進する。実践的なAIに関する知識を習得するために、経営層向けのAIビジネススクールのカリキュラムを拡張したほか、エンジニア向けには、AIやIoTなど最新技術に関するトレーニングを実施し、学生向けには教育コンテンツの充実を図り、Microsoft Learnによる無償のオンラインプログラミング講座なども提供している。さら、学生にITスキルを教えるための教員向けトレーニングも提供する」とした。

 アプリケーション開発の民主化においては、自治体における特別定額給付金の申請で多くの問題が発生したことを指摘しながら、神戸市では、職員がわずか1週間で、Microsoft Power Platformを使って、申請関連サイトを構築したことを紹介した。

 「アプリケーションをいかに効率的に開発できるかがキーになる。ローコード、ノーコードによって、ITのプロではない人たちが、簡単にアプリケーションを開発できるようにならないとITは追いつかない。ITは、アウトソースから、インソースになって、形を進化させて、ユーザーに戻ってくる時代に入ってきた」と話す。

 さらに、「この改革のエンジンになるのは当社のビルディングブロックである。アウトソースからインソースを実現する要素のひとつが、オープンソース開発コミュニティであるGitHubになる。世界中の開発者がコードを共有し、活用しあう場が提供されている。エッジデバイスで生成されたデータをAzureに収集し、そのデータをもとに、AIで得たインサイトをDynamics 365やMicrosoft 365で展開し、生産性、効率性、効果を高められる」とした。

改革を実現するマイクロソフトのビルディングブロック

 また、「MicrosoftはIaaSから、PaaS、SaaSまでをカバーし、世界63カ所にデータセンターを展開している。これは、AWS(Amazon Web Services)やGoogleをあわせた数よりも多く、世界最大規模である。高速で、超大規模な分析能力や包括的なビルディングブロックを持つ唯一のクラウドソリューションベンダーだ。クラウドは、社会に欠かせないインフラとなり、世界のコンピュータになる。多重化するといった対策も行っており、オンプレミスが停止する頻度よりも、クラウドが停止する頻度の方が低い。そして、ISVやパートナーのソリューションやサービスを、レゴブロックのように組み合わせて、さまざまなサービスを活用できる」と、自社のクラウドをアピール。

 その上で「日本マイクロソフトはパートナーと力をあわせて、社会、顧客のDXを支援する。当社の戦い方や顧客への貢献の仕方は、単にオンプレミスをクラウドに移行させるというのではなく、ソリューションを中心としてクラウドを提供するという点である。働き方を効率化する、ビジネスモデルを変えるといったように、企業が次のステップに行くための支援にクラウドを活用している」と語った。

 そして、「これまで日本マイクロソフト自身が大きな変革を進めてきたが、この変革をいっそう進めたいと思っている。日本マイクロソフトは、社員一人一人が失敗を恐れずに、チャレンジする集団に変革していく。貢献できるまで、へこたれないで、引き下がらずに提案する組織になる。顧客に『ありがとう』と言われることが当社の存在意義であり、成功の指標になる」と述べた。

パブリッククラウドで、どの調査においてもナンバーワンを目指す

 一方、同社2020年度の実績についても説明した。

 吉田社長は、「コマーシャルビジネスの半分をクラウドが占めている。パブリッククラウドでナンバーワンという目標についても、調査結果によっては、日本マイクロソフトが1位という状況まできた。今後もこの勢いを増し、どの調査においてもナンバーワンプレイヤーであることを目指す」と述べた。

 ここでは導入事例として、企業、政府、教育という点から紹介。具体的には、NTTとグローバル協業を締結し、マイクロソフトのクラウドとNTTのICTインフラを組み合わせた企業向けソリューションの提供を開始すること、厚生労働省では新型コロナウイルス感染者情報の一元管理システムの構築を行い、Q&A形式で情報を入手することができるAIを使ったチャットボットを提供したこと、教育機関に対しては、学びを止めないためのリモート環境の構築支援を行ったことを示した。

 「コロナ禍においてもマイクロソフトのおかげで事業を継続でき、働き方を変えることができたという声をもらっている。マイクロソフトが役に立てたことがうれしい」とする一方で、「米MicrosoftのCEOであるサティア・ナデラは、コロナ禍において、2年分のDXがわずか2カ月で起こっていると発言したが、いまもそれが加速している。日本でもハンコ文化からの脱却やデジタル庁の創出といった動きが出ている。だがコロナ禍では、日本のITの弱さ、日本がいかにIT後進国であるかが露呈した。日本全体のDXが必要である。日本マイクロソフトは、日本の社会改革に向けたDXに取り組む」と述べた。

 なお日本マイクロソフトでは、緊急事態宣言時の出社率が0.7%と1%を切る水準であり、現在でも1.7%の水準であることを示し、「社員の健康と安全を優先して、いまも在宅勤務を促している」と話す。

 また、2019年10月に社長に就任してからちょうど1年を経過した経過したことにも触れ、「Microsoftの企業ミッションと私自身の思いが合致したこと、日本マイクロソフトが社会変革に貢献できるポテンシャルを持っていることが、社長就任に至った理由である。日本においても、企業ミッションに基づいた事業を展開していく」と述べた。

 Microsoftの企業ミッションは、「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」としている。

 このほか、この1年間に渡って、「お客さまに寄り添うマイクロソフト」と「マイクロソフト=DX」という2つの取り組みを重視してきたことにも触れ、「長期間に渡って、顧客の成功を支援するためにはなにが必要か。正面に座って、向かい合って話をする姿勢ではなく、肩と肩を並べて、寄り添って、一緒に歩むことである。顧客と同じ目線で、よりよく理解し、よりよくサポートし、トランスフォーメーションを支援する姿勢を企業文化として根づかせたい」と語る。

お客さまに寄り添うマイクロソフト

 一方、「DXは、もはや新しい言葉ではないが、私にとってはとても新鮮である。それは当社自身が、本当のDXに取り組んできたからである。この規模で、DXを形にした世界でも数少ない企業の1社だ。従来のライセンス販売からクラウドのサブスクリプションへと、ビジネスモデルを大きく変化させた。売るという行為から買っていただく、使っていただくという行為に変わった」と前置き。

 「そのためには、顧客の課題解決に対して貢献しなければならないこと、いかに顧客を理解し、貢献できるかが最優先されるようになった。そして、商品だけでなく、自分たちの考え方も変える必要があった。DXは当社の戦略そのものである。その経験と学びを顧客に共有していく。これはマイクロソフトだからこそ、顧客に提供できる価値であると自負している。当社の場合には、DXを実現するためにミッションを作り直す必要があり、顧客との接し方も変えなくてはいけなかった。また、上司や部下と話す内容も変え、議論のすべてが、顧客のためになっているのかということが前提となった。これをもとに、人事評価や営業戦略、マーケティング戦略も変わった」とする。

 加えて、「ここでの気づきは、テクノロジーの会社であるわれわれが、テクノロジーの話は一番最後でいいということであった。DXの実現においては、多くの失敗をしている。痛みを感じ、血も流している。ここは成功したが、ここではこんな失敗をしたということを話すことができ、それによって顧客を支援できる。顧客を理解し、経験をもとに支援をしていく。この点がAWSの戦い方とは違うところである。そして、当社の改革はまだ道半ばである」と語った。

 「顧客やバートナーがDXについて考えるときに、最初にMicrosoftを想起してもらいたい。DXといえばMicrosoft、MicrosoftといえばDXと思ってもらいたい。そのために、顧客に寄り添いながら、日本マイクロソフトも変革を続け、事業を進めていく」とした。

マイクロソフト=デジタルトランスフォーメーション

【本記事は2020年10月8日、クラウド Watchに掲載されたコンテンツを転載したものです】

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